放課後児童クラブ(学童保育所)の運営形態ごとに長所、短所を考えてみます。理想の運営モデルはある?その5

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所もおおむね該当します)は、全国各地で様々な運営の形態があります。市区町村ごとにそれぞれの運営形態があるといってもいいでしょう。また、児童クラブを運営するその形態ごとに、長所と短所(不便な点)があるでしょう。これまで代表的な運営形態ごとに見てきました、では、運営支援が考える理想の運営モデルを紹介します。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<放課後児童クラブの理想の運営モデルとは>
 運営支援はそもそも、放課後児童クラブの運営が充実するためのお手伝いをしたい、その目的で私が始めた事業です。ですのでぜひとも児童クラブ関係者の方には仕事の依頼をお願いしたいのですが、それはさておき、運営支援の立場で考える、児童クラブの理想的な運営モデルは次のようになります。
A 子どもへの育成支援について、子どもの意見そのものに耳を傾けることを業務上取り入れている運営形態。
B 子どもの意見や考えを代弁できる立場として、また利用者として、保護者の意見を運営に反映させることを義務づけている運営形態。
C 児童クラブの運営が継続的に安定して実施できるだけの事業規模を備えていること。
D クラブ運営を業とする者が経営、運営に関する業務に常勤職員で従事しており、役員陣の事業の最高責任者は常勤で統括している運営形態。
E 保護者を強制的にクラブ運営事業に就かせない運営形態。
F 運営への参画を希望する保護者に何らかの運営参画の手段を保障する運営形態。企業運営の場合は評議会等で可。
G 計算書類、事業計画、役員に関する情報など、運営に関する情報がすべて公開されており第三者が容易にアクセスできる運営形態。
H 正規職員は、フルタイム常勤で無期雇用とする運営形態。
I 正規職員の賃金体系は基本的に能力給制度とする運営形態。つまり人事評価制度実施が前提となる。
J 小学6年生まで受け入れること、複数クラスがある場合は異年齢集団での受け入れに価値を見出している運営形態。

 以上の観点を全部盛り込んだ運営形態が、運営支援の理想とする児童クラブ運営形態です。もちろん、部分的に取り入れるということはあるでしょうが、上記の観点の1つでもまったく取り入れない運営形態は、理想とする運営形態とは言えません。ですので、仮に、全国展開する広域展開事業者が、上記の観点を取り入れて児童クラブの運営に乗り出したとしたら、私は大賛成です。むしろ、スケールメリットを生かして、継続的に安定した児童クラブ運営ができるわけですから、利用する保護者にしてみても、雇用されて働く職員にしてみても、安心です。

 では、過去に紹介した運営形態に上記の観点があてはまるかどうか確認してみましょう。表の欄の説明は次の通り。
実=実施済み、もしくは実施していることが多い/可能性が極めて高いか確実
可=導入や実施が可能/可能性がかなり高い
消=導入や実施しようと思えばできるが、現状は否定的/可能性は低い
不=導入や実施したくても制度上や運営上において不可能/可能性は無い・極めて低い
無=導入や実施についてそもそも必要ないと判断、あるいは逆に悪影響を及ぼすと判断されているもの
見=表面上は導入や実施していると掲げているが形式的にすぎない場合がほとんどのもの
(記載の順序は可能性が高いものからです)

公営クラブ株式会社(広域展開事業者)保護者運営系の非営利法人保護者会・運営委員会(任意団体)(参考)保育所・こども園系非営利法人

(子の意見表明)
消、見可、実実、可消、可

(保護者の意見反映)
実、可消、無

(事業安定性)
実、可消、可実、可、消

(常勤による経営運営)
消、可、実

(保護者強制参加ナシ)
可、消、実

(保護者運営参画保障)
無、不、消無、不、消無、不、消

(情報公開)
無、不実、可消、不可、消

(無期雇用)
無、不無、不可、実可、実可、消

(能力級)
無、不無、不、消消、不、無不、無無、不、消

(6年生まで)
可、消実、可可、実

 <ズバリ、こうした形態が良い!>
 運営支援が「あったらいいな」、いや「ぜひ到達点とするべき」と考える運営形態は次の通りです。

「放課後児童クラブ運営を中心的業務として営む非営利法人であり、主要な役員は常勤であること、運営本部(事務局)に常勤職員を雇用して複数の児童クラブを運営している形態」
 理由は次の通り。
・非営利法人であることから収入(補助金と利用者負担金)の大部分を事業の経費に投下でき、剰余分もまた事業に投下することになる。→人件費の確保を最優先としやすいので、職員の安定的な継続雇用が可能となりやすい。これは、税金からなる補助金の有効な使い方、つまり社会への還元を可能とすることで最も重要です。
・常勤の役員と組織運営従事者も常勤職員のため、組織運営に関して専門的な知識、ノウハウを積み上げやすい。
・運営するクラブ数が増えれば増えるほど、事業の規模が拡大し、事業体としての安定性を確保しやすい。

 株式会社でも、保育所系の社会福祉法人や学校法人でも、ある程度は運営支援の理想とする観点を取り入れた事業運営、事業体の経営は可能でしょうが、株式会社の場合はその最大の目的である利益の確保においてまったく無視することは、よほどの外的要因でもなければ不可能でしょう。外的要因とは、「児童クラブを運営することで、他の事業に多大な利益をもたらす。児童クラブに投資した経費以上の利益を他の事業で取り戻せる」ことがあります。児童クラブに入所させた児童が高学年や中学生になったら系列の学習塾に入れさせる、ということです。またスポーツクラブや英会話教室も同様です。

 非営利法人であっても、多数、例えば100以上のクラブを各地で運営する事業体ともなれば、運営形態が非営利法人であるだけで営利法人と同じ「事業を営んで収益を上げる」企業と何ら変わりがありません。これは、現在の公募プロポーザルや指定管理者の選定において、事業規模や他地域でのクラブ運営実績に対して配点がある審査基準において、他の応募事業者との競争に有利となります。事業規模や運営実績において他の事業者、とりわけ営利企業のライバル事業者と何ら見劣りがしないとなると、「子どもや保護者の意見を反映している、反映しやすい事業の仕組み」が、競争において有利に働くことになります。事業運営に利用者の意見を反映させているか、利用者が望むきめ細かなサービスが実施できているか、の点です。

 逆に、注意しなければならない点もあります。最も心配な点としては、非営利活動としての誤解です。非営利活動であっても、事業を営んでいる点においては営利法人、つまり世間によくある通常の会社、企業と何ら変わりがありません。事業の効率を上げ、生産性向上に留意し、使う経費に対して最大限の果実、効果を求めなければなりません。ところが非営利活動に従事する場合において、いろいろな場面で、私に言わせれば「気のゆるみ」、つまり、「経費は二の次。質こそ大事」という意識が圧倒的に優位になりがちなのです。もちろん質は大事。だからといって、例えば、「子どもがいる時間は、めいっぱい、子どもと関わる。事務仕事は後回し。よって、クラブが閉所してからのんびりと事務仕事を片付けよう」という意識です。それはダメです。就業時間内に必要な仕事は終わらせる。自分の好きな事、やりたい事だからといって、自分で勝手に判断して仕事を後回しにするような意識が根付いている事業者では問題です。仮に、終業時間内に取り組めない業務であったり終わらせられない業務だとしたら、その業務の位置付けを見直す必要がありますし、その見直しを的確に指示できる事業体でなければならないのですね。

 また、いくら事業規模が大きく事業体として安定した運営ができるとしても、事業体の運営に就く役員や本部職員が、コスト意識を欠いていたり、あるいは「子どもと保護者、そして行政及び地域社会、それら関係各位にとって最大の利益をもたらすための運営を行う必要がある」という、「社会に奉仕する理念」を忘れてしまっては、まったく意味がありません。むしろ有害な存在になります。法令遵守のもと、規程規則に従ったルールに基づいた運営、つまり組織統治の安定が欠かせません。最高責任者が病気でしばらく休みの間に開かれていた理事会で年度の事業計画を理事会が勝手に変更し、それを最高責任者があたかも了承しているかのように議事録を偽造して行政に提出、行政からの指摘に対しても「責任者の指示です」として虚偽の説明をするようなそんな組織は、公共の福祉に資するための児童クラブの世界に存在してはならない組織ですし、この社会にとって害悪そのものです。そんな組織に税金からなる補助金を交付するようなことはあってはならないのです。

<今こそ変革の時>
 広域展開事業者による児童クラブ運営が急激に増えています。それが子ども、保護者、雇用されて働く職員にとって満足のいく運営であれば運営支援の立場からは何も不安はありません。しかし現実は、不安だらけです。株式会社系の広域展開事業には、あまりに看過できないひどい運営実態がはびこっています。表向き、知られていないだけです。あのスキマバイト問題がその分かりやすい例でしょう。
 では非営利法人による広域展開事業者なら大丈夫かと言えば、まったくそんなことはありません。前年度は非営利法人系の広域展開事業者による補助金の詐取に等しい不正常な交付がありました。また、徐々に勢力を拡大している非営利法人系の広域展開事業者に属する方から、法令遵守の観点ではありえないひどいことが行われているという内部情報も、残念ながら弊会に寄せられています。

 しかし残念ながら、行政は、「表向きの説明、業績」しか見ません。それは当然で、公募や指定管理者の選定では、資料そのもので判断します。資料外のことで判断することはしてはならないのですから。裁判だって同じことで提出された資料や出廷した者の証言だけで判断しますが、それと同じです。恣意的な判断をしない、という当たり前のことが児童クラブの世界では結果的に不利な状況となっているようです。これは審査基準に係る内容そのものが広域展開事業者に有利であるという根本的な問題を是正しない限り、続く問題ですが。

 現状において、「子どもと保護者、職員にとって、少しでも理のある、利もある児童クラブの運営をしたい」というのであれば、その志が運営に反映させやすい形態、つまり、非営利法人による広域展開事業を目指すことが、結果的に、児童クラブから利益を必要以上に吸い取る現在の補助金ビジネスの浸食を食い止めることになります。(なお、必要以上の利益を吸い取ることを私は懸念しているだけで、通常の事業活動の結果、得られた剰余金を利益計上することは大賛成です。株式会社であろうが何であろうが、私は特定の運営形態を拒否するものではありません)

 これから日本版DBSの実施に向けてその準備に対応する期間を迎えます。複雑な制度ゆえ、どうしても事業規模が大きく、安定している事業者に有利となります。それはつまり、広域展開事業者にとってますますのビジネスチャンスとなります。公営クラブの民営化もさらに進むでしょう。地域に根差した非営利法人から、事業規模が大きく安定した、カタログスペック上は素晴らしい広域展開事業者への切り替えも進むでしょう。この激流の流れを変える、大規模な「治水」が必要です。それはつまり、児童クラブ運営を専業もしくは中心事業とする非営利法人で、その運営に透明性を備え職員の雇用を守るスタンスにある事業者の、事業の規模拡大です。

 この重要性を訴えているのは残念ながら日本広しといえども、この運営支援だけではないでしょうか。もう、残された時間は少ないのです。児童クラブの世界の方々には、ぜひ考えていただきたいと切望します。そして、すでに広域展開事業を営んでいる企業にも、「どうしたら、より安定した質の高い児童クラブ運営が可能となるだろうか」の観点で、改めて自社の事業の方針を見直していただきたいと希望します。 

 <おわりに:PR>
 弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、アマゾンや楽天ブックスが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください!事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 現在、放課後児童クラブを舞台にした小説を執筆中です。とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説になりそうです。放課後児童クラブを舞台にした小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。出版にご興味、ご関心ある方はぜひ弊会までご連絡ください。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ぜひご連絡、お待ちしております。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)