放課後児童クラブは、どこまで仕様をそろえていくべきなのか。常識が常識ではないことが多すぎるややこしさ。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)は、一つとして「同じ」ものはありません。市区町村ごとにそれぞれのやり方があります。多様性が尊重される時代ですが、果たして児童クラブは、それでいいのでしょうか。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<学年別のクラブ>
 運営支援ブログでは、全国の市区町村で行われている放課後児童クラブについて、ホームページから得られる情報において状況を確認しています。まだ3分の1にも届いていませんが、現時点であっても、大変多くの地域で行われている「やり方」がいくつかあることに気が付きます。

 それは、「学年別のクラブ」の存在です。1つの小学校に複数のクラブ(あるいは、クラス。単位)が設置されている状況はごく普通にありますが、そのような場合において、あるクラブを低学年に、そして別のクラブを高学年にする、ということが、よくあるのです。

 例えば、6月14日に取り上げた北名古屋市です。北名古屋市では、市内10施設のクラブすべてに「ほほえみ」という名称のクラスがあります。1年生が入所するクラブであると、資料に説明されています。2年生から6年生は「ゆめっ子」という名称のクラスに移ります。施設によっては人数の関係からか、2年生は「ゆめっ子」に入所し、3年生が「にこにこ」、4~6年生が「未来っ子」に入所する、というケースもあるようです。

 北名古屋市ほど徹底していなくても、低学年と高学年を分けて入所させている地域が結構あります。

 一方で、異年齢集団で過ごすことで子どもの育ちが充実する旨の紹介をしている地域も、数はかなり少ないですが、存在しています。

 放課後児童クラブ運営指針には、異年齢集団で構成されることが望ましい旨の記載はありません。年齢別にクラス編成をすることの利点、不便な点について特に言及されていません。異年齢の集団で過ごす環境で配慮が必要なことがある、という趣旨の記載はありますが、学年が異なる児童を一緒にすることを推奨することはありません。標準的な仕様として制定された運営指針ですから、異年齢集団で過ごすことによる子どもの成長、発達の効果については重視されていないのかも、しれません。また、現実的に小学1年生から6年生が一緒に過ごす施設であることが多いことから、当然の前提条件として特に解説、言及をしていないだけなのかもしれませんが。

 私は、心情としては、北名古屋市の方策にはあまり賛成はできないのですが、「それは絶対間違っている」とも言えません。運営指針にはっきりと異年齢集団で過ごすことによる子どもの成長における有利な点が記載されていればまた話は変わるのですが、心情としては「それは止めたほうがいい」といいたくても、そのように指摘できる根拠が薄い、ということでしょうか。ただ、学年別に分けたクラス編成をすることは、「児童クラブは、単なる預かり場としての機能を期待されている」のであろうと私は受け止めます。同一学年だけで受け入れる方が管理としては楽ですから。

 一方で、実務面からは、小学1年生など低学年の保護者から、「上級生が怖いと言っていて、学童に行くのを嫌がっている」という保護者からの相談や苦情を何度も受けたことがある経験から、「児童クラブに通えなければ保護者の就労等を支えられないというのであれば、おっかない上級生がいるクラブより、いないクラブの方が、保護者としては安心だろう」とも考えます。
 この点は、クラブの職員の丁寧な対応、つまり上級生など子どもたちへの働きかけなどで、新しく入所する低学年児童の不安、恐怖感を早期に取り去ることが可能なのですが、それが実現されるまでの数日間の間ですら、子どもが児童クラブに行くことを嫌がってしまったら生活に影響する切実な問題です。まして、初期のうちに決定的拒否感を覚えさせる強い印象を植え付けられてしまった場合は、なかなかその拒否感を拭い去ることは難しい。

 異年齢集団で過ごす児童クラブこそ当然であり、常識だ。ということは、完全にその通りだと断言できないのです。私自身の感覚で言えば、9割ほど「それは違うんじゃないかなぁ」と思いつつも残り1割に、それなりに合理性を感じられるというイメージでしょうか。学年別にクラス分けがされていても、例えば宿題をする時間は別々であっても、おやつを食べる時間など、全学年が一緒になって活動する時間がそれなりに確保されているという工夫があれば、より良いのですが。(また、学年別に分かれて入所するクラブに住む方々の多くは、おそらく、その方が合理的でありむしろ普通なのに、と思っていることでしょう)

<おやつ>
 おやつについては、放課後児童クラブ運営指針にその重要性が説かれています。第3章「放課後児童クラブにおける育成支援の内容」1 育成支援の内容、の⑦(まるなな)がそれにあたります。栄養面や活力面から必要とされるおやつを適切に提供する、とあります。

 しかしこれこそ、クラブによって、市町村によって、その対応はまちまちでしょう。おやつを提供していない地域も珍しくありません。おやつを提供するにしても、どのような種類のおやつが提供されているのか、ホームページのような手段で知ることはほとんどできませんが、予算の範囲内において、職員が工夫を凝らして提供しているのだろうと期待するだけです。

 おやつ代として2,000円程度を別途、徴収している地域では、それなりの費用をかけているので質と量ともに、ある程度の水準に及んでいるのだろうと想像します。一方で、利用料が全体で数千円程度の公営クラブ、あるいは公営クラブを民営化した地域で、かつ、おやつ代を別途徴収していないとしたら、いったいどのようなおやつが提供されているのだろうか、興味というか、不安を覚えます。1日あたりのおやつ代に充てられるコストが数十円であったなら、それほど豊かな内容のおやつは提供できないだろうからです。

 おやつは、補食の面に加えて、貧困家庭にとっては生きるために大事な食事の1つとなっています。そのような世帯は増えている実感があります。ですので、おやつの充実は欠かせません。それが、全国各地、市区町村でバラバラの状況にあることは、児童クラブの質的向上を考えるうえで、好ましいことではないでしょう。市区町村で行われているおやつ提供がその地域の常識なのでしょうが、その常識は現在、児童クラブを設置している自治体の数だけ存在しています。常識といっても、その市区町村内だけに通じる常識に過ぎないのです。
 なお、もっと残念なことがあります。それは相当厳しい貧困の状況にある世帯は、児童クラブの利用すら困難であるということです。生活保護の扶助を受けている世帯は利用料0円であることはすべての地域で共通していますが、おやつ代は実費負担ですので、その負担は生活保護世帯であっても必要です。そのような、利用料以外の経済的負担が重荷になって児童クラブを利用できない貧困にある世帯は、私は相当あると信じています。それらは調査の対象にもなっていません。児童クラブを必要とする世帯がすべて児童クラブを利用できるような公助の制度を整えるべきでしょう。

<実情に応じて、をそろそろ止めるべき>
 放課後児童クラブは、学童保育所としてその仕組みを必要とする保護者の自発的な活動を中心に誕生、発展してきました。それが全国各地で並行して進んでいくうち、1990年代後半に、法律に書き加えられた。要は、法律に付け加えられるまでに、それぞれ独自に発展してきたので、法律ー児童福祉法ーには、放課後児童健全育成事業は市町村の実情に応じて行ってください、という文言になったのでしょう。私はそのように想像しています。

 しかし、その実情に応じてという文言があるがゆえに、育成支援の質そのものの優劣に影響するような事態や考え方が、各地において勝手気ままに実施されているといえます。実情に応じてさえいれば、なんでもいいのでしょうか。そうではないでしょう。たとえば、車いすの新1年生の入所を断った自治体がありました。最終的に、法律の解釈を誤っていたことを認めて入所を許可したのですが、それとて、地域の判断でどうにでもなるという誤った自治体の姿勢が原因でした。学年別のクラブにしても、おやつ提供にしても、また開設時間や、今後の焦点となる昼食提供や早朝対応にも、地域ごとに実情に応じて、という限り、全国的に平準化した児童福祉サービスの提供は困難でしょう。

 私は、放課後児童クラブ運営指針のうち、おやつなどとりわけ重要な点は、別途、規範力のある省令や要綱に組み込むべきだと考えます。そして全国津々浦々、時間はかかっても、同じ水準の同じサービスが提供されるようにしていくべきだと考えます。そうでもない限り、市区町村によって、運営事業者によって、あまりにも差がありすぎます。税金を補助金として交付されている以上、効率的に、質の高い児童福祉サービスが提供されなければ困ります。こども家庭庁はぜひ、真剣に、全国統一基準の策定に取り組んでいただき、児童クラブの常識を、真の意味での常識に変えてほしいと期待します。

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、7月上旬に寿郎社(札幌市)さんから出版されます。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)になる予定です。正式な情報は随時、お伝えしますが、注文は書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。特に埼玉近辺の方で、まとまった部数をお買い求めいただける方は、萩原まで直接、ご相談ください。その方が個人的にもありがたい(なにせ、ある程度のまとまった部数が手元に届くので)です。発売まで、もうまもなくです。どうぞよろしくお願いいたします。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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