さいたま市の新規事業「放課後子ども居場所事業」の衝撃。推移を注目していきましょう。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育事業の質的向上のためにぜひ、講演、セミナー等をご検討ください。

 さいたま市で2024年度から、「放課後子ども居場所事業」がスタートします。初年度はモデル事業として市内4つの小学校で実施されるようです。私はこの新規事業がどのように進展していくのか、極めて興味を持っています。公表されているリリースしか目を通していないので詳細まで知っているわけではありませんが、ジャンルとしてはいわゆる「全児童対策事業」の範囲になると考えられます。

 「さいたま市放課後子ども居場所事業実施要綱」を見て、私が注目しているのは次の点です。
・第1条(目的)の条文に「家庭に代わる生活の場を確保し、児童の健全な育成を図り、保護者の就労等と子育ての両立を支援することを目的とした事業」と定めていること。単に、子どもの居場所とはしないと目的条文にしっかり記載していること。
・第2条(定義)の条文に「児童福祉法(昭和 22 年法律第 164 号)第6条の3第2項に規定する放課後児童健全育成事業」とあること。よって、放課後児童支援員の配置も同要綱に規定されていること。
・特別支援児(障害児)の受入れに対する人員配置が児童数を2で除した数の切上で計算されていること。
・委託でおこなうこと
・午後5時までの区分に対し、児童20人につき職員1人の配置を行うと定めていること
・午後5時までの区分であっても、毎月4,000円を徴収すること(午後7時まででは毎月8,000円)

 とりわけ、午後5時までであっても4,000円を徴収するという規定は、私は評価しています。全児童対策事業で評価が高い東京都品川区の「すまいるスクール」では、午後5時までの「A登録」は毎月250円です。午後6時までの「B登録」で3,250円、午後7時までの「C登録」で4,250円です。いずれも、さいたま市の新規事業より大幅に低い料金となっています。
 また、同じく全児童対策事業を行っている札幌市はさらに低額であって、札幌市は午後6時まで基本無料(児童会館利用の場合)、午後6時から午後7時までで月額2,000円です。さいたま市は札幌市の4倍の料金設定になるわけです。同じ指定都市であっても、ここまで料金設定に差があることは、さいたま市の場合、その制度設計に何らかの意味合いを持たせていることが容易に想像できます。

 料金が低いことは保護者の経済的負担の点では素晴らしいですが、一方で、子どもの居場所に対するニーズが軽度な世帯であっても利用できることになり、結果として子どもの受け入れ人数が大幅に増えることになります。ニーズを満たすこと自体は素晴らしいのですが、それに見合った設備を用意しないと、子どもの過ごす環境が大幅に悪化し、職員数も増えなければ職員の過重労働を招きます。

 その点、さいたま市の新規事業は、料金設定を比較的高めに設定することによって、「月4,000円を払ってでも、午後5時まで学校で過ごさせたい」という世帯が申し込むであろうという、利用世帯の絞り込みができるわけです。ずいぶんと、思い切った方針を採用したと私は評価しているのです。こうすることで、放課後の子どもの居場所をどうするか、保護者に選択の余地を考えさせることも大事なことだと私は考えています。
 午後7時までで8,000円という料金は一般的でしょう。これに、実費負担の、おやつ代を加えると1万円を少し超えるぐらいになるでしょうか。公設公営学童よりちょっと高めで、公設民営学童よりちょっと低めの料金設定になりそうです。

 要綱で気になるのは、要支援児童、児童虐待対応に直接、言及していないことです。これは放課後児童健全育成事業を行うとあるのでその中に含まれるのですから結果としては「対応する」ことになりますが、あえて、明確にしてもよかったのではないかと私はこの点、少し不満が残ります。

 ただ全体的には、さいたま市の新規事業は、既存の全児童対策事業よりも放課後児童健全育成事業に近づけた事業設定を目指そう、という意図を行政側が求めているのではないかと、私は感じました。質の高い育成支援を行う民営の学童保育所が多く存在している土壌がある中で、中途半端な子どもの受入れ事業は行政としてはできない、とさいたま市は判断をしたのではないかと、私は想像しているからです。
 もちろん、実際に事業が始まってから、どれだけ、放課後児童健全育成事業の理念を反映させた事業運営をさいたま市が現実に行おうとしているかどうかで、評価されるべきものであるのは言うまでもありません。既存の全児童対策事業も、表向きは放課後児童健全育成事業の要素を入れると掲げておきながら、子どもたちをギュウギュウ詰めにして半ば放置に近いのですから。

 この新規事業に対する問題は、この事業そのものというよりも、外部の環境の問題にあります。さいたま市は、これまで、非営利法人による民営学童保育所に大きく放課後児童健全育成事業の責任を委ねてきました。結果として、育成支援の質が高い民営学童保育所が充実し、それが埼玉県や日本における学童保育=伝統的な「子どもを真ん中に、職員と保護者が手を取り合って運営する学童保育」の隆盛の土台となっている地域になりました。
 その一方、伝統的な民営学童保育所の典型例として、保護者が運営に参画することを求める事業形態に重きを置いてきました。保護者の運営負担の重さについては、毎年のようにメディアで報じられるほどでした。民営学童保育所の運営負担の重さ(プラスして費用負担の多さ)から、多くの保護者が公営学童保育所の設置拡充を求めて声を上げていました。

 仮に、この新規事業がさいたま市で継続しかつ発展していくことになれば、これまで運営の負担に疲労困憊していた保護者から大歓迎を受けることは間違いないでしょうし、事実上の公営学童保育所の要素を取り入れた制度ですから、公営学童待望論の保護者にも受け入れられるでしょう。

 半面、これまで、大都市で放課後児童の受入れを担ってきた民営学童保育所の関係者、特に職員にとっては、今後の職業生活の不安を掻き立てられることになります。勤め先はどうなるのか、収入はどうなるのか、子どもの育成支援が新規事業でも満足に実施できるのか、不安は尽きないと思います。これについては、運営組織が今後の事業展開を早期にかつ明確に定め、運営に加わっている保護者も含めてしっかりとかつ丁寧に説明していくほかありません。事業面においては、確実に、将来的に運営事業者が従来の事業規模で存在できるかどうかの岐路に立たされつつあることは否定しがたい事実ですから、いわゆるゴーイングコンサーン情報について、しっかりと関係各位に説明することが必要でしょう。働き手が不安を持ったままでは職員のモチベーションに影響し、ひいては事業の質にまで影響します。また、子どもの育ちを民営学童に期待している保護者に対しても同様です。

 「伝統的な学童保育」が発展してきた埼玉県、その中核であるさいたま市においてこれから起きつつある学童保育の大きな変化、変革。それは日本の学童保育の歴史を大きく変えていくと私は見ています。子どもの最善の利益を絶対的な優先事項としつつも、保護者に過度の負担を負わせることなく子育てと仕事の両立を支えられる新たなスタイルとして発展していけるのか、それとも、既存の全児童対策事業のような「単なる子どもの居場所だけ」に留まってしまうのか。行政が費やす予算の費用対効果を最大限に発揮しつつ、子どもの居場所作りと放課後児童健全育成事業の同時進行と発展が可能なのかどうか、この数年間は目が離せないことは間違いありません。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の持続的な発展と制度の向上を目指し、種々の提言を重ねています。学童保育の運営のあらゆる場面に関して、豊富な実例をもとに、その運営組織や地域に見合った方策について、その設定のお手伝いすることが可能です。

 育成支援の質の向上に直結する研修、教育の機会を提供するとともに、個々の学童保育所運営者様へ、安全安心な子どもの居場所づくりとその運営手法において、学童保育組織運営について豊富な経験を持つ代表が、自治体や学童保育運営事業者に講演や具体的な助言、アドバイスを行うことが可能です。もちろん、外部の人材として運営主体の信頼性アップにご協力することも可能です。

 子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。どんなことでも「あい和学童クラブ運営法人」に、ご相談ください。子育て支援の拡充に伴い、今後ますます重要視されていく子どもの居場所づくり事業の充実のため、一緒に取り組んでいきましょう。

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