放課後児童クラブは、保護者に「子どもが人質にされている」と思われてはなりません。
放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブについて保護者が抱く「負」の感情の一つに、「子どもが人質にされている」というものがあります。児童クラブ側は決してこのように思われてはなりません。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<どういう状況で使われるか>
放課後児童クラブ側としては、保護者の口から決して聞きたくない言葉ですし、思われたくないのが「子どもが人質」というものです。私も何回も聞いたことがありますし、言われたこともあります。ピンとこない人は、幸せといっていいでしょう。
どういう状況で使われるのか。典型的な状況は、「児童クラブ側に起因する困りごとを解消をしてほしいが、それを保護者側から要求すると、クラブ職員の機嫌を損ねてしまうかもしれず、機嫌を損ねたら、自分の子どもにクラブ職員が理不尽な対応をする恐れがある。他の子と比べて厳しく対応されるかもしれないという恐れがある。児童クラブで辛い目に遭わされるかもしれないと不安に思う」という状況です。
「そんな心配、まったく不要です。そんなこと、児童クラブの職員側が、するわけないですよ」と、圧倒的多くの児童クラブ側は一笑に付すでしょうし、むしろ「そんなことを思われているなんて、心外」とがっかりするでしょう。しかし、「児童クラブにとって必ずしも歓迎されないであろうことを要求したら、我が子に不利益がもたらされるのでは」という保護者の心配や不安は、決して存在しないものではなく実際にあります。保護者の中に、児童クラブという存在は、何かあったら我が子に嫌がらせをするかもしれないと感じているという人が、確実に存在しています。
<どうしてそう思われるのだろうか>
それこそ研究者が、児童クラブの利用者たる保護者に意識調査を行って解明してほしいところですが、私の手の届く範囲における過去の体験から考えると、いくつかの原因があると思いつきます。
1 児童クラブのことを「子どもを預かる事業者」として認識している場合。これは、保護者が、児童クラブのことを「料金を支払って子どもを預かってもらっている」という印象を抱いているという状況にあることを意味します。日常的に児童クラブを特に不満なく利用しているし、「子どもの面倒をみてくれてありがたい」と思って感謝もしている。しかしそれは、あくまでも「子どもの預りというサービスに対する」評価です。託児サービスですから保護者が気にする「サービスの質の良し悪し」は、使い勝手などの利便性や、子どもが心地よく預けられている時間を過ごすかどうかに関心が向きます。それが主な関心事項であって、児童クラブ職員については、「適切なサービスを実施することができるか、できないか」の関心程度しか持ちませんし、意識も向けません。こういう場合には、保護者側が、もっと充実したサービスや、不都合の改善を児童クラブ側に求めようとしても、そもそも児童クラブ職員側の職務上の責任が「子どもを無事に預かるだけ」の存在にすぎないと認識しているだけなので、「機嫌を損ねたら、ちゃんと預かってくれないかも」という心配に至るという構造です。この構造には、「児童クラブ職員は、児童の健全育成を業とをして行う、職務上の責任として高い倫理観を求められてもいる」という省令や条例、放課後児童クラブ運営指針について保護者側が存在も中身も知らない、ということが影響しているでしょう。
2 過去に児童クラブ側において残念な経験をしている保護者の場合。とりわけ職員の行動によって子どもが辛い目にあった経験を持つ保護者の場合。これは残念ながら全くゼロとは言えません。日本全国、あらゆる児童クラブにおいてすべての職員が極めて素晴らしい人格者であって、職務に高い誇りをもって育成支援に従事している、とは私は残念ながら申せません。現実的に、日本のあちこちの保護者から相談が寄せられますが、「そんな職員、すぐに解雇しなきゃ!」「そんな経営者、すぐに追い出さないと!」という、信じられないほど呆れたことをしでかす人が、絶対的な人数では少数なのでしょうが、存在しています。数か月に1度ですが、児童クラブの職員が犯罪行為で摘発される報道がありますが、そういうことなのです。また報道はされはしませんが、児童クラブ側の理解しがたい対応によって子どもが児童クラブを辞めざるを得なくなった、あるいは滋賀県栗東市の例でもあるように子どもが心に重い傷を負って治療が必要となるという事態も、現に起こっています。そういう体験をしてしまった保護者や、そういう体験をした世帯をすぐそばで見ていた保護者にしてみれば、「信用ならない児童クラブに何か意見を申したら、何を仕返しされるかわからない」という感情を持っても、何ら不思議ではありません。
つまり、「児童クラブの存在意義を誤解している」ことと、「児童クラブ側の程度の低い対応によって以前、嫌な目に遭った保護者が現に存在している」ことから、「児童クラブ側に何か改善を求めようなら、子どもに何をされるかわからない。親は、子どもが人質に取られているのと同じ。対応が難しいことはとても要求できない」という感情にたどり着いてしまうのであろう、というのが私の考えです。
<こういう残念な考えを抱かせないために>
まずは、放課後児童クラブというものは、子どもの健全な育成のために存在している仕組みであることを基礎的な理解として広く保護者に理解してもらう努力を続けることです。そのために、保護者の意見を積極的に聞く、必ずしもすべての意見を取り入れて実現することは現実的な問題としてできないことがあるにしても、子どもの意見や考えは当然の大前提、子どもの意見や考えをつぶさに知ることができる保護者の意見や考えもまた、児童クラブの運営をよりよくするために必要なことである、という理解をも、児童クラブ側がしっかりと認識することです。
児童クラブは、子どもの預り場ではなく子どもが育っていく場であること、だからこそ子どもと保護者の意見をしっかり聞きますし、保護者の意見をまずは受け止めることが重要であるという理解を児童クラブ側が持つことです。
そして、省令にも運営指針にもあるように、児童クラブの職員は児童の健全育成に理解と熱意がある者であることが前提となっていますから、児童クラブの運営側が、職員の教育研修をしっかりと行うことが、とても重要です。
職員とて人間ですから、なかなか受け入れがたい意見や要望を保護者側から出される、突きつけられることだってあるでしょう。その時に感情を害されることもあるでしょう。それをそのまま態度に出してしまっては、保護者に無用な不安と心配を与えるだけです。
保護者側も、児童クラブの運営の現実を理解することが必要です。(その理解は児童クラブ側が働きかけることで醸成されるものですからやはり児童クラブ側の姿勢が問われるのですが)現実的な問題として、ありとあらゆる保護者側の要望を相次いで受け入れていくことはできません。予算に限りがある、職員数にも限りがある、何よりも行政との約束(契約や仕様書の内容)によって実施できない要望や希望だってある。いろいろな要望や意見の中で、児童クラブの運営者は、最初から「それは無理だ」と切り捨てるのではなく、最大公約数的な、最大多数の最大幸福を求めて施策を作り上げていく姿勢を重視することです。その積み重ねによって、多種多様な保護者側の要望を、時間はかかっても、徐々に受け入れていく。そして、保護者側もそうした事情を理解していくことが求められます。
日本全国のあらゆる児童クラブにあてはまると断言できないのは辛いのですが、ほとんどの場合、保護者側がいろいろな意見や要望を児童クラブ側に求めたとて、それを理由として児童クラブの職員が、意見や要望を言われたことを根に持って、あるいは恨んで、意見や要望を伝えてきた家庭の子どもに辛くあたる、厳しくあたる、不利益なことを迫るということは、そうそう考えにくいことは、申し上げておきます。杞憂にすぎないと、申し上げます。児童クラブの職員の圧倒的大多数は、ちょっと言われたぐらいで子どもに仕返ししてやろう、なんて考えは抱きません。
もしもそのようなことがあったとしたら、それは絶対にあってはならないことですから、遠慮なく、行政や関係機関(法務省の人権相談や、弁護士(会))に相談しましょう。今の時代、SNSで発信することだってあるでしょう。世間、社会への告発です。言われなき不条理な差別的対応は、厳しく非難され、糾弾され、責任を取らされるのが当然です。決して理不尽ではない、合理的な理由に基づいての意見や要望に対する不条理な差別的対応は許されません。そのような差別的対応をした職員と運営事業者には厳罰や厳しい措置を求めるのは、もちろん当然のことです。
児童クラブを利用する側も、児童クラブ側も、ともに、子どもが安全安心に過ごす場所を作りたいし、作っていかねばなりません。そのときには意見や姿勢の食い違いだってあるでしょう。意見や姿勢が一致しないことの方がむしろ当然です。それを、話し合いや協議を持ってお互いに乗り越えていく、改善していくというのが、民主主義社会におけるあり方です。「子どもが人質に取られるから、とても言えない」ではなくて、言っていいのです。お互いに疑問点を認識して話し合うことで関係性はより強固になり、事業の質が改善されていくのが、成熟した民主主義社会における児童クラブのありようだと、運営支援は考えます。
最後に具体的な仕組みを紹介します。
・子ども、保護者からの意見や要望を随時受け付けることは、どの児童クラブ事業者も取り入れている事でしょう。苦情受付しかり、意見を受け止める窓口の設置しかり。しかし苦情はともかく、事業への意見や要望に関する受付とその処理ルートが機能していないことがほとんどではありませんか?それは「結果の実感が得られない」からです。こども、保護者からの意見や要望は、必ず、児童クラブ側のしかるべき機関(理事会や運営に関する会議体)で協議検討し、結論を、理由を含めて公表することが必要です。このことが完全に実施され、何回も繰り返されていけば、意見や要望は多く集まってきます。つまり、「意見や要望を受け止め、協議し、結果を理由とともに公開する仕組み」を事業者に根付かせてください。それを事業者に行われる規定を、組織内に作ってください。
・定期的に保護者が面と向かって、意見や要望を「気軽に」発信できる、伝えられる仕組みを作ること。元来、保護者が運営に加わる事業形態は、この仕組みを含んでいるものですが、現実的には保護者側から運営に参画していても、すべての人が積極的に加わっているとは限らず、運営に関して興味も関心もない人がただ会議に参加していることが往々にしてあるものです。よって、児童クラブの事業者は、意見や要望を持っている人が参加して運営側に対して伝えられる場を、利用しやすい形で積極的に設定するべきでしょう。例えば「運営評議会」だったり「意見交換会」だったり、形態はいろいろありますが、意見や要望を伝えたいと思っている人が気軽に参加できる仕組みを整えておくことです。運営の責任者側が、各クラブで行われる会合の場に出向いて行って、話を聞く機会を設定するのはとてもいいことです。「ぜひ、いろいろな意見を私たちに伝えてください」という姿勢を打ち出しましょう。保護者の中には「自分のクラブの先生にいらぬ不安やプレッシャーを与えたくない、でも運営の立場の人になら、話せそう」という人だっていることでしょう。保護者の側も、そうした機会があるなら、ぜひ積極的に活用してほしいですね。
<おわりに:PR>
弊会は、次の点を大事に日々の活動に取り組んでいます。
(1)放課後児童クラブで働く職員、従事者の雇用労働条件の改善。「学童で働いた、安心して家庭をもうけて子どもも育てられる」を実現することです。
(2)子どもが児童クラブでその最善の利益を保障されて過ごすこと。そのためにこそ、質の高い人材が児童クラブで働くことが必要で、それには雇用労働条件が改善されることが不可欠です。
(3)保護者が安心して子育てと仕事や介護、育児、看護などができるために便利な放課後児童クラブを増やすこと。保護者が時々、リラックスして休息するために子どもを児童クラブに行かせてもいいのです。保護者の健康で安定した生活を支える児童クラブが増えてほしいと願います。
(4)地域社会の発展に尽くす放課後児童クラブを実現すること。市区町村にとって、人口の安定や地域社会の維持のために必要な子育て支援。その中核的な存在として児童クラブを活用することを提言しています。
(5)豊かな社会、国力の安定のために必要な児童クラブが増えることを目指します。人々が安心して過ごせる社会インフラとしての放課後児童クラブが充実すれば、社会が安定します。経済や文化的な活動も安心して子育て世帯が取り組めます。それは社会の安定となり、ひいては国家の安定、国力の増進にもつながるでしょう。
放課後児童クラブ(学童保育所)の運営支援は、こどもまんなか社会に欠かせない児童クラブを応援しています。
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弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。
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放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。
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放課後児童クラブを舞台にした小説を完成させました。いまのところ、「がくどう、序」とタイトルを付けています。これは、埼玉県内の、とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子を丹念に描いた作品ではありません。大人も放課後児童クラブで育っていくことをテーマにしていて、さらに児童クラブの運営の実態を描くテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ご期待ください。
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「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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