放課後児童クラブ(学童保育所)を利用する人、職員へのヒント。「児童クラブのトリセツ」シリーズ17は「公立学童、民間学童」の違いです。Webライターさん必見です。
放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者をサポートする「運営支援」を行っている「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブを舞台に、新人職員の苦闘と成長、保護者の子育ての現実を描く、成長ストーリーであり人間ドラマ小説「がくどう、 序」が、アマゾン (https://amzn.asia/d/3r2KIzc)で発売中です。ぜひ手に取ってみてください! お読みいただけたら、アマゾンの販売ページに星を付けていただけますでしょうか。そして感想をネットやSNSに投稿してください! 最終目標は映像化です。学童の世界をもっと世間に知らせたい、それだけが願いです。ぜひドラマ、映画、漫画にしてください!
このほど、またまた興味深いネットニュース記事がヤフーニュースに配信されていました。夏休みだけ民間学童を利用したら8万円だった、という記事です。1か月で8万円もかかった! というインパクトはネットニュースで読者の目を集めるでしょう。ただ、運営支援の立場からは、ちょっと困った内容になっている記事だと感じられます。放課後児童クラブの世界がごっちゃ混ぜになって記事になっているのですね。わたくし(萩原)の想像ですがおそらくこの手の記事はWebライターさんが執筆して記事を書き、企業に納品しているのでしょう。Webライターさんに伝えたい。放課後児童クラブは、とても分かりにくい複雑な実態がありますから、まずは弊会ブログでひととおり情報に触れてから取材執筆にとりかかってみてはどうでしょう。今回のトリセツシリーズはやっぱり分かりにくい「公立学童」とか「民間学童」の徹底基礎的解説です。
(注:運営支援ブログと社労士ブログでは、「公立」ではなく「公設」の表記を基本的に使用していますが、今回のブログに限り「公設」ではなく「公立」表記とします。当該ネットニュース記事との関係性を考慮しました。「民立」という語句もあって行政が使用する文書で使われることがありますが当ブログでは基本的に「民設」と表記します。)
(※基本的に運営支援ブログと社労士ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブは、いわゆる学童保育所と、おおむね同じです。)
<その71:そもそも児童クラブの公立とか民間って何?>
「児童クラブ」のことをあわせて説明します。児童クラブとは一般的に「放課後児童クラブ」の略称です。実は今回の「月額8万円」の記事の最初の部分に「放課後児童クラブ(公立学童)」とありますが、そもそもこれは間違いです。放課後児童クラブには公立クラブも民立(=民設)クラブもあります。「民立(又は民設)」というのは、公(おおやけ=国や地方公共団体)ではない組織が設立したという意味です。
そして「民間」(意味は後で書きます)のクラブもあります。つまり、公立と民設と民間の、3つの分け方が学童保育の世界にあるということです。ただしその分け方ですが、なんとなくの習慣で使われているだけの話です。法令によって厳密に区分されていません。改めてその3つの違いを記しますが、まずは有無を言わさず大前提として「放課後児童クラブ=放課後児童健全育成事業(これもあとで説明します)が実施されている場所のこと」と頭に叩き込んでください。
公立の放課後児童クラブ=市区町村(ごく例外的に市区町村などで成る組合)がクラブ施設を設置していて、その場所で「放課後児童健全育成事業」が行われている児童クラブのこと。
民設の放課後児童クラブ=民間がクラブ施設を設置していて、その場所で「放課後児童健全育成事業」が行われている児童クラブのこと。この場合の民間とは、株式会社などの営利法人、NPOや社会福祉法人などの非営利法人、保護者会や運営委員会、地域の自治会といった任意団体、もしくは個人を指します。
民間の学童保育所=民間が施設を設置していて、設置者である民間が独自の事業を実施してこどもたちを受け入れている施設のこと。「放課後児童健全育成事業」は行われていないので「放課後児童クラブ」ではありません。
「放課後児童健全育成事業」とはなんでしょう。これは「児童福祉法」に規定されています。放課後等の時間帯に、小学生の保護者が仕事や介護や勉強などで家にいない場合、そのような状態の小学生に「遊びと生活の場所」を用意してそこで過ごしてもらって小学生の成長を支える事業のことです。こどもが育つということは、国家社会を構成する人間を育てるために重要なことですから、結構最近になってですが法律に記載されるようになりました。その事業には必要に応じて税金が補助金の形で投入されます。この事業は「市区町村が行う」と定義されていますが、この法律では民間も実施できることと定められています。ですから「民設」の放課後児童クラブが存在するのです。
別の見方で記します。
放課後児童健全育成事業が行われる場所を、市区町村等が設置しているのが「公立の放課後児童クラブ」。
放課後児童健全育成事業が行われる場所を、民間が設置しているのが「民設の放課後児童クラブ」。
放課後児童健全育成事業ではない民間事業者による独自のビジネスが行われる場所を、一般的に「民間学童保育所」と呼んでいます。
ここでは「民間学童保育所」という文言に注目してください。つまり、放課後児童健全育成事業が行われていないので放課後児童クラブという文言は使わない(=「放課後児童クラブ」という単語は、「放課後児童健全育成事業が行われている施設」として行政機関が使用する用語として定着しています。その結果、誤解を招きかねない使い方をしないことも定着しています)のですが、「学童保育所」という文言は、放課後児童健全育成事業の実施の有無と関係づけられてはいません。放課後児童健全育成事業をやっていようが、いまいが、「学童保育所」という文言の使用にはなんら制約がありません。
例えて言えば、「カウンターで食べる鮨」が「放課後児童クラブ」に該当するとすれば、「握りずし、回転ずし、いなりずし、ちらしずし、押しずしなど、すべての寿司」が「学童保育所」に該当する、ということです。そして「学童」という単語ですが、この「学童保育所」を指す場合もあれば「放課後児童クラブ」を指す場合もあります。「学童」という単語を使う人の意図や文脈によって判断することになります。「すしを食べに行こうぜ」と誰かを誘った人が、必ずしも「カウンターの握りずしを食べに行く」と考えているとは断言できず、もしかすると「ちらし寿司」を食べに行こうとしているのかもしれません。同じように「学童」という文言を使った人が、放課後児童クラブのことを言っているのかそれとも放課後児童クラブではない民間学童保育所を指して言っているのか、もっといえば全く別ジャンルの事業である「放課後子供教室」を指しているのか、それは前後の発言や文脈で判断することが必要、ということです。
ややこしいのは、市区町村が独自に決めて使用する「条例」や「要綱」といったその自治体だけで通用するルールで、「うちのまちは、放課後児童健全育成事業を行う場所を、~学童保育所と呼ぶ」と決めていることがそれなりに多いことです。つまりそのような条例や要綱がある地域に住む人にとっては、「放課後児童健全育成事業が行われている施設=学童保育所」と、なるわけです。
(つまりですね、児童クラブってのは、何でもありの世界なんですよ)
<その72:公営、民営の区別を押さえておこう>
放課後児童クラブとか、学童保育所については、公立とか民設(民立)とか民間という区別ができることを紹介しました。もう1つ、大事な区別の仕方があります。このもう1つの区別の仕方を加えないと「公立学童」とか「民間学童」という分類は実は不完全なのです。
このもう1つの区別の仕方はわりと簡単です。「その施設を運営しているのは、誰?」という観点での区別です。「施設の運営」とは、その施設において事業を営んでいるということです。放課後児童健全育成事業や学習塾のような学力向上の事業をその場所で行っているのは誰か、という観点での区別の方法です。
市区町村等が、放課後児童健全育成事業を運営している場所であれば、「公営」の放課後児童クラブです。
民間が、放課後児童健全育成事業を運営している場所であれば、「民営」の放課後児童クラブです。
民間が、独自のビジネスを展開していて、放課後児童健全育成事業は実施していない場所であれば、一般的に「民間学童保育所」と呼ばれるジャンルの事業になります。これは当然「民営」の世界に属します。
この、「事業の運営者は誰?」という区別と、最初に紹介した「施設を設置しているのは誰?」を組み合わせることで、「その児童クラブの性質は?」ということが、ある程度、区別できるようになります。
つまり、こうなります。
「公設」で「公営」の放課後児童クラブ=公設公営の放課後児童クラブ。
「公設」で「民営」の放課後児童クラブ=公設民営の放課後児童クラブ。
「民設」で「民営」の放課後児童クラブ=民設民営の放課後児童クラブ。
(民設で公営のクラブは現時点で日本国内に存在していないようです。こども家庭庁が毎年発表する実施状況の調査でも民設公営というジャンルは設けられていませんから、「ない」と考えていいでしょう)
<その73:公立学童とは? 民間学童とは?>
ここでようやく本題に戻ってまとめます。例の記事にて使われている「公立学童」と「民間学童」は、とてもあいまい過ぎる表現だと、なんとなく感じてきませんか? 問題は、あの記事では公立学童は費用が安め、民間学童は費用が高め、というニュアンスで書かれていることです。本当にそうなのでしょうか。
「公立学童とは?」。それは、通常は、市区町村等が設置している放課後児童クラブを意味します。そして「公設公営」と「公設民営」の2種類の放課後児童クラブがあります。いずれも放課後児童クラブですから放課後児童健全育成事業が行われているので、国や都道府県、市区町村から補助金が出ていることが通例です。この補助金があるおかげで、利用する保護者が支払う利用料(保育料や保護者負担金、育成料と呼ばれるもの)が、比較的、低額で済むのです。よって、公立学童の費用が安いという記事の内容は、正確です。といっても1万円かかる公立の児童クラブもあります。また、詳しくは触れませんが、児童クラブに対する補助金は「必ず、この種類の補助金を適用してこの金額を出すこと」と決められていません。どの補助金をどれだけ使うかは市区町村が判断、つまり裁量で決められます。ですから費用が高めの公立の放課後児童クラブは、この補助金の額が少ない場合があります。
なお、公立学童といえば、公設公営の児童クラブをすぐに連想します。実は私もそうです。ところが全国いたるところの市区町村で、ホームページに「公立」「公設」と表記しながら運営は民間事業者が行う児童クラブが、実に多いのです。「公立」という文言は設置者を示す、という解釈が実は求められるのですね。「設置」と「運営」を区別して考える習慣が、児童クラブの記事の書き手には求められます。「設置主体はだれ?」「運営主体はだれ?」と考える習慣ができているWebライターさんであれば、児童クラブ関連の記事はきっとうまく書けるでしょう。
「民間学童とは?」。これが実は問題なのです。「民設民営の」放課後児童クラブがありますし、放課後児童健全育成事業を実施していない「民間学童保育所」も、民間学童に含まれている場合があります。例の記事の場合は、ここの部分がごちゃまぜになっているので、惜しいことに正確性を欠いているのですね。
民設民営の放課後児童クラブの場合、国や自治体からの補助金が出ている可能性が比較的高いので、補助金が出ている場合は「民間学童」であっても利用料は比較的、低額です。民間学童保育所の場合は、放課後児童健全育成事業ではないので補助金の対象外ですから事業の運営は利用者が支払う利用料でまかなうことになります。よって利用料が高くなるのです。記事にある月額8万円は、わたくし萩原から言わせれば「民間学童保育所であれば、まあ、それが普通だよね」となります。
まとめましょう。
公立学童とは「公立公営の放課後児童クラブ」か「公立民営の放課後児童クラブ」です。
民間学童とは「民設民営の放課後児童クラブ」か、放課後児童クラブではない「民間学童保育所」です。
<その74:利用料が高くなる原因は?>
まずですね、児童クラブの利用料が「高い」「安い」は、何を基準にしているかで異なりますし、立場によっても異なることを受け止めてください。世帯の全所得が300万円の世帯と、2,000万円の世帯では、月額1万円の児童クラブ利用料に対する受け止め方は異なって当然です。児童クラブで働く側にとっても実は同じです。手取り15万円で毎月180時間も働く児童クラブ職員(わりと、普通に存在しています)にとって月額1万円の児童クラブ利用料は「申し訳ないけど、あと5,000円だけ利用料を引き上げて、その上昇分を給料にまわしてほしい」と願うものです。一方で、手取り25万円で毎月160時間程度の労働で済む児童クラブ職員(少数ですが、そういう恵まれた人もいます)にとっては月額1万円の児童クラブ利用料は「安くはないけれど高くもないかな」と思うでしょう。
利用料が高くなる原因は、ずばり、「補助金の額」です。児童クラブを運営する事業者の収入のうち、国と都道府県、市区町村がそれぞれ3分の1ずつ負担する補助金の総額が多ければ、つまり事業者の収入の大半を補助金が占めるようになれば、保護者が支払う利用料は安くなります。民間学童のうち「民間学童保育所」が月額8万円もするのは、この補助金が無いからです。公立学童が安いのはこの補助金があるからです。
(なお、国は方針として、児童クラブを運営する経費は、保護者が5割を負担して、残る5割を国:都道府県:市区町村とで3分の1ずつ負担することを目安として掲げています。児童数40人程度の児童クラブはだいたい1,500万円から2,000万円の運営費用がかかりますから、1,800万円とすると900万円は40人のこどもの保護者が、残る900万円の3分の1ずつ、つまり300万円ずつ、国と都道府県と市区町村が負担するという考え方です。この考え方を国が放棄しないかぎり、児童クラブの無償化は広まらないでしょう)
利用料が高くなる原因は他にもあります。やや特殊な例になりますが、分かりやすいのが「職員の人件費を充実させたいから」です。これは、地域に根差した児童クラブ、とりわけ非営利法人に目立ちます。児童クラブの質を充実させるためには、適正な児童数も大事ですが、なにより「優れた職員が、長く働いている」児童クラブであることが重要です。すると当然ながら人件費は増えます。優秀な職員が児童クラブでの仕事を継続したいと思えるだけの給料や賞与を事業者が支払う、それも雇用の継続を前提(=無期雇用)とするならば、事業者が支払う人件費はどんどん増えます。その増えた分を保護者に求める場合に利用料が高くなるのです。一般的な公営クラブと比べると、地域に根差した非営利法人が運営するクラブの方が利用料が高いのは、おおむねこのような背景があります。なお、非営利法人だからといって常に職員を大事に雇用しているかどうかといえば、それはまた別問題です。
利用料が高くなるかどうかは、補助金の有無が重要です。
付け加えますが、補助金が出ている児童クラブでも、夏休みなどの長期休業期間中の受け入れの場合は、年間を通じて利用する場合よりも高い金額で利用料が設定されていることが多いようです。これに「おかしい! 不公平だ!」という声を上げる人もいるようですが、誤解です。というのは、「夏休みなど特定の期間にだけこどもを受け入れる場合、当然ながら、その期間は児童数が増えるので、その対応として新たに職員を確保しなければならない」からです。それが非常勤であっても、期間限定の雇用で新たな職員を雇うことになります。あるいは、夏休みなどの臨時の児童数増を見込んでいて多めの職員数を雇用している場合もあります。なぜなら現状、極めて人手不足であってすぐに児童クラブ臨時職員を雇用できる確実な見通しがまったく立たないからです。高い時給を設定して職員を何とか集めるとなれば、運営コストが高くなるのは当然です。
私が以前、児童クラブを運営するNPO理事長だった時代に、長期休業期間中の受け入れに必要なコストを何度も試算しました。低学年は毎月の総額で14,000円の保護者負担金が必要なクラブでしたが、夏休みのみの受け入れを考えると人件費や場所代を考えると最低でも30,000円、本来なら50,000円を請求しないと事業として成り立たないという試算でした。公設民営のクラブでも、短期間の受け入れでは通常期より利用料が上昇するのは当然なのです。
なお試算していた当時はいただける補助金が増えないという前提でしたから、今は夏休み期間などに使える補助金が設定されているのでもう少し安くなるかもしれません。ただし要件が厳しすぎてなかなか手が出ない補助金ではあります。
<その75:公設公営、公設民営、民設民営、民間学童保育所、それぞれの特徴>
公設公営の放課後児童クラブ=数はどんどん減っています。公営クラブを民間にまかせることを「民営化」と呼びます。公営クラブは、市役所や町役場、村役場が「直営」しています。公営クラブで働いている人のほとんどは、有期雇用の「会計年度任用職員」です。ごく一部の地域で、正規の公務員が勤務していますが極めて例外的です。公営クラブの特徴としては、「予算投入の優先度が他の事業より低いようで、施設の改修や修理があまり行き届かず、古かったりぼろかったりする施設がある」、「児童受入時間が短い場合が多い。職員が長く働くと支払う給料つまり人件費がより多く必要となるから。年度末の1日を休みにすることもある」があります。一方で、利用する立場からすると「公営だから安心」という感覚になります。安心感ですね。立地場所はかなり恵まれていて、小学校敷地内に専用クラブがある、小学校の教室がクラブに転用されている、自治体の施設(児童センター、児童館、公民館など)を利用している、という場合が目立ちます。公営クラブの一番の問題点は「官製ワーキングプア」と呼ばれる問題です。会計年度任用職員の給料があまり高くないのです。雇止めの問題もあります。一方で、あまり能力の高くない職員がなぜかずっと契約を更新し続けて、半ば「ボス」のように振舞っている公営クラブもあって、やる気のある新しい会計年度任用職員が相次いで辞めてしまうという問題を抱えている地域も、あります。
公設民営の放課後児童クラブ=公営クラブが相次いで民営化されるので増えています。なぜ民営化が進むのか、それは民営化を考える自治体によって様々ですが、一般的に公表される理由としては「民間事業者による運営ノウハウの活用で児童クラブの質を向上させる、職員不足も民間のノウハウで解消する、多種多様なサービスが提供できる」というものです。運営支援の独断的な見方ですが、これら一般的な理由は、「カネがあれば誰だってできる」ものが全てです。民間事業者だろうがお役所だろうが、必要十分な予算があれば、質の向上も職員不足も解決できます。つまり、「必要十分な予算が確保され、かつ、その予算が確実に放課後児童健全育成事業に投資されれば、高いリターン=事業運営のレベルが高い放課後児童クラブの実現=が得られる」のです。リターンが達成されないのは「予算が確保されていない」か「予算があっても放課後児童健全育成事業とは違う分野にその予算が使われてしまっている」場合です。
手取り15万円で労働契約が毎年更新の有期スタッフを募集する事業者よりも、手取り30万円の給料でしかも無期雇用の正規職員を募集すれば、児童クラブの人手不足はあっという間に解消です。つまり、カネをケチる限り、民営化しても問題は解決しません。世の中ゼニや! というのが真実です。しかし児童クラブ運営事業者に渡すカネをたくさん自治体が用意しても、そのカネを、児童クラブが運営する民間の事業者が「会社や団体の利益」として確保してしまって児童クラブの事業そのものに使わないのでは、相変わらず、児童クラブの現場は困窮するだけの話です。これがつまり「補助金ビジネス」と呼ばれる問題です。公設民営のクラブに関してはこの補助金ビジネスの問題が実はとても暗い影として存在しています。
民営化するにあたって自治体が児童クラブに出す予算額は通常、増えます。だったら公営クラブでも予算を増やせばいいだけです。民営化に踏み切る自治体の本音は決して明かされないですが、私の勝手な想像ですが一部の自治体において、「自治体が独自に課す行政経営の中身で経費削減が至上命題となっているから人手がかかる公営クラブを無くせば数字上、経費削減できる」ことと「保護者から受けるクレーム、難題の処理や対応に人手がとられることへの限界。精神的なストレスも限界」なのでしょう。また、2026年12月に迫る「いわゆる日本版DBS制度」への対応もまた民営化の拍車をかけている可能性があります。少なくとも民営化しても公立である限り、児童クラブに関するすべてのことを民間に丸投げしてはなりません。
一方で、公営クラブが民営化すると、たいていの場合、便宜的なサービスは拡大します。使い勝手が良くなる、というものです。実際に、土曜日は午後3時までだった公営クラブが民営化によって午後6時までになった、という例もあります。民営化すると、運営に関する柔軟性を欠いた硬直化した公営クラブより柔軟なサービス展開ができますが、それは絶対的ではなく、硬直化している民営クラブも相当あります。公営だろうが民営だろうが、最終的には「この事業は、誰の役に立つべきなのだろうか。役に立つには、わたしたちは何をするべきだろうか」という事業の質の向上に取り組む姿勢の有無で、児童クラブの質の向上が左右されるということです。公営だろうが民営だろうが関係ないと、運営支援は確信しています。
さて公設民営のクラブは、いろいろな事業の形態があります。保護者たちが運営するクラブから、全国で数百、1,000に迫るクラブを運営する大企業が運営するクラブもあります。実に多種多彩です。料金も大きく幅がありますが、月額5万円に迫るような高額は、別途、オプションでサービスを選択しない限りはそこまで増えません。
民設民営の放課後児童クラブ=民間が設置したクラブにおいて、放課後児童健全育成事業を実施するように自治体が民間と約束することで成立します。この場合、放課後児童健全育成事業に対する補助金が交付されることが多いのですが、まったく1円たりとも補助金が出ない民設民営の放課後児童クラブも実はあります。自治体の判断次第なのです。運営支援は、「放課後児童健全育成事業である限り補助金は必ず交付するべき」という主張です。放課後児童健全育成事業を実施しているのに補助金を出さない自治体は、私は差別的な対応だと考えています。なお、放課後児童健全育成事業は所定の用紙を届け出ることでスタートできます。自治体としては、予算を用意していないのに、勝手に放課後児童健全育成事業を始めた事業者に出す補助金など無い! という考えなのでしょう。それは分かります。ですから放課後児童健全育成事業を始めたい民間は事前に行政と相談することは必要です。必要ですが、放課後児童健全育成事業として受理した限りは補助金を交付するべきでしょう。
民設民営の放課後児童クラブは、補助金を受けて運営している限り、公設民営のクラブとその実態はさほど変わりはありません。放課後児童健全育成事業を行っている限り、クラブで行われている内容について決定的な差は出ません。(ただし民営クラブである以上、事業者の方針で事業の内容が左右されます。育成支援という事業の質より利益を確保したい事業者が運営するクラブは、おのずと、児童クラブのとしての質は、ひどいものになる可能性があります)
民間学童保育所=民間が独自の事業でこどもたちを集めて行うビジネスです。放課後児童健全育成事業ではないので補助金対象外ですが、補助金をもらうことはすなわち「事業において制約もまた生じる」ので、補助金をもらわないことで事業者は思いのままに自由な事業が実施できます。創意工夫に満ちたサービスを提供でき、そのサービスを受けたい保護者が利用することになります。当然、毎月の費用が高いので、誰もが気軽に利用できるものではないです。運営支援は、例えば待機児童が生じている場合に限り低学年児童の利用料を行政が補助することを以前から訴えています。待機児童を無くせますし、事業者側も一部ですが安定した運営につながります。一般的に人口が多い地域でしか成り立たないビジネスモデルではあります。月額8万円の民間学童保育所と、月額1万円の放課後児童クラブでは、価格面での競争は一方的な結果となるからです。子育て世帯が多い地域、つまり「こどもの居場所を必要としている世帯」が多ければ多いほど高額でもサービスに魅力を感じて利用したいと思う世帯が増えますから、人口が多い地域で成り立つ事業といえます。
なお、「民間」が運営する限り、事業者の事業方針の変更によって「閉鎖」「撤退」ということが問題とされるケースがあります。だいぶ昔の話ですが、埼玉県内では民間の学童保育所が突然閉鎖したことで大問題となりました。ところが公営だってそれは変わりません。小学校の統廃合が話題になっていますよね。閉鎖や撤退が急に訪れるのか、時間をかけて実現されるかの違いです。突然の閉鎖、撤退は、こどもの居場所を奪うことになりこどもにとって深刻な不利益となること、もちろん保護者である利用者をどん底の苦悩に陥れますが、放課後児童健全育成事業であって補助金を交付している限り、自治体の管理監督責任は必ずありますから、責任を持って自治体が新たな受け入れ先を必ず確保するようにすればいいのです。民間学童保育所は自治体が関与しない民間のビジネスの世界ですから突然の閉鎖、撤退はやむを得ません。飲食店の閉店と同じです。ですが、こどもの居場所という公共の利益に関することですから、こどもの新たな受け入れ先を探す、紹介する上で自治体の関与は当然に望まれます。民間学童保育所を利用する保護者は「突然の閉鎖」のリスクを頭の片隅にでも必ず置いておくことも必要です。
最後に。児童クラブはこれだけややこしい世界です。それをネットニュースの短い行数、文字数で説明するとなるととても大変です。絶対に誤解されないような表現になるように留意することで精いっぱいでしょう。Webライターで児童クラブ、学童保育の記事を受注された方で、不安に思ったことがありましたら、運営支援にお気軽にお問い合わせください。最低限の致命的な誤記については指摘することができますよ。ぜひ児童クラブについてどんどん記事を世の中に送り出して、社会インフラたる児童クラブの重要性とその本質について社会に情報を絶えず発信していただきたいと、運営支援は切に希望します。
※「トリセツ」シリーズは不定期に掲載しています。
第15回は2025年8月9日掲載でした。
<その61:なかなか職員の採用ができません。求人の応募がありません。どうすればいい?>
<その62:来てほしくない人が応募してくると大変面倒です。うまい手はありませんか>
<その63:児童クラブの仕事に向いている人が募集してくるような、巧い募集の文言はありますか?>
<その64:採用で、決して行ってはいけないことがありますか?>
<その65:採用に関して法令的に欠かせないことを教えてください>
第16回は2025年8月23日掲載でした。
<その66:ギュウギュウ詰めで困った!>
<その67:児童クラブに入れなくて困った!>
<その68:児童クラブで働いてくれる人が足りなくて困った!>
<その69:親が児童クラブに無理やり行かせるので困った!>
<その70:児童クラブの利用を始めた親なんですが、もっと忙しくなって困った!>
(お知らせ)
<社会保険労務士事務所を開設しました!>
2025年9月1日付で、わたくし萩原が社会保険労務士となり、同日に「あい和社会保険労務士事務所」を開業しました。放課後児童クラブ(学童保育所)を中心に中小企業の労務サポートを主に手掛けて参ります。なお、放課後児童クラブ(学童保育所)に関して、労働関係の法令や労務管理に関すること、事業に関わるリスクマネジメント、生産性向上に関すること、そしていわゆる日本版DBS制度に関しては、「あい和社会保険労務士事務所」を窓口にして相談や業務の依頼をお受けいたします。「あい和社会保険労務士事務所」HP(https://aiwagakudou.com/aiwa-sr-office/)内の「問い合わせフォーム」から、ご連絡のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
☆
「一般社団法人あい和学童クラブ運営法人」は、引き続き、放課後児童クラブ(学童保育所)の一般的なお困りごとや相談ごとを承ります。児童クラブの有識者として相談したいこと、話を聞いてほしいことがございましたら、「あい和学童クラブ運営法人」の問い合わせフォームからご連絡ください。子育て支援と児童クラブ・学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ・学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
☆
(ここまで、このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)
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お知らせ2025年9月20日放課後児童クラブ(学童保育所)を舞台にした小説「がくどう、序」が発売中です。日本版DBS制度の理解にもお勧め!ぜひ映像化を!
ブログ2025年9月19日仙台市が放課後児童クラブ(学童保育所)の「全入」(希望者全員受け入れ)の方向へ。歓迎ですが2点を忘れずに!