放課後児童クラブのトイレを語ろう。トイレは大事だよ。新設時は予算をケチらないで増やそう。構造や壁紙も注意。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)のトイレ事情。大事なのはあらゆる立場の人は理解していてもいざそこに予算を投じようとすると腰が引けてしまうのが、トイレなのですね。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<トイレは大事なのに、現実は手を抜かれる>
 当たり前すぎてわざわざ書くこともないのですがトイレは大事です。それを否定する人はいないでしょう。先日、インターネットで気になる記事をみかけました。有料記事なので記事の全文を読んではいないのですが、かつて保育所だった施設を活用している児童クラブでトイレが不便な状況になっている、という記事です。中国新聞デジタルが9月22日に配信した「小さ過ぎるトイレに困る小学生、我慢する女子も 庄原市永末の放課後児童クラブ」との見出しの記事です。休所中の保育所を児童クラブとして利用しており便器が小さくて子どもたちが困っている、という内容です。

 残念すぎて言葉がありません。何に残念かといえば、設置主体である行政の対応です。保育所のトイレを小学生が使うことになればどういうことになるのか、およそ想像がつかなかったのか?私の想像するに、保育所と児童クラブはおおむね担当課、所管が異なるので、例えば便器の大きさ、ロッカーの大きさなど設備の状況が実際にどうなっているのか知識として持っておらず、かつ、書類だけでやりとりをしてしまったのではないか?ということです。通常、施設として新しく使い始める、供用を開始する前には担当課の担当者による現地確認が行われるはずですが、便所は見なかったのでしょうか?あるいは見たとしても、大きさや使い勝手には思いが至らなかったのでしょうか。だとすればそれはすなわち、普段から、子どもと関わっていない担当者による知識の欠落があったのかもしれません。

 私も前職で児童クラブの運営法人のトップを務めていましたが、保育所の施設の活用はなかったものの学校施設を活用して児童クラブを設置開設した例はそれなりにありました。この場合は小学校のトイレを利用するので大きさや数については問題は生じませんでしたが、それでも児童クラブの専用スペースからトイレへの動線、便器の状況など実際に現地で行政担当者と一緒に現地に数度足を運んで確認し、協議をしたものです。利用を始める前に、何度も確認しなければならない、それがトイレです。

 というのは、トイレの不手際は重大な影響を及ぼすから。先の記事にある、子どもの体調不良はまさにそうです。使い勝手が悪いとか清潔でないので使いたくないというトイレは、利用者である子ども(時には職員)の存在を軽視しているといっても間違いない。子どもの安全安心を守る場である児童クラブで子どもが体調を崩してしまうその原因が設備にあるとしたら、それは設置者や事業者の責任です。防げるものを防いでいない怠慢です。ところが、トイレというのは、当たり前に大事だという理解があっても、いざ、どれだけ予算をつぎ込もうかとなると、なぜだか後回しになっていくものです。それも何度も経験しました。「数はあるから」という理由です。

<その数の基準を見直すべき>
 トイレの数に関して放課後児童クラブは特に国などの基準はありません。一方で保育所や幼稚園には基準があります。子ども・子育て支援法施行規則では、一日に保育する小学校就学前子どもの数が六人以上であるものについて「便器の数は、満一歳以上の小学校就学前子どもおおむね二十人につき一以上であること。」と規定されています。小学生対象の放課後児童クラブも、おおむねこの基準が参考となっているようです。また、地域でクラブを新設する際は以前に建てた、設置した施設を参考にすることが通例なので、前例踏襲もまた当たり前に行われています。という状況のの上に、児童クラブはおおむね40人という基準があるので、男女ともに1つ、かつ多目的トイレが1つあれば必要最低限のトイレの数を満たす、ということになるのでしょう。

 「日本の学童ほいく」誌は、放課後児童クラブに関する唯一の貴重な専門月刊誌ですが、ここに毎号、全国各地の児童クラブが紹介されています。とても楽しみなコーナーですが、紹介されている施設のトイレは、男女ともに2か所と、多目的トイレが1か所、というパターンが多い気がします。統計を取っている訳ではなくあくまで私の印象ですが。
 なお、私の前職時代の児童クラブでは、1980年代に自治体の予算で整備されたクラブは小便器1つ、大便器1つか、小便器1つで大便器2つ、というトイレ設置が多かった。2000年代以降に自治体の予算で整備されたクラブでも男女1か所ずつプラス多目的トイレのパターンですが、当時の大規模学童の基準であった70人を上限に受け入れることを想定したやや大きめのクラブでは、男女ともに2か所ずつの便器(小便器は省かれている)というパターンが多かったですね。

 ところが現実の子ども達の様子を考えると、とても足りない。正確に言うと「トイレが足りない時間がほぼ確実に出現する。その時は本当に困る」のです。ちょっと遠めの公園に遊びに行くとき、うわーっとトイレに殺到しますし、放課後に子どもが登所するときに「トイレ―!」と駆け込む子どもが数人いることがあります。そのとき、低学年が時間をかけてトイレを使っていると、もう大ピンチです。だいたい、子どもは「オレ、トイレいくー」となると「オレも」「オレもトイレ―」と連鎖的にトイレに行きたくなるものですから。

 異例の非常時としては(これも私は直面しましたが)まさかのクラブ内における感染性胃腸炎の急拡大。このときは現場クラブは本当に本当に大変でした。トイレが足りない事態は本当に悲惨です。当の子どももそうですが、対応する職員にとっても。

 そういう現実を知っているので、クラブの新設について設計段階から何度か意見を求められて行政担当者と意見を交わすときにはできる限りトイレについても数を増やしたいとして協議に臨んでいました。ですが、限られた設置面積と予算の中で、どうしても優先されるのが専用区画の面積の確保。そのため、どんどん職員用の事務スペースが削られていくのですね。トイレについても「まあ、他の施設もこんな数だから」と、妥協されてしまう現実を、何度となく経験しました。

 児童クラブは設置義務が無い制度のため、どうしても基準類はユルユルですが、現場の意見をしっかりと集めて分析して、必要なトイレの数や面積についても、明確な基準を国は設定するべきです。トイレの問題は、人として生活する場として児童クラブが位置付けられている以上、清潔で不安のない設備を整える必要があります。トイレの数が足りないのはもちろん、古くて臭うようなトイレは、人が快適に過ごす上で重大な障害です。また、男女で区別されていないトイレは性のプライバシーについての配慮に欠け、人権上の問題があります。トイレこそ、児童クラブにおいては、しっかり予算をつぎ込んで整備するべき最重要な場所です。

<トイレ整備のあれこれ留意点>
 トイレ整備は新設クラブにおいて確実に行われるべきです。当たり前ですがトイレのような「水回り」というのは、後日に拡大拡充しようとするのは困難です。国は、既存の施設を児童クラブとして使うために改装するための設置促進事業として1,300万円の補助金を用意していますが、仮にトイレを増やすような改装をすると、それだけで100万円程度のカネが必要です。しかも、トイレの隣にトイレを増設するなら比較的簡単ですが、そうではない場所に新たにトイレを設置するのはそれだけで予算を必要とします。小学校の余裕教室を活用する場合は既存のトイレを利用することになるでしょうが、クラブ室と離れた場所のトイレは「危険」です。単純に「間に合わない」こともありますし、トイレに急ぐ子どもが転んでけがをする可能性があります。また距離があるので掃除がおっくうになりがちです。冬は早くに暗くなるし、廊下は寒いのでトイレに行くのを我慢しているうちに体調を崩す、クラブ室で失敗してしまう、ということもあります。

 トイレの失敗は、子どもにつきものです。生活習慣を身に付ける場所ですからトイレについても適切な使い方を子どもたちは学んでいきますがどうしても失敗はある。それは仕方ないとしても、「トイレの洪水」は、現場職員の悩みの種です。ほぼほぼ低学年男子でしょうか。つまり、おしっこがちゃんと便器に届かないで床が小便でびしょ濡れになる状態です。この掃除がまた大変。これもまた、なかなか減らそうと言っても思うようにはなりません。
 よって大切なのが2点。まず「掃除のしやすい構造」です。トイレのすぐ近くに雑巾やモップを洗う水洗い場があること。トイレの床そのものを水洗いできる構造もありますが、湿気の多い日は床が乾かないので清潔度の点では不安です。トイレの床はそう簡単に腐食しない丈夫な材質と塗装が必要です。
 そして「コンセントの防御」です。ウォシュレットや暖房便座で電気コンセントを使う便座も当たり前になっていますが、これにおしっこがひっかかると大変危険です。コンセントの位置やコンセントが濡れないようなカバーなどをしっかり取り付けることが大事です。万が一の電気火災を防ぐために重要です。

 個人差がある問題ですが「トイレットペーパーの使用量」によって、トイレ詰まりが起こることがあります。清潔志向が強いのかどうなのか分かりませんが、とにかくトイレットペーパーを大量に使う子どもがいます。そうすると、トイレが詰まりやすくなります。次から次へとトイレを使う、あるいは節水トイレの場合で、水流が弱い場合に起こりやすくなりますし、施行時期が古いトイレは排水パイプの直径が短い、つまりパイプが細いのでちょっとした曲がりで詰まってしまうのですね。このあたりは家庭での生活習慣と関わるので難しいのですが、「クラブではこのくらいのトイレットペーパーで大丈夫だよ」と丁寧に教えていく(それを保護者にも伝えておく)ことが必要でしょう。ちなみに「ダブルは買うな。シングルで十分だ」と私は常々言っていました。

 「ペリペリ」。何だか分かりますか?トイレの壁紙をはがす子どもがいます。ただいたずらではがす子もいれば心理的な不安ではがしてしまう子もいますので、単に叱るではなくて慎重な検討が必要です。それはそれとして、ペリペリとはがされた後は修繕しなければなりません。よってトイレの壁紙は、はがれにくいもの、かつ、安いものがいいですね。たまに「落書き」もあるので消しやすい壁紙もいいです。

 とにかくトイレは数はしっかり、清潔であって、丈夫で壊れにくいものがいい。質実剛健です。おしゃれなトイレはいらない。トイレのドアも十分に丈夫でなければなりません。換気能力が高いことも必要。臭いがこもるようでは困りますし、前に使用した子どもをからかうように、子ども間の冷やかしやトラブルが始まることがあります。バタンバタンと乱暴に開かれ閉じられるのがトイレのドアです。そのあたりも生活習慣上の留意点ではありますが、トイレだ!と切羽詰まった子どもたちはなかなか丁寧にトイレのドアを扱うということには至りません。壊れにくいドアです。鍵も。鍵をいじって閉じ込められたという話は学童あるあるです。
 最後にあの「音姫」(これは商品名)、いわゆるトイレの音消し装置(消すというか、音をかぶせるんですよね)ですが、今の時代は必要なのでしょうね。子どもに聞いてみたらどうでしょうか。職員も使うようであればこれは確実に必要でしょう。

 トイレが快適な児童クラブがどんどん増えねばなりませんよ。それには、クラブを設置する側の意識が「子ども本位」であり、かつ「合理的」でなければなりません。子ども(と職員)にストレスを感じさせないトイレ、質実剛健なトイレが必要ですよ。児童クラブの建物について、例えば国産の木材にすれば補助金が出る制度などを使って建てるとか、住民の見栄えを気にするとかで派手なものにするよりも、断熱に十分配慮すればプレハブでもいいのでトイレの数を増やして使い勝手をよくすることが、本当に使いやすい過ごしやすい児童クラブです。行政担当課は前例踏襲を止めて合理的な児童クラブを増やしていきましょう。

 <おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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