「こども主体で、職員の雇用を大事にする」放課後児童クラブ(学童保育所)が生き残るために必要なことは?

 放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の運営者と働く職員をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表で「あい和社会保険労務士事務所」の萩原和也です。放課後児童クラブ(学童保育所)運営支援アドバイザーであり、放課後児童クラブの労務管理や事業運営をサポートする社会保険労務士です。放課後児童クラブを舞台にした人間ドラマ小説「がくどう、 序」が、アマゾン(https://amzn.asia/d/3r2KIzc)で発売中です。「ただ、こどもが好き」だからと児童クラブに就職した新人職員の苦闘と成長、保護者の子育ての現実を描くハッピーサクセスストーリーです。お読みいただけたら、アマゾンの販売ページに星を付けていただけますでしょうか。そして感想をネットやSNSに投稿してください! 最終目標は映像化です。学童の世界をもっと世間に知らせたい、それだけが願いです。ぜひドラマ、映画、漫画にしてください!

 放課後児童クラブの世界は、急激に「産業化」「市場化」が進行しています。具体的には、「児童クラブ運営事業を、収益が見込める事業として大々的に展開する事業者が、運営するクラブ数をどんどん増やしていること」を指します。この大波の前に、本質的に非営利である児童福祉事業の本筋に従って運営している児童クラブ事業者の数はどんどん減っています。育成支援を大事に、かつ、職員の雇用を大切に考える児童クラブ事業者は将来、生き残ることができるのかを考えます。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<まずは定義>
 児童クラブの世界は様々な属性の事業者や事業形態があります。とてもひとくくりで考えることはできません。まずはそれぞれの定義というか属性を運営支援が勝手に示します。
〇収益事業としての児童クラブ事業運営=児童クラブを運営することで事業者が利益を得ること。この場合の利益とは「事業者である企業や団体の純利益」を指します。これは事業者が営利法人であるか非営利法人であるかを問いません。非営利法人であっても、事業者が得た利益を本来の趣旨を外れて事業に投下せずに児童クラブとは別の世界に移してしまう事業者が存在するからです。事業者が利益を得るには、収入に上限がある児童クラブ事業の性質からして、支出を厳格にコントロール、つまり予算の7~8割を占める人件費を抑制することが当然に必要です。そのため、職員は原則として有期雇用であり、基本給を抑制して手当で総収入額を確保する方策をとります。時給単価を抑えるためにシルバー世代の人材の雇用も多いです。

〇職員の雇用を重視する児童クラブ事業運営=児童クラブの事業の中核である育成支援は、その質の良しあしを育成支援を行う職員の資質によって影響されます。こどもを怒鳴ってばかりの職員より、こどもの自主性を尊重して適切な援助、支援を行う職員がいる児童クラブの方が、育成支援の質が高いのは当然です。つまり、優れた職員を雇用して従事させる児童クラブ運営事業者は、育成支援の質を重視していることになります。優れた職員を雇用するには、「相対的(周辺地域で求人を出している事業者や、同じ児童クラブ事業者が比較対象)に賃金が高い」「休日や休暇が充実。福利厚生も充実」「正規常勤職員は無期雇用」という、人件費を多く使う労務の方針を採用することになります。こうした運営方針は保護者や職員が運営に関わる事業形態に多く、結果的に「地域に根差した児童クラブ運営事業者」でもあります。このタイプの児童クラブ事業運営者は、使える限りの予算を人件費やこどもの活動にかかる経費につぎ込みます。その当然の余波として、事業者の組織運営そのものに必要なコスト投下には消極的です。事務を処理する職員を1人確保するなら現場職員を1人増やすという判断に傾きがちなのです。そのため、事業組織運営の能力としては低水準となります。地域に根差した非営利の児童クラブ運営事業者の本部事務機能、事務局機能、バックオフィスの充実は同じ予算規模であれば他業種の方が基本的に充実しています。

 児童クラブの事業運営を考えるにあたって、前提として「児童クラブの事業運営ができるとは、どういうことか」を理解することも必要です。
〇公の事業である放課後児童健全育成事業を行うにあたって、公の施設を利用して民間事業者が児童クラブを運営する場合=企業だろうが保護者会や運営委員会だろうが、市区町村等の施設を利用して児童クラブを運営する、つまり「公設(公立)民営」のクラブです。形態としては「業務委託」と「指定管理者」に大別されます。
 運営を任される期間は、指定管理者制度であれば3~5年が一般的です。業務委託(準委任)は通常は単年度ごとの契約ですが、3~5年間の期間を定めて業務委託契約を続けることもあります。この場合も「単年度ごとの事業内容を判断して最長3~5年の期間内は優先的に契約を更新する」「最初から3~5年間の契約を結ぶ」といくつかのパターンを見かけます。
 運営事業者の選定は、基本的に公募、つまり競争で選ばれます。「この事業者にお願いする」という随意契約いわゆる決め打ちは、公共の事業においては例外的です。もちろん、施設管理型の公事業と、事業運営そのものを行う公事業とは内容が異なります。児童クラブは後者であり、とりわけ「事業に従事する職員の質と人数」によって事業運営の質が左右される公事業である児童クラブにおいては、競争の結果で運営する事業者が変わる形態は、児童クラブで行われる育成支援の質の良しあしにおいて大きな影響を及ぼすことは言うまでもありません。
 公募、競争は児童クラブの産業化・市場化を推進する大きな要素です。選定いかんで新たに運営できる児童クラブを増やせるのですから、児童クラブ運営数を増やしたい収益優先の児童クラブ事業者にとっては公募、競争の場が存在することが必要です。随意契約の場合は、随意契約をする特別の理由に地域(=事実上、保護者や地域住民のコミュニティ)との協働が挙げられることがほとんどですから、当然に地元の事業者が有利となります。A県B市の児童クラブの事業者を随意契約で結ぼうとするB市役所はB市内にある事業者を選ぶのであって、遠い地域のC県D市に本社本部がある事業者を積極的に選ぶ理由はありません。この点、談合や癒着を防ぐ点で随意契約が例外とされている現状は、児童クラブの産業化市場化を下支えしています。全体の正義を重視するあまり個別の世界に不利益が生じてしまう残念で不本意な状況というのは、今後、こども性暴力防止法の時代での児童クラブにも大いにありそうです。どうしていつも児童クラブは制度政策の「しわ寄せ」ばかり集まるのでしょうかね。
 そして公設民営はつまるところ、公事業のアウトソーシングです。公事業ですから運営費用の一部または大部分が自治体から交付されます。この、運営費用として交付されるお金(=補助金)の一部や、事業運営実施に伴い利用者から徴収する利用料が、事業者の収入源となります。

 民間の施設を使って児童クラブを運営する場合、いわゆる「民設(民立)民営」の児童クラブは、おおむね次のようなパターンがあるようにわたくし萩原には見受けられます。
「保護者や地域の団体が用意した施設を使って、公の事業である放課後児童健全育成事業を行う。公設民営とは、単に施設を用意した組織の違いに過ぎず、同じ地域に他に公設民営の児童クラブがあれば、事業運営内容はほぼ同一。」。自治体が費用を援助する以前から保護者運営で存在していた児童クラブや、地域内ですでに公設民営の形態で児童クラブを運営している事業者が待機児童や大規模対策等のため事業者の資金で施設を用意して児童クラブを開所する例があてはまります。運営の種別としては「業務委託」または「事業への補助」があります。
「将来的にその地域でのアウトソーシングを得るために必要な実績を増やす、評価を定着させるために、公事業のアウトソーシングを行う事業者が先行投資として施設を用意して児童クラブ事業を営む」
「自治体が民設民営の児童クラブを公募しており、それに参加する」
「学習塾やスポーツクラブなどの異業種からの参入で、事業者独自の事業理念や事業方針をメインにした児童クラブ運営を行うために民設民営の形態で参入する。児童クラブ対象の補助金交付を求めないこともある」

<児童クラブの「生き残り」とは>
 考える方向性によっていろいろな面があるでしょうが、最も考えていきたいのは「地域に根差した、小規模ないし零細規模の児童クラブ運営事業者が運営する児童クラブ」が、各地で多数の児童クラブを運営して収益確保を最優先とする事業者である広域展開事業者の運営に切り替わることで、地域に根差した児童クラブが消えることを、いかにして防ぐか、ということです。

 これを考える上で、「広域展開する事業者」は児童クラブ運営にふさわしくないのかどうか、という点があります。わたくし萩原は、「各地で運営していようが、地元だけで運営していようが、育成支援の質と雇用労働条件の質が良い児童クラブ事業者であれば、どっちでも問題ない」と考えます。全国で数千単位の児童クラブを運営する事業者が仮にあったとして「規模がでかすぎるから駄目だ」とは全くなりません。地域に根差した児童クラブ事業者で保護者や職員の考えを運営に反映させていると理念を掲げている事業者であっても、ガバナンスがいい加減でコンプライアンスもまるで無視の運営をしているのでは、公事業としての児童クラブ運営をする事業者としてはまったくふさわしくありません。よって、地域に根差している児童クラブ事業者だから機械的に児童クラブ運営にふさわしい事業者とはなりません。
 ただ単に、「収益を最優先とする児童クラブ事業運営では人件費を抑制するしか効果的な方策がないので、結果的に職員の雇用労働条件において運営支援として望ましくない状態となりがち」なので、「職員は有期雇用で最低賃金並みの時間給単価しか用意されない。研修に必要な費用は職員が自己負担する」というようなことが往々にして広域展開事業者には見られるのです。その結果として、「現状においては、広域展開事業者は、雇用労働条件において非常に厳しい水準に留めがちであるがゆえ、育成支援の質にも影響を及ぼす懸念が強い」ので、収益を追い求める広域展開事業者は、営利法人であろうが非営利法人であろうが、現状においては児童クラブ運営においてはいかがなものか、とわたくしは考えるのです。
 広域展開事業者だからダメ、ではありません。広域事業者であっても育成支援の質の向上のために人件費を大胆に使う、人材にどんと投資することがあればよいのですが、それでは実のところ利益確保という最優先の目的が実現できませんから、現状は結果的に、広域展開事業者である以上、なかなか職員の雇用労働条件の向上は期待できないということになります。今後、さらに補助金の額が増えても、その使途に公契約条例等で何らかの強制的な制限をかけなければ、事業者の収益がさらに積み増すだけです。
(一応申し上げますが、人件費をしっかり使ってこどもへの育成支援を充実させる事業運営方針の児童クラブ事業者であっても、単に年功序列で勤続年数がただ長いだけで育成支援の勉強をろくにしないベテラン老害職員に高額な基本給を設定し、現場でフル活動している、能力のある若手中堅職員にはその労働の質と量に見合った報酬を設定していない、地域に根差した非営利運営の児童クラブとて、職員を大事にしていないことでは同じです。そしてそういう児童クラブは決して珍しくないとわたくし萩原は見聞きしています。企業や大きな非営利法人が営む児童クラブはダメとは決してならず、地域に根差した非営利運営の児童クラブだから良い、とも決してならないのです。この点は必ず踏まえる必要があります。どういう運営が実際に行われているかだけが、良い児童クラブ、ダメな児童クラブを見極めるポイントです。)

 ですので、これから考えていく児童クラブの「生存競争」とは、「収益確保を最優先に、職員の雇用労働条件を厳しい水準に留めている児童クラブ運営事業者」と、「予算は人件費と、こどもの活動費に惜しまず投入する結果、事業運営の規模は小さいままで組織運営に必要なコストもボランティアや低予算で済ませている、地域に根差した児童クラブ運営時御者」との、児童クラブ運営権をめぐる争い、を指します。

<必ず考慮するべき点>
 放課後児童健全育成事業は公の事業であるから国の補助金が用意されています。この補助金を収益の原資とするので児童クラブのアウトソーシングが成り立っているのです。児童クラブの補助金は中長期的に充実の度合いを増しており、それがますます児童クラブの収益事業としての魅力を高めています。産業化、市場化が進むのは当然なのです。
 (なお児童クラブはもともと民間が発祥です。法定事業でのスタートではなく、実態がすでに存在している上に後付けでの法定化です。よって市場化といってももともと民間事業者が多く児童クラブを運営していたことは理解しておく必要はあります。もっとも、その民間というのは保護者会・父母会・運営委員会であって運営事業者そのものの利益確保は考慮されなかったということはあります。)

 補助金を交付する相手は自治体が選ぶことになります。なんといっても公のオカネですからね、児童クラブの運営を「しっかりできる」事業者を選ぶことが自治体の最大の仕事です。この「自治体が、児童クラブ運営事業者を決める」という要素が必ずあることを考慮しなければ、児童クラブの市場シェア争いを理解するには不足が生じます。
 なぜならその「しっかりできる」内容が問題だからです。しっかりとは何か? それは立場によって頂点に置きたい要素が異なることが容易に想像できます。
こどもであれば「安心して過ごせるクラブ。話を聞いてくれる先生がいる。かまってくれる先生がいる。遊びが楽しい。おやつも楽しい。(本音を言えば、思いっきりサッカーができる先生がいてくれて、好きな時にゲームや動画を見られるクラブならいいんだけど)」。
保護者であれば「仕事を終えて買い物を終えて迎えに行っても間に合う、閉所時刻が遅いクラブ。夏休みなどは朝早くから開所しているクラブ。料金が安いクラブ。昼食を出してくれるクラブ。保護者に役務を負担させないクラブ。保護者会がないクラブ。学校内にあって登所時に事故や事件に巻き込まれる心配がなく不審者も容易に侵入できないクラブ」でしょうし、児童クラブの本質が育成支援であることをよく知っている保護者であれば、「こどもが行きたいと言ってくれるクラブ」「職員とこどもの育ちについて一緒に話し合える機会があるクラブ」でしょう。
職員であれば「適正規模の登録児童数で、育成支援に全力投球できて、事務仕事が少なくて、給料がとても良くて、完全週休二日制で残業がなくて、有休も好きな時に使える」ことでしょう。

 これが、「事業を任せる側」の市区町村になると、「まずもって期間内は安定して事業を継続できる事業者が運営する児童クラブ」が最優先となります。この「安定して事業を継続」の中でには事業破綻がない、突然の撤退はない、ということが最大の要素です。3年や5年の期間の初年度を終えたところ「カネがない、職員があつまらない」という理由で児童クラブを閉所するようでは市区町村としては困るのです。公の事業の継続ができることが最優先です。これには、継続して事業を運営できるほどの事業者としての能力が備わっているなら、「こどもを預かる」ことぐらいはできるだろう、という考え方がまず間違いなく根底にあります。「トラブルや事件事故が無く、毎日、こどもを無事に保護者に引き渡せればよい」ということです。そしてそれは「通常の事業者であれば当然に行えるだろう」と考えます。「最低水準を下回らなければよい」という思考ですね。そしてそのような自治体側の意向は、公募で勝ち抜ける事業者を選ぶプロセスにおいてひそかに発動されます。審査基準、選定の評価基準がそもそも事業規模が大きい=財政基盤と人的資源が優位である=場合の得点が高くなるような配点になっています。公募プロポーザルや指定管理者の選定委員会のメンバーには、形だけの利用者代表はいても議論の主導権を握るのは税理士や公認会計士といった「財政分野」の専門家だったり、場合によっては委員全員が市の部長や管理職であったりします。業務委託も最終的には予算の成否を、指定管理者制度は指定管理者の決定を議会の場にゆだねますが、現実的に二元代表制が機能しているとは言い難い日本の地方自治です。行政執行部の提案はよほどの特異な事情がなければひっくり返りません。
 一方で、育成支援の質を向上させたい側からは、「常に最高水準を目指す。そのための運営をする。事業者の安定など二の次、とにかくこどもが喜ぶ児童クラブにすることが第一」のですから、ここに決定的な差ができます。
 この差が、児童クラブの生き残りにおいて、重要な影響を持っているとわたくし萩原は考えます。
・自治体側=安定した継続的な事業運営。最低水準を上回ることは当然。
・収益最優先の児童クラブ事業者=安定して継続的に事業運営を任されることで利益確保の機会を得る。収益最優先なので最低水準を上回ればよいとする自治体の意向にもそぐわない。
・育成支援を重視したい事業者や保護者側=質の高い育成支援実現のために充実した雇用労働条件によって資質ある職員を1人でも多く雇用し、研修にも費用をつぎ込む。
この差は決定的です。方向性として正反対であるとも言いたい。
そして自治体の意向は絶対である、ということ。どんなに合理的で素晴らしいと第三者が思える事業運営方針を掲げている児童クラブであっても、自治体が選ばなければ、それで試合終了です。

 自治体は当然に議員含む地域住民の意向も考慮します。なおわたくしはよく自治体とか市区町村という単語を使いますがそれは基本的に「行政執行部」です。つまり市長村長という首長をトップとする自治体の行政機構です。議会はもちろん別です。二元代表制ですし。ただ児童クラブでは設置や運営、管理監督は行政執行部のお仕事ですから基本的に役所役場機能を考えて話を進めています。
 この地域住民の意向という点では、住民から役所役場に寄せられる数々の意見(場合によってはお叱り、クレーム)もまた、現場の担当課レベルでは考慮が必要です。基本的に「貴重なご意見ありがとうございます」とはなるのですが、具体的な要望、例えば「開所の時刻を早めてほしい」「夏休みのお弁当を用意してほしい」という利便性に関わる要望が長年続くとさすがにそれは「なんとかしなければ」となります。そういった住民、保護者の要望を解消する公約を掲げた人が選挙で当選して議員になればなおさらです。議会の場で何度も一般質問で取り上げられることは避けたい。この点において、各地でクラブを運営する広域展開事業者は、児童受入時間帯の拡大や昼食提供のノウハウを各地での運営を通じて持っていることが多いので、保護者の利便性向上の要求実現=自治体への満足度の向上も同時に実現=においては、公募があれば有利となります。「うちは、昼食提供のノウハウがあります」と胸を張れるからです。広域展開事業者には、業界最大手のシダックス大新東ヒューマンサービス社や二番手の明日葉社はじめ、最近急激に運営数を伸ばしているハーベストネクスト社など、自治体や企業の給食調理事業者がそもそも本業だった事業者が多いことは、決して偶然ではないでしょう。もっともそれは食事提供ということよりも「給食調理事業はアウトソーシングの典型の1つ」であるからですが。
 つまり、利便性向上を求める大多数の保護者の要望に自治体が沿うという点でも、広域展開事業者のような利益確保を最優先とする事業者が児童クラブ運営を担う点で相性がとても良いのです。これは、あまり考えられない点ですが重要だとわたくしは考えます。なぜなら、えてして、育成支援を大事に考える児童クラブ運営事業者は「こどもはなるべく親子一緒に過ごす方がよい。愛着形成でも大切」と考えがちで、児童クラブに置ける長時間の児童受入時間に否定的な面があります。もっともそれは安い給料なのにさらに長時間労働となることを避けたい職員の本音でもあります。昼食についても「親が手をかけて作ったお弁当が、こどもにとっての愛情」という伝統的な保育観によって、昼食を事業者が用意するより家庭から持ってきてほしいという職員の意向が反映されることもあります。このことは保護者の利便性向上を求める意識と必ずしも合致しないがゆえに、伝統的な育成支援観を持つ児童クラブ運営事業者は、広域展開事業者との、児童クラブ運営権をめぐる競争でそもそも同じスタート地点に立っていないともいえます。競争の場は行政が用意しますが、(利便性向上を求める保護者から常に要望を受けている)行政の意向=広域展開事業者が得意とする事業運営方針である一方で、質の高い育成支援を実現したいと考える児童クラブ運営事業者は、利用者たる地域住民からの意向をなるべくかなえたい行政が用意する方向性と必ずしも同じ方向を向いていないがゆえに、スタート地点からして違っているというのが、わたくしのこれまでの観察から得た考察です。

<児童クラブ業界が二分されている>
 しかし、こどもの育ちを大切に、育成支援を優先した事業運営をしたいというその方向性は決して間違っておらず、むしろ当然に正しいはずです。それには優れた職員を多数雇用する必要があって、優れた職員を雇用するには当然に雇用労働条件は児童クラブ業界内で比較して優れて充実していなければならず、他業種と比較しても労働力市場において競争力を備えてなければなりません。地域のスーパーマーケットの時給が1,500円なら児童クラブの非常勤パートは1,550円、という塩梅です。
 しかし、それでは事業者の財政は火の車。そもそも収入額に上限があり、予算の7~8割を人件費に使う典型的な労働集約型産業ですから、人件費を優先すればするほど、予算のやりくりは厳しくなります。それは育成支援の質を優先したいからですが、残念ながら自治体は「まずは無事に安泰に開所してくれればいいよ」というスタンス。「うちはそれができますよ。人手不足でも近隣からスタッフを融通しますからご安心ください」という、スケールメリットを打ち出したアピールで公募の競争を勝ち抜ける能力を持った広域展開事業者の前には、到底、勝ち目はないのです。

 「でたらめだ。そんなことはない。保護者、職員に支持された児童クラブこそ行政からも理解を得られるはずだ」という人も多いでしょう。局所、局地においてはそうかもしれません。指定管理者制度でありながら非公募で非営利団体が児童クラブ運営事業者に選定されている市区町村の「その自治体の中」だけではそうです。わたくしは全体の傾向を申し述べています。国が出している、児童クラブの実施状況を見れば、株式会社だけが突出してクラブ数を増やしているのが何よりの証拠です。保護者会が法人化する際に株式会社を選ぶことは皆無ではないでしょうが、現在は一般社団法人が多いようです。株式会社運営クラブが公設民営で突出しているのは、相次いで児童クラブが、それも公営や保護者運営系クラブが、公募の機会を経て株式会社の傘下に入っているからにほかなりません。

 児童クラブの世界は実は二分されています。結果的に産業化、市場化を促進する要素である、「公事業ゆえの安定かつ継続的な事業運営の必要性」があり、「社会インフラとしての重要性が評価された結果の補助金の充実が導く補助金ビジネスの可能性拡大」があります。「使い勝手の良さを求める保護者の利便性向上と、保護者の利便性向上を『子育て支援の充実』と言い換えてシティプロモーションに利用する自治体側の思惑」があります。広域展開事業者は他地域での事業運営ノウハウ蓄積による利便性向上プランの豊富さ、(実は表向きとしても)人的資源の豊富さが用意する、児童クラブ運営プログラムの魅力があります。
 その対極として、「こどもの育ちを大事に」を錦の御旗に、職員の雇用を大切に、保護者の事業参画を保障して地域に根差した運営をしていく事業方針こそ児童クラブの正しい在り方であるとする世界があります。予算があれば組織運営コストに投じるよりも現場職員を1人でも多く増やす、こどもが使う活動費や教材費に回すという考え方です。その結果、組織運営の基盤は、現役保護者や、いわゆる保護者OBの善意=無償労働=に頼ったり、職員として雇用しても低賃金の非正規雇用に最低限の部分のみをゆだねるだけだったりと、組織運営の基盤も構造も脆弱なままで、広域展開事業者に競争で挑むのです。こども性暴力防止法の認定事業者になるなんて夢のまた夢です。

 残念ながらわたくしの見る限り、この勝負は一方的です。市場の競争は原則、強いほうが勝ちます。強いから現実的に市場のシェアを多く確保しているのです。アサヒビールのスーパードライがよく語られるのはまさに例外中の例外であって、その例外をもたらした手腕や手法に注目が集まったのは稀有な例だから。めったにないことですから、そこから何かを学び取れれば奇跡を起こせるかもしれないとして、人気を集めているのです。しかしこの数十年、トヨタに日産やホンダ、マツダが勝てたことがありましたか? 奇跡とはめったにないから奇跡です。通常は粛々と、力がある事業者が一方的に勝ち続けるのです。
 児童クラブで数百、1000を超える単位を運営する事業者はその圧倒的な存在感で、競争という競争を経てどんどん運営数を増やしています。そしてまだまだ、そういった広域展開事業者に供給できるクラブは残っています。公営クラブ、保護者運営系クラブそして地域に根差した非営利運営法人クラブは、新規参入組も含めて、児童クラブを収益確保の源としたい事業者にとって格好の獲物なのです、現状は。

 二分化されているといっても一方が一方を侵食し続けている児童クラブの世界であるとわたくしは眺めていますが、そろそろタイトルに戻って、こどもや職員を名実ともに大切にしてきている児童クラブが、この二分化された児童クラブ産業化世界で生き残るために必要なことを考えます。ですが長くなりましたから次回以降に譲ります。ヒントは「ランチェスターの法則」にあると、わたくし萩原は以前からずっと考えてきました。そのことを紹介します。

(お知らせ)
<社会保険労務士事務所を開設しました!>
 2025年9月1日付で、わたくし萩原が社会保険労務士となり、同日に「あい和社会保険労務士事務所」を開業しました。放課後児童クラブ(学童保育所)を中心に中小企業の労務サポートを主に手掛けて参ります。なお、放課後児童クラブ(学童保育所)に関して、労働関係の法令や労務管理に関すること、事業に関わるリスクマネジメント、生産性向上に関すること、そしていわゆる日本版DBS制度に関しては、「あい和社会保険労務士事務所」を窓口にして相談や業務の依頼をお受けいたします。「あい和社会保険労務士事務所」HP(https://aiwagakudou.com/aiwa-sr-office/)内の「問い合わせフォーム」から、ご連絡のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
New!☆
こども性暴力防止法に関する諸課題を5人の弁護士が各々の専門分野に関して紹介、説明するYouTubeチャンネル「こどもを守る弁護士チャンネル」は、第3回が2026年6月11日に配信されました。放課後児童クラブの運営に関わってきた鈴木愛子弁護士が「こども性暴力防止法がもたらす「人手不足の加速」とその構造的リスク」とのタイトルで、人材確保に関する懸念を取り上げています。内容は放課後児童クラブ限定ではなくて法制度全般にわたるものですが、とりわけ放課後児童クラブで働く人、運営する人そして管理する行政パーソンには必見必聴の内容です。https://www.youtube.com/watch?v=ZVafKTKe204 を、ぜひクリックしましょう。
 第2回(2026年5月30日)が、こども性暴力防止法の「Q&A」を読み解くとして、【弁護士が読む❗️こども性暴力防止法Q &A】のタイトルで配信されています。メインスピーカーは三輪記子弁護士、聞き手は嶋﨑量弁護士です。
https://www.youtube.com/watch?v=XtTCNTDBLLo
 第1回(2026年5月16日)は「こども性暴力防止法を考える」です。
https://www.youtube.com/watch?v=uUlx8XaKMso&t=4324s

 放課後児童クラブ事業を考えている民間企業の方へ朗報! 児童クラブ参入の手引きとなる「埼玉県 放課後児童クラブ新規参入スタートブック」が公開されました。全40ページ。フルカラー。冊子は2部に分けて埼玉県福祉部こども支援課のページで公開されています。なお本スタートブックは弊会が作成受託しました。
(前編)
 https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/166938/r0803_houkago-jidou-club-startbook01.pdf
(後編)
https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/166938/r0803_houkago-jidou-club-startbook02.pdf

わたくし萩原が寄稿した記事が 「Wedge ONLINE(ウェッジオンライン)」で2026年5月29日に公開されました。「“産業化”の大波に飲み込まれる学童保育…企業はどう収益を上げているのか?事業構造から見える放課後育成の実情」という記事です。ヤフーニュースにも配信されています。URLは以下の通りです。https://wedge.ismedia.jp/articles/-/40665
 2026年4月13日、「「こどもが学童に入れたから仕事も安泰!」なのか?小1、行き渋り、夏休み…いくつも存在する“学童保育の壁”とその対処法」という記事も公開、配信されました。(https://wedge.ismedia.jp/articles/-/40473)。こちらもぜひ読んでいただけるとうれしいです。

 「一般社団法人あい和学童クラブ運営法人」は、引き続き、放課後児童クラブ(学童保育所)の一般的なお困りごとや相談ごとを承ります。児童クラブの有識者として相談したいこと、話を聞いてほしいことがございましたら、「あい和学童クラブ運営法人」の問い合わせフォームからご連絡ください。子育て支援と児童クラブ・学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ・学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

(ここまで、このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)

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萩原和也