誤解、勘違い、単に知られていないことが、放課後児童クラブ(学童保育所)には結構あります。まとめて挙げます。
放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者と働く職員をサポートする社労士「あい和社会保険労務士事務所」代表の萩原和也です。放課後児童クラブを舞台にした人間ドラマ小説「がくどう、 序」が、アマゾン (https://amzn.asia/d/3r2KIzc)で発売中です。ぜひ手に取ってみてください! 「ただ、こどもが好き」だからと児童クラブに就職した新人職員の苦闘と成長、保護者の子育ての現実を描く成長ストーリーです。お読みいただけたら、アマゾンの販売ページに星を付けていただけますでしょうか。そして感想をネットやSNSに投稿してください! 最終目標は映像化です。学童の世界をもっと世間に知らせたい、それだけが願いです。ぜひドラマ、映画、漫画にしてください!
放課後行財政学の雑木林琢磨氏が旧ツイッター(X)で、とある方の動画(YouTube)を紹介していました。動画の紹介には「学童って小学3年生までしか行けないって知ってましたか?」「制度は1990年代のまま」などとありました。放課後児童クラブのことを社会に向けて発信してくださるのはありがたいことだとわたくし萩原は思うのですが、誤解を招くような内容は、それがどんどんAIに「食われて」しまい、それを基にしたAIの「まとめ」を利用する人が現れてしまうので困りますね。まだまだ児童クラブに関することは基礎的な知識からして、世間に知られていないことが改めて明白になったので、本日のブログは世間の皆様が勘違いしている、あるいは勘違いしやすいことを列記します。ネット検索で運営支援ブログはなかなか上位に表示されるようですので、それに期待しつつ、ネット検索した人が「あ、そういうことね」と認識を新たにしていただけることを願っております。
(※基本的に運営支援ブログと社労士ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブは、いわゆる学童保育所と、おおむね同じです。)
※項目の後に「〇」「×」「△」を示します。〇=正解、×=違います、△=複雑な事項、との意味合いです。
<学童は小学3年生まで> ×と△
×の理由:児童福祉法第6条の3第2項で、「この法律で、放課後児童健全育成事業とは、小学校に就学している児童であつて、その保護者が労働等により昼間家庭にいないものに、授業の終了後に児童厚生施設等の施設を利用して適切な遊び及び生活の場を与えて、その健全な育成を図る事業をいう。」となっています。「放課後児童健全育成事業」を行っている場所が放課後児童クラブ、いわゆる学童保育所です。なお2014年度末までは「おおむね10歳」の児童が対象でした。現在では、放課後児童健全育成事業は小学生が対象であって、小学校の学年ごとに受け入れが義務であるとか努力義務であるとかの区別は児童福祉法では一切、なされていません。ネット上の不確かな情報に惑わされることが無いように願います。
△の理由:児童福祉法で放課後児童健全育成事業は市町村がその実情に応じて実施することを認めています。ですので市区町村によっては小学3年生、小学4年生まで児童クラブで受け入れている、という自治体があります。そういう自治体に住んでいる子育て世帯にしてみれば「学童が小3、小4まで」というのは事実です。児童クラブは小学生が対象ですから、小学3年生や4年生、5年生までしか受け入れない児童クラブは、早く無くなってほしいですね。一方、障がいのあるこども対象ですが中学生も受け入れる児童クラブを設置している地域もあります。
<放課後児童クラブと学童保育所は同じ> ×と△
×の理由:放課後児童クラブという単語は、放課後児童健全育成事業を行っている場所を指す行政用語(行政機関が使う用語)であり、その事業そのものを指す場合もあります。「放課後児童クラブ運営指針」という、国がまとめた指針にも使われていますね。学童保育所は、そういう位置づけにはありません。放課後や夏休み等に、こどもを受け入れる仕組み全般を「学童保育(所)」と呼ぶことが圧倒的に多いです。放課後児童健全育成事業は、実は1997年以降に正式に用いられるようになった定義で、それ以前は法律による定義はありませんでした。その時代はもっぱら「学童保育(所)」という用語が多く使われていて、今もその慣行が続いています。なお、学童保育所という文言が使われる場合には、放課後児童健全育成事業を行わないか行っても副次的な目的であって、主たる事業として学習支援や学力向上、スポーツの技芸を教える学習塾や英語塾、スポーツクラブに近い、いわゆる「民間学童保育所」が含まれることが往々にしてあるので、注意が必要です。
△の理由:市区町村が独自で定める条例や規則、要綱という、その地域だけで通用するルールにおいて、放課後児童健全育成事業を行っている場所を学童保育所と呼ぶ、と定めている地域もそれなりに多くあります。その地域においては、放課後児童健全育成を行っている場所こそ学童保育所、となります。同じように、「留守家庭児童室」「学童クラブ」「アフタースクール」など地域によって呼び名は様々です。
<放課後児童クラブの職員は「学童指導員」である> ×
×の理由:放課後児童クラブで業務に従事する者は、「放課後児童支援員」という資格を持つ「放課後児童支援員」であり、放課後児童支援員資格を持っていない「補助員」の2種だけです。「学童指導員」というのは通称です。放課後児童支援員という資格が誕生したのはつい最近、2015年度からです。それ以前は児童クラブに関する公的な資格は存在していませんでした。2015年度になる前からもちろん児童クラブ(学童保育所)は存在していましたが、その時代、児童クラブで働く人たちのことを「指導員」「学童指導員」と呼んでいることがとても多く、今もその慣習が続いています。学童指導員という単語に、放課後児童支援員と補助員の双方を含められるので便利といえば便利です。なお市区町村独自の決まりである条例や規則、要綱において、学童指導員やそれに類する名称を使用しているケースもあります。ただし、児童クラブで行われる業務の中核である「育成支援」は、「指導」を含むはるかに広い概念ですから、わたくしは「指導」という意味に限定される可能性をもたらす指導員という語句は、もう使わない方がよろしいと考える立場です。「こどもを指導するなんて、大人なら簡単にできる仕事」という誤解を招く恐れが強いのでは、というのが最大の理由です。
<児童クラブはこどもを預かる場所> ×
×の理由:放課後児童クラブの中身である「放課後児童健全育成事業」には「こどもを預かる」ことが目的という記述は一切ありません。厚生労働省が出した省令(しょうれい。法令の「令」の部分。ですから重要なルールです)である「放課後児童健全育成事業の設備及び運営に関する基準」の第5条に「放課後児童健全育成事業における支援は、小学校に就学している児童であって、その保護者が労働等により昼間家庭にいないものにつき、家庭、地域等との連携の下、発達段階に応じた主体的な遊びや生活が可能となるよう、当該児童の自主性、社会性及び創造性の向上、基本的な生活習慣の確立等を図り、もって当該児童の健全な育成を図ることを目的として行われなければならない。」とあります。こどもの健全な育成を図ることが目的であると書かれています。預かることが目的だと書かれてはいませんね。「こどもを預かって」その上で健全な育成のために様々な援助、支援をする場所が、児童クラブです。
<児童クラブでは「遊び」だけ。勉強はしてはならない> ×
×の理由:放課後児童健全育成事業は、あそびや生活を通じてこどもたちが健全に育っていくことを実現する事業です。ですから学力向上を中心的な事業とすることはできません。学力向上、成績アップを主たる目的で行う場合は「民間学童保育所」と通称される事業形態に含まれます。放課後児童クラブではないので、放課後児童クラブを対象とした国の補助金の交付対象にはなりません。(ただしこれも市区町村が「あなたの事業には放課後児童健全育成事業が含まれるので、この際、放課後児童クラブとしましょう」と判断すれば補助金交付対象になりえます。)
ただしこれは程度の問題でもあるので、通常の児童クラブでは宿題の時間を設けている場合がほとんどです。宿題の時間すら設けていなかったら困りますよね。児童クラブは生活の場でもあるのですから、家庭で行う程度の学習時間を確保することは何ら問題がありません。宿題の時間を若干伸ばして予習復習ができる時間を確保するぐらいで、国から「おたくは、児童クラブではありませんね」と補助金対象から外されることもありません。「うちの地域の学童は勉強が一切ダメなのよ」というのはその市区町村や児童クラブを運営している事業者の方針に過ぎません。もちろん、こどもが児童クラブで過ごす時間のほとんどを勉強やスポーツの技能向上に充てている施設は児童クラブとはなりません(が、これも市区町村がどう判断するかで異なってきます)。
<放課後児童クラブと、放課後子供教室は同じです> ×
×の理由:放課後子供教室(正式名称は「子供」の字を使いますが、放課後子ども教室、と表記する例がとても多いです)は、文部科学省による事業です。放課後児童クラブは、こども家庭庁による事業です。放課後子供教室は、放課後の時間などに学校施設などを使って、遊んだり工作をしたり宿題をしたりして、希望するすべてのこどもに対して過ごす場所を提供する事業であって、「健全育成」の目的は含んでいません。だいたい、午後5時をめどに終了します。放課後児童クラブは、こどもの健全育成が目的で、保護者が仕事などで家庭を留守にしているこどもが対象です。しかし、見た目がとても似ているので、混同されがちなのは事実です。また、「午後5時までは放課後子供教室、それ以降の時間は放課後児童クラブ」として双方の事業を同じ職員が従事して同一の場所で行う、通所「放課後全児童対策事業」を行う自治体が、都市部を中心に増えています。この両者の事業を並行して行う「連携型」や、同じ場所で行う「校内交流型」(かつては一体型と呼んでいました)もあります。
<放課後児童クラブは、すべての市区町村にある> ×
×の理由:放課後児童健全育成事業は「事業」という文字が含まれていますね。事業ですから、やるもやらないも市区町村が決められますし、民間にやってもらうことも認められています。民間というのは、株式会社や社会福祉法人、NPO法人といった法人であり、保護者会(父母会)や(地域)運営委員会という任意団体であり、個人でもあります。市区町村の中には、「公設(公立」=市区町村が施設を設置していること=の児童クラブはゼロで全てが民設(民立)=民間が施設を設置していること=の児童クラブである地域もあります。そして人口が少ない自治体では、放課後児童クラブを設置しないこともよくあります。ですから、必ず市区町村に放課後児童クラブがある、というのは間違いなのです。この点において、保育を必要とする人がいる場合に市区町村が必ず設置することになる保育所とは、決定的に性質が異なります。
放課後児童クラブを設置しない理由は「有資格者(放課後児童支援員)を雇って働いてもらうことが難しい」など補助金の交付対象となる要件を達成できない事情があることや、必要としている子育て世帯が少ないから、という理由が考えられます。そのような場合は、要件が緩やかな放課後子供教室を設置運営することで、放課後等のこどもの居場所とすることが多いですね。特に高知県など西日本の人口が少ない自治体に目立ちます。
<児童クラブの仕事は、誰にでもできる> ×
×の理由:先に紹介したように児童クラブはこどもを単に預かる場所ではありません。こどもの成長発達に応じて、またこどものその時々の心理状態に応じて、そのこどもが育っていくのに必要な援助を職員が行う場所が児童クラブです。単に、こどもの様子を見ているだけではありませんし、こどもに「今はこれをすること。それが終わったら次には、あれをすること」と一方的に指示することでもありません。ですから、誰にでもできる簡単な仕事ではありません。「こどもを見守るだけの仕事です」という求人広告のキャッチコピーに騙されないようにしてくださいね。
<児童クラブは当然、昔から存在していた> ×
×の理由:上記にて少し触れましたが、放課後や夏休みなどの間に親が留守のこどもを受け入れる仕組みは以前からありました。それは、我が子の安全安心な居場所を求める保護者の運動によって誕生したり、そういった保護者の希望をくみいれた自治体が設置したりして、1950年代から徐々に増えていったものです。「学童保育」の誕生です。ところでそれはせいぜいが都道府県レベルでの認識であって、国全体の認識としては、そうではありませんでした。一時は文部省(今の文部科学省)が補助金を出していたこともありました。なぜかといえば法律に定められていなかったから。つまり「アウト・ロー」(法律の、外。午後ローのローとは違いますよ。午後ローのローは「ロードショー」のローです)の位置づけでした。それでは困ると学童保育の団体が精力的に活動を続け、日本政府が少子化ショックに襲われたこともあって児童福祉法が改正されて、1997年から「放課後児童健全育成事業」が実施されることになったのです。ですから、放課後児童健全育成事業を行うという意味での児童クラブは、1997年以降に存在したといえます。もちろん実質的に同じ事業は1997年以前から行われていたことになります。ちなみに「児童館」は、児童福祉法が成立した段階ですでに盛り込まれていました。
<児童クラブの職員は給料が低い> 〇
〇の理由:例外もありますが、およそ児童クラブで働く人の報酬は低いです。正規(常勤)職員の年収の平均値で、一時金込みで300万円に届かないという調査結果もあります。ボーナス込みで年収300万円に届かないということは手取りでいえば200万円前後ということです。ただ地域差や運営する事業者によってかなり異なります。初任給が額面25万円以上の児童クラブ運営業者は東京都内ではよくありますが、地方では基本給15~17万円で募集している事業者もあります。時給額でいえば、最低賃金とほぼ同じ額の児童クラブ事業者は珍しくありません。なぜでしょう。それは、給料を支払う予算を思うように確保できないからです。予算を確保、つまり収入をうんと増やせれば職員に支払う報酬もアップできるのですが児童クラブはその事業の仕組みから収入を増やすには限度があります。50人も入ればギュウギュウ詰めの施設に100人、200人を入れることはできませんし、利用料を簡単に値上げすることもできませんし、そもそも収入の6割や7割を占める補助金の単価額は決まっています。簡単に収入を増やせないのが児童クラブです。それも利用料や補助金の額はこの数年の物価上昇を考慮すると低いままです。児童クラブの支出は約8割が人件費ですから、少しでも人件費を増やすとたちまち支出の全体額が増えてしまう構造です。余談ですが、わたくしは30年ほど前の記者時代に映画を担当していまして、その時に聞いた話です。豪華客船が氷山にぶつかって沈没するあの映画が大ヒットしたとき、あの映画を日本で公開した会社に臨時ボーナスが出たんですね。ン百万円の臨時ボーナスだと言われました。わたくしも知り合いのその映画会社の幹部職員に話を聞きましたが「額はちょっと言えないけど100万円なんて言うはした金じゃないね」とニコニコしていました。映画は売れれば3か月の上映期間が半年でも1年でも伸ばせますし、上映期間が延びた分だけじゃぶじゃぶカネが入ってきます。飲料だってクルマだって同じ。売れれば増収です。でも児童クラブは、収入額がおよそ決まっている事業です。まして人件費でほとんど使われる事業。おいそれと児童クラブの職員を上げたくても、利用料は低いわ補助金は低いわで、賃金アップが簡単ではないのです。まして補助金をもらえていない児童クラブは本当に厳しい経営です。
<児童クラブにこどもを長時間預けるのかかわいそうだ> ×
×の理由:そもそも「預かる場所」ではないのが児童クラブです。こどもが遊んで生活する場所=健全育成を行う場所ですから、逆に短すぎるほうが健全育成の効果が出ないのではと運営支援は考えます。長い時間、児童クラブで過ごすことがかわいそうだというのは児童クラブの職員から大きな声で上がりますが、「こどもは家庭で過ごすことが一番リラックスできる」「こどもはやっぱり保護者の下で過ごすことが安心する」、「児童クラブでは取り組めない、遊ぶことができないことが家庭ならできる」という理由によるものです。確かに児童クラブではこどもが自由に動画を閲覧すること、ネットゲームに興じることはできないでしょうが、それは家庭の方針にもよります。「こどもは、親元にいる、自宅で過ごすことが最適なんだ」という考え方は、こどもの健全育成を専門職としている児童クラブ職員の自身の職務の専門性を自ら貶めているとは言えませんか? こどもが家で過ごすのに近いほどリラックスできる、安心できる環境を実現するのが児童クラブ職員の腕の見せ所だと思わないのがわたくしには不思議です。児童クラブで長い時間過ごしているこどもが、なんかつらそうだ、かわいそうだと思えたなら、それは「そんなに長い時間、児童クラブを利用する保護者が考え直してほしい」と思うのではなく、「児童クラブ職員として、もっとできることがあるのではないだろうか」と考えるべきだとわたくしは断じます。むろん、児童クラブはこどもにとって自宅の自室ではないので完全にリラックスできる場にはならない。保護者の長時間労働について社会全体で考え、育児期間中の保護者の就労時間に社会全体で配慮する仕組み、短時間就労を基本的に義務付ける仕組みの整備は必要でしょう。とはいえそういう時代になっても、専門的技能を活かす保護者や、仕事のキャリアを存分に積み重ねたい保護者にとって、比較的長い時間の児童クラブ利用ニーズは必ずあるでしょう。長時間、児童クラブを利用するこどもは決して0人にはなりません。「こどもが長時間児童クラブで過ごすのはかわいそう」と思うのは勝手ですが「こどもができるだけリラックスして、ここで過ごすことでもいいよと言ってくれるように適切な援助、支援をしていこう」という職員であってほしいと運営支援は願います。
<民設(民立)民営の児童クラブは補助金を受けないで自由に事業ができる> ×
×の理由:民間事業者や個人が設置して運営する児童クラブの形態を「民設(民立)民営の児童クラブ」と呼ぶことができます。この、民間事業者が設置して運営する児童クラブは、2つに分けることができます。1つは「放課後児童健全育成事業を行っている、文字通りの放課後児童クラブ」であり、もう1つは「放課後児童健全育成事業はやっていないか、やっていても部分的であって、事業の主体は学習、英語習得、スポーツ、ダンス、音楽、プログラミングなどの各種技芸を提供する施設=民間学童保育所」です。民間学童保育所は厳密に言えば児童クラブではありません。原則として放課後児童クラブ対象の国の補助金も、もらえません。ただ世間の報道や記事では、この民設民営クラブにおいて、「放課後児童健全育成事業を行う児童クラブ」と「民間学童保育所」が混在しているケースを本当によく見かけます。民設民営であっても、放課後児童健全育成事業を行うことを市区町村から業務委託されて委託料を受け取ったり、放課後児童健全育成事業を行ったことに対する補助金を受け取ったりすることはできます。ちなみに児童クラブによくある指定管理者は、「公の施設」を民間が運営するための制度ですから、施設を民間が設置する民設民営クラブに指定管理者は存在しません。補助金を受けて放課後児童健全育成事業を行っている民設民営の児童クラブは、放課後児童健全育成事業を行うことが目的ですから自由に様々な事業を本業として行うことはできません。任意の事業やサブ(従)の事業としてなら行える余地は十分にありますが、それも市区町村の意向によりますね。お役所がダメといったらダメなのです。
<放課後児童クラブは、必ず資格を持った人が従事していなければならない> ×
×の理由:放課後児童クラブに求められる資格は、前にも登場した「放課後児童支援員」という公的な資格で、都道府県知事が認定します。この資格、2015年度から2019年度までは「放課後児童クラブには必ず配置されていなければならない」という決まりでした。それが、「放課後児童支援員を雇用するのが難しい」という地方からの要求で緩和されて、必ず放課後児童支援員を配置しなければならないと国は義務付けない、となったのです。よって現時点では、必ずしも、放課後児童支援員が従事していなければ放課後児童クラブではない、とはなっていません。もちろん、市区町村が独自に決める条例で、地域内の放課後児童クラブに放課後児童支援員を配置することと決めることができ、現実的には条例で放課後児童支援員を配置することを義務付けている自治体の方が多いです。国(当時は厚生労働省)も、放課後児童支援員を配置することが望ましいとしているので、放課後児童支援員を配置する場合と、配置していない場合の補助金の単価額に大きな差をつけています。いわば政策的誘導でしょうか。もちろん、放課後児童支援員を配置していない児童クラブの補助金は、かなり低くなっています。この仕組みついては、やはり早急に見直して以前に戻すことが必要でしょう。そもそも放課後児童支援員を配置できない=雇用できないというのは、放課後児童支援員を見つけられないのではなくて、あまりにも時給額や月給額が低いから、その仕事の大変さと見合わないから職に就かない人が大勢いるからです。児童クラブで働く人の給料がもっと上がればおのずと放課後児童支援員として働く人も増えるでしょう。
<放課後児童クラブは、ぶっちゃけ儲かる> △
△の理由:放課後児童クラブを事業として手掛けることで「儲ける」ことは可能です。現に、放課後児童クラブを何百クラス、はては1000クラスのレベルで運営している民間事業者もあります。なぜなら「儲かる」から事業として手掛けているからです。儲からないのに数百も1000もクラブを運営しませんよね。でも、前に児童クラブの職員の給料は低いと書きました。それで事業者は儲かるの? という疑問は当然にあるでしょう。それは「質」と「量」の問題です。
質でいえば、「どんな人物でもいいから最低賃金レベルで雇う」こと。量でいえば「本来なら6人程度の職員が従事してこどもたちの対応をすることが必要な児童クラブなのに3人や4人の職員で済ます」こと。この組み合わせで人件費を浮かして、浮いた人件費を事業者の利益として計上する、という仕組みです。当然、児童クラブの「質」=放課後児童健全育成事業の水準=はあまり良いとは言えません。ただ単にこどもに命令だけする職員がいたり、こどもたちの自由な活動を一切許さずに職員がやりたいようにこどもたちを動かしている児童クラブもあります。残念ながら世間の児童クラブへの期待は「こどもが無事に過ごせる場所がある」ことだけに向いていて、「こどもが、どのような気持ちで、その場所で過ごし、成長しているか」には、なかなか視点が向きません。そういう世間の風潮が、「児童クラブをガンガン運営していっていって利益を増やすべよ」という事業者の我が世の春をもたらしています。なお運営支援ブログでは、児童クラブ事業を事業の中心として複数の市区町村で児童クラブを運営している事業者を「広域展開事業者」と称してします。それは株式会社だけではなく非営利法人(NPOなど)も含まれます。やりようによっては、1つの児童クラブ(正式には「支援の単位」という、児童クラブ独特の単位の数え方)で年間数百万円の純利益を計上できるのですから、お得な事業なのです。年間200万円の純利益を計算できる児童クラブを500カ所運営していたら、10億円の純利益を得られます。もちろん、純利益を計上することを全く重視せず、予算の全てを職員の給料やこどもが使う教材に投資する児童クラブもあります。そのほうが、補助金にしても、保護者が支払う利用料にしても、正しい使い方をしている児童クラブといえますね。
<児童クラブは民間がやってはダメ> ×
×の理由:児童クラブを民間ではなく公(おおやけ)、つまり市区町村が設置して運営することを望む人はそれなりに多くいます。自治体が運営すれば安心だ、ということですね。公的責任を明確にしたい、という理由です。事業に対する責任をしっかりと自治体が背負うことに由来するでしょう。その理屈は運営支援も理解します。ただし現実問題として、公営の児童クラブは「児童を受け入れる時間帯が短い」とか「施設がボロボロ」とか「年度末に必ず休日がある」とか「なかなか方向性が変わらない、何を決めるにも遅い」とか、様々な問題を抱えている場合が目立ちます。それはその自治体が児童クラブに予算を必要十分に投じていないからです。つまり「公営クラブが悪いのではなくて、公営クラブを運営する自治体の姿勢、もっといえば予算を投下する優先順位として児童クラブは低い方にある」からです。この姿勢は変わりそうにありません。その点、民間事業者はスピード重視で相次いで良かれと思った施策を実施したり、あるいは取りやめたり改善したりできたりします。それは民間の創意工夫というものです。それこそ、目まぐるしく変わる社会情勢に対応するには民間事業者の児童クラブの方が圧倒的に有利です。ただし、民間事業者にも十分な予算が与えられていないと、そうはなりません。つまり補助金を市区町村が民間事業者に出す以上、市区町村にもその補助金が適切に使われているかどうかをチェックする管理監督責任はあって、それが公的責任となる、というのが運営支援の考えです。自治体が「カネは出すからあとはよろしく」と民間事業者に丸投げをしてはなりません。その点において、公営も、補助金を出している民営でも、本質的にあまり差はないというのが運営支援の考え方です。
また民間事業者であっても、その運営姿勢が硬直的であるとか、前例主義にとらわれているとか、「こどもや保護者へのサービス提供の質を上げることより、運営している側の利便性や楽さ加減を優先する」ような事業者であったら、それこそ有害です。一番ひどいのは「うちは非営利法人ですよ。児童クラブで儲けようとしていませんよ」と、さもこどもと保護者のために事業をしていると装いながら実質は職員に対して低賃金で残業代も出さない、こどもに折り紙も与えない、本も買わないという、利益計上至上主義の非営利児童クラブ事業者です。まだ、カネを稼ぐことが一目瞭然の株式会社運営の方がすっきりします。非営利の団体ながらカネ儲けに目がくらんでいる事業者は早期に淘汰されるべきでしょう。
<こども家庭庁はムダ。解体して予算を国民に配るほうがまし> ×
×の理由:こども家庭庁の予算でいえば、いままで厚生労働省などで扱っていた事業を引き取って続けているだけですから予算もまた引き継いでいるだけです。いままで国民に必要とされていた児童手当や育児休業手当、保育所や児童クラブへの補助金などを引き継いでこども家庭庁が担当しているだけです。こども家庭庁を無くして予算を国民に配れというのであれば、児童手当は0円ですし保育所への補助金がなくなりますから保育所の利用料金がクソデカ価格に引きあがるでしょう。児童クラブは内閣府所管の予算が多いですがそれとて実質、こども家庭庁が扱っているので、とても月1万円程度で児童クラブを利用できるなんてことにはならなず、毎月5万円以上の利用料が必要となるでしょうね。こども家庭庁をバッシングするSNSに目立つ風潮はまったく根拠がなく、単に、憂さ晴らしとか、インプレッション数を稼ぎたいという悪質なデマゴーグです。信じてはダメですよ。もちろん、こども家庭庁のその役割について「もっと積極的に政策を打ち出して実行する迫力に欠ける」とわたくしには不満がありますが、それは廃止論ではなくて、こども家庭庁に期待するがゆえの不満です。こどもまんなか社会の成立のために、もっとゴリゴリと各省庁に要求していってほしいですね。がんばれこども家庭庁。ただし児童クラブは直ちに、もっと重要視するべき施策であり仕組みですよ。
まだまだいっぱいあるのですが、今回はここまで。いずれ書き足す場合もあるでしょう。
(お知らせ)
<社会保険労務士事務所を開設しました!>
2025年9月1日付で、わたくし萩原が社会保険労務士となり、同日に「あい和社会保険労務士事務所」を開業しました。放課後児童クラブ(学童保育所)を中心に中小企業の労務サポートを主に手掛けて参ります。なお、放課後児童クラブ(学童保育所)に関して、労働関係の法令や労務管理に関すること、事業に関わるリスクマネジメント、生産性向上に関すること、そしていわゆる日本版DBS制度に関しては、「あい和社会保険労務士事務所」を窓口にして相談や業務の依頼をお受けいたします。「あい和社会保険労務士事務所」HP(https://aiwagakudou.com/aiwa-sr-office/)内の「問い合わせフォーム」から、ご連絡のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
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「一般社団法人あい和学童クラブ運営法人」は、引き続き、放課後児童クラブ(学童保育所)の一般的なお困りごとや相談ごとを承ります。児童クラブの有識者として相談したいこと、話を聞いてほしいことがございましたら、「あい和学童クラブ運営法人」の問い合わせフォームからご連絡ください。子育て支援と児童クラブ・学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ・学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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(ここまで、このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)