令和5年版の放課後児童クラブの実施状況をさらに読む。データを知ることは大切ですよ

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。

 引き続き国(こども家庭庁)が昨年末(12月25日)に公表した、令和5年5月時点の放課後児童クラブ運営状況(以下、「運営状況」と表記。)を見てみます。今回は、様々な調査項目を確認しましょう。
令和5年(2023年)放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況【令和5年12月25日:公表】 (cfa.go.jp)
 推移をみるために、2018年(平成30年)と、2022年(令和4年)、そして最新の2023年(令和5年)の値を比較します。
<指定管理の状況>
・実施している公立民営クラブの数と割合
              2018年 3,350クラブ(29.2%)
              2022年 3,656クラブ(27.9%)
              2023年 3,766クラブ(29.3%)
 私の考え=指定管理者制度におけるクラブは着実に増えています。この1年間で100クラブ超増えましたが、2024年との比較では150クラブほどの増加になるのではないでしょうか。このことはすなわち、指定管理者である企業運営クラブで働く職員の多くが低賃金であることを考えると「学童保育の貧国」はさらに拡大する恐れがあります。

<市町村における対象児童の範囲>
           小学3年生まで /小学4年生まで / 小学5年生まで/ 小学6年生まで
     2018年 67(4.1%)/51(3.2%)/8(0.5%) /1,493(92.2%)
     2022年 48(3.0%)/31(1.9%)/3(0.2%) /1,545(95.0%)
     2023年 47(2.9%)/30(1.8%)/2(0.1%) /1,552(95.2%)
 私の考え=放課後児童クラブを受け入れる学年を市町村が何年生に設定しているかの調査です。圧倒的に小学6年生ですが、なぜこの調査項目があるのかを想像してみましょう。児童福祉法ではもちろん、放課後児童健全育成事業は小学6年生までと示されていますね。法律でそう明示されているのですから、「本来なら、それ以外の学年までしか健全育成事業を行わないというのは、法律に反することなので、ありえない」のですが、「ありえない状況が存在している」ということを調査結果で示すことが、この調査項目の目的だと私は想像しています。数の多寡ではなくて、「いまだに小学6年生ではない学年までしか、対象としていない市町村がある」という事実が、いかに放課後児童健全育成事業が重要な公共の児童福祉サービスであるとは認識されていないことの現われです。小学6年生になる前に子どもの受け入れが終わる市区町村で働いている学童職員は、怒りの声をあげてください。

<学年別登録状況>※半角で記載
     小学1年生/  小学2年生/   小学3年生/  小学4年生/  小学5年生/ 小学6年生
2018年 387,335(31.4%)/345,455 (28.0%)/268,001 (21.7%)/137,875 (11.2%)/63,517 (5.1%)/31,690 (2.6%) 
2022年 435,938 (31.3%)/384,977 (27.7%)/295,006 (21.2%)/158,215 (11.4%)/77,978 (5.6%)/40,044 (2.9%)
2023年 444,833 (30.5%)/406,190 (27.9%)/311,862 (21.4%)/168,749 (11.6%)/83,072 (5.7%)/42,678 (2.9%)

 私の考え=少子化は毎年進行していますが、上記のデータから学童保育へのニーズが拡大しているのは一目瞭然です。(2023年5月1日時点の小学生児童数は、6,049,685人。2018年5月1日時点の小学生児童数は6,427,867人)
2018年と2023年の小学生児童数を比較すると37万8182人の減少でしたが、放課後児童クラブ登録者数は2018年が123万4366 人(この中に、その他として493人が含まれています)に対して2023年は145万7384人であり、22万3018人も増えています。
 小学生が37万8000人減ったのに、学童に行く小学生は22万3000人も増えたのですよ。全学年で、学童を利用している子どもが増えています。普通なら、小学生の人数の減少と連動して学童利用の児童数も減ると思いませんか?この、強い学童への社会的ニーズを受け止めて、子どもの居場所をしっかりと整備することが、次元の異なる少子化対策だと私は思います。

<平日の開所時刻の状況>
      11:00以前/11:01 ~ 12:00/12:01 ~ 13:00/13:01 ~ 14:00/14:01以降
2018年  2,912 (11.5%)/  2,548 (10.1%)/  7,490 (29.6%)/  8,659 (34.2%)/3,706 (14.6%) 
2022年  2,637 (9.9%)/   1,125 (4.2%)/  4,362 (16.3%)/  10,683 (40.0%)/7,873 (29.5%)
2023年  2,323 (9.0%)/   1,086 (4.2%)/  4,372 (16.9%)/  10,093 (39.1%)/7,933 (30.7%)

 私の考え=このデータは、いわゆる「午前中の学童職員の業務」について考えるための数値です。多くの学童保育所では、公営でも民営でも、「子どもが登所する放課後から」勤務開始の事業者が目立ちます。もちろん、育成支援の質を充実させるためには、子どもが登所する前の時間を使って、育成支援の方針を職員間で討議したり、個々の事例について検討を加えたり、あるいは事務仕事、イベントの準備などの業務を行うことが当然望まれます。しかし多くの事業者では、子どもがやってくる午後だけの勤務で良し、としています。その実体が、この調査結果からも判明しています。2023年においても、午後1時以降に開所するクラブは全体の69.8%です。およそ7割です。これは私にはとても受け入れがたい、信じられない、ひどい数値です。
 またこれは、職員の勤務時間の短さでもあります。その分、学童職員の賃金が低くなるのです。週の所定労働時間が短くなるわけですからね。この開所時刻の状況は、学童保育の「質の貧困」と「職員の貧困」の双方をもたらす元凶です。早急に午前開所のクラブを増やさねばなりません。何せ2023年は13.2%しかありません。2018年は21.6%もあったのに減っていることも大変残念です。これは、指定管理者による株式会社運営クラブの増加の影響があるのか、単に数え間違いが影響しているのか、なんとも言えません。

 実施状況から、放課後児童クラブの「いま」を読み取る、考える作業は大事ですし、重要です。それに気づかない学童保育関係者は、私は大変残念に思います。口では「ひどい」「国も役所も何もしてくれない」と文句を言うだけで、自分たちの状況を冷静に見つめ論理的に何が原因で、何を修正しなければならないかを考えることをしなければ、乱暴な言葉になりますが「ただの文句言い」であって、合理的、論理的な意見交換ができる相手とはみなされません。つまり、知性も品性も欠けている職員は対等の交渉相手とはみなされないのですよ。その点、学童業界は大変遅れていると私は思います。

 今後も引き続き機会を見つけて実施状況を見ていきます。

 育成支援を大事にした学童保育所、かつ、社会に必要とされる学童保育所を安定的に運営するために「あい和学童クラブ運営法人」が、多方面でお手伝いできます。弊会は、学童保育の持続的な発展と制度の向上を目指し、種々の提言を重ねています。学童保育の運営のあらゆる場面に関して、豊富な実例をもとに、その運営組織や地域に見合った方策について、その策定のお手伝いをすることが可能です。

 子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。萩原は2024年春に「知られざる学童保育の世界」(仮題)を、寿郎社さんから刊行予定です。ご期待ください!良書ばかりを出版されているとても素晴らしいハイレベルの出版社さんからの出版ですよ!

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