放課後児童クラブの建物、設備を考えてみる。使い勝手はいろいろあるでしょう。安全性、かつ機能性の両立で。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の建物、設備の用意に関わってきた経験を踏まえて、児童クラブの建物と設備について私見を述べます。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<放課後児童クラブの建物>
 放課後児童クラブの建物は実にいろいろありますね。例えば「日本の学童ほいく」誌で毎号、紹介されている各地の児童クラブを見ていると、「こんな建物で過ごせる子どもたちは恵まれているなあ」と常々思います。それだけ、自分が関わったり、あるいは手掛けてきたクラブでは、なかなか理想的な建物、施設にはめぐりあうことができなかったということです。建物や施設を大まかに区分してみると、次のようになるでしょうか。
・小学校建物内=特別教室または普通教室を改築して台所などを設置する。または改装はせずにそのまま。
・小学校敷地内または隣接して専用施設を建てる。木造だったりプレハブだったり。
・小学校敷地外に専用施設を建てる。
・小学校敷地外にある既存の建物を利用する。民家、ビルのテナント、工場や商店だった建物を利用。

 私が関わったものでは、設計に際して意見を言ってきたものとして「行政が建てた専用施設(木造平屋、木造二階建て)」、「行政が設置した小学校余裕教室の改装」あります。また、民設民営のクラブとして図面から関わったものでは「中華料理店の建物を改装したもの」、「蕎麦屋を改装したもの」、「居酒屋だったテナントを改装したもの」、「電機関係の工場を改装したもの」、「倉庫を改装したもの」があります。既存の建物を改装して児童クラブにするには制約が大きく、なかなか思うような施設は造れません。子どもが遊ぶための広いプレイルームを設けようとしても、壁や柱には撤去できるものとできないものがあります。構造上、どうしても外せない柱が残って、のびのびと遊ぶスペースが確保できなかった施設もありました。

 先日、愛知県津島市の放課後児童クラブの建物で研修を行ったのですが、その建物は私が関わってきた児童クラブ建物と共通点があれば、相違点もありました。台所(調理施設)から玄関が見通せる点は共通していました。どうしても台所仕事があるのでそこに職員をさかれますが、その職員が、子どもや保護者の出入りをいち早く確認できます。新築、あるいは改築で造る児童クラブの場合、私は行政や建築会社に「台所から出入り口をまっすぐ見通せるようにしてください」と言い続けてきましたし、行政の設計部署もその知見が蓄積して、新たな施設を造る場合は最初から台所と玄関出入り口が見通せるような造りで設計してくれるようになりました。

 相違点としては、子どもが使うロッカーがありました。津島市のクラブのロッカーは、児童1人ごとにランドセルを入れる大き目の囲いと、クラブでの遊び道具を入れる小さめの囲いがあり、大小の囲いを1人分として全体の高さは3段(およそ1メートル20センチぐらい)で設置していました。なかなか理想的です。私の関わってきたものでは1つの大きな囲いで4段にすることが多かった。最上段はおおむね、おもちゃやクラブで使う物品を収容するようになっていました。津島の方が子どもたちにとってはいいなあと率直に感じました。

<使い勝手のいい施設、設備は?>
 児童クラブを立てられる場所の面積や形によって建物の形が左右される、絶対的にどうしようもない条件がある中で、いかにして使い勝手の良い児童クラブにしていくか。それこそまさに児童クラブの設計担当者や運営事業者がこだわるところでしょう。もちろん、耐震性は基礎構造を含めて最優先に取り入れなければなりません。

 児童クラブに求められるものとして、「子どもが十分に遊べる広さのプレイルーム」があり、同時に、「おとなしい子ども、静かに(読書などで)過ごしたい子どもが安心して落ち着けるスペース」が必要です。もちろん、「静養室」(体調を崩したものや、急にスイッチが入ってしまった子どものクールダウンとして使える部屋)は必要ですし、職員専用の事務室も必要です。静養室にはできる限り、屋外に出られる出入り口があることが好ましいです。おもちゃを収納できる、充分な容量のある収納スペースはプレイルームに欠かせません。

 広々としたプレイルームは、雨天や、熱中症の危険で屋外に出られない時期に、子どもたちができる限り、体を動かして遊べるために必要です。既存施設の改築では一番難しい設備です。新築の場合は、できる限り広めのプレイルームを確保できればいいのです。1クラブ2単位を念頭に建てられたクラブはプレイルームの真ん中で仕切ることができるようになっていることが多いでしょう。可動式の仕切りがあれば、遊びを分けることができる利点があります。屋根が重い建物では構造上、広々としたスペースが確保しづらいことがあるようです。
 プレイルームから屋外(園庭など)に出られるような広いサッシ(掃き出し窓)があると、避難や採光の面で有利です。一方、子どもが遊びで、あるいはわざと物を投げることでガラスが破損することがあります。その場合の補修に費用がかかるのはつらいところです。壊した子どもの家庭に実費弁償を求めるとしても、数万円単位ではなかなか話がうまくまとまらないこともあります。

 静かに過ごしたい子どもたちのことを考えた区画も必要です。子どもの誰もが、体を動かして遊びたいのではありません。いつもはよく動く子どもだって、その日の気分で読書に集中したいことも当たり前にあります。動いて遊ぶ子どもたちの活動と物理的に交わることがないスペース、動と静の区分ができる施設が理想的です。しかし建物の広さの面で妥協されがちな面でもあります。

 手作りおやつの提供を重視している運営方針にあるクラブでは、台所とプレイルームの関係も大事です。調理したおやつをすぐに提供できる動線にしないと作業効率が落ちます。トイレの位置も大事です。プライバシールームである一方、すぐにトイレに駆け込めないと大変な事態になる可能性もあります。開けるのに面倒くさい扉を付けてしまうと、大惨事を招くことになりますから。

 私ができる限り大事にしてきたのが「テラス」(広めの縁側)です。自分の子どもが通っていた学童保育所には、屋根の下にちょっと大きめのテラスがあって、天候に関係なく子どもたちが遊ぶことができました。闘いごっこやボール遊びすらやっていました。それだけに、行政が児童クラブ専用施設を建てる際はできる限り、テラスを広めにとってほしいと要望してきました。それが結実したのが、平方北小学童保育所です。行政の設計に何度も口を出して大き目のテラスを設置することができて、それも遊びに活用することができて本当に良かったと今でも思っています。梅雨の時期は全体的に入所者数も多い時期ですから、雨の日の遊び場に困るわけですが、雨に濡れない広めのテラスがあれば、子どもたちの遊び場にはうってつけです。

 使い勝手というのは、現場クラブで働く職員の意見です。それは十分に反映されるべきですが、その職員は運営事業者が持っている(はずの)育成支援の理念と方針に従って業務を行うものです。よって最終的に使い勝手を左右するのは、そのクラブ運営事業者の持つ、育成支援の理念と方針によって影響されます。極端に言えば、子どもの生活環境としてのスペースを重視していない事業者ならクラブ施設の構造もいいかげんなものになるでしょう。インクルージョンを重視しているならクールダウン用のスペース確保に配慮した施設になるでしょう。

<これは困るよ>
 死角が多い構造。職員数が決して多くない状況ですから、職員がパッと見て見届けられない場所で活動する子どもの様子を把握することができない状況は減らすにことしたことはありません。もっともいずれ、施設内部をもれなく記録できるカメラが標準に設置できるようになれば、死角の問題は「現行犯で」なにか悪いことをしていることを気付くことができなくても、いずれ把握できるようになるので、それほど問題にはならなくなる可能性はあります。

 壊れやすい設備。見た目の優先はいらないのです。蛇口にしろ、扉にしろ、鍵にしろ、見た目の優美さや、かっこよさを得てして行政の設計では盛り込まれがちです。子どもは容赦ないですから、ドアをバーン!と閉めたりぶつかったりするので、「とにかく丈夫で壊れにくい」設備がいいのです。私も、行政が取り付けた、見た目の動作がおしゃれな「三段閉じ」のドアを付けられたクラブで、なんどもそのドアが壊れてしまうので閉口した記憶があります。見た目より頑丈さが大事なのですが、どうにも行政にはその点、今一つ理解が薄いようです。

 台所の設備が貧弱。何十人ものおやつを作るのです。おやつでなくても、夏場には大量の麦茶を作る児童クラブは多いでしょう。最近は火災を考えてオール電化の調理設備が多いようですが、大きめの「やかん」ですぐにお湯が沸かせるようでないと、実用的ではありません。またそのやかんを十分に冷やせるだけの大きさのシンクが欲しいのですが、一般家庭の台所のような規格で造られてしまうと、使い勝手が悪いのです。冷蔵庫も、大きめのものが2つ置けるだけのスペースが欲しいのですが、「冷蔵庫は1つでしょ」という固定観念があると、追加の冷蔵庫を置くスペース確保に苦労します。収納も同じく、たっぷり必要です。

 エアコンについて。専用施設ではさすがに家庭用の壁掛けエアコンを設置するような施設は減っているでしょう。天井埋め込み式が多いものと想像しますが、メンテナンスはクラブ職員の手では限界があります。おのずと業者に依頼して清掃してもらうことになります。この整備費用にまで考慮が行き届かないと、新品のエアコンでも性能がガタ落ちになります。これはモノというよりカネ、つまり運転コストの問題ですが、そこも含めてどういう設備が問題なく継続的に使えるのかも、児童クラブを造るときに考慮が必要です。

 近隣の住民との関係について。行政が児童クラブを立てようとした際、近隣への説明を怠ったために反対運動が起こり、建設を断念したという例に直面したことがあります。これはなかなか言いづらいのですが、表向き「子どもは大事だからね」という地域住民でも本音は「子どもの声は頭に響きやすいから嫌なんだ。送り迎えの保護者が集まるのも困る」という、総論賛成各論反対の人は当たり前にいます。地域住民への理解を求めるのは必ずしも行政だけでなく、むしろ児童クラブの運営事業者が積極的に対応するべきことですが、既存の児童クラブの運営に際して、後日引っ越してきて住み始めた住民の方々から、音や登所、降所時の人の動きについて苦情を受けることは、なかなか困ります。しかも苦情が児童クラブに寄せられるならまだしも、小学校に遠慮なくガンガンと入るようになると、結局は学校側から「クラブさん、頼みますから静かにやってください」と言われてしまう。地域住民との関係は児童クラブでも実は困った問題になりうるし、問題になってしまったところでは児童クラブ運営に重大な影響を及ぼしているということを、もっと社会に知っていただきたい。

 木造建築にすることが推奨されています。補助金もあります。しかし木造建築ならではの弱点もあります。どうしても乾燥によるゆがみ、構造の変化があります。それを踏まえた設計と施工ならいいのですが、実際にはそうではない場面が多いように聞きます。屋根が重いと広めのスペースを確保できない設計上の問題があるようです。最近は火災の面では心配はさほどいらないようですが、造るのに時間がかかるという難点はあります。
 待機児童が出ている地域はもちろん、待機児童は出ていないけれどそれは実は上級生にクラブを退所してもらうことで入所人数を確保している場合は、公共の児童福祉サービスが満足に提供されている状態とはいえません。そういう地域で、放課後児童の居場所を放課後児童クラブで対応しようとするなら、「数」が必要です。つまりクラブ数が必要です。そこに、いくら木造建築が良いからといって、よくある2年サイクル(初年度は設計、次年度に施行)で1つずつ施設を増やしていますといっても、待機児童になった家庭や小学4年生になってクラブを退所せざるを得なくなった家庭にとっては、「どうしてくれるのよ、生活が成り立たないじゃないか!」と悲痛にくれるだけです。児童クラブを必要とするニーズを把握して、「いまは数が大事」であればすぐに造れるプレハブ構造で私は十分だと考えます。「数はカバーできた。複合施設として使えることも踏まえて長い間使える施設を目指そう」となれば、より頑丈な構造の施設を新たに造ることでもいいじゃないですか。

 児童クラブの建設工事発注を地元企業に任せる地域は多いでしょう。経済の地元還流は大事ですし、私も否定しませんが、児童クラブの建設に使われるお金は、公設であれば税金です。民設であっても補助金を交付されて用意するのでしたら同じ事です。当然、建設コストが安い方が望ましいわけです。児童クラブ「だけ」に使う施設なのに、やたらとお金をかけて造るということは、私はいかがなものかと考えます。1単位のクラブを造るのに3億円近い予算を投じるのは、外構工事などで特別な工事が必要(軟弱地盤の上に建設せざるを得ないなど)な場合を除いて、「その予算で2単位をプレハブで造ればいいのに」と、率直に考えます。「地元の企業が造れる建物が、それしかないから、それで造る」というのでは本末転倒です。この点、自治体はもっと「何が大事なのか」を考えていただきたいと願うところです。

<できることなら>
 私は小学校敷地内の専用施設または隣接する場所での専用施設が一番好ましいと考えます。道路を横断せず、学校敷地内を通ってクラブへ入れることが理想です。もちろん、現実はなかなか理想通りにいかないので、小学校から徒歩十数分の狭い建物を利用するしかない場合だってよくあります。しかし、行政の責任で、あるいは国がもっと補助金を民間事業者に交付することで民間事業者がその知恵と工夫で、子どもが過ごしやすく、職員の業務が行いやすい児童クラブが、時間をかけず年度内で完成するような、そんな状況になってほしいと願います。

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、7月に寿郎社(札幌市)さんから出版されます。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)になる予定です。正式な情報は随時、お伝えしますが、注文は書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。特に埼玉近辺の方で、まとまった部数をお買い求めいただける方は、萩原まで直接、ご相談ください。その方が個人的にもありがたい(なにせ、ある程度のまとまった部数が手元に届くので)です。発売まで、もうまもなくです。どうぞよろしくお願いいたします。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)