放課後児童クラブ(学童保育所)の運営形態ごとに長所、短所を考えてみます。理想の運営モデルはある?その1

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所もおおむね該当します)は、全国各地で様々な運営の形態があります。市区町村ごとにそれぞれの運営形態があるといってもいいでしょう。その地域ごとに、地域に適した運営形態を目指した結果が現状である、と言えそうです。ではその運営形態ごとの利点や不便な点を様々な視点で運営支援の独断と偏見をもって考えてみることにします。放課後児童クラブ、学童保育について今一つよく分からない、という方にお勧めです。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<公営クラブの利点>
 市区町村の直営です。直営ということで、児童クラブの事業、すなわち放課後児童健全育成事業が市区町村の責任を持って行われる事業であることが明確となります。市区町村が設立もしくは市区町村が役員を派遣、あるいは出資している団体、組織による運営は厳密には民営となりますが、本質的に公営クラブと近い場合が多いのでは、というのが私の印象です。つまり市区町村が設立した公益財団法人や、社会福祉協議会は「準公営」とみなせる場合も多いでしょう。公営クラブについて私の考える利点は次の通りです。運営支援の立場として事業経営上の視点から考えていることをお断りしておきます。

・突発的な閉所、閉鎖、事業の打ち切りはない。→事業再編による計画的な閉所や統合はありますが、突然「あさってから閉鎖します」ということはありません。これは保護者にとってもっとも安心ではないでしょうか。

・おおむね保護者の経済的負担は低い。→公営クラブの毎月の負担額は数千円台です。公営である=住民にあまり高い経済的負担を負わせられないという配慮は当然あるでしょう。また、相当早い時期に公営クラブとなった地域、例えば1980年代や1990年代に公営クラブを整備した地域は、「その当時において住民が納得できる負担額」として設定された利用料金を基にして改定を繰り返して今の利用料金に至っているでしょう。この場合、「その当時の住民が納得できる負担額」とは、その当時の児童クラブの職員に支払う給与の額をまかなえる程度の事業収入が得られることを前提とした負担額であると想定できます。その当時の児童クラブ職員の給与は、生計を維持できる程度ではなく副収入的な位置付けを満たす程度の水準であったことが多いのです。よって、今と比べて格段に安い給与の額をまかなえる程度の利用料金を設定して、それがあまり引き上げられずに今に至っている、という考え方もできるでしょう。
 また、利用する度合い(受けるサービスの程度)によって追加料金が設定されていることも多いので合計すると民営クラブとあまり差がない場合も実はかなりあります。例えば、午後5時までは基本料金3,000円としても、午後7時までの延長で1,500円、土曜日利用で1,000円、朝午前7時30分からの利用で1,000円となると、合計で6,500円となり、これに実費負担が多い「おやつ代」が仮に2,000円とすると8,500円。ここまでくると民営クラブと2,000円程度しか変わらなくなります。
 また、保護者が支払う利用料金が安いということは、「事業として考えると、収入額が少ない」ということになります。事業を行うには安定した収入が必要で、児童クラブの場合は「補助金」と「保護者負担」の2つが基本です。その1つの保護者からの収入が少ない分、「事業全体の予算を低く抑える」か、「行政が独自に児童クラブ運営の予算を確保する」の2点が必要です。前者の場合は「職員の給与を抑える」か「事業全体の規模を抑制する=開設時間を短くする、土曜日の開所日数を減らす」という選択になります。後者の場合は市区町村が独自に予算を確保しますが結局それは納税者の負担によります。
 保護者の負担額が低いのは公営クラブの大きな魅力の1つですが、「安いことは、何かが削られている。犠牲になっている」ということを認識することが必要です。公営クラブの民営化でサービス向上が図れるとよく行政側はアピールしますが、「そもそも、必要な予算を確保していればできるでしょ?」という当たり前のことを棚に上げています。

・保護者の組織運営に係る負担が少ない。→保護者運営系の民営クラブと決定的に違います。これもまた保護者側からすると魅力です。しかし、運営に係る一部において保護者(会)に任務を委ねている公営クラブは、それなりにあるようです。私のやっている「市区町村データーベース」でも入所案内資料等を見ると、公営の地域であっても「おやつ代、延長料金は保護者会が徴収します」と案内している地域はチラホラとあります。公営クラブであれば保護者の運営負担がない、というのは完全一致しません。

・提供する育成支援の質、サービスが均等となり平準化が可能→これは同一地域同一民間事業者の運営でも可能です。
・小学校の統合など他の行政経営との調整が容易→民間事業者が入らないので調整で時間がかかることはありません。(なお行政内でも首長部局と教育委員会との調整は大変ですね)

<公営クラブの不便な点(上記の利点の反対として言及した点を除く)>
・職員の雇用が不安定。→ごく一部の市区町村を除き、児童クラブの現場(現業)部門の職員は、会計年度任用職員です。働く者が希望すればずっと児童クラブで働けるという確約は制度上、保障されていません。
 一方で、児童クラブは慢性的に人手不足(低賃金と、それに見合った仕事の内容ではないアンバランスによる)のため、会計年度任用職員でもずっと雇用されている人がいると聞きます。そのような人が、育成支援において不適切な考え方の持ち主だったとしたら?問題ですよね。制度上は不安定、でも運用上は同じ人が毎回雇用されているのは問題ですし、その雇用されている人の意向で他の人の採用に影響が出るようであればもっと問題です。

・事態の変化に柔軟ではない。→当たり前ですが、何事も規則、決まり、決定事項、そして前例を踏襲するのが公営事業です。法令や内規に書いてないことは、できません。その点、「よし、ルールを変えて取り組もう」とすぐに対応できる民営とはまったく違います。結果、昼食提供にしてもなかなか実施できないという「出遅れ感」が目立つ分野が多くなります。

・予算不足のため職員の給与が安い。施設がボロボロ。→公営がもたらず必然の結果ではなくて、「市区町村が児童クラブに予算をつぎこまない」結果です。それがおおむね全国の市区町村で同様にみられるのですから、残念です。民営化すると補助金を増額して民営事業者がサービスを拡大することが多いのですが、金があればできることをしないのはなぜか。私の実感では、「人」をつぎ込みたくないのだろうと考えています。
 市区町村の財政部局は固定経費の増大を嫌います。つまり「人」を減らすことに熱心です。児童クラブのサービス拡大はつまり「従事するマンパワーが増える」ことですから、労働時間の延長で対応しきれない分は人を増やして対応します。これが嫌なのでしょう。そして「住民との対応」を避けたいという本音が隠されていそうです。児童クラブ利用者とのやりとりは、楽しい話ばかりではありません。職員へのクレーム、未納の利用料金への対応、いろいろな面倒なことがあります。子ども同士のトラブルで保護者同士の争いに発展することもあります。そういう事態への対応を、市区町村の運営担当者は忌避したいのが本音ですね。

・育成支援が管理型に偏りがち→なかなか充足しない職員体制に加え、「利用者からの苦情、クレームを徹底的防ごうとする」役所、役場の本質的な姿勢から、おのずと「児童クラブで、子どもに関わる不足な事態の発生を極力避けようとする」育成支援になりがちです。その結果、「職員が率先して体を動かす行動を行うことはなく、子ども同士でのやりとりを見守るだけ」「子どもにあれこれ活動させない=管理型の育成支援」に陥りがちです。なおこれは民営クラブでも、特に職員数が充足しない事業者やトラブルを減らすことで安定した運営実績を誇りたい=クラブ運営をどんどん任されたい=補助金ビジネスを拡大したい、という民間事業者にも見られます。

<利点、不便な点をまとめてみました>

公営クラブ子どもへの影響保護者への影響職員への影響行政機構への影響
利点突然の閉鎖が無い/施設が学校内や公共施設内にあることが多く防犯面で安心突然の閉鎖が無い/利用料が比較的低額/概ね運営の負担を負わない非正規とはいえ公務員完全に制御可能
不便な点管理型が行き過ぎた場合にあり/施設が老朽化している場合がある(夏場の冷房に不安)利便性向上が不完全(開設時間の短さ、昼食提供の出遅れ)賃金が低い/雇用が不安定/施設の老朽化による職場環境の悪化(手洗い場など)/研修の取り組みは自腹であることが多い

 公営といっても、首長部局(福祉系の部局が代表的)にあるクラブと、教育委員会・教育部が管轄するクラブでは、また性質が違うように私には感じられます。その違いは大変興味があります。専門に研究されている人はおられるのでしょうか、知見をお伺いしたいです。運営支援ブログでも考えてみたい課題です。
 公営クラブこそ児童クラブ、学童保育の理想だとする意見は、伝統的な児童クラブを基盤とする運動体に根強くのこっています。保護者負担の軽減ができること、児童クラブの事業は公の責任を持って行われるべきだというのがその根拠です。実のところ公営クラブが増えれば公務員が増えるので、市区町村で働く人たちの加入する労働組合の勢力拡大につながる、ということもありますがそれは表立って語られることはありませんね。

 長くなりましたので、民営事業者(保護者会、運営委員会、非営利法人、営利法人)は順次、掲載していきます。 

 <おわりに:PR>
 弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、アマゾンや楽天ブックスが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください!事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 現在、放課後児童クラブを舞台にした小説を執筆中です。とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説になりそうです。放課後児童クラブを舞台にした小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。出版にご興味、ご関心ある方はぜひ弊会までご連絡ください。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ぜひご連絡、お待ちしております。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)