学童保育の進化発展のために、あえて「嫌なところ、ひどいところ」と向き合う。ここが嫌だよ学童保育! その2

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。

 あい和学童クラブ運営法人は11月4日に登記上の設立日を迎えました。活動1周年を迎え、運営支援ブログは改めて学童保育の抱える課題や問題を取り上げています。今週は、学童保育について嫌なところ、ひどいところをあえて取り上げてみます。なぜなら、嫌なところやひどいところを認識し、その除去や修正ができれば、内容が改善されるからです。ぜひ皆様も、「こんなひどいことがある」という内容を、弊会までお伝えください。当ブログで紹介していきます。もちろん、紹介する際は固有名詞、当事者が判明するようなことはありませんから、ご安心ください。情報提供は匿名でも結構です。
 また、取り上げていく嫌なところ、ひどいところは、あくまでも「そういう例がいくつかある」というだけで、すべての学童保育所にあてはまるということではないことは、くれぐれもご理解ください。

 さて前日(11月6日)には以下の2点を取り上げました。
・運営主体も現場の職員も保護者も、「預り所」で満足している
・事業の「質」に、設置者もユーザーも無関心
 本日は次の事を取り上げます。
・あまりにひどい事業者(経営母体、運営主体、運営責任者のこと)があり、学童保育をボロボロにしている

 ひどい事業者とは、2点に分けられます。
1 学童保育(この場合、放課後児童健全育成事業。以下同じ)をやりたいのではなく、収益絶対優先
2 学童保育をしっかりやりたいと思うあまり、その他の分野には冷淡、もしくは無知ゆえ、いい加減な運営をする
(なお、事業者側からみて、「社会人として、専門職としても、最低レベルのひどい職員が多すぎる」という残念な実態もあります。それは後日)

 1について。これはもう、学童保育だけではなく福祉業界すべてにあてはまるのですが、市場化が必然的に招く構造ですね。要は、営利企業がどんどん参入している結果として起こっていることです。

 何度も取り上げていますが、「公営事業の民間企業参入」自体は止められません。指定管理者制度がある以上、公営事業の民間企業参入は当然、行われるものです。指定管理者制度とは、住民の福祉の増進を目的とする「公の施設」の管理を民間に任せることで、民間のノウハウの活用で、事業のサービス向上や効率化、経費削減を目的とする制度です。学童保育の場合は、公設公営(公立公営とも)の学童保育所が相次いで指定管理者制度のもと、民間企業に開放されています。

 なぜ民間企業、とりわけ営利企業たる株式会社がこぞって学童保育の世界に参入するのか、その理由は経営面を考えれば当然の理由があります。それは「収入が安定していること」に尽きます。これを踏まえて考えなければなりません。通常、事業・ビジネスの世界は、モノやサービスを提供することでその対価として収入を得ます。モノが売れるかどうかは、当たり外れがありますね。企業が、自信をもって開発した新商品であっても、売れなければただの負債です。サービスにしても同じです。そのサービスを必要としなければ注文が無く、稼げません。
 ところが、公営事業のサービスは、「売れない心配が無い」のです。経営面において、行政からの補助金は定期的に確定額が得られる安定した収入となります。事業主、経営側からみて、これほど「オイシイ」収入はありません。しかも学童保育となれば、「必ずその地域に利用者が存在する」のです。特に広告宣伝や事業が評価される仕掛けをしなくても、要は何をしなくても顧客(=入所者)は毎年現れる。要は、公営事業の指定管理者による事業運営は、「よほどヘマしなければ、安定して収入を計算できる、極めて理想的な事業形態」なのです。しかも学童保育は、保育所よりも規制が甘い、緩い。それはもう、ウハウハですよ。
 これが「補助金ビジネス」の、最大の利点であり、「うま味」なのです。
 非営利団体とはいえ学童保育事業の経営、運営をしていた私は、そのことがよく分かります。「黙っていても数千万円が数カ月おきに預金口座に振り込まれる」のです。こんなに安定した事業形態は滅多にありません。株式会社がこぞって指定管理者制度に応募するわけです。

 さて、「ヘマをしなければ」と書きましたが、つまりひどい失敗をしなければ、安定して収入が確保できる。その「ひどい失敗」というのが、予算の使い過ぎです。それも、「人件費の使い過ぎ」です。労働集約型産業である学童保育ですから予算の7割超は人件費です。この人件費の使い方さえ失敗しなければいい。むしろ人件費を抑制すればするほど、事業者の利益は増えていきます。しかも、運営する単位数が増えれば増えるほど、スケールメリットが作用して、どんどんと事業者に利益が入り込む。私の体感ですが、クラブの職員配置をそれなりに手厚くして人件費をさほど節約しなくても、児童数が年間を通じて60人ほどいれば、家賃支出などの固定経費支出がなければ、会計は黒字になります。まだまだ不十分の学童保育の補助金額でも、その通りです。このような単位が、それこそ全国で数十、数百単位にもなれば、事業者が得られる利益は相当な額にのぼります。さらに人件費を節約すれば、もっとウハハになります。こんなにオイシイ事業は、日本にはそうそうないでしょう。あるとしたら派遣会社でしょうね。

 さて人件費の節約手法は次のとおり。A「賃金水準の抑圧」、B「有期雇用」、C「所定労働時間の圧縮」、D「雇用人数の抑圧」です。
 これらの節約手法は、すべてそのまま、被雇用者側、つまり働いている職員を直撃します。先ほどの順番で雇用者側から見てみましょう。
A 低賃金でワーキングプア。賞与はないか、あっても数万円の「一時金」レベル。時間外・休日労働の割増賃金もろくに支払われていない。研修に係る費用は事業者が出さないから、自ら持ち出し(自腹)。おもちゃや教材すらも時には自腹で購入。
B 有期雇用で身分が不安定。5年後、10年後の職業人としての展望が持てない。よって家庭も持てない、子どももつくれない。なお無期雇用にすると、退職金や定期昇給などでカネがかかります。本部のエリアマネージャー級にでもならないと、無期雇用は少ないでしょう。
C もっと長い時間働いて保護者や子どもと関りを持ちたくても、週の所定労働時間30時間労働では難しい。子どもと関われる時間が少なければ、子どもたちの気持ちは落ち着かない。よって「荒れている」クラブになりがち。保護者とも関係性が構築できないので、ちょっとしたトラブルが「訴えます!」と先鋭化する。仕事が所定時間内に終わらなければ当然、サービス残業や持ち帰り仕事になる。研修時間、認定資格研修の時間すら無給。
D 現場クラブの配置人数が少ない、つまり人手不足では、もうどうしようもない。子どもたちと関われる職員が少なければ、子どもたちのイライラやトラブルが頻発する。やはり「荒れている」クラブになる。まして、今は「すぐキレる子どもたち」が多い、または特別支援児ではないものの何らかの特性を持った子どもたちがクラブに多く在所しているため、丁寧な支援ができなければそれもまた、クラブでの子ども同士のトラブルを呼ぶ。

 よって、全てとはいいませんが、おそらく多くの株式会社系のクラブでは、「人手不足による児童集団が落ち着かないクラブ」になる方向性を食い止めるため、「管理的な児童集団運営」の方向になっていると私は推測しています。つまり、あれはダメ、これもダメ、固定的なスケジュールによる児童行動管理を優先し、手間暇かかるイベントは極力しない。ユーザーたる保護者の評価は形だけアンケートを行っておしまい。(保護者も、保護者会などの負担がないため、また育成支援の質には無頓着のため、おおむね良い評価をするでしょう)

 それでも事業者は、まして株式会社である以上、利益の確保こそ存在理由なのですから、何があっても人件費の抑制は止めないでしょう。

 ここで絶妙なのは、指定管理者として選ばれるために企業側は、公募の際に市区町村が「お、これは指定管理料が安上がりでいいね」と喜ぶ価額で応募するのです。なので、最初から決まっている指定管理料が比較的低額であり、そこから利益分を確保するため、人件費の抑制は相当なものになるであろう、ということが容易に想像できます。
 この点、非営利団体は、事業主が株式会社の場合は、株主に還元するための利益分を確保する必要性がないので、本来であれば株式会社と同じ条件で競えるのですが、そうもいきません。
 なぜなら、「職員の雇用を大事にする、あるいは職員がしっかりクラブで子どもと関われる勤務時間を保障する、あるいは職員数も多めにする」ため人件費の抑制ができず、結果として、総額としては株式会社より上回るケースが多いだろうと、これは私の想像ですが、おそらく間違っていないでしょう。
 また株式会社の場合、特に全国各地で多数の指定管理者として単位数を稼いでいる場合、スケールメリットが影響して、1つ1つの市区町村からの指定管理料が安くても、全体としては高い利益を稼げるのです。財務基盤が盤石なのです。
 事業規模が小さい非営利団体では、財務基盤が致命的に弱い。これもまた、市区町村が、非営利団体を選ばない理由として作用します。

 このままでは、公設公営のクラブだけでなく、保護者運営の民営クラブも、「保護者の運営疲れ」によって運営を手放したところは、当然、株式会社がその運営をさらっていくでしょう。学童保育の「育成支援」を大事にしたい側の勢力は、この強烈な方向性にどう立ち向かうのか。もう手遅れに近いと思いますが、今からでも、事業規模の大きな非営利団体をこしらえて、数年後の指定管理者の次期選定の際に勝負をかけるべきだと、私は思いますね。

 さて株式会社運営の学童保育のひどい所をつらつらと挙げましたが、逆に言えば、株式会社が、「分かった。それなりに賃金は保障する。研修機会も確保するよ」と方向をちょっと変えれば、もう育成支援最優先で運営する非営利団体が、方向転換した株式会社に対抗することは不可能となります。「そんなことはないだろう」と思わないでください。そうそう容易にそうなるとは私も思いませんが、「学童の補助金が相当額、引き上げられた」場合に、そうなる可能性はあります。職員にそこそこの賃金引き上げをして満足させておいて、補助金増額分の半分でもゲットできれば、事業者は万々歳です。もちろん、子どもの育ちが保障されるなら、事業形態はどうでもいいと私は思っています。
 なお、「保護者は名の知れた株式会社の方が、あるいは全国で手広くやっている企業なら運営もちゃんとしているだろうと思って安心する」という事実も、見落としてはなりません。新1年生の新しい保護者にしてみれば、「今までしっかりとした運営をしていた保護者由来の非営利法人」より「CMで見かける会社、全国で数百のクラブを運営している会社」の方が、安定性も専門性もあると思いますからね。

 (2)に移ります。長くなりましたが、育成支援に熱心と思われている「非営利法人」や「保護者会など任意団体」の事業者も、ひどいところはひどい。株式会社のひどさよりも、私は違った意味で「たちの悪い」悪質さがあると感じています。いずれ詳細は論じたいとして、列記して終わりたいと思います。
・法的リスクに無関心。いざとなったら、運営に関わる者が賠償責任含めて責任を問われる、責任を負わねばならないということに関心がない。その結果、何も知らない保護者が知らず知らずのうちに重い法的責任、事業運営責任を負っていることがある。事業を営む以上、責任の所在、責任の明確化、そして責任を感じて事業に取り組むことは絶対に欠いてはならないことですが、これが極めてずさん。

・運営責任者たちは気の合う仲間(理念を同じくする仲間。だいたい、保護者つながり)ゆえ、「ルールに則った事業運営より、仲間の人間関係を大事にした運営を重視する。いきおい、コンプライアンスや、児童福祉サービスの向上、住民サービスの向上より、自分たち(特に、運営に関わる専従役員や専従職員、保護者出身理事)が働きやすい環境整備に軸足を置く」。コンプライアンスを重視する者は煙たがられ、やがて追い出されてしまうのです。私はこういう、仲間意識が大好きな人たちが行っている非営利法人の事業も、ひどい補助金搾取事業だと思います。

・育成支援の理念は大事。職員のこともそれなりに大事にする。が、法務や財務、労務の知識が薄いので、労働基準法だったり会計処理だったり、事業体として基本的に遂行しなければならない「ビジネスの作法」が、まるでなっていない。労働法関係の法改正についていけず、結果として法令違反の状況を長らく放置していることもありえます。外部第三者と、何かの案件でやりとりをしていても、何日も返事をせずにいて相手を心配させたり、書式の作法も礼儀がなっていなかったりもします。職員が、事業の改善を希望しても、仲間内で運営をしている役員たちの「仲良しさゆえの団結力」を恐れて、それを言い出せないのです。
 こういう保護者出身の人たちの多くは、運営側が自ら事業に必要な知識を仕入れてそれを活用せねばならないのに、そういう勉強はあまりしませんね。日々、特に重要なトラブルさえなければ安泰だと思っています。仲間うちでワイワイやりたいなら、事業ではなくて同好会でもやればいいのです。税金が由来の補助金という公金を受け取って事業をするのは、1万年早い、そんなひどい非営利法人もありますね。

・そもそも「事業」をしている感覚がない。本来なら、株式会社の参入が勢いを増すこの学童保育業界において、育成支援が大事なら、どうやって育成支援を最優先する事業者が優勢になるか、広い視野で考えて行動する必要があるにも関わらず、「自分たちのエリア」の運営で満足している。その結果、市区町村が方針を変えてしまったら、もうクラブの運営には関われなくなってしまう。非営利法人というのは、利益を役員報酬として分配することが許されないのであって、得られた利益を事業規模の拡大に投資することも求められているにも関わらず、事業規模の拡大、スケールメリットの重要性を理解できないまま今日に至っているのが、今の株式会社の相次ぐ参入を許した要因であり、私はこの「子どもを真ん中に、親と職員とで作る学童保育」業界の、最大の失敗点だと信じています。

 「ここが嫌だよ学童保育」シリーズ。だんだん辛口となってきました。まだまだ、こんなものではありません。回を重ねるごとに厳しくなりますよ。ぜひとも皆様からの事例提供をお待ちしております。
 なお、あす11月8日は、私(萩原)が日帰り札幌訪問です。ブログ更新は夕刻になろうかと思いますが、出来ないかもしれません。夕刻ちょっとだけでも時間があるブログ読者の方は札幌でお会いできればうれしいです。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の持続的な発展と制度の向上を目指し、種々の提言を重ねています。学童保育の運営のあらゆる場面に関して、豊富な実例をもとに、その運営組織や地域に見合った方策について、その設定のお手伝いすることが可能です。

 育成支援の質の向上に直結する研修、教育の機会を提供するとともに、個々の学童保育所運営者様へ、安全安心な子どもの居場所づくりとその運営手法において、学童保育組織運営について豊富な経験を持つ代表が、自治体や学童保育運営事業者に講演や具体的な助言、アドバイスを行うことが可能です。もちろん、外部の人材として運営主体の信頼性アップにご協力することも可能です。

 子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。どんなことでも「あい和学童クラブ運営法人」に、ご相談ください。子育て支援の拡充に伴い、今後ますます重要視されていく子どもの居場所づくり事業の充実のため、一緒に取り組んでいきましょう。

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