放課後児童クラブは本当に「お金」が無い?いえいえ、実はがっちり稼いでいる事業者がある。見過ごしていいの?

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。7月20日に出版される私の初の本は基本的に「学童の世界で働く人の低賃金、過重労働を早く改善しないと、学童はこれ以上もたないよ!」という趣旨です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)は常に金欠であり予算不足なので、働く人がワーキングプアなのは事実ですが、では事業者はどうなの?データを見ると、がっちりカネを稼いでいる者がいるところにはいる、ってことが見えてきますよ。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<放課後児童クラブの「儲け」>
 放課後児童クラブの世界にまつわる「カネ」については、「令和4年度子ども・子育て支援推進調査研究事業 放課後児童クラブの運営状況及び職員の処遇に関する調査報告書」(令和5(2023)年3月 みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社)が、とても有用です。ぜひこの調査と同等の調査を継続的に実施していただきたい。

 過去にも紹介していますが、放課後児童クラブがどれだけ稼いでいるか、この調査から抜粋してみます。この調査では「損益差額」という科目で示されているもので、要は、「収入から、児童クラブの運営に必要なお金を全部支払って残ったカネ」、つまり「儲け」です。ここでは調査票の表記に従って「公立民営」、つまり行政が設置して運営は民間企業、民間団体が行っているクラブの儲けについて、クラブが存在している地域に注目して比較してみます。数字の単位は千円です。政令市の収益なら「2017万8,000円」になります。

政令市特別区中核市一般市町村
収益20,17841,41118,31017,23414,157
費用17,75832,71217,02816,26313,414
損益差額2,4208,6991,282971743
(参考)費用における、人件費の割合66.35%63.13%69.54%72.64%73.56%
(参考)収益における、補助金・委託料の額15,85339,48114,17813,26710,889
(参考)収益における、利用者による利用料等3,2041743,2823,1002,686

 収益は主に「補助金もしくは委託料」と「利用者による利用料等」からなります。費用は主に「人件費」や「事業費・事務費」です。参考として、費用における人件費の割合も表に付記しました。

 この表から読み取れることは、ずばり、「特別区(東京23区のこと)の民営クラブは、1年間で869万9000円も儲けている!」ということです。これが、通常の市では、97万1000円になります。この差は、あまりにも異様な差です。特別区は、その場所から家賃も高いですし施設を造ろうにもカネがかかる、最低賃金が一番高い地域です。だから、事業にまつわるカネが他地域に比べて増えるのは当然です。しかし、収益がずばぬけて多い上に、費用も多いものの他地域ほど費用がかかっていないというか、費用をかけていない。その分かりやすい数値が、労働集約型である児童クラブにおいて最も費用がかかる人件費の割合です。特別区は63.13%と最も低くなっていますね。場所柄、賃金を高く設定しなければならないのに、人件費に充てる割合は最も低くなっている。つまり費用(支出)を抑えている。そりゃ、損益差額は増えますよね。

 損益差額が増えるには、収益が多くなることも必要です。この点、特別区は他地域と明確に差をつけています。補助金・委託料の額が圧倒的に多いのです。つまり、それだけ行政が公的なお金をつぎ込んでいる、ということ。区の財政が豊かであることが影響しているでしょう。補助金・委託料の原資は、もちろん税金ですね。住民・法人の区民税の場合もあるでしょうが、国が出すのであれば国民の税金です。
 対照的に、利用者から集める保護者負担金(いわゆる保育料、利用料、月謝)が他地域と比べて極端に低いのも特別区の特徴です。これは、全児童対策事業が多いことが影響しているでしょう。極めて低額な料金で午後5時ごろまですべての児童を受け入れ、午後7時ごろまでの受け入れが必要な児童から数千円程度の利用料をもらう、というパターンです。しかも区内はいまだに小学低学年に限った受け入れの地域があります。

 この表に記載していませんが、調査では公立公営のデータも掲載されています。こちらも実に興味深いもので、特別区にある公立公営クラブの損益差額は、なんとマイナス11,352千円、つまり1135万2000円の赤字です。赤字でもやっていけるだけ区の財政力があるとも言えますし、損益勘定度外視でやっていると言えます。赤字の要因は、保護者から徴収する金額は民営と同じように低額でありながら補助金・委託料の額が大幅に減っているからです。なんと町村よりも低い額です。公営の全児童対策事業では放課後児童クラブ並みの補助金が国から交付されないから、なのでしょうか。このあたりはより事情に詳しい方の解説が必要です。

<特別区のクラブ職員の収入は?>
 では、同じ調査から、地域ごとの児童クラブ職員の収入額を見てみます。比較する職員は、月給制の放課後児童支援員です。イメージとしては、常勤(正規)職員で資格がある者、ですね。

政令市特別区中核市一般市町村
平均年齢46.8歳35.7歳45.2歳48.8歳48.6歳
平均勤続年数7.2年3.1年7.1年6.2年6.8年
年間支給額(賞与込)3,297,621円3,545,083円2,937,967円2,743,940円2,704,610円
(参考)損益差額2,420千円8,699千円1,282千円971千円743千円
(参考)費用における、人件費の割合66.35%63.13%69.54%72.64%73.56%
(参考)収益における、補助金・委託料の額15,85339,48114,17813,26710,889
(参考)収益における、利用者による利用料等3,2041743,2823,1002,686

 この表から読み取れるのは、「特別区は、あんなに儲けがあるのに、年間支給額は他を圧倒するほど高額ではない」ということです。人件費の割合が最も低いのですから、そうなりますよね。
 もう1つ気になるのが、平均年齢と平均勤続年数。他地域に比べて10歳程度低い年齢で、かつ、勤続年数は半分以下ですよね。これ、どういうことかといえば、「若い職員が多いけれど、長続きしない」ことと「平均年齢や平均勤続年数を引き上げる要素となるベテラン職員も少ない」と言えるでしょう。

 それにしても、ですよ。損益差額を869万9000円も、民営クラブ事業者が確保しておきながら、物価高で家賃も食料品も値が高い都内に住んでいたり買い物したりする児童クラブ職員の給与は、他地域とそんなに変わらない。そりゃ、短期間で辞めますよ。無理もない。勤続年数が短いというのは、経験値の蓄積がさほどではないということですね。児童クラブの職員において短期間でころころ職員が変わる弊害はいくらでもあります。特に、こども、保護者との信頼関係を深い程度で構築できないことがあります。もっとも、全児童対策ではもはや児童、保護者と1人1人の関係を築くことは難しいだろうし、学年別の受け入れで預かり機能に軸足を置いている事業形態では、短期間の職業経験でもクラブ運営をやっていける仕組みができあがっているのかも、しれませんね。

<社会はもっと関心を持って監視するべき>
 私は何度も繰り返し述べていますが、児童クラブにおける民営化、民間企業の算入は賛成です。もともとNPO法人という民間企業で児童クラブを運営していた立場ですしね。いま、私が自分自身の知見を深めようと行っている全市区町村のホームページから見る児童クラブの展開状況ではっきりうかがえますが、開設時間が短いとか、土曜日を閉所するといった子育て世帯にとって利便性で不利な状況で運営されている地域にあるクラブは、もれなく公営のクラブです。おしなべて公営の方が児童福祉サービスのうち利便性においては民営に比べて劣っています。もっとも、限りなく少ないですが日曜日や祝日にクラブを開所するという素晴らしくぶっ飛んだサービスを提供するのもまた公営ですが。

 民営事業者が、「前例の縛り」にとらわれず柔軟でかつ速やかに問題解決やサービス向上に取り組めること、その結果として生産性を向上して費用対効果に優れた施設運営をすることこそ、民営化の意義だと私は考えています。それを実現するためには職員にもその能力に応じて報酬を分配することが必要です。そういうことをすべて行ったうえで、利益が出る、損益差額がたくさん出るのであれば、それは最も歓迎するべきことです。公営事業のアウトソーシングでは儲けを得てはならない、とは私はまったく思いません。どんどん儲けましょう。しっかり稼いで株主に還元しましょう。
 しかしそれは、「十分質の高い事業が行われていること、そこで働いている者の報酬が必要十分に確保されていること」は絶対条件です。勤続年数3年ちょっとの職場が、そこで働く者にとって、労働の対価として十分な報酬を得ているとは想像できません。しかも年収額として示されているデータでは他の地域とさほど変わらない。しいていえば最低賃金の差額プラスアルファ程度しか上積みされていないのですから。

 それでいて、1クラブで900万円近い儲けを、特別区内にある民営事業者が得ている。その原資の多くは税金からなる補助金であるということ。このことは、税金の正しい使われ方として適切でしょうか?私は、そうとは思いません。その儲けの額であっても職員の年収額が他地域より2倍以上も高いというのなら、まだいいでしょう。もっともそうであっても、税金からなる補助金は、必要最低限度の額で十分ですから、いかにも「補助金の額が多すぎ」と判断されるでしょうが。

 このことは、もっと社会が注目、監視していかねばなりません。1クラブ900万円近い儲けに化けてしまう税金があれば、もっと他の事に投入できませんか?児童クラブの増設でもいいし、児童クラブではない子育て支援サービスに投入することだってできるでしょう。また、賃金条項を設定した公契約条例を設けて児童クラブ職員への賃金の下限を高めに設定するということだってできるでしょう。

 社会はもっと児童クラブにおける税金の効果的な使われ方に関心を持たねばなりません。「1クラブあたり900万円近い儲けを半分にするような補助金の額にして、浮いた450万円近いお金で何か他にできないの?」と考えることが大事です。
 まして重要な存在なのは議員です。予算を可決するのは議員ですから、議員は税金の使われ方に最も敏感にならねばならない。児童クラブに投じた税金が最終的に「誰の利益」になっているのか、知らずして委員会や本会議で討議しているとしたら、残念です。都内では宅配弁当による児童クラブの昼食提供を相次いで開始していますが、事業者にポンと900万円近い儲けをただただ渡すよりも、そのカネを使って、例えば就学援助を受けている世帯やひとり親世帯、それ以上の低所得世帯への弁当を無料にするということだって提案できるでしょう。議員は児童クラブにおいてどのようにカネが流れ、最終的にだれの利益になっているかを考えて行政執行部と有益な議論を重ねていただきたいと期待します。これは特別区だけでなくどの地域でも同じことです。

 だって、都内に10クラブを運営する広域展開事業者ならそれだけで1億円近い純利益を手に入れられるんですよ。そんな事業者はたくさんあります。まさに、「都内で児童クラブを運営して、がっちり!」な状況です。(実は地方でも、年々増えていく補助金に比べて低い最低賃金という構図で「補助金と最低賃金の差額で、がっちり!」な状況)。そしてそのがっちりを生み出すお金はほとんどが税金なんだ、ということ。それが公正な税金の使い方に当たるかどうか、ぜひ、国会や地方議会で議論をお願いしたいですし、学者先生には見解を打ち立てていただきたいと大いに期待します。会計検査院もこの構図に注目されたら、いかがですか?税務当局も。

<おわりに:PR>
※書籍(下記に詳細)の「宣伝用チラシ」が萩原の手元にあります。もしご希望の方がおられましたら、ご連絡ください。こちらからお送りいたします。内容の紹介と、注文用の記入部分があります。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されます。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、アマゾンが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
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 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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