学童保育事業運営に役立つ「小さくても大事なこと」:番外編は、指定管理・公営の従事者の給料アップのために。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。

 学童保育の安定した運営に役立つ小さな、でも大事なヒントをお伝えしていくシリーズ。これまで伝えてきたのは以下の通りです。
(11月27日)
・地域社会(住民、学校、地域の団体、議員)に、自ら実践している事業内容を継続的かつ頻繁に伝え周知する。
・発信手段はウェブサイト(ホームページ)や広報紙、地域のイベント参加等の複数の手段で。
・特に重要なのは「事業者に寄せられた利用者や地域からの要望、不平、不満、問題とその対応策の公表」。
・忘れてはならないのは「発信した」ことではなく「発信した内容が地域や住民に届いているか」。
(11月28日)
・求人募集はハローワーク(公共職業安定所)と自社のウェブサイト(ホームページ)で十分
・雇用労働条件は、時間外労働(残業)と休日を特に詳細に表示しよう。
・職員募集では、自社のホームページに、しっかりと育成支援の理念を載せよう。
・訪問による説明機会を望まれたら喜んで対応する。職場の見学も断らないで。見学対応モデル学童があると良い。
(11月29日)
・応募書類から性格や仕事ぶりが想像できる。訪問時の対応も含めて総合的に採用の可否を判断する。
・事業者の目指す理念や方向性に共感しているかどうか、念を入れて確認すること。
・育成支援の具体的な方法論を答えられないからバツではない。技術論は組織が教えるもの。
・社会人適性こそ重要。人の話を聞いて答えられること。文章の読み書きが不自由ないこと。喜怒哀楽があること。
・雇用労働条件は確実に伝える。試用期間中の待遇、就業可能日、通勤方法、住居、扶養の有無について確認漏れは厳禁。
(11月30日)
・休日を増やす。完全週休二日制をアピールする。年間休日数120日とする。
・人間関係に悩んでも相談できる体制が整っているとアピールする。
・勤務開始後から年次有給休暇や特別休暇を付与する。「急用でも欠勤を気にすることがない」と安心感を与える。
・将来が安心だと思えるような手当を創設する。ベストは「住宅ローン手当」。
・新採用者の多くが不安に思う「仕事を早く覚えられるか」に寄り添う「親切丁寧な新人育成」を実施する。
(12月1日)
・配属先の先任職員(先輩)に育成を任せるようでは、ダメ。
・雇用契約後2週間(法令上の試用期間)は社会人適性を徹底的にチェックする。
・研修教育は「組織が掲げる理念や方針」に沿って行う。専任の研修教育担当者を設けるべし。
・できる限りOFF-JTを行う。保護者に協力してもらうこともあり。
・まずは非認知能力から育て磨き上げること。

 6回目となる今回は、番外編です。これまで紹介してきた方策はどちらかといえば小規模事業者や保護者運営系の事業者向けの内容でした。今回は、現場の職員レベルではどうにもならない給与面、それも指定管理者として学童保育を運営している規模の大きな株式会社に雇用されて働いていたり、公営の学童で働いている場合について考えます。

 申し上げたように、現場の職員レベルではいくら給料を上げてほしいといっても、そう簡単に上がることはありません。当然です。私も経営側にいた人間なので良く分かりますが、「提示した雇用労働条件を良しとして応募して、採用された」人を雇っているのですから、少々の福利厚生面を充実はしても、給与についてはあくまでも企業側が考えた「払えるだけの額」しか、出しませんし、出せませんし、出したくありません。雇う側とすれば、「文句を言うなら、退職してください」です。「提示した給与でOKの人を採用すればいいだけ。今の時代、時間はかかっても待っていれば求人応募者は絶対に来る」のです。

 もちろんそれは、人材の質を問わないという大前提です。私は、人材の質には多少なりともこだわりましたが、多くの事業者は(これは指定管理であるか、公営であるか、を問わず)よほどひどい人物でない限りは、応募してきた人を採用するのです。なぜなら、提示した雇用労働条件を了承して応募してきてくれたから、です。

 これは、先にも述べましたが質の高い事業内容は求めません。もとより、人件費に高いコストをかける考えはありませんから、学童保育の形式を満たせる最低限の業務さえ行えばいいレベルの業務に設定しておけばいいのです。それはつまり、子どもの預かりであり、育成支援ではありません。子どもがけがをしないように、活動的なことは極力避ける。決められたスケジュール通りに子どもを動かす。職員の口調は常に命令形。あれをして、これをして、次はこれ、はいここまで。それはだめ、あれもだめ。これらは、少人数の職員でも、また、育成支援の高度な支援、援助の概念を理解できない低レベルの人材でも「子どもを指示、指導、指図して動かす」ことはできるからです。

 つまり、学童保育の事業者のうち、広範囲に事業展開をしている企業や公営の場合、その多くに、「人件費をかけないで学童保育を運営する仕組み」が蔓延しています。子どもの預かり場として、子どもたちに対しては、管理と監視の手法で施設内で過ごさせることです。人件費をかけないのは企業系の場合は企業の利益を確保するためであり、公営の場合は予算を抑制したいからです。なお、「あまりにも育成支援を重視したい」団体においても職員の低賃金はあります。それは「充実した育成支援を行いたいから、職員数を増やしている」場合です。一種のワークシェアリングですね。

 さて、企業系や公営系で勤めていて、給料が低い、これでは困るという職員は実に多いのですが、初めに述べたように「それで納得して採用されて、働いているんでしょ?」ということなのです。誰だって賃金への不満はあります。手取り15万円の人が手取り30万円になったからといって、しばらくしたら手取り50万円を希望するものなのです。それが人間ですからね。雇う側からすれば「その給料で契約したんだから、文句はないはずでしょ。それなりの仕事しか要求していないんだから、やってください」なのです。

 とはいえ、根本的にズレているところがあります。それは、学童保育の本質的な事業を、実施していないからこそできる低い給料の額だ、ということです。育成支援を充実させるためには、よほど優れた人材を雇い、しかもその人数は十分そろっていなければならないのです。この点を実施していない、つまり「見せかけの育成支援」で済ましているから、安い人件費を設定しているのです。

 これを変えることをせずに、学童保育の世界の低賃金構造は打開できません。状況を変えるには、社会が、そして規則が「そのような事業内容は許されない。育成支援はそのような業務では実施できない。それは基準違反だ」と、見せかけの育成支援の実施を許さないという仕組みに変わることが欠かせないのです。

 物事を変える、あるいは新たに生み出すには、「意識、意欲」と「規則、規範、基準」の双方が必要です。マインドとルールの両方が互いに関連しあうことで、物事や状況が変わったり、新たなトレンドが生み出されます。かつて自動車のシートベルトは「当たり前」ではありませんでした。シートベルトをすると事故の際に助かる可能性が高くなることが知られて人々の意識が変わってきたことと、シートベルト着用を促す車側の装置が必ずつけられるようになり、かつ法令上もシートベルトをすることが義務づけられ、従わないと違反になるということ、この意識と規則の双方が充実、前進することで、車に乗ったら当然にシートベルトをする、ということになったのです。

 育成支援にも、きっと同じことができるはずです。高い水準の育成支援を行うことが当然であり、事業者はそれを当然に行わなければならないとなれば、有能な人材を多く採用することが必須になります。当然、支払う賃金が高くなければ、そのような人員体制を実現することができなくなります。それでは、事業が営めません。

・高いレベルの育成支援が学童保育で行われて当然という意識に、社会が変わること。そのためには日々の実践は何より大事。
・学童保育には高いレベルの育成支援が必要だということを常に訴え続けること。
・法令、基準等で、高いレベルの育成支援を行うことを義務づけること。多額の税金をつぎ込む以上、当然です。
 むろん、職員による労働組合の活動も、雇用労働条件を改善する効果はあるでしょう。ただ現実的に労組の組織率が大幅に低下(15パーセント前後)している現状では、それは複数あるうちの1つの方法論であって多大な期待はかけられません。むしろ、低い賃金で学童保育を運営しようとあくまで固執する企業や市区町村には、「そのような学童保育は、子どもたちにとって利益にならない」として求人者が減ればいいのです。それには、社会全体の意識が変わることが必要ですね。

 なお、これは学童保育=育成支援の事業に限っての話です。事業目的として「子どもの預かり」を掲げる企業や組織であれば、それなりの仕事内容でそれなりの賃金に、当然ながらなるでしょうね。それはもちろん、どうぞご自由に、です。放課後子供教室がまさにそれです。放課後や夏休みをどのように過ごすかの選択肢は保護者や子どもにあって、自分に向いている施設や事業者を選べばいいのです。

 社会を変える、規則を変えるだなんて、今すぐにできないじゃないか、と思わないでください。急がば回れ、です。本当に必要なこと、大事なことは、粘り強く、しかも長い間、訴え続けないと実現しないのですよ。シートベルトが当たり前になるまで、何年かかりましたか?1970年代にはシートベルトの重要性はすでに呼びかけられていましたよ。それから何十年もかかっているのです。まして、目には分かりにくい、育成支援という概念の話です。学童保育の進歩、発展を願う、子どもの最善の利益を守りたいのなら、ひとりひとりが、常に、声を上げていくことが大事です。

 私は、声を上げ続けます。学童保育で働く人が、安心して家庭をもって過ごせるだけの給料が当たり前に得られる日が来るその日まで、ずっと。

 育成支援を大事にした学童保育所、かつ、社会に必要とされる学童保育所を安定的に運営するために「あい和学童クラブ運営法人」が、多方面でお手伝いできます。弊会は、学童保育の持続的な発展と制度の向上を目指し、種々の提言を重ねています。学童保育の運営のあらゆる場面に関して、豊富な実例をもとに、その運営組織や地域に見合った方策について、その設定のお手伝いすることが可能です。

 育成支援の質の向上に直結する研修、教育の機会を提供するとともに、個々の学童保育所運営者様へ、安全安心な子どもの居場所づくりとその運営手法において、学童保育組織運営について豊富な経験を持つ代表が、自治体や学童保育運営事業者に講演や具体的な助言、アドバイスを行うことが可能です。もちろん、外部の人材として運営主体の信頼性アップにご協力することも可能です。

 子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。どんなことでも「あい和学童クラブ運営法人」に、ご相談ください。子育て支援の拡充に伴い、今後ますます重要視されていく子どもの居場所づくり事業の充実のため、一緒に取り組んでいきましょう。萩原は2024年春に「知られざる学童保育の世界」(仮題)を、寿郎社さんから刊行予定です。ご期待ください!良書ばかりを出版されているとても素晴らしいハイレベルの出版社さんからの出版ですよ!

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