官製ワーキングプアを生み出す公営学童。市区町村のずさんな態度が指定管理者制度による学童ワープアを生む。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。

※本稿では、数値は半角数字を使います。 
 前回(12月7日)に引き続き、本年(2023年)春に公表された「令和4年度子ども・子育て支援推進調査研究事業 放課後児童クラブの運営状況及び職員の処遇に関する調査 報告書」(令和5(2023)年3月・みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社)から、気になる状況を取り上げます。
 今回は、公立公営の学童保育所(本稿では、放課後児童クラブのこと)の経営状況についてです。

 この調査では、公立公営、民立(民設)公営、民立民営の3タイプの放課後児童クラブの収支状況についても報告があります。この3タイプとは、以下の通りです。
・公立公営=市区町村が施設を設置し、日々のクラブの運営も行う形式。学童保育の業界団体が理想の運営形態として目指しているものです。
・民立公営=市区町村が設置した施設を、業務委託契約や指定管理者制度によって民間事業者が運営する。民間事業者には、「社会福祉協議会や社会福祉法人、NPO法人といった非営利法人」と、「株式会社に代表される営利法人」と、「保護者会や、地域運営委員会による任意団体」の三つのパターンがあります。
・民立民営=民間事業者が設置した施設で、民間事業者が学童保育事業を行うもの。多くは、市区町村から学童保育の利用ニーズが高いという状況を知らされた民間事業者が、市区町村から補助金交付を見込んで施設を設置する。なお、いわゆる民間学童保育所は民立民営にあてはまりますが、狭義の学童保育事業(放課後児童健全育成事業)ではないので、民間学童保育所に対してはこの民立民営などの区分は使いません。

 では、調査に示された公立公営の経営状況ですが、はっきりいって「ひどすぎる」ものです。
 放課後児童健全育成事業による収入が717万円です。そのうち、補助金や委託料の収入が491万5千円、保護者からの利用料収入が204万7千円です。
 一方、同事業収入、補助金等収入、利用料収入について公立民営は1856万5千円、1503万5千円、287万1千円、民立民営では1507万2千円、1015万3千円、430万5千円となっています。

 つまり、公立公営のクラブは、市区町村から運営を任されている民営のクラブと比べて、収入が半分以下です。利用料では民立民営の半分以下ですし、補助金収入は、民立民営の半分以下、公立民営と比べるとなんと3分の1しかありません。衝撃の結果です。つまり公立公営クラブは、補助金を獲得していない=市区町村で予算化していない=学童保育に予算を使わない=子どもの育ちを大事にしていない、ということになります。

 支出面はどうでしょう。公立公営は、人件費が803万5千円です。事業費等(施設の整備や水光熱費など)は115万7千円です。1つのクラブで人件費が800万円ということは、常勤(正規)職員2人、非常勤職員4人としても、最も収入が高い職員とて年収200万円前後でしょう。ほとんどが会計年度任用職員ですから、まさに官製ワーキングプアを生み出しています。収入が少ないので支出も少なくなりますが、それが人件費の抑制として現れています。なお、事業費も年間115万円しかないということは、「施設が老朽化、補修もなかなかしてくれない」「エアコンの整備も進まない」「子どもの使うおもちゃ、教材にかける予算が極めて少ない」ということです。子どもの育ちに悪影響を及ぼすひどい要素です。

 ちなみに公立民営は、人件費が1321万5千円、事業費等が323万1千円。民立民営の人件費は1010万8千円、事業費等は374万6千円です。民立民営の人件費と事業費については気になる点がありますが、それは次回以降に譲ります。いずれにせよ、公立公営より人件費を確保しています。働く側にとっては、民営クラブの方が高い賃金水準が見込めます。
 実際、公営のクラブが指定管理者制度によって2024年度から営利企業が運営することになる高松市については、次のように報じられています。2023年11月27日19時23分にネット配信されたKSBニュースによると、「高松市は2023年4月1日時点で102の放課後児童クラブを直接運営しています。5月1日時点の待機児童は82人でした。放課後児童クラブを巡っては、ニーズが高まっている一方で、支援員が不足しています。高松市は待機児童や人手不足を解決するために、放課後児童クラブの民営化を決め、9月から事業者を公募していました。そして、10月に全国で放課後児童クラブの運営などを行う「シダックス大新東ヒューマンサービス」に委託することが決まりました。これまで高松市が雇っていた支援員や補助員は委託先の事業者が雇います。民間委託によって人材のやりくりや求人がスムーズにできるようになることが期待されます。支援員の待遇改善のため、2024年度からは月給が現在の「13万7129円~16万189円」から「14万2000円~16万5000円」に引き上げられる見通しです。」と、賃金が改善することが民営化の利点とされています。

 しかし、この月給額はひどいものです。現在の13~16万円台はワーキングプアですし、営利企業が指定管理者になって賃金改善されたとはいえ、14~16万円です。記事では所定労働時間が明記されていないので時間当たりの賃金額が不明ですが、月収16万円では、他に手当がついたとしても手取り額はとても20万円に届かず、依然としてワーキングプアなのです。

 公立公営のひどい経営状況による官製ワーキングプア。その運営を手放すとなれば通常、指定管理者制度になりますが、民営になって人件費が増えたとしても依然として学童ワープアは続くのです。

 なお、調査では、登録児童1人あたりの収益について、公立公営・公立民営・民立民営がそれぞれ16万2千円、32万2千円、35万4千円となっています。同じく登録児童1人あたりの費用については、20万2千円、29万4千円、33万4千円となっています。公立公営は、収益が低く、支出が上回る状況です。公的な児童福祉サービスなので収益を上げることは絶対的に追求されるものではないですが、額そのものが低いことが問題であり、それが職員の低い賃金水準をもたらしていると私は考えています。これが民営並みの収益30万円代で費用35万円程度になれば、公営クラブで働く人の賃金水準は現在の2倍近くになると想定されます。

 公立公営は、「あまり多くのお金を徴収しない」代わりに「多くのお金を使わない」という、あまりにも省エネ過ぎる構造です。その結果、職員の賃金が低く、子どもにかける費用が少ない。それは健全育成事業サービスの質の充実を阻む要因となります。
 その解決として民営化することは、私は間違っていないと思います。公営がその仕組みを維持して予算を現在の2倍以上投じることは現実的ではないので、育成支援の質の向上には民営化しかありません。ただし、民営化すれば質が必ず向上するわけではありません。民営化しても、事業を引き受ける事業者が「中抜き」としてコストを利益として確保してしまえば、職員に届くお金は減る訳で、官製ワーキングプアが解消しても学童ワーキングプアはまだ続くという構造は、なかなか崩れません。

 これを打ち破る方策を、ぜひ導入しなければなりません。公契約条例はその1つでしょう。

 育成支援を大事にした学童保育所、かつ、社会に必要とされる学童保育所を安定的に運営するために「あい和学童クラブ運営法人」が、多方面でお手伝いできます。弊会は、学童保育の持続的な発展と制度の向上を目指し、種々の提言を重ねています。学童保育の運営のあらゆる場面に関して、豊富な実例をもとに、その運営組織や地域に見合った方策について、その設定のお手伝いすることが可能です。

 育成支援の質の向上に直結する研修、教育の機会を提供するとともに、個々の学童保育所運営者様へ、安全安心な子どもの居場所づくりとその運営手法において、学童保育組織運営について豊富な経験を持つ代表が、自治体や学童保育運営事業者に講演や具体的な助言、アドバイスを行うことが可能です。もちろん、外部の人材として運営主体の信頼性アップにご協力することも可能です。

 子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。どんなことでも「あい和学童クラブ運営法人」に、ご相談ください。子育て支援の拡充に伴い、今後ますます重要視されていく子どもの居場所づくり事業の充実のため、一緒に取り組んでいきましょう。萩原は2024年春に「知られざる学童保育の世界」(仮題)を、寿郎社さんから刊行予定です。ご期待ください!良書ばかりを出版されているとても素晴らしいハイレベルの出版社さんからの出版ですよ!

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