公営学童保育所の低賃金状態は明白。良質な民間事業者が運営を引き受けられる態勢が必要です!

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。

※本稿では、数値は半角数字を使います。 
 このところ、本年(2023年)春に公表された「令和4年度子ども・子育て支援推進調査研究事業 放課後児童クラブの運営状況及び職員の処遇に関する調査 報告書」(令和5(2023)年3月・みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社)をよく見ています。来春出版する本の基礎的な資料として活用していることもあります。この調査は2022年春に実施されたもので、私も前職時代、この調査票(実に膨大な調査量で大変でした!)に取り組みました。調査結果が公表された時点ではすでに独立していた頃なので、データの結果には感慨深いものがあります。
 この調査は、目的として「本調査は、放課後児童クラブの職員の状況や決算情報等を収集し分析することにより、これまでの処遇改善策の効果や職員の給与の状況等について分析を行い、今後の施策の検討の基礎資料を得ることを目的として実施した。」とあり、調査対象は、放課後児童クラブ調査票が全国の放課後児童クラブ事業所(2万5783カ所)を対象、市区町村調査票が全国の市区町村(1741か所)が対象となっています。

 そしてこの調査結果には、大変興味深いデータが示されています。今回は、この調査報告書で「公立公営」と表記されている公営の学童保育所(本稿では、放課後児童クラブのこと)について気になった点を紹介します。

・調査への回答率
 調査書には「本調査では 8482 の事業所から有効回答があった。設立・運営主体別にみると、公立公営が2292(27.0%)、公立民営が3922(46.2%)、民立民営が 2268(26.7%)であった。」とあります。
 公営は、たった27%の回答ですよ。もちろん民立(民設)民営の26.7%もひどい。この低さにがっかりです。処遇改善の補助金の効果を把握したい、ひいては放課後児童支援員等、学童保育所の職員の賃金の状況を調べる大事な調査に、積極的に協力しようとしない態度は、「いかに放課後児童クラブの事業に関わる事業者の、社会的問題意識の程度が低いか」を明瞭に示しています。つまり、自分の半径1メートル以内のことしか考えられない、視野の狭い、社会的問題に関心のない、公の利益に関心の薄い、「程度のあまりにも低い」人材が学童保育の世界には、大勢いるということです。
 公営の場合、この調査に回答したのは市区町村の担当者か、あるいは公営クラブにおける職員集団の責任者でしょうか。賃金関係は市区町村の担当者でないと記入ができないでしょうから、最終的には市区町村の担当ですね。公務員ですね。いい加減な仕事しかしない公務員は有害です。また、民設民営の場合はNPOや社会福祉法人、社会福祉協議会もそう、株式会社も含まれますね。公共の事業を営んでいるという責任をしっかり感じ、このような調査に積極的に参加する考えを当然に持たねばなりません。それができない事業者は、学童保育の運営から撤退していただきたいですね。

・設立年数
 クラブが設立されてどのくらい経過しているか。公立公営は、最多が15年以上20年未満の26.2%でした。次いで20年以上25年未満が18.6%でした。30年以上も14.5%あります。一方、5年未満はわずか6.1%です。つまり、公営クラブは西暦2000年前後に相次いで設置されたものの、近年はほとんど設置されていないということです。
 民立民営は公立公営と正反対の形に近くなります。もっとも多いのが5年未満の22.4%、次いで5年以上10年未満の21.7%となります。なお、15年以上でも20年以上でもいずれも12%台であり、決して20~30年前には民立民営クラブの設置が進んでいなかったわけではありません。
 つまり、近年はクラブの新設を行政は民立民営を中心として進めていることになります。なお、公立民営は、公立公営と民立民営の中間的な様相になっています。

・放課後児童支援員等処遇改善等事業の適用
 公立公営は、公営クラブの中で13.4%のクラブが適用されていました。1割ちょっとしかありません。一方、公立民営は26.8%、民立民営は42.5%となります。いかに、お役所のクラブは、職員の低賃金改善への意欲が薄いかが分かるデータです。ひどいですね。

・常勤職員(月給制)の平均年齢と平均勤続年数
 公立公営では、放課後児童支援員である常勤職員は平均年齢52.8歳!なんど50歳を超えています。平均勤続年数は5.0年です。常勤の補助員(無資格の常勤者でしょうね)になると、55.2歳で平均勤続年数は2.6年になります。これは完全に中高齢者を採用して、採用と離職のサイクルがかなり速いことを示します。10年勤続の人もいるでしょうがおおむね数年で離職する職場であることが想像できます。
 これが公立民営では45.8歳で6.4年に、民立民営では44.6歳で7.1年に、それぞれ年齢は若く、勤続年数は長くなっていきます。若い職員がやや長く勤務することが想像されます。それでも、全体としては、「新卒や第二新卒よりも中途採用であり、長くても十数年の勤続」という職場だということが想像されます。
 なお、全体値では、放課後児童支援員の場合、平均年齢47.0歳、平均勤続年数6.2年となります。補助員は44.6歳で2.6年になります(2年ちょっとなのは、2年の勤務経験で任用資格を得て放課後児童支援員の認定資格研修を受けられるからでしょう)。

・常勤職員(月給制)の賃金(2022年3月末時点)
 さあいよいよ賃金ですね。年間支給額、それも賞与込みの金額です。まず全体値ですが、放課後児童支援員の場合は、289万9,910円です。補助員は217万8,566円です。300万円に達しないのです。ワーキングプアは年収200万円以下といわれますが、200万円台は生活保護を受けられず社会保険料が控除された手取りで暮らさねばならず、ワーキングプアに該当すると私は考えています。社会保険料は将来の年金給付で戻ってくるとはいえ、現在の生活に健康保険以外、直接的には寄与しませんから(もちろん障害を負ったときの保障にはなりますが)。
 さて公立公営の常勤の放課後児童支援員の年間支給額は、242万5,021円です。全体の平均値よりも下がります。これはもう官製ワーキングプアです。補助員になると183万1,514円と、完全に貧困の分野に入ります。
 では公立民営はどうか。放課後児童支援員は304万6,351円と、なんとか年収300万円台に乗りました。とはいえ、ワープア状態に近いです。補助員は241万3,009円。おそらく、障害児受入事業の担当職員(加配職員)としての雇用ですとこのような年収になるでしょう。民立民営の放課後児童支援員は303万1,499円、補助員は213万9,840円となり、公立民営とさほど変わりません。
 目立つのは、やはり公立公営の職員は、賃金水準が低いということです。それも明確に低い。いかに市区町村が、人件費にカネをかけていないか、ということだと私は考えます。(保護者から徴収する利用料が低額なことも影響するでしょう)

・人件費の案分
 最後に、一体会計となっている場合の経費の案分割合についてもデータが示されていました。公立公営が人件費に案分する割合では、25%超50%以下が39.7%で最多、次いで75%超の34.5%となります。3割強は人件費8割弱という一般的な労働集約型産業の典型としても、4割弱が最多であるということは、人件費を極端に抑制している事業者(つまり、市区町村)であることがうかがえます。それでは、高い賃金水準に、なるはずがありません。市区町村は、人件費をケチりすぎです。
 公立民営では、75%超が60.7%で最多、50%超75%以下が22.8%で、併せて8割を超えます。人件費をしっかり確保している、つまり職員の雇用労働条件に配慮していることがうかがえます。
 それが民立民営では、25%以下が39.9%で最多となります。75%超も36.6%と4割に迫るのですが、同じ4割弱が経費全体の4分の1としていることは、こちらも人件費の抑制が著しい。しかし放課後児童支援員の年間収入額は公立民営と差がないということは、人件費を支払う対象人数が少ないということでしょう。少ない職員数で運営していることが想像されます。なお、民立民営の事業所の種別は、社会福祉法人が34.5%で最多です。次いで運営委員会が16.6%、NPOが12.8%と続きます。社福(社協を含む)のクラブは少ない職員数で「回している」ということが想像できます。

 以上を考えると、公立公営学童は、職員に対して本当にお金を使っていないことが分かります。賃金が安いので、必然的に若い世代の職員が少なくなる。必ずしも若いことが優れた学童保育の職員になる条件ではありませんが、若い人にとって魅力の薄い職場であることは間違いありません。やはり、「お金を使わない形態の」公営クラブは、しっかりと職員にお金を使う民間事業者に、とって替わられるべきです。職員にしっかり賃金を払い、研修や午前の育成支援準備にも賃金や手当を出している公営クラブは、もちろんそのまま頑張ってください。

 育成支援を大事にした学童保育所、かつ、社会に必要とされる学童保育所を安定的に運営するために「あい和学童クラブ運営法人」が、多方面でお手伝いできます。弊会は、学童保育の持続的な発展と制度の向上を目指し、種々の提言を重ねています。学童保育の運営のあらゆる場面に関して、豊富な実例をもとに、その運営組織や地域に見合った方策について、その設定のお手伝いすることが可能です。

 育成支援の質の向上に直結する研修、教育の機会を提供するとともに、個々の学童保育所運営者様へ、安全安心な子どもの居場所づくりとその運営手法において、学童保育組織運営について豊富な経験を持つ代表が、自治体や学童保育運営事業者に講演や具体的な助言、アドバイスを行うことが可能です。もちろん、外部の人材として運営主体の信頼性アップにご協力することも可能です。

 子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。どんなことでも「あい和学童クラブ運営法人」に、ご相談ください。子育て支援の拡充に伴い、今後ますます重要視されていく子どもの居場所づくり事業の充実のため、一緒に取り組んでいきましょう。萩原は2024年春に「知られざる学童保育の世界」(仮題)を、寿郎社さんから刊行予定です。ご期待ください!良書ばかりを出版されているとても素晴らしいハイレベルの出版社さんからの出版ですよ!

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