放課後児童クラブ職員による運営費着服事件が発覚。運営責任者の責任は?事件を防ぐ体制は取れなかったのか?

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)に関して、残念な刑事事件が起きてしまいました。児童クラブ職員が運営費を着服していたのです。この事件について考えます。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<事件の概要>
 愛媛県松山市の公設児童クラブ職員が多額の運営費を自分の懐に入れていたという、本当に残念な事件です。この事件を伝えるNHKニュース(4月27日16時55分配信)のインターネット配信記事を一部引用します。
「松山市の小学校の児童クラブの30代の会計担当者が運営費200万円余りを着服していたことがわかり、市から運営を委託されている委員会はこの担当者を懲戒解雇することを決めました。」
「支援員は去年6月からことし3月までの間、およそ20回にわたって10万円から15万円ほどを着服していたということです。今月、委員会の帳簿と預金口座の金額が一致しないことが判明し、聞き取りなどを行った結果、支援員が着服を認めました。」
「支援員は「クラブの金庫から現金を持ち出し生活費に充てた」と話していて、委員会は26日、懲戒解雇にすることを決めました。一方、着服した金は全額返還されたことなどから、刑事告訴はしないとしています。」

 私が注目するのは次の点です。
・公設の児童クラブであり、運営委員会方式で運営されている。
・職員も委員会の委員だった。
・2023年度に入って間もなく着服が行われ、発覚したのは今年4月。
 発覚したのは、おそらく、2023年度の事業報告を行うための資料作成に取り掛かったことがきっかけでしょう。会計資料をまとめる作業を行っていたときに、この職員以外の者も当然作業に関与したであろうし、その作業の結果、帳簿と口座の金額が合わないことに気付いたのでしょう。

<当然の常識が無視されている、軽視されている運営と想像してしまう>
 まず大前提として、着服(横領)は犯罪です。どんな理由があれ絶対に起こしてはなりません。記事では、生活費に充てたという支援員の話が報じられていますが、「児童クラブ職員の給料が少なく生活苦が事件の背景にある」とは、私は思いません。生活が苦しくても犯罪を起こしてよい理由にはなりません。そもそも、生活費に充てたというのもどのような事情があったのかも分かりません。

 運営支援の立場からは次のことを問題視します。
・職員は委員会委員であった、ということはこの職員は2023年度において事業運営、クラブ経営に関わる立場だったということ。つまり経営陣による不正事案といえる。経営陣による不正が起きてしまう余地が、なぜあったのか。
・2023年6月から着服が行われ、年度末まで着服が続いていた。10か月に及んだが、その間で犯行を見つけ出すことがどうしてできなかったのか。
・監事は存在していたのか。カネが動く組織ゆえ監事は置かれていると想像するが、四半期ごとの会計監査のみならず業務監査が機能していなかったのではないか。

 この3点はいずれも、「まともに」運営している組織、事業体、会社であれば、それなりに意識されていることです。
・お金を扱う仕事は1人を信頼して全部任せることはしない。担当者を複数にするか、必ず他者によるチェックを即座に行う。
・現金の出入りは毎日確認する。口座を含めた組織の会計は定期的(最低でも毎月1回)に確認する。
・監事は年度末に口座と通帳の数字をチェックするだけの仕事ではない。組織、事業体が正常に、ルールに従って運営されているかどうかを点検、確認する「業務監査」を行うことが最も重要である。

 このクラブではどのような体制だったのでしょう。10か月にわたって着服が発覚しなかったのですから、おそらくこの職員1人だけで運営費の管理を行っていたのでしょう。定期的に運営に関する会議があって、会計状況の報告も当然されていたと想像しますが、この職員が1人で準備した資料を使えば、会議の場で不正を見抜くことは不可能です。つまり、「1人で」行われてはダメなのです。この世の中、カネの動きを1人で担っていた人物による不正行為は、数えきれないほどの例があります。四半期ごとの会計のチェックも行われていなかったのでしょう。本来は税理士がカネの動きをチェックするのが当然ですが、運営委員会のメンバーによるチェックはなかったのでしょうか。まして監事が置かれているとなれば(事業体ですから当然、監事が置かれていると思いますが)、その監事はいったい何をしていたのでしょうか。

 これらは言うなれば、組織運営におけるリスクマネジメントの問題です。不正行為を起こさない、仮に起きてしまったとしても即座に見つけられる組織運営のあり方が問われているのです。その観点を、運営委員会のメンバーはどれだけ自覚されておられるのでしょうか。リスクマネジメントについて普段どれだけのことを具体的に行っていたのでしょうか。

 なお児童クラブでは日々、何かを買ったり支払ったりで現金(小口現金)が動きますから、現金の動きはしっかり確認しないと、後々の経理会計作業がとてつもなく煩雑となります。それがたとえ1クラブであったとしても、です(私は40を超えるクラブの会計作業を監督していましたが、日々の現金出納の管理も、定期的な経理会計のチェックも、とてつもなく大変な作業でした。それが毎月繰り返されるのですから)
 児童クラブは日々、放課後児童健全育成「事業」を行う場であり、事業を行う以上、れっきとしたビジネスであり、会社経営と同じです。カネの動きは明確に、1円たりとも逃さず把握できていなければなりません。このクラブの運営委員会の他のメンバーや、松山市も含めて、経理会計における重要な点をどこまで意識していたのか、私にはその意識の程度においてそれほど重要視されていなかったのではないかと想像できます。経理会計においては1円たりとも不明なカネが出てはならない。ものすごいピリピリと張り詰めた緊張感をもって取り掛かる業務です。その真剣みがどこまであったのでしょう。

 今回、着服が発覚したのはこの会計担当の職員以外の者が年度の会計報告を作成する作業に加わっていたからでしょう。これがこの職員1人に任せていたとしたら、それこそ、この会計報告も偽の内容で作成されて着服行為が発覚するのがしばらく先に延びていた可能性もあります。まったく褒められはしませんが、年度替わりの締めの作業において着服行為を発覚させることができたことは被害のさらなる悪化を食い止めたことになります。

<責任体制があいまいでは?>
 記事では伝えられていませんが、この着服行為によって、クラブの運営、というか経営において責任を最終的に負う者の管理監督責任はどのように果たされるのでしょうか、大変興味があります。まさか、着服した職員から全額返済されて経済的な損失は無かったから、「これからしっかりしよう」とお互いに会議で確認して終わり、ということではないでしょうね。
 運営委員会の構成員や、児童クラブを設置している行政も含め、着服という犯罪行為を起こしてしまった、それも半年以上にわたって発見することができなかった、その「ずさんな」組織運営について、当然、厳しい対応が必要です。個人の犯行だから、では済まされません。そもそも「個人に任せていた」という欠陥のある組織運営体制を選択していたこともまた、問われるべき過失責任です。
 運営委員会の特徴として往々に言われることは、機械的に、「あて職」的に、地域や関係機関の有力者や役職者が名をつられると同時に保護者、職員がメンバーに加わる中で、実際の運営はごく一部の保護者、職員が担っているということです。もし仮に、今回の松山市の運営委員会によるクラブ運営が、現実的には「職員に丸投げ」であったとしたら、それは運営委員会形式によるクラブ運営を選択していた側の、ずさんな判断であったと言えます。今回はたまたま10か月の不正行為で見つけることができ、被害は全額、弁済させることもできただけであって、着服された金額が何百万、千万円単位となって弁済もできない事態ほどの事件になってしまった可能性があるのです。

 何度も言いますが、児童クラブの運営も、れっきとした企業経営でありビジネスです。経理会計も、労務も、法務も、人事も、研修教育もすべて大企業と原則的には同じです。監事も、監事としての心得をもとに、組織に不正がないか、過失がないかを常に点検、確認することが必要です。大企業でも、1つの児童クラブであっても同じ事です。
 着服行為を容易に起こせない仕組みの業務手段、職場環境を採用し、何か不正や失敗があっても直ちに発見できる定期的な管理監督の手段を取り入れることは、当然です。無償で、善意で集まる人が運営を行うから事業経営に求められる厳格な「作法」を多少、緩めてもいいでしょう、なんてことには全くなりません。運営委員会だからしょうがなかった、ではなりません。保護者会運営だから多少のミスは仕方がない、ということでもない。NPO運営だから理事役員が楽をしたいように運営していい、ということではありません。

 また、公設クラブである以上、設置者の行政の管理責任もまったく問われないことはありません。「すべて運営委員会に任せていた」では困ります。不正が行われる組織の体質にならないように、指導や管理をどのようにしていたのか、点検が必要です。

<誰かの失敗は、誰かのチャンスになる>
 私がこの報道を聞いて思ったのは、「これでますます、営利の広域展開事業者にビジネスチャンスが広がるな」ということです。放課後児童クラブの存在意義、存在理由である児童の育成支援の質に関する「中身」はともかくとして、組織の運営、管理監督体制という「カタチ」については、あちこちで事業所を設置するぐらいの規模であれば、それなりにしっかりしています。少なくとも、任意団体は同じ土俵にも立てず、保護者由来の非営利組織ですら、到底、かないません。
 運営委員会や非営利法人の利点は、組織運営そのものに投入するコストを抑えられることです。しかし組織運営にかけるコストを抑制した結果、不正行為が起きやすくなっては意味がありません。まして児童クラブの場合、運営費の多くが補助金(つまり国民の税金)で成り立っています。カネの動きについてはガラス張りを超える透明性が求められます。
 「私共はしっかりした企業ですから、お金の不正やミスは絶対といっていいほど、ありえません」と、広域展開事業者が、堅実な組織運営、企業経営をアピールしていけばどうなりますか?「最近も運営委員会方式で職員による着服事件がありましたよね。職員や保護者に運営を任せると、ああいう事件は滅多になくても、いろいろと困った問題が起こりますよ。その点、企業であるウチにはそのような問題は起きませんから」と、自治体に企業が売り込みをかけて行けば、どうなりますか?

 仮に、「クラブにおける子どもの育ちをしっかり考えたクラブ運営ができるのは、職員と保護者が手を取り合って一緒に考える組織であること」というお題目を守りたいのであれば、企業経営に即した厳格な組織運営体制を実現した上で、クラブにおける子どもの育ちを大人たちが考えることができる土壌を確保しなければなりません。保護者会運営、地域運営委員会運営、個々のクラブにおける非営利法人の運営であっても、組織運営における厳格さを備えなければなりません。税金が由来となる補助金が交付される事業である以上、その厳格な組織運営ができなければ組織運営を担っていい資格はないのです。子どもの育ちを大事にしたいクラブを守りたいのであれば、まずは、当たり前の企業経営を当たり前に行っているカタチを整えることです。

<おわりに>
 今回の着服事案は、これ1件だけを見ると個人的な不正行為で片づけられると思われるかもしれませんが、私は決してそうではないと言いたい。児童クラブ運営における前時代的な体質の是正につながれば、それはそれで災い転じてナントカ、なのですが、大手の広域展開事業者による一層の児童クラブ運営の市場化が加速する1つの燃料になってしまうのではとも思っているのです。

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「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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