学童保育の実務上の難問を考える:アレルギーへの対応(上)
学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。
学童保育所(放課後児童クラブ)の運営には、多くの難問、難しい課題に直面します。というか、容易な問題などほとんどないのですが。難問の中で、事業者(運営側)、子ども、保護者の3者がそれぞれ頭を抱える問題の1つが、本日からの題材である食物アレルギーです。これは、本当に難しい問題です。事業者ごとになんとか解決はできていても、「こうすれば、全国どこの事業者でも、絶対に問題は解消する」という解決策は見つからないことを先に申し上げつつ、この題材を考えてみます。
まず、食物アレルギーの子どもが増えていることを確認しましょう。朝日新聞デジタルの有料記事で、2023年6月29日18時00分掲載の「食物アレルギーの子ども52万人超 前回調査より12万人増の原因は」の記事を引用します。
「食物アレルギーがある児童生徒が全国の公立小中高校に約52万7千人いることが、昨年度、9年ぶりに実施された大規模調査で判明した。2013年の前回調査より約12万人増えた。激しいアレルギー症状「アナフィラキシー」を起こしたことがある児童生徒の数も増加した。教育現場では食物アレルギー対策が進むが、道半ばだ。」
(引用ここまで)
私の以前の実務体験でも、何らかのアレルギーを持っている子どもは実に多く、花粉症、アレルギー性鼻炎を含めると、おおよその子どもにアレルギー症状があるといってもいいほどです。食物アレルギーでは、卵、乳製品が多く、果物(キウイ、スイカなど)、魚卵、そば、落花生・ナッツ類が目立った記憶があります。小麦のアレルギーのお子さんは少なかったのですが、重篤なアレルギー症状になりかねない場合がほとんどでした。
また、免疫抑制剤の服用をしている子どもにはグレープフルーツは与えられないなど、アレルギー以外でも食べてはいけない食品がある子どもが入所してくることも当然あります。
学童保育におけるアレルギー対策は、まずは「子どもの命を守ること」であり、次いで「子どもの健康被害を防ぐこと」に尽きます。食物アレルギーの誤摂取による影響はもちろん、金属などアレルゲンとの接触による健康被害、またハチ毒によるアナフィラキシーショックへの対策も、学童保育の事業者は常に考えておき、対応マニュアルを用意しておく必要があります。そのマニュアルには当然、「事案を起こさないための取組」と、「事案が起きたときの対応」が分かりやすく記載される必要があります。
なお、アレルギーへの対応について取りまとめたマニュアルがない事業者は、早急に作成してください。その他の業務規範や安全管理マニュアルに含まれているかもしれませんが、アレルギーへの対応はそれだけで重要な内容であり、「いざ、もし、万が一」のときに最悪の結果に直結することがある問題です。事業者がどれだけアレルギー対応を重視していたか、形で示すには、独立したアレルギー対応マニュアルを作成して職員、保護者はじめ関係者に「私たちはアレルギー対応のマニュアルを整備しました。そのマニュアルに沿って行動し、子どもの命を守っています」ということを、「はっきりと見える」ようにしなければなりません。
問題は、マニュアルに記載した内容が実践できるかどうか、です。この点については、事業者(特に職員の個々の能力)と、保護者の行動が重要になります。マニュアルの記載内容がいくら立派でも、実践できなければ意味がありません。事業者側に関する問題としては、「記載した内容が、実際に実践されないことをどう防ぐか」があります。つまり、「面倒くさい」として省かれたり、他のことを優先するあまり意図的に省かれたり、または他の業務に気を取られて忘れられたりする可能性が常にあり、かつ、実際にそうなってしまうことが珍しくないからです。また、職員の個々の能力によって、マニュアル通りに業務をして目の前に問題が露呈していても「それを問題と認識しなかった!」ケースすらあり得るのです(実際、私はそのようなケースに遭遇しました)。
保護者側の問題は一筋縄ではいきません。アレルギーは子どもの健康の問題であり、保護者であれば当然、しっかりと対応してくれるはずだ、と思うのは現場を知らない人の予想に過ぎません。現実には、保護者としての責任や意識をまったく感じさせない対応を選択する保護者が少なくありません。例えば、こういうことは珍しくありませんでした。入所手続き時、アレルギーについて申告する書類に何も記載がありませんでした。「お子さん、アレルギーは無し、ということですか?」と尋ねると、「いや、何かアレルギーがあるかも」という答えが返ってきました。「それはどういうことですか?」とさらに聞いても「何か分からないけど、食べたら具合が悪くなったことがあったかも」と、はっきりしません。「それでは、病院で、何がアレルゲンになるか調べてみていただけますか。それがはっきりしないと、学童でおやつを提供することができません」と告げると怒り出して「こっちは忙しいから学童に預けるのに、なんでいちいち病院に連れて行かなきゃいけないの。そっちが連れて行ってよ」と。信じられないでしょうが、実話です。そういう保護者が、現にいるのです。
もちろん、子どものアレルギーについて真剣に考えている保護者の方が多数なのは間違いないでしょう。ただし、アレルゲンの調査に協力してくれない保護者は珍しくありませんし、アレルギーの申告をおざなりにしている保護者もいます。これもまた実話ですが、自宅の食事である食べ物について初めてアレルギー症状が出た。それを学童には伝えてくれていなかったので、学童で提供したおやつに含まれていた食品で軽度ですがアレルギー症状が出た。学童に保管してあった保護者からの情報では、アレルゲンは含まれていなかった。保護者に連絡すると、「ああ、最近、アレルギーになったみたいで。連絡してなかったですね」。
これでは、子どもの命をしっかりと守るんだ、アレルギーによる被害は絶対に防ぐのだ、と緊張感をもって学童職員が働いていも、また運営していても、たまったものではありません。残念ですが、アレルギーについては、真剣に(時には過剰なほど)考えて取り組んでくださる保護者と、「大した事ないでしょ」と本気で考えてくれない方に分けられつつあるなと感じられます。
さて、これらややこしい学童保育のアレルギー問題ですが、他にも重大な問題があります。これは学童保育が抱える本質的な問題ですが、「学童保育所(この場合は、放課後児童クラブ)は保育所と異なり、食事の提供について重要な事項として捉えられておらず、施設の整備や人員配置について基準はない。家庭の延長として、ちょっとしたおやつ(補食)の提供程度で十分とされてきた」という事情を考えねばなりません。最近は急激に学童保育所における昼食提供への取り組みがもてはやされていますが、自前の設備で昼食を作りたくても、家庭の延長程度の台所設備しかなく、調理に専念できる職員を十分に確保できません。整った設備がなく、かつ、人員の確保が困難です。このような状況では、昼食や手作りおやつにおいて、アレルゲンを除去した完成品は提供できません。小麦粉を完全に分離しておやつを調理できません。この点からも、学童保育所における食品調理について国は設備上の基準を設けるべきです。定期的に、学童保育所で調理した食品を提供するのであれば、保健所による指導や関連した資格もクリアすることも当然、求められます。現状は、家庭の延長という認識でいるため、逆に言えば規制が緩く済んでいる、つまり大目に見られているのですが、子どもの最善の利益を守る=最たるものは命を守ることを考えれば、規制が厳しくなったとしても、学童業界側はそれを受け入れていくべきでしょう。もちろん、必要な費用負担は国からあってしかるべきです。
よって、現在の学童保育側の設備や対応能力の点から、アレルゲン除去食を保護者が希望しても、現実は困難です。保育所や学校の調理センターと同じではないこと、むしろご家庭の台所で数十人分のおやつを作っている状況であることを想像してほしいのです。どうしたって、除去食を作れるような整った台所とは程遠いのが学童保育所の台所、キッチンです。
なお、卵や乳製品なら、それらアレルゲンを入れなければよいとして、「これは卵が入らないもの、これは入っているもの」と分けて調理をしている事業者があるとしたら、それはやめるべきです。卵や乳製品の子どもにも手作りおやつを食べさせるのであれば、そのクラブで提供するものは全て卵や乳製品を使用しないメニューとするべきです。学童職員の能力、力量を信じてミス、つまりアレルゲンの誤提供問題が起きないと思うのは危険です。ホットケーキにしても何にしても、卵入りと卵無しの素材を取り違えてしまう可能性はゼロではありません。焼きあがった食品を取り違えて提供する可能性もあります。それらのミスは、卵無しの素材で作ればゼロにできます。職員にそういう考えを記載しておくことも、対応マニュアルの役割の1つです。
次回以降も引き続き、学童におけるアレルギー問題を考えていきます。
育成支援を大事にした学童保育所、かつ、社会に必要とされる学童保育所を安定的に運営するために「あい和学童クラブ運営法人」が、多方面でお手伝いできます。弊会は、学童保育の持続的な発展と制度の向上を目指し、種々の提言を重ねています。学童保育の運営のあらゆる場面に関して、豊富な実例をもとに、その運営組織や地域に見合った方策について、その策定のお手伝いをすることが可能です。
子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。萩原は2024年春に「知られざる学童保育の世界」(仮題)を、寿郎社さんから刊行予定です。ご期待ください!良書ばかりを出版されているとても素晴らしいハイレベルの出版社さんからの出版ですよ!
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