放課後児童クラブを運営する人と働く人の基礎知識シリーズ。その1は「年次有給休暇」。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)を運営する人、クラブで働く人なら絶対に押さえておきたい基礎知識シリーズとして随時掲載していきます。第1回は「年次有給休暇」です。ところで「ゆうきゅう」、「有休」と書きますね。私としては「年休」が好きです。別にどっちでもいいんですけれど、とりあえず短縮形は「年休」にします。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<何日もらえて、何円もらえる?>
 年休、すなわち年次有給休暇は、働いている人の権利として与えられるものです。ここで注意が必要なのは「与えらえる」ということですが、「会社、勤め先から与えられる」のではなくて「働いている者の権利として与えられる」ということです。年休は、以下に紹介する要件を満たすことで自然に発生するもので、会社や勤め先が「あなたには年休を使うことを許可します」という形で使えることができる、ということではないことです。運営する側(以下、使用者とします)の許可が必要というものではありません。

 年休は、「6か月間の継続勤務」と「8割以上の出勤率」の2つの要件を満たした場合、当然に発生します。週休2日で働く通常の正規(常勤)職員の場合、何日、年休が付与されるかは次の通りです。なお、以下の事例通りに年休が付与されるのは「1週間の所定労働日数(契約で決まった働く日数)が5日」であるか、又は「1週間の所定労働時間(契約で決まった働く時間)が30時間以上」の場合となっています。例えば、非常勤のパート職員で毎週5日の出勤、1日につき4時間勤務するという契約で働き出した場合が該当します。または、非常勤のパート職員で毎週4日の出勤、1日につき8時間勤務するという契約でも、該当します。
・6か月の継続勤務=10労働日   (例:2024年4月1日入社の職員は、10月1日に10日付与)
・1年6か月の継続勤務=11労働日 (例:2024年4月1日入社の職員は、2025年10月1日に11日付与)
・2年6か月の継続勤務=12労働日 (例:2024年4月1日入社の職員は、2026年10月1日に12日付与)
・3年6か月の継続勤務=14労働日 (例:2024年4月1日入社の職員は、2027年10月1日に14日付与)
・4年6か月の継続勤務=16労働日 (例:2024年4月1日入社の職員は、2028年10月1日に16日付与)
・5年6か月の継続勤務=18労働日 (例:2024年4月1日入社の職員は、2029年10月1日に18日付与)
・6年6か月以上の継続勤務からは、毎年、20日労働日を付与されます。2030年10月1日に20日付与されると、その1年後にまた20日付与となります。

 では、「週に3日、1日につき4時間働くパート職員」は、どうなるのでしょう。もちろん、「6か月継続勤務」して、「出勤率8割以上」の2つの要件を満たした場合、年休が発生します。「週4日以下」の勤務であり、同時に「週の所定労働時間が30時間未満」の場合は、「比例付与」として、年休が発生する日数が決められています。その表はここには掲載しませんが、ネット検索すればすぐに見つかります。一応、計算式を紹介しますと、「(上記で紹介した)原則的な付与日数×(週の所定労働日数÷5.2)」となっています。週4日勤務の人が6か月間、休まず出勤した場合は、6か月の原則的な付与日数は10日ですから、「10×4÷5.2=7.69(端数省略)」となりますが、「端数切捨て」で構わない(切り上げてももちろん良い)ので、「7日」となります。切り上げると働く人に有利(会社にとっては出費が増えるので不利)ですが、働く人に有利になることは全く問題ありません。

 では、お金はいくらもらえるか。これは法律上、3つの方法があり、そのどれを採用するかについては、使用者側(会社、組織)が「就業規則」で決めたり、「労使協定」で合意したりした方法となります。分かりやすいのは、「所定労働時間、働いた場合に支払われる通常の賃金」ですね。時給1,500円のパート職員が1日4時間の年休を使ったら、6,000円もらえるということです。他には「平均賃金」で計算するもの、「健康保険法による、標準報酬月額の30分の1の相当額」となっています。月給制で働く職員の場合で、所定労働時間で年休の額が決まるとなっている場合は、「今年、自分は1日分の賃金は何円になるのだろうか」ということを、しっかり確認しておきましょう。運営の本部に尋ねれば普通は教えてくれます。

※年休が出る日について=上記にあるように、最初は6か月後、その後は1年を経過するごとに付与されます。年休が生じる日を「基準日」といいます。職員を採用するごとに半年後、その後1年後と年休を管理するのは、大変です。よって、年休を与える基準日を統一することができます。一番分かりやすいのは「4月1日を基準日」とすることです。1月1日に採用した新人職員は4月1日を基準日とした場合には、すでに6か月勤務をしたものとみなして4月1日に10日を付与すること、ということです。当然、その翌年の4月1日には「11日」が付与されます。この場合において、5月に職員が退職したからといって、4月1日に付与した年休の行使を拒否することはできません。与えた年休は取り返せないのです。

<「絶対に」年休を使いたいときに使えるとは、限らない>
 年休は、働く人の権利ですから、いくら児童クラブが4月の春休みや8月の夏休みといった繁忙期であろうとも、その時に年休を使うことに問題はありません。年休は、働く人が「時季」を指定、選択する権利を持っています。これを「時季指定権」といいます。時期ではなく時季です。なお、年休は「契約で働く義務がある日の、義務を免除する」という効果がありますから、例えば正規職員が育児休業を取得している時に年休を使いたいとしても、もともと休業中で労働の義務がない日ですから、年休を行使(=1日分のお金をもらうこと)することは不可能です。

 ところが、使用者側にしたら困ることがあります。いくら働く側が年休の時季指定権を行使するからといって、忙しい時に相次いで年休で休まれたら、正直、たまったものではありません。「会社には、時季変更権があるから大丈夫!」と思っている使用者側が多いのですが、それ、なかなか難しいですよ。

 児童クラブの場合は、ほとんどがシフト制でしょう。この日にこの人たちが出勤する、と決まっている勤務割のことです。年休をめぐっては、使用者側、つまり会社側に、このシフトをもうできる限り調整に調整を重ねた上で、どうしても代わりの人、いわゆる代替勤務者がほぼほぼ見つからないという状況に追い込まれて初めて、時季変更権を行使できるものだ、と過去の裁判で示されています。安易に「シフトを変える、いじるのは面倒くさいから、この日の年休はダメ」とは言えません。この点、多くの児童クラブ事業者では、安易に「年休ダメ」と言っているケースが多いのだろうと私には感じられます。法令遵守の点では失格です。

 児童クラブの使用者側が時季変更権を行使しても問題ないと私が想定する事例は、「夏休みになった。正規職員2人のうち、1人は病気で1週間休んでしまった。応援に入れる他のクラブの職員は時期的に見つからないし、ヘルプ勤務に入れる幹部職員も他の欠員クラブで勤務が続いている。このような状況にて、もう1人残っている正規職員が、シフトを急に変更して年休をあさってから連続5日使いたいと会社に申し出てきた場合」です。このような場合、使用者側つまり会社は、応援に入れる職員がなかなか見つからない上、急なシフト変更によって必要な代替勤務者の確保もままならないという状況に追い込まれます。こうした場合は、使用者側の裁量を認めることもやむを得ず、時季変更権を行使できる、ということになります。直前の長い年休の行使には使用者側の裁量を認めることはやむを得ないという裁判所の判決があるのです。

 働く人も雇う側も、お互い、気持ちよく仕事をしたいものです。ですから、年休はもちろん働く人の権利ですが、直前の連続した年休申請は、実際に事業に影響を及ぼすことも多いのですから、事前に余裕を持って、時季を指定することが大切です。使用する側は、ギリギリまで働く人の権利を守るために尽くさねばなりません。実はここが問題のある事業者が多いのが困ったところですが、本来は働く人の年休をしっかり行使してもらうことで休んでもらって、心身をリフレッシュしてもらって仕事に頑張ってもらう、という考えを持つべきです。

 なお、年休の申請の時に、理由を明記させる事業者がありますね。別に理由を明記する欄があってもいいのですが、理由を持って「この理由なら年休はダメ」ということは許されません。年休を申請する側は「私用」でも「休息」でもいいのです。なお、この「申請」とは、「年休を使うことを申請」ではありません。「時季」を「申請」の意味ですからお間違えないように。

 脱線しますが、旧ツイッターでは保育士さんと思われるアカウントから時々「保育士が全員一斉に有休使って休んじゃえばうちらのことを少しでもまともに考えてくれるかもよ」という趣旨の投稿があります。当たり前ですが、年休行使を語って事業をストップさせることは脱法行為です。年休を使って自分の職場の争議行為に参加することは認められないという判決もあります。逆に損害賠償を請求されるのがオチですし、多くの良識ある閲覧者から「保育士ってバカばっかりか?」と思われてしまいますから、賢明な児童クラブ業界の人はそのような投稿はしないようにしましょう。

<諸注意を列記>
・出勤率の計算=「出勤した日」÷「全労働日」で算定。なお、休日出勤した日(法定休日以外に、シフトで決まっていた休日も含む)は計算式の分母から除外します。生理休暇で休んだ日は「出勤した日」に含まれなくても良い、つまり出勤日に加える義務は会社にありません。

・病気などで仕事を休職していた期間=出勤率は当然下がります。よって長い間、休職していた期間が終わって仕事に復帰しても、その次の年休付与日には年休は出ないことがあるでしょう。しかし、その次の付与の時には、休職していた期間を通算して年休の付与日数が計算されます。例えば、前回の付与日に12日の年休をもらっていた人が休職していて次の付与日には年休は出なかった。でもその次の付与日には、16日の付与がある、ということです。

・年休が付与された後に契約が変わって所定労働時間が長くなった場合=「年休を行使する時点」での契約に従います。例えば、年休が付与されたときのパート職員は1日4時間勤務だったが、その後、契約を変えて5時間になったとしたら、年休は1日5時間分となります。もちろん、付与後に働く日数が減ったからといって与えられた年休の日数が減るということは、ありません。騙されないでくださいね。

・年休の買い上げはダメだが、可能な場合もある=年休の繰り越しは2年。これは多くの人は知っているでしょう。2年で使いきれなかった年休を会社が買い上げる=その分の支払をする、ということは違法ではありません。

・時間単位の年休=使えるようになるには、労使協定を結びましょう。1年に5労働日が上限です。なお、「半日休」については特に決まりを設けずに運用することが可能ですが、半日休の場合の賃金について事前に定めておくことが必要なので、結局は就業規則において半日休の規定を設けておくべきでしょう。

・付与義務に注意=10日以上の年休がある場合、だいたい正規職員になりますが、使用者側は、付与から1年以内の間に、「5日分、時季を指定して年休を使わせる」ことが義務づけられています。これは、日本人はなかなか年休を使わないというもので働き過ぎの批判があったことから強制的に年休を使用させる制度のようです。よって、職員が自ら年休を行使する場合で、5日を超えて自分で年休を使っている場合は、この「使用者による時季指定」は必要ありません。逆に言えば、職員側が年に5日を超えて年休を使っていない場合、使用者側、つまり会社側が罪に問われます。5日の年休を使わなかった労働者1人つき30万円の罰金ですから、結構重いです。

・年次有給休暇管理簿=使用者には、与えた年休について、年次有給休暇管理簿を作成する義務があります。5年間(当分は3年間)の保存義務があります。職員1人ごとに、年休を与えた日、基準日を記録したものです。労働者名簿や賃金台帳(これらも作成保存義務あり)と一緒に調整(つまり、作る)ことが可能です。必ず作成しましょう。

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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