小学校の給食で起きた痛ましい死亡事案。放課後児童クラブ(学童保育所)での事故発生を徹底的に防ごう

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。

 小学校で児童が給食で食べた「うずらの卵」をのどにつまらせて亡くなるという、大変痛ましい、悲劇的な出来事がありました。毎日新聞が2024年2月26日18時49分(最終更新21時56分)に掲載した記事を一部引用します。
「26日午後0時40分ごろ、福岡県みやま市の市立小学校の関係者から「生徒が給食中に(のどを)詰まらせて息ができない」と119番があった。みやま市消防本部や市教育委員会によると、小学1年の男子児童(7)がドクターヘリで県内の病院に運ばれたが、死亡が確認された。市教委によると、26日の市立小の給食はご飯▽牛乳▽みそおでん▽海藻サラダ――だった。市教委は、みそおでんの具に使われたウズラの卵を詰まらせ窒息したとみている。」

 また、毎日新聞が2月27日23時48分に配信した記事も一部引用します。
「事故は26日午後の給食中にあった。男児が立ち上がって吐きそうになり、担任が吐かせようと背中をたたくなどしたが、立っていられない状態になった。養護教諭らが心臓マッサージと人工呼吸を実施し、男児はドクターヘリで県内の病院に搬送されたが、死亡が確認された。ウズラの卵を喉に詰まらせたとみられる。」

 亡くなったお子さんと、ご家族の方には謹んで哀悼の意を表します。本当に悲しく、ご家族、ご友人の方にはどれほどつらいことかと思うと、私もとても悲しい気持ちになります。子どもの生命身体が絶対的に守られなければならない学校施設で、まさか命を失うなんて誰も思いません。ありえないことだからです。ありえないことが起きてしまったからこそ、悲しみはとてつもなく大きくなります。

 放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)でも同じことです。子どもの安全安心の居場所として社会的に重要な存在として機能している仕組みです。どんなことであれ、子どもの命が失われることがあってはなりません。今回の不幸な事案のような、子どもが、昼食やおやつを食べているときに起こる事案、窒息や毒物の誤摂取やアレルゲンの誤摂取(施設側からすればいずれも「誤提供」)は、絶対という言葉をあえて使いますが、絶対的に起こしてはならないと、学童関係者は常に緊張感を持って業務に従事するべきです。

 児童クラブにおける子どもの飲食時における窒息による死亡事故は過去にも例があります。例えば、2007年に7歳男児が、おやつに出たこんにゃくゼリーをのどに詰まらせた。という事案があります。(「小児の食物誤嚥による窒息事故死の現状と予防策について 公共施設などにおける事故死例からの検討」から)この事案では、「指導員が掃除機で吸い出そうとしたが除去できなかった。直ちに病院へ搬送されたが急変から 3 時間後に死亡した。当時、指導員は 1 人しかおらず,男児がこんにゃくゼリーを食べた時は別の部屋にいたという。」となっています。
 2010年には、東京都内の児童クラブで、小学3年生の9歳男児が、おやつで提供されたアメリカンドックをのどにつまらせて亡くなりました。報道によると、クラブには当時、35人の児童がいて、職員2人とパート職員2人が現場で勤務していたといいます。私はこの事案が起こった当時は息子が通う学童保育所において保護者会会長を務めており、この報道を受けてクラブの運営法人(のち私が代表を務めることになりますが、当時はまだ役員ではありませんでした)に、同種事案の防止のため緊急に職員へ研修を行うよう提言しました。その記憶は鮮明に残っています。それほど衝撃的でした。

 今回の九州の事案は、学校の教職員が、可能な限りの対応をしたと報道されています。失われた命は二度と戻らないのですが、悲劇的な事故、事案が起こってしまったとき、子どもの安全を確保する職務がある者たちがどのような状況で業務に就いていたかは、極めて重要です。九州の事案のように救命措置にできるだけの措置を行っていればまだしも、現場に従事する職員数が少なく注意力も散漫で事故事案の発生に気付くのが遅れたり事故事案を発生する状況を未然に解決することができたりしたがそれを行う機会を逸した、ということであれば、その後の展開も含み、悲劇的な事案が更に泥沼の悲劇に陥ることになります。

 児童クラブでの飲食機会は、長期休業時の昼食と、補食としてのおやつ、この2形態が主なものです。児童クラブの飲食機会には、事故事案を招きかねないリスクがあります。
・(小学校の給食よりはるかに)アットホームでリラックスした雰囲気の中で子どもが摂食するので、食べ物をのどにつまらせる可能性は高い。いわゆる「遊び食い」での窒息事故リスクがある。
・上記のような摂食状況においてその状態を管理監督する職員数が児童数に比べて少なく、事故事案の早期発見に不安用要素となる。児童数40~50人で職員4~5人ということが多いのではないか。
・窒息の形態以外でも、アレルゲンの誤摂取や毒物の誤摂取という危険がある。これは主に、クラブ職員の資質、能力によって引き起こされる。提供する食品食材のチェックを怠った、または行ったが能力的に問題があって気付かなかった等。
・家庭から持参する昼食では、窒息を防ぐ観点で摂食を避けるのが望ましい献立、という観点からではなく子どもが食べたいものを昼食として用意されることが多く、施設側によるリスク管理が難しい。

 先に紹介した、2007年の、こんにゃくゼリーによる学童保育所での死亡事案では、現場にいた職員は1人だったといいます。およそ数十人が同時におやつを飲食する状況が圧倒的に多い児童クラブでは、こどもたちの様子を見守る職員の人数は重要です。事業者側は、厳しい予算、財政状況であっても、子どもの様子をしっかりと管理監督できるだけの職員数を確保するべきです。それができない場合は、公設(公立)であれば市区町村に、完全な民営であれば毎月の利用料を支払う利用者に対して交渉し、予算増のために力を尽くすべきです。
 職員数が十分であっても、職員の資質に問題があったらそれは摂食時の事故事案を防げる可能性を低下させます。「遊び食いなど事故事案を起こすきっかけとなる状況を防止すること。落ち着いて食べるように諭すこと」は大事な学童職員の仕事です。同時に、万が一の事態は、救急救命措置を迅速かつ的確に施し119番通報などで医療機関の支援を仰ぐ行動を直ちにとるなど、命を救う行動を迷いなく実践できることが必要です。事業者は、常に職員に対し、飲食時における事故事案の発生防止のために役立つ研修を実施するとともに、食物がのどや気道に詰まったときの救急救命訓練を怠らずに実施しなければなりません。
 残念ながらクラブ職員の中には、社会人として能力が高くない人物もいます。漫然と様子を眺めていて「何か起きていないだろうか」という注意力を持たず、ただ子どもを見ているだけの職員は、残念ながらいます。そのような人物を雇用していて平然としている事業者は、万が一の不幸な事態になったとき、被害者側から使用者責任や安全管理注意義務違反を指摘されて巨額の損害賠償請求訴訟を起こされてもやむを得ないでしょう。お金で失われた命はもどりませんが、いい加減な事業主のために子どもが命を落としたとしたならば、それは徹底的にその事業主に償わせることが当然ながら必要です。

 こんなことはもうないとは思いますが、クラブにおける昼食とおやつ提供時の時間の職員について、休憩としている事業者があるとしたらそれは絶対にダメです。子どもが昼食やおやつを食べるときは落命にかかわる事故事案が起こるリスクが高い時間です。その時間を職員の勤務において休憩にしていては、こどもの命を守るという重大な職務を果たしていないことになります。少し考えれば分かることですね。こどもが何かを食べている時間帯、職員は休憩としてはなりません。職員の休憩時間はその他の時間帯に設定しなければなりません。

 児童クラブで働く職員や事業者は、「わたしたちは、人の命を守らなければならない仕事に就いている」ということを改めて認識しましょう。人の命は実にたやすく失われてしまうことも。昼食、おやつ、また遊びの時間でもちょっとした不注意でこどもの命は失われてしまうということを、しっかりと意識して職務に従事してください。「こんな安い給料でそんな重大な責任なんて」と思うようでは、児童クラブの仕事は務まりません。賃金が低い状況はもちろん改善されなければなりませんが、それを子どもの命を守る職責と結び付けて論じることは無意味ですし、有害です。子どもの命を守れないぞ!と交渉条件に使うまでもなく、学童業界の低賃金状況は必ず改善されなければならないことです。クラブ関係者におかれては、「子どもの命は常に無条件に守られねばならない」、そのことを最優先に、児童クラブで職務を果たしていただきたいと私は期待します。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。

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