学童保育の指定管理者選定の問題点(上)。審査基準で地域の運営団体を不利にしており、法の下の平等で問題だ

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。

 学童保育所(放課後児童クラブ)が指定管理者制度で運営されるケースが増えていることはご存じでしょう。ブログに以前、掲載しましたが、データでは次のようになっています。
<指定管理の状況>・実施している公立民営クラブの数と割合
 2018年 3,350クラブ(29.2%)
 2022年 3,656クラブ(27.9%)
 2023年 3,766クラブ(29.3%)

 制度がある以上、制度が利用されるのは当然ですが、問題は、「適正に」制度が利用されているか、です。大前提として、事業の継続性が必要である児童福祉の分野において、3~5年ごとに運営業者が変わる可能性をもたらす「公募型の」指定管理者制度は決して好ましくはなく、非公募を市区町村が選択するように弊会は希望します。
 仮に、競争によるコスト削減をもって納税者の期待に応えたいという目的はどうしても外せないというのであれば、指定管理者制度選定に使われる審査基準、審査項目の見直しが必要であると私は考えます。なぜなら、法の下の平等に違反する、もしくは一方的に不利な条件での競争を強いられていると私には思えるからです。

 例えば、2024年度(令和6年度)から営利広域展開事業者が放課後児童クラブを運営することになった地域において、指定管理者を選ぶ選定基準を見てみましょう。
・福島県郡山市の場合
 こちらは、選定基準と、選定基準に対応する項目に含まれる審査事項がある程度細分化されているので、審査事項ごとに対応する配点基準の公開が無いのは残念ですが、自治体が何を重視して指定管理者を選びたいのかが想像できる点で評価できます。さて内容ですが、極めて残念なことに、放課後児童クラブの使命である放課後児童健全育成事業の着実な実行と質の担保について、「施設の効用の最大限の発揮(施設の設置目的の効果的達成)」とした選定基準に含まれる4つの審査事項のうち、直接的にはたった1つだけしか、それに相当していません。残る3つは、管理運営方針や保護者・学校との連携等であり、広い意味では健全育成事業に含まれるとしても、核心的な要素である子どもへの支援について選定基準上、相対的に重視されていないように私には判断できます。
 そして、事業者の規模が大きくなればなるほど有利になる選定基準、審査事項に多くの配点がされています。「管理を安定して行う人的、物的能力その他の経営上の基盤」に30点。ここに、営利広域展開事業者に有利となる「放課後児童クラブ、児童館又は認定こども園(保育所、幼稚園等を含む。)の運営実績、実績の規模(十分な運営実績を有し、安定的に運営できるか。)」が含まれています。これは営利広域展開事業者しか獲得できない審査事項です。また、「雇用及び地域経済への配慮」で15点です。100点満点ですから、財政面では有利な営利広域展開事業者はすでにこの時点で45点を獲得できることは間違いありません。さらに、「管 理 経 費 の 縮 減(実現可能な収支計画)」で5点。
 その上、育成支援の範囲を含む選定基準である「施設の効用の最大限の発揮(施設の設置目的の効果的達成)」には、営利広域展開事業者が得意とする「効率的・効果的な事業運営の実施」が含まれています。

・高松市の場合
 こちらは選定基準というものが1つの大きな表となっていて、郡山市の選定基準に相当するものが「評価項目」となっており、同じく郡山市の審査事項に相当するものが「評価基準」となっています。
 配点がおおざっぱでしか公表されていないのが残念ですが、気になるのが、評価項目の1つとして「業務実績」が挙げられていることです。これには「他の自治体における放課後児童健全育成事業の受託実績」として20点が配点されています。つまり、営利広域展開事業者はそっくりそのまま20点を得られるのに対し、地域に根差した放課後児童クラブ運営団体がもし公募に挑んでいたとしたなら、この20点は得られません。これは私は、差別的な配点であり、法の下の平等に反すると考えます。他地域での実績が、当該自治体における運営の評価にどれほど左右するのかといえば、私はおよそ考えられません。当該自治体の地域で複数単位を問題なく運営できているなら、それをもってこの項目の評価に代えられます。「実施体制」という評価項目に「①事務所、責任者、エリアマネージャー等の実施体制」など人員配置体制についていくつかの基準が挙げられています。これらも事業規模が大きい営利広域展開事業者に圧倒的に有利な内容となっています。

・愛知県津島市の場合
 こちらは審査基準とそれに対応する配点が公表されており、評価できます。そのまま転載します。
〇平等な利用を図るための具体的な手法及び期待される効果     確保されない場合は失格
〇施設の設置目的及び市が示した管理の方針との整合性                5点
〇利用者の増加並びにサービスの向上を図るための具体的手法及び期待される効果   20 点
〇施設の維持管理の内容、適格性及び実現の可能性                 10 点
〇申請者の取組姿勢                               5点
〇施設の管理に係る経費の内容(提案価格の得点)                 20 点
〇施設の管理に係る経費の内容(経費縮減に関する取組及び方針は適切か)      5点
〇安定的な管理が可能となる人的能力                       10 点
〇個人情報保護、情報公開の取扱い、諸規程の整備                 5点
〇収支計画の内容、適格性及び実現の可能性                    10 点
〇収支計画の内容、適格性及び実現の可能性                    5点
〇申請者の実績等                                5点
                                      合計 100 点
 これらのうち、営利広域展開事業者に有利であり、地域に根差した放課後児童クラブ運営団体に不利なものがいくつかあります。「施設の維持管理の内容、適格性及び実現の可能性」の10点、財政が豊かな事業者が好条件を打ち出せる「施設の管理に係る経費の内容(提案価格の得点)」は20点、「施設の管理に係る経費の内容(経費縮減に関する取組及び方針は適切か)」は5点、「安定的な管理が可能となる人的能力」は10点、「収支計画の内容、適格性及び実現の可能性」で10点、「収支計画の内容、適格性及び実現の可能性」と「申請者の実績等」はそれぞれ5点ずつ。
 津島市においても、郡山市、高松市と同様、点数を評価する段階において、その項目がすでに営利広域展開事業者に有利となっていることが見て取れます。市区町村の規模に関係なく、おおむねどの市区町村についても似たような内容で、指定管理者が選ばれているのです。

 こうした選定基準と審査事項は、地域に根差した保護者参画、保護者協働の団体が公募に参加したとしても、大きな組織である営利広域展開事業者と競い合ったとき、判断基準においてすでに不利に立たされているということです。大きな組織で、予算規模が大きい事業者が必然的に多くの得点を獲得できるような選定基準であり、審査事項です。これでは、公平な競争は期待できません。選定基準として提示された内容が、すでにある特定の属性の分野に有利となるようなものでは、競争の正当性は確保できません。もっと言えば、法の下の平等に反しています。(このあたり、法律の専門家に考えていただきたいところです。)

 これでは、地域に根差した放課後児童クラブ運営団体が、育成支援の質をどれほどアピールしたとて、事業者の規模に由来する財政力や他地域での運営実績によって得点に当然の差がついて選定喜寿がある以上、どうしたって公正な競争にはなりません。これは、放課後児童クラブという、継続性が重視されかつ保護者、子どもとの信頼関係が必要となる事業については、単に、財政力や効率性を重視した管理運営能力を主として評価する配点基準に問題があることを意味します。
 裏返せば、市区町村が、放課後児童クラブの運営にあたって、「質の高い健全育成が実施できるかどうか」を重視するよりも「カネをあまりかけずに効率的な運営ができるかどうか」を重視しているからこその、選定基準なのです。市区町村が、実のところ、子どもの育ちについて真剣に考えていないという事の、残念な証明なのです。

 そしてもう1点、放課後児童クラブの指定管理者選定において、私は問題点があると考えています。それは次回以降に記します。

 育成支援を大事にした学童保育所、かつ、社会に必要とされる学童保育所を安定的に運営するために「あい和学童クラブ運営法人」が、多方面でお手伝いできます。弊会は、学童保育の持続的な発展と制度の向上を目指し、種々の提言を重ねています。学童保育の運営のあらゆる場面に関して、豊富な実例をもとに、その運営組織や地域に見合った方策について、その策定のお手伝いをすることが可能です。

 子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。萩原は2024年春に「知られざる学童保育の世界」(仮題)を、寿郎社さんから刊行予定です。ご期待ください!良書ばかりを出版されているとても素晴らしいハイレベルの出版社さんからの出版ですよ!

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