放課後児童クラブの「おやつ」による窒息事案。子どもを守るために事業者の姿勢を徹底的に検証して再発防止を!

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。極めて深刻で、いたましい事案が起きてしまいました。沖縄県石垣市の放課後児童クラブで、おやつを食べていた子どもがのどに食物を詰まらせて意識不明の重体になったのです。運営支援の観点でこの事案を取り上げます。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<発生は4月22日だった:事案の概要>
 どのような事案だったのか、5月2日18時38分配信のNHKWEBの記事を引用します。
「先月22日、石垣市の放課後児童クラブで、小学生がおやつで出されたマシュマロをのどに詰まらせて意識不明の重体となり、現在も入院していることが分かりました。石垣市によりますと、先月22日午後4時ごろ、石垣市内の放課後児童クラブいわゆる学童保育で、おやつで出されたマシュマロ1個を食べていた小学生が、座った状態でのどにつまらせたような表情をしているのに近くにいたスタッフが気づいたということです。」
「事故を受けて、石垣市は市内の学童クラブに対して、おやつや食事を提供する際には子どもの状況や発達段階を踏まえ細心の注意を払うことなど、注意喚起を行ったということです。事故が起きてから公表までに10日間かかったことについて、市は、事実確認や、地域住民への説明などに時間を要したと説明しています。」(引用ここまで)

 他社の記事も合わせて整理します。
・判明している:おやつは、マシュマロ
・判明している:スタッフ(職員)は、子どもの表情の異変で窒息に気付いた
・判明している:事案の公表は当日から11日目
・報道では不明:マシュマロの大きさ、提供の様子
・報道では不明:子どもの学年、性別
・報道では不明:おやつを食べている子どもたちと関わっていた職員の人数、職員の配置
・報道では不明:事案発生当時にクラブ室内にいた子どもの人数

 お子さんが無事に回復して退院できる日が早く来ることをまずは心より祈念申し上げます。

<マシュマロ「だけ」が問題ではない>
 SNSでもかなり取りざたされています。多くの人たちからの意見が「マシュマロが問題ではない」と表明していることは、まさにその通りだと私も同意です。こうした悲劇的な事案に際しては、すぐに「あれさえなかったら」と事故や事件に関わったモノを除去、排除して再発防止につなげることが基本的な対応とすることが往々にしてありますが、そうではありません。マシュマロに全く問題がないとまでは言いませんが、マシュマロが最大の問題ではありません。
 今回の石垣市のことでいえば、おやつにマシュマロを提供したこと、が最も大きな問題ではなくて、おやつを提供し、子どもに摂食させた児童クラブ側の管理運営体制が、最も検討されるべき問題です。
 具体的には次の内容です。
・子どもがおやつを食べるとき、職員の配置はどのようにしていたか。職員全体で、すべての子どもの様子を即座に把握できるような職員配置となっていのか。
・子どもがおやつを食べるとき、運営事業者は、職員にどのような意識を最優先に持つことを徹底させているか。
・運営事業者は、子どもがおやつを食べるときに職員がなすべき業務、職務について的確に要素を取りまとめ、研修で職員(これは常勤だけでなく、パートやアルバイトの非常勤も当然含む)に徹底させているかどうか。
・おやつに提供する食材について、窒息や誤飲の危険を極力まで低下させるような工夫を常に凝らしているかどうか。
・子どもがおやつを食べるとき、子どもたちに対して、どのようなことを大事に考えるかについて、職員が子どもたちに伝え続けていたかどうか。

 つまり、児童クラブでの摂食機会について、児童クラブの運営事業者は、窒息や誤飲による事故事案の発生を未然に防止するための運営体制、業務執行体制について、どれだけ普段から意識して職員に実行させていたのかこそが、問われるべきです。それは、発生すれば悲劇的な結果に容易につながる窒息事故事案の防止に関するリスクマネジメントの問題と言えるのです。運営事業者が、どのようなリスク管理をしていたのか、どれだけのリスク管理をしていたのか、リスクマネジメントにおける「質と量」こそ、徹底して検証されるべきです。

 マシュマロを食べさせたことが悪い、マシュマロが危険だから、だからではないのです。マシュマロは、その大きさや湿り具合によってのどに詰まりやすい食材であることは否定できません。しかし、小さく切って提供すれば、のどにつまらせる可能性は減ります。のどに詰まりにくいであろうと思える食べ物、たとえばアイスクリームでも、多量のアイスを一気に口にほおばって飲みこめば、やはりのどに詰まるのですから、「マシュマロ」という存在が絶対的に窒息を招くのではなく、どのような状態でどのように提供されたのかという、相対的な要素が影響して、のどに詰まらせやすくなるか、詰まりにくくなるか可能性が上下することを踏まえるべきです。

<再発防止には、どのような状況がこの事案を招いたかを知り、それを防ぐことが重要>
 私は今回、行政当局である石垣市、そして沖縄県、こども家庭庁の対応に極めて大きな問題があると指摘せざるをえません。はっきりと言えば、対応が遅すぎる上、公表される情報の範囲が限定的であり、児童クラブにおける同種事案再発防止に資する姿勢がまったく感じられません。
 多くの児童クラブでは、報道に接して、あるいは行政からの通達を受けて、当然ながら、「おやつではどのように対応しようか」と考えることでしょう。それが窒息事案の発生リスクを下げることになりますが、その協議検討、点検には、使える情報が多ければ多いほどその精度が増すのです。個々に指摘します。

・公表が遅い:いろいろと調整するべきことがあったようですが、発生当日から10日以上での公表は遅すぎます。なぜ遅いのが問題なのか。それは次の通り。

・事案発生の状況について周知が乏しい:仮に、事案が起きたクラブの運営状況、職員配置状況に問題があったとして、それと同じような要素が他地域のクラブでも行われていた場合、同じような窒息事案が発生する可能性があった。それを低下するには、「このような状態で、こういうことが起きた」ということを広く周知することが必要。市内や県内の児童クラブ業界には伝えたのかもしれませんが、児童クラブは日本全国にあります。滋賀県長浜市のプール事故では、その日に報道発表されたことが大きかったのでしょうが即座に事態が公表され、国も矢継ぎ早に対応を呼びかける通知をだしています。今回の石垣市の事案も、それと同じように国レベルで即座に注意を呼び掛ける通知を出すべき重大な事案だと、どうして判断しなかったのでしょうか。

・子どものプライバシー配慮のため名前、所属クラブの公表は不要だが、学年の公表は必要:低学年だったのか高学年だったのかは、事案の再発防止の検討のために必要です。新1年生だったのか、3年生だったのかでは、児童クラブ側が配慮すべき内容についても当然、差が出てくるためです。(注:5月5日追記。一部報道では、小学4年生と伝えられています)

・運営主体(事業者)の公表も必要:児童クラブ事業者は補助金(税金)を多額に交付されています。補助金交付団体の起こした重大事案については、税金が適切に使われているかどうか納税者(国民)が判断できるように、事業者名を公表するべきです。仮に、事業者名を公表するとクラブの特定につながる場合(保護者会運営など)は、その旨を断って、公表を見送ることを明らかにするべきです。石垣市には営利の広域展開事業者が運営しているクラブがあります。広域展開事業者の場合は、全国あちこちに事案を起こしたクラブがあるわけですから、今後、全国の市区町村は、事案が起きたクラブが広域展開事業者の場合は、直ちに公表するべきです。

・事案が起きた当時の、子どもたちの様子、職員の配置状況などを公表するべきだ:子どもたちがどのような状態で、おやつを食べていたのか。職員は何人いて、どのような配置だったのか。子どもたちに交ざっておやつを食べていたのか、どこかに座って子どもたち全体を眺めるようにしていのか、そもそも、子どもたちがおやつを食べている場に職員がいなかったのか、「事案が起きた時の状況」こそ、再発防止策を考えるための極めて重大な情報です。その状況に事案を引き起こす要素が含まれていると考えられるなら、そのような状況を起こさねば良いからです。よって、行政は、この事案が起きた当時のクラブ内の状況について情報を児童クラブ業界だけでなく報道でも伝えられるようにするべきです。それを聞いた保護者が、自分の子どもが利用するクラブと話すことができるからです。

 再発防止こそ、いま、児童クラブの世界に求められることなのです。再発防止の方策を考えるには、どうしてこのような悲劇的な失敗が起きたのかを知り、分析し、それを繰り返さない方策を講じることです。隠すだけでは、再発防止に効果的な策を早急に講じることが難しくなります。何が大事なのか。プライバシーはもちろん大事。しかし事業者の体裁や評判、名誉などは無関係です。行政は再発防止に役立つ情報を公開するべきです。

(5月10日追記:こども家庭庁は、5月7日になって、この事案について注意喚起を行いました。
(https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/69799c33-85cb-44f6-8c70-08ed3a292ab5/33fc680f/20240509_policies_kosodateshien_houkago-jidou_38.pdf)
安全計画に即した対応も、あわせて求めています。しかもこのリリースが実に見つけにくい。
私見ですが、遅すぎます。)

<おわりに>
 児童クラブにおける子どもの食物による窒息事案は過去にも起きています。私は今年2月28日に、小学校で起きた窒息死亡事案を受けてブログをアップし、次のように記しました。
「児童クラブにおける子どもの飲食時における窒息による死亡事故は過去にも例があります。例えば、2007年に7歳男児が、おやつに出たこんにゃくゼリーをのどに詰まらせた。という事案があります。2010年には、東京都内の児童クラブで、小学3年生の9歳男児が、おやつで提供されたアメリカンドックをのどにつまらせて亡くなりました」
「児童クラブでの飲食機会は、長期休業時の昼食と、補食としてのおやつ、この2形態が主なものです。児童クラブの飲食機会には、事故事案を招きかねないリスクがあります。
・(小学校の給食よりはるかに)アットホームでリラックスした雰囲気の中で子どもが摂食するので、食べ物をのどにつまらせる可能性は高い。いわゆる「遊び食い」での窒息事故リスクがある。
・上記のような摂食状況においてその状態を管理監督する職員数が児童数に比べて少なく、事故事案の早期発見に不安用要素となる。児童数40~50人で職員4~5人ということが多いのではないか。」

 当時も書きましたが、今回も改めて書きます。
 「児童クラブで働く職員や事業者は、「わたしたちは、人の命を守らなければならない仕事に就いている」ということを改めて認識しましょう。人の命は実にたやすく失われてしまうことも。昼食、おやつ、また遊びの時間でもちょっとした不注意でこどもの命は失われてしまうということを、しっかりと意識して職務に従事してください。学童関係者は常に緊張感を持って業務に従事するべきです。」

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば、当ブログの引用はご自由になさってください)