放課後児童クラブは、保護者のお客様化を恐れることはありません。「頼りになる常連さん」になってもらいましょう。
放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブの中でも、保護者運営の世界が懸念すること、そしてどの運営形態でもクラブの現場で働く職員が恐れていることがあります。「保護者のお客様化」現象です。私は、あえて言います。「お客様化を恐れないでいい。むしろ、こちらにとってありがたいお客様になってもらおう。お客様化、上等だ!」
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<お客様化>
ここでいう「お客様」とは、私の感じでは、否定的なニュアンスを相当含んだものです。無茶な要望を突きつける、自身が納得しないことを受け入れない、カスタマー・ハラスメントに及ぶような者です。児童クラブの世界においては、児童クラブ側で示している決まりやルールを守らないで自身の都合によって行動、判断することが常態化している保護者や、児童クラブ運営事業者が提供できる利便性をはるかに超えた利便性の提供を強く求めて引き下がらない保護者を指します。
「もっとクラブで勉強させてください。宿題だけじゃなくて、予習復習で最低2時間は学習の時間に使っていただかないと困ります」
「おやつは、オーガニック素材の無添加で国産の、絶対に安全なものをお願いしますね」
「朝の8時開所では遅すぎます。午前7時30分から、できれば午前7時からクラブを開けてください/午後7時までのお迎えは無理です。午後8時までにしてください」
「あの職員、うちの子は無理だって言っているんですよ。異動させていただけませんか?」
「クラブが古くて不安です。別のクラブに移してください」
「うちの子、あの子が嫌だって言っているんです。登所したとき、うちの子の、あの子が近寄らないように対処してください。すこしでも接触があるようでしたら行政にこちらから申し入れますからね」
とまあ、いろいろあるでしょう。(ちなみにこれ、全部私が直接、面と向かって言われたことでもあります)
児童クラブ側が、お客様と化した保護者を避けるのは「言われても、対応のしようがない」からです。つまり無理なことを要求されるからですね。将来的に改善や改良を考えている事でも、「今すぐ」と求められてはそれはできません。そのことを説明しても「いや、ダメです。将来に改善や改良するなら前倒しして今すぐに取り組んでください」と逆に更に要求がエスカレートするのが常です。
求めるお客様保護者が何らかの理由で引き下がらない限り、延々と対応する時間だけが過ぎていきます。必要人数を下回る人数で事業を行っている児童クラブ職員(これは運営本部も、現場も同じ)にとって、延々と、すぐに解消できない課題について要求を受けることほど、生産性を下げる事象はありません。つまり「無駄な時間」が過ぎていくのです。
<お客様であることは否定しない>
ここでいうお客様とは、「サービスを受けてその対価を支払っている者」を指します。児童クラブの世界で使われる「お客様」というのは、先に延々と述べた「理不尽な自分勝手の要求を貫こうとする保護者」を意味しますが、得てして、「児童クラブ側の意向に従わない保護者」に拡大して解釈されています。そこには、本来であれば児童クラブ側が至急、改善や改良に取り組まねばならないのにその必要性、重要性に気が付かないかあるいは意図的に無視をして、客観的に見れば正当な要求をしている保護者を結果的に不利な立場に追いやってしまうという現象があります。つまり、「あの先生の言葉遣いが子どもたちを脅かしているので、もっと穏やかな言葉遣いにしてください」と保護者側が求めても「別に子どもを脅そうとしているのではないから、言葉遣いを変える必要がない!」と撥ねつけるような事象が当てはまるでしょう。
当たり前のことを忘れてはなりません。児童クラブが絶対的に保護者より「立場が上」ではありません。あくまでも、サービス業です。「福祉はサービスではない!」と脊髄反射で反論が飛んできますが、「役務を提供すること」がサービスの本質です。脊髄反射の人の脳裏には「提供した役務以上のことを無償で我々が行わねばならない」ということがイメージされているはずです。それはサービスの拡大解釈です。私だって、契約した内容以上の役務の提供を、無償で提供することは反対です。「契約で取り決めた内容を提供する」サービスは当然のことで、どうしたってそこには、提供する側と、提供される側が発生します。提供される側、それは子どもであり保護者ですが、保護者は提供される以上、「お客様」になります。客は、サービスを得る、その対価を払うことが客の本質だからです。
ですので、児童クラブの利用者がお客様であるのは当然です。注意したいのは、「取り決めた内容以上の役務を無償で提供すること」の取り扱いだけです。「お客様化」はある意味において当然です。つまりは「困ったお客様」にしなければいいのです。
<2通りの対策>
困ったお客様化を食い止めるのは今も昔も2つの方策しかありません。いわば「北風と太陽」の方策です。北風だけでも太陽だけでもダメです。両方をバランスよく行うことです。
北風は、「利用規則、ルールの厳格化と徹底」です。児童クラブで保護者とトラブルになる、意見が激しく対立する事案はいろいろありますが、主なものは私の感覚からすると次のような事項です。
・時間外(延長)料金の支払い。特に、午後〇時以降は〇〇円、という形式の場合に起こりがち。「〇時には敷地に到着していた」「予想外の道路渋滞でいつもなら間に合っていた」という内容があります。
・保護者負担金(利用料、保育料というもの)の未納、滞納による退所の扱い。未納分の請求に直ちに応じない世帯への対応。
・入退所の時期。特に退所。退所期日に関して一定期間の申し入れ期日を設定している場合、それを過ぎての退所申し入れに関するトラブル。つまり、退所申し入れ期日を過ぎての「辞めさせろ、退所させろ」という要求。
・おやつの内容
・意図的な破壊行為による物品、施設への損害に対する応分の負担請求。つまり賠償。
・宿題の進捗の度合い。「どうして宿題をしたのか、職員は確認しなかったのか」というもの。子どもが「宿題を全部終わらせた」といえばつい信じがちになるけれども、実は全部終わっていなかった場合。
挙げようとすればいくらでも挙げられますが、これら、起こりうるであろう、あるいは過去に実際に起こったことを参考にして、「こういう事態の場合は、こうしてもらいます。こうなります」ということを、様々な事態に関してその対応をきめ細かく定めている規定や規範、規約、ルールを制定するのです。とりわけトラブルが多い事項については入所前の説明会や入所案内資料に「目立つように」記載するなどして、保護者に「確実に伝える」ことが大事です。
皆さんにも経験があるかもしれませんが、クレジットカードや各種ポイントカード、いろいろなサブスクリプションのサービスにおいて、普段はとても読まないような、小さな文字で書かれている利用の規約や決まりには、得てして、「こういう場合には、こうします」と、(たいていは事業者側に有利になるような)決まりが書かれているものです。「これ、どうなんですか?」と異議を申し立てると「実はここに書いてあるんですよ」と事業者に言われてしまいどうしようもなくなるという事態です。その内容があまりにも利用者に一方的に不利であって法令に反しない限り(解約を認めない等)、そのような決まりは原則として有効です。
児童クラブも同じです。「こういう決まりを設けているのを承知して入所したんですよね?」と言えればいいのです。もちろんそのためには、各種の対策が客観的に見て不当な手段ではないことを事業者側がしっかりと説明できることが必要です。
太陽はどうか。太陽は、「保護者を味方につける」ことです。味方とはつまり「児童クラブに一定の信頼を持ってもらう」ことです。北風のところで挙げた困った事態というのは、実はそれが深刻なトラブルになるかどうかは、「児童クラブと保護者との信頼関係の度合いによって変化する」ものです。保護者が児童クラブに常日頃から信頼を持っているのであれば、「ああ、今日は遅れちゃった。先生たちの仕事も退勤時刻にも影響を及ぼしちゃった」と自然と感じるものです。宿題にしても「え、キミが学童の先生に宿題を全部終わったって言っちゃったの?それは学童は悪くないわね」となるのです。
事業者の運営方針として保護者との積極的な関わりを想定していなくとも、支援員自身、職員自身の行動の一環として保護者との関係性を深化することができるでしょう。自分自身を守るためにも、事業を守るためにも、保護者との信頼関係をいろいろな局面を利用して確固たるものにしていくことが重要です。そのためには、保護者がなかなか心を開かなくても、子どもの様子をしっかり伝えること、万が一職員側のミスがあれば包み隠さず伝えて謝罪すること、クラブで行われている育成支援についてあらゆる機会を利用して説明をしていくこと、つまり誠実な態度で業務に向き合い、その内容をもれなく保護者に伝えていくことが重要です。「おたより」も「クラブ連絡通信」も、定期的に発信してください.。
もちろん、「ダメなものはダメ」という態度は必要です。おもねる必要はありません。なんでもかんでも保護者の要求を飲むこととは本質的に違います。気を付けてほしいのは、一部の保護者、特に最初のうちに親しくなってきた保護者と、他の保護者との間で対応に差をつけてはなりません。例えば、「余ったおやつの持ち帰り」です。昨今は衛生上の観点でおやつが余っても保護者や子どもに持たせることはしませんし、それが良いとは私も考えていますが、なにせ、厳しい予算をやりくりして苦労して調達、準備したおやつが、余ったからと言ってむざむざと処分されるのを忍びなく思う、「もったいない」と思うなどのもろもろの感情から、仲が良い保護者に「これ持って帰って」と渡すことは、今も各地でこっそり行われているでしょう。こういうことが子どもの口あるいはほかの職員から、他の保護者に伝わらないとは言えません。「壁に耳あり障子に目あり。児童クラブにゃたくさんあるぞ」です。小さな「特別扱い」が、事業者や職員に対する不信感を招きますから、気を付けましょう。
一番、まぶしくて温かい太陽は、子どもたちが「休みたくないよ。退所したくないよ。児童クラブ、楽しいよ」と言ってくれるまでになることです。子どもの口から、「今日ね、こういうすごいことがあったんだよ」と保護者に児童クラブの様子がしょっちゅう伝えられることが、保護者の児童クラブに対する信頼感を醸成します。その信頼感は、児童クラブと職員に対する信頼感そのものです。よってまずは、子どもにとって安心できる場所である児童クラブを目指すことです。その努力の過程を保護者につぶさに伝えていくことです。困ったことは保護者に投げかけて解決策、アイデアを募ってみることもいいでしょう。ただし事業運営そのものに関することは保護者に投げかけるべきものではありません。それは事業者内部で解決してください。あくまでも、「クラブに置ける子どもの過ごし方の中身」に関することに、してください。「おやつの料金を1日あたり100円から150円にしたいのですが、どうでしょう?」ということは保護者に相談するものではありません。
さて、子どもたちに信頼される児童クラブで生活が安心、安定している保護者は、児童クラブにとって、「頼りになる常連さん」となってくれる可能性が高まります。そうした保護者さんは、児童クラブで困ったことに積極的に手を貸してくれます。まるで、喫茶店のマスターが困っているとき、常連さんが、あれこれと手を貸してくれるように。話を、困りごとの中身を聞いてくれます。そして、一緒に解決するように動いてくれます。児童クラブの保護者は、児童クラブを利用しなければ生活ができないので必然的に児童クラブにやって来る「見かけの常連さん」ですが、児童クラブに信頼感を持ってくれるようになった保護者は、クラブのことをいろいろ気遣ってくれるようになっていきます。全員がそうなるわけではありませんよ。10人のうち数人ぐらいです。それでも、1人でも「頼りになる常連さん」が現れたら、児童クラブの運営も職員の緊張も、だいぶ和らぎますよ。ぜひ、頼りになる常連さんを、確たる狙いを持って、作り上げていきましょう。
児童クラブの運営にはいろいろな形態がありますが、こと、保護者の児童クラブの現場に向けられる感情や感情的対立について事業者は「それは現場でなんとかんして」と誠実に対応してくれないことが多くあります。というか、そればかりかもしれません。最終的に職員が自分自身と同僚を守るための工夫をしなければならないのが現実だとしたら、北風に相当する、保護者が守るべきルールの制定を組織に要求しつつ、太陽に相当する、事業内容の質の向上について同僚含めて職員全体で工夫を話し合っていくことが最終的にわが身を守ることにもつながります。ぜひ、頼りになる常連さんづくりに、取り組んでみてください。
なお、今もまだそれなりに残っている「保護者運営」の児童クラブは、利用者=お客様である保護者自身が運営側でもあるので、サービス向上を突きつけると自分自身が対応に迫られることになります。保護者運営クラブはある意味、利用者たる保護者のお客様化を防ぐことができた反面、「事業の改善と進歩への取り組み」については動きが鈍い、あるいは「面倒だから」「伝統的にやってきたから」という理由で阻害されることもあるのです。また、保護者運営としながら実際は職員に多くのことを丸投げしている運営形態では、これもまた、職員自身が「業務をしやすいように」といつの間にか業務の内容が本来の児童の健全育成と保護者の就労支援からずれてしまっていることも、残念ながらあり得ます。
そういう点では、保護者運営は決してお客様化を防ぐメリットが圧倒的に優れているのではなく、私としては、むしろ弊害の方が大きいであろうことを指摘しておきます。
<おわりに:PR>
弊会は、次の点を大事に日々の活動に取り組んでいます。
(1)放課後児童クラブで働く職員、従事者の雇用労働条件の改善。「学童で働いた、安心して家庭をもうけて子どもも育てられる」を実現することです。
(2)子どもが児童クラブでその最善の利益を保障されて過ごすこと。そのためにこそ、質の高い人材が児童クラブで働くことが必要で、それには雇用労働条件が改善されることが不可欠です。
(3)保護者が安心して子育てと仕事や介護、育児、看護などができるために便利な放課後児童クラブを増やすこと。保護者が時々、リラックスして休息するために子どもを児童クラブに行かせてもいいのです。保護者の健康で安定した生活を支える児童クラブが増えてほしいと願います。
(4)地域社会の発展に尽くす放課後児童クラブを実現すること。市区町村にとって、人口の安定や地域社会の維持のために必要な子育て支援。その中核的な存在として児童クラブを活用することを提言しています。
(5)豊かな社会、国力の安定のために必要な児童クラブが増えることを目指します。人々が安心して過ごせる社会インフラとしての放課後児童クラブが充実すれば、社会が安定します。経済や文化的な活動も安心して子育て世帯が取り組めます。それは社会の安定となり、ひいては国家の安定、国力の増進にもつながるでしょう。
放課後児童クラブ(学童保育所)の運営支援は、こどもまんなか社会に欠かせない児童クラブを応援しています。
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弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。
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放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。
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放課後児童クラブを舞台にした小説を完成させました。いまのところ、「がくどう、序」とタイトルを付けています。これは、埼玉県内の、とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子を丹念に描いた作品ではありません。大人も放課後児童クラブで育っていくことをテーマにしていて、さらに児童クラブの運営の実態を描くテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ご期待ください。
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「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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