「打倒!小1の壁クエスト」第17話。ちゃんと、外の世界に向き合おうよ。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性、学童保育のあらゆる問題の解決を訴えています。

 「打倒!小1の壁」クエストです。主人公は、子どもが学童保育所に新入所して、勢いで保護者会の会長になった勇者夫婦。秋になり、これは変えなければと思っていたことに変化を加えることができました。徐々にですが、変わりつつあるようです。

 ~打倒!小1の壁クエスト~第17話:ちゃんと、外の世界に向き合おうよ

(前回までのあらすじ)秋になり、年度の下期を迎えるにあたって、懸念事項の修正に着手した会長の勇者夫婦。学童保育所を年度途中で退所した人への、それまでに集めた会費の返金と、退所後も役員や係を続けるというルールを、次の年度から変えることで保護者会から賛成を得られたのでした。

 秋も深まりつつある頃。勇者夫婦は、1年前を思い出しました。「そういえば、学童の小1の壁が怖くて、情報収集のために市役所に行って追い返されたり、アポ無しで学童を訪問して迷惑がられたり、あれからもう1年よ。早いわね」と勇者ママ。勇者パパも、特に会長になってからの4月からがあっという間だったのか「本当に時が過ぎるのが早いね。ってことは、うちらもだいぶ歳を取ったってことか?」と言ってはお互いに笑い合ったのでした。

 と、2人同時に、思いついたことがあります。「ってことはさ、去年のうちらと同じように、学童保育について、不安な保護者さんがいるってことじゃないの?」

 思い返すと、学童保育所に関する資料といえば、運営本部に直接、尋ねたこともありましたが、おおむね、入所申請書と一緒にダウンロードして入手する説明書でした。でも、それでは、学童保育所の「実際の雰囲気」というものが、よく分からないのです。かといって、誰もが、平日の午後に、実際の学童保育所の様子を見学に来られるわけでも、ないでしょう。

 「そっかー、気が付かなかった。すっかり今の目の前のことでいっぱいいっぱいで、これから学童を利用したい、去年のうちらのような人たちに、思いいたらなかった」と勇者夫婦。秋も深まり、入所の申請書のダウンロードも始まっている時期ですが、何とかならないものかと、役員たちとの間でSNSを飛ばして意見を交わしました。

 「まずは、新1年生の保護者がほとんど参加する就学前健診、つまり就学時健康診断のときに、学童保育に関する説明会の時間を設けてもらうよう、運営本部を通じて小学校に交渉してもらいましょう。でもこれは今年はもう無理ね」
「学童の様子を動画で撮影してネットにアップするのは?」
「今の時代、子どもの様子をネットにアップするのはリスクが高いんじゃない?プライバシーの問題もあるし」
「うーん。では、学童の先生や保護者がネットに登場して、学童のいいところと、注意しておいたほうがよいところを話すのは?」
「それならできそうね。でも、先生たちがOKするかしら」

 役員たちと意見を交わして、さっそく職員に打診してみました。案の定、「そういうことは組織全体でやっていないですし、前例もないので、ちょっと今言われても困ります」と、いつものように、できない理由を押し出すベテラン職員。
「そうですね、職員さんに登場してもらうのは、今すぐには無理でしょう。でも、保護者たちだけなら、問題ないですよね?別に、学童保育所のことを悪く言うわけではない、保護者会として行うんですから」

 勇者パパの理詰めには到底叶わないと悟っているベテラン職員も、「まあ、それならこちらは特に」と答えをもらい、保護者によるPR動画作戦に取り掛かることにしました。

 急がないと、入所の申請時期がやってきます。もしかしたら次の春も、あの憎き小1の壁が登場して、涙にくれる家庭が出るかもしれない。学童保育所がどんなものか分からず、不安を覚える保護者はきっといる。「今どき、内輪にこもって、情報公開をしない組織や施設だなんて、ありえない」と勇者夫婦は、ここでも突破力を発揮しました。

 連絡網を使って、動画に登場してもいい人を募りましたが、そこはやはり希望者ゼロ。仕方がないので役員メンバーに振るも、「声だけなら」という人はいましたが、「顔出しはちょっと」という人ばかり。
「ええい、それじゃ、やっぱりだけど、うちらでやるっきゃないね」と、勇者夫婦は決断しました。

 雰囲気を出すために、子どもがいない時間帯に職員の許可をもらって、学童保育所内で撮影することにしました。子どもの名前が分かりそうな掲示物は名前の部分を隠して見えないようにして、全体の雰囲気が少しでも伝わるようにしました。勇者夫婦2人のトークで、「私たちの学童保育所は、こういうことをして過ごしています」という、普段の様子がなるべく伝わるように気を付けました。
 そして「小1の壁」についても。運営に差しさわりのあることに触れると問題になる可能性もある、と思いながら、あえて触れたのです。

「この地域の学童保育所は、希望した人が全員、入所できるとは限らないようです。私たちの子どもも実は一度、入所不可の判定でした。たまたま、空きが出たので入れたからよかったものの、そういう幸運に巡り合えない場合も、あると思います。万が一のことを考えて、もし学童保育所に入れなかった時を想定した準備も、必要だと思ったほうがよいでしょう」

 「学童保育の新規入所を考えていらっしゃる人たちへ」と題して、急ごしらえの動画をネットにアップしたのですが、小1の壁に関して触れたメッセージ、入所ができるかどうか悩んでいる人にとって、「ああ、そうなのか」と受け取った人がいれば、「入所できないことを前提に考えて行動しろということか、けしからん!」とカチンときた人も、いたのです。「いかがなものか」と思った人たちから、運営本部や市役所にクレームとして意見が届けられてしまったのです。

 子どもを迎えに来た勇者パパのもとに、ベテラン職員が歩み寄ってきました。そして「ちょっと、大変なことになりましたよ。本部も市役所も激怒していますよ。早く動画を取り下げてください」と告げ、運営本部からの書面を手渡したのです。

 勇者パパがさっと目を通すと、「通告」と題した書面に、「運営に関して重大な影響があるので直ちに動画を削除すること。期日までに削除されない場合は特別措置を取る」との内容が記されていました。

 「ああ、そうですか。それにこんな書面まで作成させてしまって、それはご迷惑をおかけしました」と勇者パパ。「でも、営業妨害や、名誉棄損に当たる内容では、ないはずです。非営利団体ですから売り上げに影響がでるわけもないでしょう。時期がきたら公開を終了しますが、今日明日に削除するものでは、ないですね。本部にもそうお伝えください。そしてもう1つ。もっと、これから学童保育を利用する人たちの身になって、考えてみてください。あまりにもホスピタリティが、学童保育の世界には、無さすぎます。公的な福祉サービスとしては、ダメでしょう」と、跳ねのけたのです。

 「私はちゃんと会長さんにお伝えしました。そのことは認識してください」とベテラン職員は、やりあうのも面倒だとばかりに、引き下がりました。

 その日の夜、役員会メンバーに先に状況を伝えてから、全員の合意のもとに、保護者のSNS連絡網を使って、事態の通知と説明を行いました。そして、「まだ学童保育所の事が何も分からない人たちに、場合によっては小1の壁で学童に入れないこともある人たちに、早めにいろいろな準備をしておくようアドバイスすることが、悪いとは決して思いません。入所の受付期間中は動画は削除しません。全責任は、会長の2人で背負います。みなさんにはご迷惑をおかけしません」と、メッセージを添えました。

 実のところ、「保護者のためであり、それ以上に、学童保育のためでもあるから」という思いは、多くの保護者の胸の内に届いていたのです。これもまた、以前、ハギが言っていた「みんなを当事者にするのじゃ」という助言を、うまく生かすことができた結果だと、勇者夫婦は感じていました。

 結果として、通知に係れていた特別措置も何だか分からないまま、入所受付期間は終了。そして動画も公開を終了しました。あつれきはありましたが、それ以上でもそれ以下にも、発展することはありませんでした。

 「これも、保護者会がだんだんとまとまりつつあることだよなあ。それと、ホスピタリティのメッセージが本部に届いていたら、その反論は難しいはずだからね」と勇者夫婦。またしても、この地域の学童保育の雰囲気が徐々に変わりつつある実感を得たのですが、今も「当事者」になってくれていない人がいます。学童の職員たちです。ベテラン職員はもう難しいけれど、せめて相棒の若い正規職員はなんとかいけないかな、と思った勇者夫婦でした。

 何かを変えるには、誰かが決断してドン!と強く出ることも必要。次は職員さんをどうこちら側に引き込むかがテーマです。うまくいくのでしょうか、そしてこの調子で、来春の小1の壁をも崩すことができるのか?「打倒!小1の壁」のクエストで、小1の壁についてさらに打倒法を考えましょう。(あと少しだけ続く)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育に関連する多くの問題、小1の壁の問題解決や、保護者の負担感といった学童保育に立ちはだかる多くの問題の解決について、学童保育の運営に関して具体的な実践と経験を積んだ代表が、具体的な解決策を提示することが可能です。

 学童保育の運営についても、育成支援の質の向上に直結する研修、教育の機会を提供するとともに、個々の学童保育所運営者様へ、安全安心な子どもの居場所づくりとその運営手法において、学童保育組織運営について豊富な経験を持つ代表が、自治体や学童保育運営事業者に講演や具体的な助言、アドバイスを行うことが可能です。

 子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。どんなことでも「あい和学童クラブ運営法人」に、ご相談ください。子育て支援の拡充に伴い、今後ますます重要視されていく子どもの居場所づくり事業の充実のため、一緒に取り組んでいきましょう。

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