学童保育の職員募集のキャッチコピーで分かる、運営主体の学童保育に対する理解度。初めが肝心ですよ。
学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。
常に人手不足の学童保育。ネットで検索すれば、公立(公設)公営、公立(公設)民営、民立(民設)民営の各形態の学童保育所(=放課後児童クラブ)、さらに学習支援系の民間学童保育まで、北海道から沖縄まで全国どこでも、多くの事業者が職員を募集しています。応募する側からすれば、選択肢が豊富でありがたいことですが、あまりにも多くの求人広告が出ているということ、つまるところ常に人手不足なのは、それなりの理由があるわけです。仕事の量と質に見合った賃金ではないということですが、それにプラスして、「自分が思っていた仕事と違う」というミスマッチもあります。
マッチングがうまくいかない業界は常に人手不足です。その原因の1つとして、私が以前から思っているのが、求人広告や採用過程における事業者側から提示される職務内容です。先日、私は旧ツイッター(X)に投稿しましたが、岐阜県中津川市役所のホームページに、「放課後児童クラブ(学童保育)で働きたい方大募集!」として記事が掲載されていました。以下、引用します。
<学童保育所で小学生の生活や遊び等のサポートをしてみませんか。子ども好きの方大歓迎!指導経験・資格がなくてもできるお仕事です。>
これはどうでしょう。小学生の生活や遊び等のサポート、ここはその通りでしょう。その後です。
「子ども好きの方大歓迎」とあります。ここはいささか問題があると私は考えます。子どもが大嫌いで、子どもに意地悪をしたいという人は絶対に困りますが、そもそもそういう人は学童保育の仕事に応募しようとは、考えないでしょう。子ども好きの人はもちろん歓迎なのですが、「子どもが好きだから、子どもの言うことを何でも実現したいと思っている。そうすることが学童職員の仕事だ」と、かたくなに思い込む人もまた、学童職員としては適性に欠けると、私は考えます。子どもの最善の利益を守ることは、「大好きな子どもに、子どもの望むことを全部かなえてあげることだ」と、表面的に短絡的に考えてしまうと、複数の子どもが集団で過ごす学童保育における子どもの育成支援に関して、必ずひずみが生じます。子ども全員が好きなことを必ずできるなんて、ありえないですから。
子ども好きというのは、十分条件であって、必ずしも必要条件ではないと私は考えます。要は、「子どもが大嫌いでなければ、よい」とさえ私は思っています。
さてその次の「指導経験・資格がなくてもできるお仕事です」という文言。これはもう、表現の工夫が足りません。どの職業でも、初めてその仕事に就く人は初心者であり、経験がありません。ですから、経験がなくても大丈夫という文言は、あって構わないと私は思いますが、「経験がなくても、しっかり研修教育でフォローします」と付け加えないと、「ああ、経験がなくてもできる程度の仕事なんだな」と理解されてしまいます。学童保育で働いたことがある人ならほとんどの方が分かると思いますが、「そんなたやすい仕事ではない!」というのが事実です。よって、経験がないことは当然、誰でも最初はその通りだけれども、「その後にしっかりと研修教育を受けて自分で学ぼうとする姿勢が絶対に必要ですよ」ということは、求人の応募者に、明確に伝えなければなりません。ホームページには文字量の都合で、研修教育について触れられないとしても、その後、詳細に応募者に説明する際には、必ず、念を押して伝えていただきたいですね。
中津川市の学童保育の育成支援の質について私は判断できる材料を持っていませんが、職員求人のキャッチコピーによって、本来、放課後児童支援員や補助員に必要な資質を備えた人ではない人が多数、応募してくるような状況になりかねない募集文言では、採用する際の手間もかかるでしょう。気になるところです。
では、学童保育に力を入れていることで有名な他の市町村を見てみます。神奈川県大和市です。「子育て王国」を名乗り、学童保育の待機児童も8年連続で0人という素晴らしい自治体です。大和市のホームページにはこうありました。
<大和市の公立小学校内に設置された公営児童クラブでは、学区内の小学校1年生から6年生の児童(障がいを持つ児童を含む)を放課後や土曜日、夏休みなどの長期休業日に預かり、子どもたちの健全育成を図る事業をおこなっています。この大和市放課後児童クラブの支援員・補助支援員を募集しています。子どもが好きで明るく活動的な人を求めています。>
<大和市放課後児童クラブにおいて子どもたちの遊びや生活指導をおこなう業務が主となります。>
なんとも微妙です。私としては、子育て王国を名乗るほど意識高い系自治体であるなら、「預かり」という文言の使用は避けてほしかったですね。健全育成という文言を使っているのであれば、なおさらです。画竜点睛を欠く、というところでしょうか。
そして、「子どもが好きで明るく活動的な人」のくだり。これは、さすが大和市だなと私は感じました。ただ子ども好きではなくて、「明るく活動的」、これが大事ですから。活動的という語句には、活発に体を動かすというニュアンスも込められているでしょう。学童職員の全員に必須ではありませんが、外遊びで子どもと活動を共にすることが多い仕事ゆえ、活発的でなければ困る場合が多々あります。
もう1つ気になったのは、「生活指導」という語句ですね。まったく間違っていると私は思いませんが、学校のような生活指導、あれはだめこれはだめ、とは違う、集団生活での育成支援における指導というのは、危急時における強制的な指導は別にして、子どもたち自身が納得して理解して身に着けるプロセスを大事にする指導であるべきだと私は考えています。このあたりは、実際に応募してきた人に、丁寧に生活指導の内容を説明されることを期待します。
私も実務を行っていたときは、いろいろなキャッチコピーを考えました。また、応募してきた人に、「学童保育の仕事は、こういうものですよ」とそれこそ数えきれないぐらい多くの応募者に説明をしてきました。何を一番大事に、重要なことだとして説明をしてきたかといえば、この言葉に尽きます。
コミュニケーション
私は求人に応募してきた人によく聞きました。「学童のお仕事って、何が大事だと思いますか?」。たいてい、「子どもが好き、子どもの成長を支えたい」という答えが返ってきました。むろん、それはそれで良いことです。ですが、私は必ず「コミュニケーションが得意な人は、充実した仕事になります。ですが、コミュニケーションが苦手ですと、すぐに辞めたくなります」と答えていました。
子どもとのコミュニケーションだけでなく、保護者、そしてこれは少人数職場ゆえの必須技能としての職員同士のコミュニケーション能力が欠かせません。学童保育の仕事、学童職員、放課後児童支援員は、「コミュニケーション労働」だと私は考えています。喜怒哀楽を敏感に感じ取って、それを共有し、伝えあうことが学童保育の仕事だと考えています。単に子どもが好き、逆に大人は苦手、という人は、学童保育の少なくとも常勤職員、正規職員には適性がありません。子どもと遊ぶための要員としてなら勤まるでしょうが。
全国の市区町村の学童担当の方は、もし役所のホームページに学童職員の求人を掲載する際は、子ども好きの文言はさることながら、「コミュニケーションが得意な方」という文言を入れたほうがよいでしょう。文字数に余裕があるなら、「子どもと保護者、職員間でコミュニケーションを取りながら子どもと保護者の成長、生活を支える仕事です」と入れれば、応募時・採用時のミスマッチを多少は防ぐことができると私は考えています。
もちろん、採用後の研修教育は、コミュニケーションの重要性を理解させ、コミュニケーション能力を磨く内容が必須です。こう考えると、やはり学童保育は、非認知能力を育てる場所であるからこそ、非認知能力の最たるものであるコミュニケーションが大事である、ということは自明の理なのですね。(そのあたり、もちろん弊会はご協力が可能ですよ!)
育成支援を大事にした学童保育所、かつ、社会に必要とされる学童保育所を安定的に運営するために「あい和学童クラブ運営法人」が、多方面でお手伝いできます。弊会は、学童保育の持続的な発展と制度の向上を目指し、種々の提言を重ねています。学童保育の運営のあらゆる場面に関して、豊富な実例をもとに、その運営組織や地域に見合った方策について、その策定のお手伝いをすることが可能です。
子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。萩原は2024年春に「知られざる学童保育の世界」(仮題)を、寿郎社さんから刊行予定です。ご期待ください!良書ばかりを出版されているとても素晴らしいハイレベルの出版社さんからの出版ですよ!
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