総合経済対策として放課後児童クラブ(学童保育所)に5万円と企業の預かり促進。こしあんの無いあんぱんみたいだ。

 放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者と働く職員をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブを舞台にした(とても長い)人間ドラマ小説「がくどう、 序」が、アマゾン (https://amzn.asia/d/3r2KIzc)で発売中です。ぜひ手に取ってみてください! 「ただ、こどもが好き」だからと児童クラブに就職した新人職員の苦闘と成長、保護者の子育ての現実を描く成長ストーリーです。お読みいただけたら、アマゾンの販売ページに星を付けていただけますでしょうか。そして感想をネットやSNSに投稿してください! 最終目標は映像化です。学童の世界をもっと世間に知らせたい、それだけが願いです。ぜひドラマ、映画、漫画にしてください!

 国は物価高対策として補正予算を活用した総合経済対策を取りまとめました。こども家庭庁も、令和7年度補正予算で盛り込んだ主要施策集を公表しました。放課後児童クラブにも5万円の補助が明記されています。とてもありがたいことです。無いより、マシです。企業の預かり促進も掲げられています。やらないより、やったほうがいいでしょう。ただ、あんこが入っていないあんぱんを用意されたもので、「うーん本当に食べたいあんぱんは、そうじゃないんだよな」という気が運営支援にはするのです。
 (※基本的に運営支援ブログと社労士ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブは、いわゆる学童保育所と、おおむね同じです。)

<総合経済対策>
 首相官邸のホームページに、今回の総合経済対策について高市早苗総理による記者会見の内容が文字起こしされています。2025年11月21日の掲載です。引用しますと、「高市内閣発足以来、国民の皆様が直面する物価高への対策を最優先に掲げてまいりました。国民の皆様に迅速に対策の効果をお届けするため、与野党の皆様と協議を重ね、日本と日本人の底力で不安を希望に変えるべく、強い経済を実現する総合経済対策を先ほど政府与党で決定いたしました。
 今回の経済対策では、国民の皆様に迅速に物価高対策をお届けすることを第一としつつ、危機管理投資・成長投資の戦略分野への頭出しとなる予算を措置します。国民の皆様の暮らしを守り、強い経済を作るために戦略的な財政出動を行います。」とあります。

 こども家庭庁が公表した「令和7年度 こども家庭庁 補正予算案のポイント」には、新規事業として、「企業等の活力を活かした小学生の預かり機能の構築」が予算規模10億円でトップの位置で紹介されています。総合経済対策の柱である物価高対策としては、保育所等に1施設10万円、地域こども・子育て支援事業にも補助があり、放課後児童クラブは1支援の単位あたり5万円と明示されています。

 出ないより、出たほうがいいに決まっていますので、まずは評価します。

<もうちょっとなんとかならなかったのかしら>
 総合経済対策での児童クラブに関する施策では、新規事業として冒頭に触れた企業の預かり促進が目玉施策のように扱われています。「放課後のこどもの居場所」を拡大するモデル事業を創設、というのがその中身です。モデル事業ですからまずはお試しということで予算は10億円です。こども家庭庁の資料に書かれている説明はこうなっています。
 「「放課後のこどもの居場所」の充実は、・ こどもにとっても(安全・安心な育ち)・ 子育て家庭にとっても(両立支援・育児負担の軽減)重要であり、喫緊の課題。」として、このフレーズの隣に「放課後児童クラブの待機児童約1.7万人」と目立つように記載されています。
 具体的な内容の紹介はありませんが、放課後のこどもの居場所を提供する企業に対して、賃借料や人件費を補助するということが示されています。そして「企業等による放課後の小学生の安心・安全な預かりを拡大」と、大きな活字で記されています。

 わたくし萩原は、これを見て思いました。「こども家庭庁は、小学生の育成に対する基本的な方針を持っているのかしら」と。待機児童解消、減少のための緊急避難的な措置として企業の事業活動意欲に期待してこどもが過ごせる場所の整備を進めるということなのでしょうが、そもそも待機児童が増え続けているのは、この国全体の放課後児童クラブの整備拡充のペースが遅いからです。ペースが遅いというのは本気で投資していないからです。今回、モデル事業で10億円の予算を組んだとのことですが、いずれ本事業となれば数倍になるでしょう。そんなカネがあれば児童クラブの整備促進の補助金に振り分ければいいのに、とわたくしは思います。

 企業の預かりですが、「自社の従業員、スタッフ」にとらわれず、例えば小学校に近いところに立地する企業が、その小学校のこどもを受け入れる施設を企業が作る、ということをも想定しているのでしょうか。そうなると単なる民設の、こどもの居場所になりますね。児童クラブではない、こどもの居場所。机上のプランではうまくできたように思えても、現実には、それなりの期間にわたって採算が取れなければ企業は手を出しません。こどもを受け入れる業務に従事する人は誰でもOKとはなりません。いわゆる日本版DBS制度の対象にもなるでしょう。「支配性、継続性、閉鎖性」の3つの要素を満たす可能性が高そうです。場所については、例えば企業の物件の空きスペースを利用するとしても、トイレをどうするとか、こどもがリラックスできる場所であるのかどうか、そういう環境を用意するのは、一筋縄ではいきません。

 わたくしの邪推ですが、高市総理が、自民党総裁選で語った、企業版の学童保育を意識したプランなのでしょう。こども家庭庁側が首相官邸を喜ばせるようなプランを出したのだとわたくしは考えます。そうして総理のご機嫌を上手にとって、他の本当に実施したい施策に予算をがっちり確保するための、撒き餌のようなものなのかしらと。本気で放課後児童健全育成事業を推進したいのなら、こんな施策に関わる時間すら無駄ですからね。

<物価高対策の5万円で必要なこと>
 物価高対応のための強力な支援はこの補正予算の重要な施策で予算も3724億円という、それなりにまとまった額が計上されています。もっとも、そのうちの3677億円が子育て応援手当で、保育所や児童養護施設等における物価高対応のための支援としては30億円が計上されました。保育所やこども園は1施設10万円、児童クラブは1支援の単位あたり5万円です。額はそりゃもっと多ければありがたいのです。保育所などは1施設100万円、児童クラブは1支援の単位あたり50万円と、「ゼロが1つ足りない」と、運営支援は残念に思います。

 この5万円の支援では特に2点、運営支援は国の指導力を求めたいですね。1つは、この5万円とて、1000支援の単位を運営する広域展開事業者にとっては5000万円の臨時収入になります。しっかりと本来の目的である物価高対策に還元できるように、そっくりそのまま利益として計上されないように、国や行政は児童クラブの事業者の会計処理を確認することが必要です。物価高で影響を受けるのは、こどもへの具体的な支援が先細ることです。おもちゃが減る、折り紙が減る、本が古いままとか、おやつが貧弱になる、ということです。そういうことを防ぐための物価高支援です。そういう目的にしっかりと予算が使われているかどうかを、国や行政は監査で確認するべきです。

 そしてもう1つ、とても大事なことですが、複数年で運営の契約をしている児童クラブ事業者にも、この5万円が届くように国は自治体に方針を強く示すことが必要です。3年や5年の契約で業務委託料や指定管理料を決めている場合、当初の決定額を頑として変えない自治体があります。児童クラブの交付金の額は年々増額しているのに、当初の決定額の時に算定した交付金の額のままでスライドさせないなんて、わたくしからいわせればとんでもない暴論であり、ありえません。今回の5万円は、今まさに国民生活を苦しめている物価高への対策ですから、当初の業務委託料や指定管理料とは別枠でしっかりと児童クラブ運営事業者にわたるようにしなければなりません。国は、自治体をしっかりと言い聞かせてくださいね。

<処遇改善は?>
 保育士等の処遇改善に844億円が計上されています。報道もこの点に注目した記事が多かったですね。「保育士人件費5.3%増、補正案に844億円 保育所10万円補助も」という見出しを付けた朝日新聞の配信記事(2025年11月28日16時09分配信)もそうでした。
 公定価格上の人件費を5.3%増やすことで、こども家庭庁の資料には「令和6年賃金構造基本統計調査における保育士の平均賃金32.9万円をもとに機械的に計算すると年額では約20万円の改善となる。」とあります。これですね、ぜひとも放課後児童支援員にも同様の処遇改善を実施していただきたい。児童クラブの世界からすると、保育士さんはもう、十分な処遇改善がなされています。
 いま待機児童は保育所よりもはるかに児童クラブの方が多いのですよ。児童クラブの社会インフラとしての役割がますます重視されつつあるのに待機児童がいっこうに減らないのは、施設が足りないという根本的な予算投下が不足しているがゆえの結果とともに、働く人が集まらないからです。なぜ集まらないかといえば、「給料が安い、安いうえに業務量が多すぎるので大変だから」です。つまり働く人が少ないので仕事がたくさんあるのに給料が安いからです。こどもの命を守るのですらやっとの状況です。つまり処遇改善が足りない。

 ですから、保育士への処遇改善をするのであれば放課後児童支援員にも同様の処遇改善をしていただきたい。公表資料に、保育士「等」とあります。その「等」の部分に、しっかり放課後児童支援員を含めていただきたいと強く強く希望するものです。

 最後に言いたい。今の日本の物価高は、円安によるインフレです。わたくし、お菓子が大好きなのでよく甘いものを買うんですが、某社の「チョコダイジェスティブビスケット」も時々、買っているんですね。チョコ色の長細い長方形のパッケージ。つい数日前もセイムスで買ったんですよ。手に持った時、違和感がありましてね、まだ家に1つ残っていた同じ商品を比べて見たんですよ。するとですね、ほんの数ミリ程度ですが、数日前に買った商品の方が、長さが短いんです。箱に書かれている商品の内容を確認したら、以前に購入したものは17枚入り、数日前に買ったものは16枚入りと、1枚、中身が減っているんです。だから、箱そのものが短くなったんですね。いわゆるステルス値上げです。これだって、箱の規格を異なるものにするんですからそのコストもかかるでしょうに。
 政府には円安を是正して物価高を食い止めることを真っ先に求めます。そうなるとこの総合経済対策なんてマッチポンプの最たるものなのですが、いま、現に苦しいんですからこの対策は強力に進めていただいて、腰のすえた円安対策をお願いしたい。究極的には日本の未来が見通せないことにも要因があります。だからこそ、子育て世帯をしっかり支える施策をしっかりと実施することが求められます。児童クラブへの強力な支援はまさに若い世代、子育て世帯を安心させる1つの施策ですから、高市政権にはその点を期待します。

(お知らせ)
<社会保険労務士事務所を開設しました!>
 2025年9月1日付で、わたくし萩原が社会保険労務士となり、同日に「あい和社会保険労務士事務所」を開業しました。放課後児童クラブ(学童保育所)を中心に中小企業の労務サポートを主に手掛けて参ります。なお、放課後児童クラブ(学童保育所)に関して、労働関係の法令や労務管理に関すること、事業に関わるリスクマネジメント、生産性向上に関すること、そしていわゆる日本版DBS制度に関しては、「あい和社会保険労務士事務所」を窓口にして相談や業務の依頼をお受けいたします。「あい和社会保険労務士事務所」HP(https://aiwagakudou.com/aiwa-sr-office/)内の「問い合わせフォーム」から、ご連絡のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

 「一般社団法人あい和学童クラブ運営法人」は、引き続き、放課後児童クラブ(学童保育所)の一般的なお困りごとや相談ごとを承ります。児童クラブの有識者として相談したいこと、話を聞いてほしいことがございましたら、「あい和学童クラブ運営法人」の問い合わせフォームからご連絡ください。子育て支援と児童クラブ・学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ・学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

(ここまで、このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)

投稿者プロフィール

萩原和也