学童保育の営利広域展開事業者だけが効率的に利益を得られる指定管理者制度の現状。特に地方は絶好の稼ぎ頭だ。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。

 学童保育の世界で、標準仕様となりつつあるのが、指定管理者制度による民間事業者による学童保育所(この場合は、放課後児童クラブ)の運営。とりわけ、各地で施設の運営を行う営利(株式会社のこと)の広域展開事業者は急激にその運営実績を拡大しています。もちろん、法律に定められて運用されている制度下のことですから、営利の広域展開事業者があちこちで学童保育所を運営すること自体に、何ら問題はありません。急激に広まっているということは、運営を任せたい側と、運営をしたい側の双方のニーズがぴったり合わさっている結果であり、「うまくいっている」ということでもあります。

 一方で、見逃せない事態もまた同時に含みながら拡大していることを、納税者たる国民はしっかりと認識しておく必要があると、弊会は考えています。それは、学童保育の運営には(保育所の世界より桁が1つ違うとはいえ)多額の補助金、つまり税金(子ども・子育て拠出金を含む)が投入されています。それは国民の負担そのものです。国民の可処分所得がなかなか増えないといわれる中で、給与所得から国によって徴収されたお金が、効果的に、効率的に使われているのかどうかをしっかりチェックすることが、私はとても重要なことだと考えています。それは学童保育という、その制度や運営状況が世間に広く知られているとはいえない業界においては、なおさら重要です。納税者たる国民が知らないうちに、補助金が特定の分野の利益に移り変わっていたとしたら、それは問題ですよね?

 押さえておきたいポイントがあります。
・学童保育への補助金の額は、着実に増えていること。
・2024年度(令和6年度)の学童保育は、常勤職員2人配置での補助金新設で多くのクラブが恩恵を受ける。
 (常勤2人配置で655万2000円が子ども家庭庁の案。現行の2人=常勤プラス補助員可、ともに放課後児童支援員=は486万8000円)
・学童保育への補助金は一部項目以外、運営費に使えるので剰余金が生じても補助金返金の問題は直ちに生じない。
・補助金の単価は全国一律。一方で、職員に支払う賃金は最低賃金の差に応じてかなりの差が出る。

 以上のことを組み合わせると、次のようなことになります。
「学童保育への補助金が増える(単価が上昇する)ので、営利の広域展開事業者が受け取る補助金も増える。最低賃金が東京や神奈川、大阪といった1,100円台~1,000円台という高い地域も、岩手や秋田、沖縄、愛媛や佐賀といった900円前後の地域も補助金の単価は同じ。一方で、学童保育の職員に支払う賃金水準は、最低賃金に即した賃金設定が多い。その結果、最低賃金が低い地方の地域に運営する学童保育所が多ければ多いほど、受け取れる補助金の額と、職員に支払う賃金の総額の差が広がる施設が多くなるので、営利の広域展開事業者が得られる利益も増えていく」

 最低賃金が1,028円の埼玉県と、896円の徳島県でも、学童保育所の受け取る補助金の単価は同じです。今までは、常勤職員1人+非常勤職員2人分が基本で、常勤職員1人あたり約310万円、非常勤職員は1人分約180万円です。2024年度からは、常勤職員が2人(つまり310万円が2人分)と非常勤職員1人分約180万円の補助金が創設される予定です(上記の655万円の補助金)。また単価も5%程度の引上げがある予想です。

 補助金が増える、また単価が引き上げられてそれがしっかり市区町村から交付されても、その分、職員への賃金が上昇しなければ増えた分は事業者がそのまま利益として確保できることになります。補助金単価の引き上げは最低賃金や物価の上昇を踏まえ、現在の賃金水準では職員確保が困難だからです。補助金が30万円増えても、それが職員に還元されなければ意味がありません。
 岩手県に今年4月新たに開所する営利の広域展開事業者による放課後児童クラブがあります。そこの施設が出している求人広告では、正規(常勤)職員の給与は16万円~19万円となっています。仮に月給17万円で、賞与を考慮して年間15カ月分の支給と考えると、年間支給額255万円となります。常勤職員の補助金想定は310万円ですから、55万円分はどこに行ってしまうのでしょうか。余計に多く雇用した非常勤職員に回しているかもしれませんが、このブログでも何度も紹介しているように、公立民営の「その他法人」(つまり株式会社)運営の放課後児童クラブは1つの施設あたり年間約285万円を損益差額として得ているデータがあります。つまり「人件費を抑制して事業者が利益を確保する」ことが学童保育を運営する株式会社の常とう手段です。

 国は最低賃金の引き上げを今後も推進するでしょうし、物価高も同様です。その結果、学童保育への補助金も着実に増えるでしょう。しかし、最低賃金レベルでの学童職員給与が当たり前の世界ゆえ、補助金と職員への賃金の差は必ずあり、それは地方であるほど拡大します。
 つまり、営利の広域展開事業者にとって、地方での学童保育所の運営は、とても魅力的なのです。よって、これからますます地方にある学童保育所の運営を目指し、多くの営利の広域展開事業者が熾烈な競争を繰り広げるでしょう。一般的に、競争世界はシェア獲得競争であり、多くのシェアを得た企業が勝ち残ります。そのために今後、営利の広域展開事業者による競争は激しくなるでしょうし、地域に根差した非営利法人による学童保育所や、保護者会のような任意団体、そして公営学童保育所が、どんどん営利の広域展開事業者の運営に指定管理者制度のもとで移行する例は、どんどん増えていくでしょう。

 その結果、どうなるでしょうか。大手の営利の広域展開事業者は、着実に増える国の補助金と人件費との差額分拡大による利益の拡大を狙って地方の学童保育所の運営をこれまで以上に求めるようになり、ますます運営数、つまりシェアを拡げ、より安定した収益を確保できるようになります。それはそのまま、人件費が低めに固定された「事実上のワーキングプア」状態の学童職員を増やす可能性を増やします。

 学童保育への補助金が増えることは良いことです。また、安定して事業を運営できる事業者が学童保育所を運営することも、悪い事ではありません。しかし、そこで働く人の雇用労働条件が向上せず、結果的に人材の質も向上しないことで育成支援の質の向上も見込めないなら、日本の学童保育における育成支援と、子どもが受ける利益には、決して歓迎できる局面とはなりません。

 児童福祉法の第三十四条の八の三の4(丸数字の4)に、こうあります。「市町村長は、放課後児童健全育成事業を行う者が、この法律若しくはこれに基づく命令若しくはこれらに基づいてする処分に違反したとき、又はその事業に関し不当に営利を図り、若しくはその事業に係る児童の処遇につき不当な行為をしたときは、その者に対し、その事業の制限又は停止を命ずることができる。」

 公共事業で利益を得ることそのものは問題ありません。「不当に営利を図り」が問題です。学童保育でいえば、交付された補助金と利用者から徴収する利用料(月謝、保育料)から運営する中で、事業者の運営努力によって通常得られるであろう以上の額が利益として手元に残るのであれば、それは必要以上に収入が多いことか、あるいは支出に問題があるということであり、支出がすべて適正であって問題がないなら、その額は納税者や利用者に返金されるべきなのです。何円以上の額が不当な利益になると一概に決められませんが、NPO法人は約100万円の収支差額があることと比べ、その他法人の285万円はやはり多すぎると言えると私は考えます。150万円程度なら私は許容できると考えます。そうすると、135万円分は返還するか、あるいは職員にしっかりと賃金という形では支払うことです。保護者や納税者に返金をしない、あるいは働いている人の賃金を引き上げないで、営利の広域展開事業者がそのまま利益として確保してしまう(その先は、株主への還元か、企業の役員への報酬という形で処理されるでしょう)ことは、私は問題があると考えます。「不当に営利を図り」といえるとさえ、私は思います。

 国の予算、つまり納税者が支払う税金はもちろんのこと、学童保育を利用しなければ生活ができない子育て世帯が支払う学童保育への利用料も、いわば税金のようなもの(支払わないと生活ができないから)。それらのお金が、適切に使用されているかどうか、納税者たる国民はしっかりと監視する必要があります。国民の代わりにメディアや有識者がしっかりと監視し、その状況を社会に広く伝えることが、責任ある民主主義のあり方であると私は考えます。

 企業が利益を得ること自体は当たり前です。学童保育所を運営する企業が利益を得ること自体は否定しません。「働いている人にしっかり給料を払い、子どもにもしっかり予算を使って、安定して質の高い育成支援を行うこと」さえできていればいいのです。それが現状、ほとんどできていないから、問題があると私は何度も指摘しているだけの話です。そして問題は何も営利の広域展開事業者だけでなく、非営利法人が運営する学童保育所にもあてはまります。非営利だからといって職員の賃金が低いことは許されませんし、事業の運営が不安定でも困ります。現状、営利の広域展開事業者により問題が目立つだけの話にすぎません。

 育成支援を大事にした学童保育所、かつ、社会に必要とされる学童保育所を安定的に運営するために「あい和学童クラブ運営法人」が、多方面でお手伝いできます。弊会は、学童保育の持続的な発展と制度の向上を目指し、種々の提言を重ねています。学童保育の運営のあらゆる場面に関して、豊富な実例をもとに、その運営組織や地域に見合った方策について、その策定のお手伝いをすることが可能です。

 子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。萩原は2024年春に「知られざる学童保育の世界」(仮題)を、寿郎社さんから刊行予定です。ご期待ください!良書ばかりを出版されているとても素晴らしいハイレベルの出版社さんからの出版ですよ!

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