今の社会は「サマー学童」(夏休み限定で開所する放課後児童クラブ)を必要とする「おとなまんなか社会」だ
学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。先日、放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)に関して気になる記事が配信されましたので紹介します。
※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。
4月6日に配信された時事通信社の記事です。「「夏休みの学童」開所状況を調査 待機児童解消へ実態把握 こども家庭庁」という記事見出しがついています。内容を一部紹介します。(4月6日13時33分配信)
「こども家庭庁は今年度、夏休みに開所している放課後児童クラブ(学童保育)について初の調査を実施する。「サマー学童」と呼ばれ、学校以外の預け先を探さなくてはならない夏休みに利用を希望する保護者は多いが、これまで実態を把握していなかった。こうした施設を増やし、学童保育の待機児童解消につなげたい考えだ。」
「同庁によると、23年5月1日時点の学童保育の待機児童は1万6276人(確定値)。ただ、10月1日時点で見ると8487人(速報値)で、2学期に入ると大幅に少なくなる。同庁は、夏休みの預け先を確保するため、それ以外の期間は通わないのに学童保育に申し込む保護者もいると推察。サマー学童を増やせば、それ以外の期間でも利用枠が空き、待機児童解消につながる可能性があるとみている。」(引用ここまで)
2023年にこども家庭庁が公表した放課後児童クラブに関する調査で、夏休みの前後における待機児童数を公表していました。また、2023年12月に公表した「放課後児童対策パッケージ」にも、夏休みの児童クラブについて記載がありました。(「更なる待機児童対策(夏季休業の支援等)に係る調査・検討」)
時事通信社の記事は、こども家庭庁がこれまで「匂わせ」てきたものが、いよいよ具体化しつつある、ということです。
私もこれまで、運営支援ブログで、夏休みに児童クラブの利用が必要であっても入所ができない、利用ができないことを「夏休みの壁」として、その解消を訴えてきました。昨年夏にはメディアの取材も受けました。あまりメディアで取りざたされなかっただけで、実際ははるか昔から、「夏休みの間、子どもを学童に入れたい。でも夏休みだけの利用はできないから、やむなく4月から入所させている」という子育て世帯は、実に多かったのです。児童クラブ運営や支援の現場にいれば、夏休み「だけ」を必要としている子育て世帯が大変多いことは、とっくの昔に、当たり前に知られていたことです。
それは、先の記事にもあるように、夏休みが終わる8月末の退所者数が大変多いことで容易に証明できます。また入所申請のとき「夏休みが不安だから学童に入れます」と言う保護者が珍しくないこと、夏休みなどの学校休業日のみの利用を認めていない地域では「どうして夏休みだけの利用ができないのですか」とお叱りの意見を受けることが多いこと、それは運営の現場にいれば何度も体験することです。
私は全国市区町村のHPから放課後児童クラブの情報を集めて紹介する作業をしていますが、多くの市区町村で夏休み等の短期受入れを実施していることが分かります。正確に比率を数えていませんが、およそ5割が実施していると思われます。そうであっても、夏休み前にすでに児童クラブの入所人数がいっぱいであれば、夏休みだけの利用受け入れを行う市区町村はないでしょうから、結局のところ、「4月に入所させておかないと、夏休みだけの利用はできない」ということになります。
現実的に、多くの自治体は児童クラブの入所人数が上限まで余裕がある場合に、休み期間中に子どもを受け入れるとしているだけであって、「夏休み等、学校休業日だけ、新たに開所するクラブで利用希望児童を受け入れることとしている自治体は、ほとんどない」ということです。
その結果、「夏休みだけ、児童クラブを利用したい」子育て世帯の需要と、子どもを受け入れる側の市区町村、つまり入所児童数を揃える供給が、まったくかみあっていないということです。そして、その需要側と、供給側を担う児童クラブの運営側の考えが、実は真っ向対立しています。
子育て世帯が学校休業日に限って児童クラブ利用を希望する理由には何があるでしょう。
「学校がある日は子どもが下校して親が帰宅するまで1~2時間程度だから学童は必要ない」という理由が大半だと思われます。それは、「クラブを利用する時間が短いから」必要ない、さらに「数時間という短時間の学童利用」では支払う利用料がもったいない、という理由がほとんどでしょう。
要は、午前中から夕方に至るまでの長い時間、家で子どもだけにしておく状況を回避したいから、その時期、その時間帯だけ、学童を利用したいということです。(なぜ子どもだけにしておきたくないかといえば、防犯上の理由や、生活習慣上の理由=ゲーム三昧防止、宿題をする時間を確保するため、などがあります)
その理由は当然です。所得があまり裕福でないなか、学童利用費も切り詰めたいと思う子育て世帯の気持ちはよく分かります。働かないと生活できない、だから児童クラブは必要、でも毎月数千円であっても切り詰めたい。だったら、どうしてもクラブが必要な夏休みに、確実に入所と利用ができるクラブがあってほしいという子育て保護者の希望は、それはよく分かります。
夏休みだけ確実に子どもが入所できる「サマー学童」(学校休業日開設児童クラブ)の制度が確立した場合、どうなることが想像できるでしょうか。まず、4月から児童クラブに入所する児童数が減ります。学年にもよりますが、低学年は2~3割、4年生以上ですと5割以上も減るのではないでしょうか。利用料を支払わないで済む子育て世帯の経済的負担が軽減されます。
4月入所児童が減ることは、学童待機児童が減るという意味で。クラブ数を増やして入所ニーズに対応しなければという行政側の必要性が減ります。それは施設整備に投入するコストを削減することになり、国や市区町村の財政負担を軽減します。
もちろん、必要な投資額、財政コストにおいて、サマー学童整備に必要な予算と、4月入所児童を確実に受け入れるために必要な施設整備の予算を比べて、どちらが多いのか少ないのか、試算したわけではありませんから証拠はありません。そのあたり、国は調べることと思いますが。
ただ、夏休み期間は小学校の施設は基本的に使用されないわけですから、小学校の施設を利用することで場所は確保できるメリットがあり、あとは「従事する人だけ」確保できれば、サマー学童は実施できます。その点において、施設を建てたり改築したりして子どもの居場所を用意することよりサマー学童に係る設備投資のコストは低いでしょうし、通年で職員を雇用して支払う人件費より夏休み期間中だけ支払う人件費のほうが当然低くなりますから、事業の7~8割を占める人件費も、サマー学童のほうが低くなるでしょう。
予算の効率的な使い方が必要ですから、その点でも、国がサマー学童を「推し」たくなる理由は十分分かります。保護者も望み、国や行政も望む、それがサマー学童です。
一方で、子どもを受け入れる側、すなわち児童クラブの運営側、支援の現場で働く職員の立場や「気持ち」「思い」もあります。そもそも、放課後児童クラブ=放課後児童健全育成事業を実施する場、において、その放課後児童健全育成は、「子どもが無事に育っていくことであり、それを大人が支えること」です。児童クラブは子どもをただ預かってお迎え時間に保護者に引き渡す「託児所」ではないのです。それが、サマー学童では現実的に託児所にならざるを得ません。
児童クラブ職員は4月から時間をかけて新1年生の子どもたちとの間に関係性を構築し、それを基盤に子どもたちの日々の生活を支えていくことを職務としています。(もっとも、それは放課後児童クラブ運営指針を重視する一部のクラブ事業者であって、実際の運営において指針はほったらかしの大手事業者も珍しくありませんから、そういう事業者にとってサマー学童は受託さえできれば問題ないでしょう)
児童クラブの運営側および支援の現場にいる職員が常に従おうとしている放課後児童健全育成の基礎的な概念と、夏休みだけの「短期間受入れ」のサマー学童で必要とされるであろう子どもへの対応は、児童クラブ側からすると一致しないのです。現実に多くの市区町村で夏休みなどの短期受入れを制度上設けていても、現実には4月入所でほとんど入所児童数が上限になっているので、何らかの事情で急に退所した数人分を夏休みに受け入れることがあっても、何十人もの児童を毎年決まって、短期間のみ受け入れることを現実に実施している地域は少ないので、夏休みだけの短期受入れに関する受け入れ側の不満は、特に表面化していません。
それがこれからは、大きく変わってくるでしょう。
サマー学童、すなわち学校休業日の児童受け入れを可能とする仕組みは、「お金を節約したい」「子どもを留守番させる不安から解消されたい」とする子育て世帯側と、「予算を効率的に使いたい」という国や行政側の思惑が完全に一致しています。
「短期での受け入れは、子どもの健全育成にはそぐわない」と抗う児童クラブ側(それも、運営指針をよりどころにしている、全体的に見ればごくごく一部の勢力に過ぎない)の気持ちは、保護者と国&行政の連合体の前には、風の前のチリに同じです。
それはつまり、「子どもは、どのような環境で過ごしたいか」「こどもは、どうしたいのか」という子どもの立場を考えた議論ではありません。経済的な理由は極めて重要ですが、それは「おとなまんなか」での、子どもの居場所作りの議論です。
また、育成支援を重要視する児童クラブ側が掲げる「それは、私たちが望む子どもたちの成長の支援ではありません」と主張して譲らないことも、児童クラブ側に属する大人の事情です。児童クラブの側も、学童を必要とする側のニーズがあって存在していることは、嫌でも意識しなければなりません。その土台の上に、子どもの育ちを考える支援を提供する仕組みが児童クラブです。相手の立場を考えず一方的に自分の立場を主張して譲らないこともまた、おとなまんなかです。
いずれにしてもこども家庭庁が掲げる「こどもまんなか」ではありません。本来のこどもまんなかは、保護者が、子どもの育児に関わりたい期間の時短勤務制度を国が整備し、所得を保障することです。夏休み期間だけでも、小学校低学年のうちは午前勤務または午後のみ勤務、日中4時間程度の勤務にして所得はそれなりに保障し、子育てに注力できる制度を整えることが、こどもまんなか社会です。子どもの育ちを重視する生活にシフトすることです。そのことを本気で手掛けようとしない限り、いつまでたってもこの国は「おとなまんなか」社会です。
なお、当然ながら本当のこどもまんなか社会になったら、児童クラブは消滅はしませんがその数は大幅に減り、失業者は出るでしょう。ただし、今も重視されている児童クラブの託児の機能はさらに薄まり、「子どもの健全育成の支援」という分野がより重視される仕組みに進化するでしょう。資質のある、秀でた人が職に留まり続けることにもなるでしょう。
(こどもまんなか社会は、こどもが自分の過ごしたいように過ごせる社会では決してありません。そのような社会では、多くのこどもたちはそりゃ当然、ゲーム三昧、宿題はなかなか手につかない、ということになるでしょう。子どもがやりたいことをただそのままやらせることを尊ぶことが、こどもまんなか社会、ということではありません)
現実的には、財政的な理由がすべてに優越するでしょう。2024年度は国の調査が行われ、その結果が分析され、当然、夏休みだけのサマー学童は待機児童解消に効果的であるという結論が導かれ、2025年度以降は、国は全国の市区町村にサマー学童設置開設が有利になるような補助金制度を整備創設するでしょう。多くの市区町村がサマー学童の整備に舵を切るでしょう。
(もっとも、短期間でも従事できる職員を確保できるための必要十分な予算が用意されることは大前提です。私はその点において、短期開設クラブの人件費はかなり必要だと考えます。資格者配置が必須としたら、通年設置クラブの職員の月給25万円程度では短期開設クラブでは人を確保できず、月給50万円ぐらいにしないと無理でしょう)
児童クラブ側は、「サマー学童反対!」「短期預かりは学童ではない!」と反対の声だけ出して何もしないのはだめです。現実に、長期休業日開設短期児童クラブは整備設置が進むのです。そのような短期受入れを行う児童クラブにおいて、「短期間であっても、児童クラブで過ごす上で、子どもの成長、子育て支援に必要な支援は、何があるのか、どういうことが必要なのか」を理論づけすることが重要です。それとも、みすみす、そのような短期受入れクラブは育成支援じゃないからといって、営利の広域展開事業者に運営を委ねますか。短期だろうが通年だろうが、クラブに来る子どもは、子どもに変わりありません。子どもへの支援を行うことが、児童クラブの職員の、放課後児童支援員に求められるのですよ。
「サマー学童?ああ、どうぞやってみな。1か月でも、うちのクラブに来た子どもは、9月になってもクラブに行きたい、8月だけで辞めたくない、っていうよ。言わせてみせるよ。保護者にも、クラブってそんなに頼れる場所だって知らなかったって、言わせてみせるよ」
そんな心意気の児童クラブが増えてほしいと私は願いますし、その応援をしたいと考えています。
「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。
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