放課後児童クラブに、「お盆期間の閉所」は、必要ですか?

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。まもなく、いわゆるお盆期間に入りますね。旧盆、新盆(にいぼん)と地域によって違いますが、8月のお盆は13日(火曜日)から16日(金曜日)となっているようです。このお盆の間、放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)が閉所する地域は、とても多いですね。それって必要ですか?
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<お盆期間の閉所>
 放課後児童クラブにお盆期間の閉所は、必要でしょうか。先に申し上げますが、私の見解は「不要」です。もちろんそれは私の個人的な意見に過ぎず、絶対的に正解と決めつけることはできません。が、いずれ、盆期間中の閉所は無くなるべきだと考えています。特に、児童クラブ職員の休日を確保するために盆期間閉所を設けているという理由であれば、なおさらです。

 現時点では、盆期間の児童クラブを閉所している地域が実に多いことは、裏返せば「それでやれている」ということの証明にもなっています。ちなみに私がやっている市区町村データーベースでは盆期間閉所について確認できた場合はなるべく記載しているようにしています。盆期間閉所を実施している地域はとても多いのですが、比較的大きな市に限っても、福島県郡山市、広島県呉市、埼玉県久喜市、群馬県桐生市、佐賀県唐津市、栃木県小山市、福島県いわき市が児童クラブの盆期間閉所を掲げています。

 盆期間に閉所するのは、クラブを利用する世帯が少ないからです。今は盆暮れも関係ない第三次産業に従事する保護者が大変増えているので、実は盆期間でも働いている人が多いのですが、それでも世間のイメージは「お盆期間=仕事は休み」のままです。会社は営業していても実質的に閉店状態で、多くの社員や職員が夏休み休暇やお盆休暇を取っていて、帰省やレジャーというのがよくあるパターンでしょうか。保育所では「協力保育」といって保護者になるべくなら自宅で保育をお願いし、仕事でどうしてもやむを得ない場合のみ保育所を利用してくださいと呼び掛けることをしているところもあるようです。その結果として、保育所は出勤人数を調整することができます。放課後児童クラブも、盆期間を含めて夏休み中の登所や欠席の予定を事前に調査票に記入してもらって保護者に提出させているところも多いようですから、似たようなものでしょう。

 盆期間閉所があれば、確実に職員を休ませることができます。児童クラブでは夏休みになる前は土曜日を除いて放課後から子どもを受け入れるので、体力的な疲労の度合いは午後からで済みますが、夏休みになると朝から夜までの一日開所で、夏休みの暑さで体力を消耗しやすい時期に長時間の過酷な仕事になります。疲れがたまって体が思うように動かなくなるころに、ちょうど、お盆休みがやってきます。これは(夏休み期間中は週休2日も週40時間以内の労働も実施できない多くの児童クラブで)働く職員にとって、「あと何日でお盆休み!」という、いわば「心の支え」にもなります。
 お盆休みを終えると、そろそろ夏休みの宿題の追い込みで追い込まれていく多くの小学生とは違って、児童クラブの職員は「あと何日で夏休みが終わりになるか。今年も乗り越えられそうだな」と、夏休み勤務のゴールが見えて、それはそれでまたやる気がわいてくるものなのですね。

<児童クラブは必要とされるから、存在するはず>
 当然ですが、児童クラブは、保護者が必要とする時間に保護者に代わって子どもの「面倒を見る」施設です。実際は育成支援として子どもの育ちを支える役割がありますが、世間的には「子供の面倒を見る」場所と理解されている施設です。育成支援でも面倒を見るでも実は同じですが、現時点では「必要性があるから、存在が求められる施設」ということを理解しなければなりません。つまり、「私たち児童クラブは盆期間は閉所するから、保護者は勤務先に都合をつけてお仕事を休んでください」ではなくて、保護者やこの社会が「盆期間でも仕事がある、会社はやっているので、誰かが出社しなければならない。それが子育て世帯であれば、親が出勤している間の子どもの居場所が必要だから、児童クラブは開所していてください」が、正しいのです。

 「いやいやそれでは職員の休みが確保できない」とはあくまで事業者の都合です。民間企業が不特定多数の顧客を相手に商売する場合、いつ、どのぐらいの期間、店や会社を休もうがそれはその企業の勝手です。ラーメン店が、8月は盆期間を含めて20日間、営業を休みますとしたところで、別に誰もがケチをつけられるものではありません。しかし、保護者が働いている子育て世帯の就業と子育ての双方を支えるために国や市区町村が税金を出して運営している公共の児童福祉サービスである放課後児童クラブは、ラーメン店と同じではありません。税金を支払う側、つまり国民のために存在してるのです。自分たちの休みは法に従って取得することは当然として、児童クラブ職員の休みを盆期間に確保することで休日数を確保したいだの、職員の福利厚生で盆期間は仕事を休んでもらってリフレッシュしてほしいだの、それは、社会に奉仕するべき存在であるはずの児童クラブとしては、全く無視していいとは言いませんが、二の次、三の次にするべき事情です。「まずは、働く子育て世帯のためにクラブは開所する」ことが最優先になるべきだと、私は考えています。

 職員の休日や福利厚生は、盆期間をあてにせずに充実させればよろしい。

 現実的には、盆期間に仕事に従事している人数は平常時と比べて減るのは確かですから、クラブの利用者数も減ります。よって地域内で開所するクラブを限定するなり、出勤する職員数をいつもより減らすなり、そういうことは当然のこととしてあるでしょう。要は、「職員の休みを確保したいからクラブをすべて閉所する」はいかがなものだと私は考えますが、事前に把握した予想利用人数に応じてクラブを開所する場所を調整したり職員の出勤人数を調整することはありえる」ということです。まったくクラブを使えないという状況は解消されるべきだろうということです。

 ここで留意したいのは、事前の利用調査に関して、保護者側に無言の圧力を加えることは避けてほしいということ。「なるべく自宅で子供の面倒を見てください」と、調査用紙から無言の圧力が漂ってくるような書きぶりの調査用紙では、残念です。「できることなら仕事を休みたいよ、でも休んだら収入が減るから生活できない」や「休みたいけど盆期間こそ稼ぎ時だから休めない」という境遇や仕事の保護者だってそれなりにいます。そういう人たちの心情をおもんぱかってほしいのです。児童クラブは子育てする保護者の見方、支えであってほしいと私は常々思っています(それにしてはその分の見返りが少ないじゃないか!という怒りはごもっとも。それはそれでもちろん、仕事や職責に見合った報酬が得られるような社会的合意の形成を運営支援は目指しています)ので、「盆期間、本当は休みたい」と思っている保護者に「そうだよね、大変だよね。でも頑張って。その間、子どもたちは私たちクラブでしっかり支えます」と、働く保護者の背中を押してほしいのです。

 私個人で申し上げれば、以前、運営の責任者だった児童クラブは盆期間閉所をしていました。市内全部のクラブが盆期間、閉所していたのです。保護者からは開所を求める意見はありましたが、当時は夏休み中の朝の開所が午前8時だったので、そちらに対して改善を求める意見の方が圧倒的に多かったですね。私は当然ながら盆期間も朝の開所時間も路線変更が必要だと就任当初から考え、いかにして職員の不満をためすぎることなく実施するかに苦心しました。朝の開所時間前倒しは保護者から面と向かって苦情を言われることがあり、職員も内緒で早めに出勤して子どもを引き受けていた実情を把握していたので、案外、円滑に実施できました。
 しかし盆期間開所は多くの職員から「労働条件の悪化」という感覚を持たれがちでした。これをいかにして実施するべきか。拙速は避け、数年間かけて徐々に徐々に環境を整えることとしました。まずは、当時は極めてまっとうに機能していた監事の方々に他地域の視察をしていただき、「盆期間の開所が増えている。就労を支える目的から盆期間開所を検討するべきだ」と意見を言っていただきました。こちらからそうしてくれと監事の方々に要請したわけでは全くありませんが、保護者の就労を支えるうえで必要な観点での視察をお願いしたいと申し上げれば、すべてを理解するほど明察な監事の方々でしたから。労使の懇談も重ねました。そしてまずは、運営事務局本部だけの盆期間開所を行い、私がすべて出勤しました。保護者からの未納保育料の納付など事務作業だけですが、それでも運営事業者として盆期間中の業務実施をまずは実現できました。行政は当然、盆期間中であっても業務がありますから、児童クラブに関して住民からの問い合わせがあっても児童クラブ側が閉まっていると対応に苦慮していた点があったといいますが、本部事務局が開いているので、負担が減ったと歓迎されました。
 それをもって、市内の限定された地域での開所を行い、その次は開所数を増やしていく、ということにしました。また、正規職員の夏季特別の有給休暇を付与し、盆期間中に出勤する人には特別な手当を用意しました。事業者としては持ち出しが増えましたが、利用者にとっては、今まではなんとかして会社を休まねばならなかったのが、安心してクラブを使えるのでよかったという、事業者への信頼感の向上になります。それは行政からの事業者に対する信頼感の向上でもあります。確かに経費はかかる。が、住民や行政からの信頼は確実に向上する。それは、公の業務のアウトソーシング、随意で業務委託を受けている立場としては極めて有利な材料になるはずだとの計算がありました。そしてそれはうまくいったようです。

<休みたい人は休められるようにすればいいだけ>
 盆期間の開所休所の問題は地域性もあるので、盆期間にまったく閉所しても問題がない地域もあるでしょう。二次産業が多い地域などはそうです。ただ、地域で複数の事業者がクラブを運営しているとしても、保護者が無理なく利用できることを考えて区域内に最小限度のクラブを開所するような方針を行政は明確に打ち出してほしいと私は考えます。盆期間だから当然に全てのクラブは休みます、という慣習は、悪しきとまでは言いませんが、早急に解消されていい慣習だと私は考えるのです。

 結局、盆期間閉所に関する児童クラブの問題も、児童クラブの「預かり機能」が重視されていることに起因する問題だと私は考えます。預ける必要がない期間は児童クラブの稼働が必要ない、ということになります。盆期間はその、預ける必要がない期間ということであり、盆期間でも働いている人が増えているので預けたいという需要が増えている、という観点で考えらえる問題だということです。

 私は、児童クラブは保護者の就労等による不在の条件、つまり留守家庭であることかどうかを問わずに児童クラブを子育て世帯が利用できるようになるべきだと考えています。それは「子育て支援」の役割であり、はっきりいえば、「子育てに不安な保護者がどんどん増えている」ので、「児童クラブは、子育てがうまくできない保護者を支え、伴走しつつ、社会全体として子育てを支えるための最前線の現場として機能するべきだ」と、考えています。であれば、保護者が勤務日であろうが休日であろうが、そもそも保護者の子育てがなかなかうまくできない時代になった以上、児童クラブは保護者が子育てに向き合えるように保護者を支えつつ、保護者と一緒に子育てをしていく存在になればいいと考えるのです。

 そうなれば盆期間に閉所する、しないの問題などまったく関係なくなります。つまり、一年中、開所することになるのですから。子育てに休日はありません。しかし子育てする人に休日は必要です。だから児童クラブは休日はないのです。「え、そんなことをしたら地獄の労働条件になる!」と思わないでください。社会全体の子育てなので国はしっかりと補助金を出すことが前提ですから、職員が法定労働時間を守れて年休もしっかり確保できるだけの労働条件を確保できるだけの人件費が用意されることは当然ですから。職員がサービス残業を強いられることはまったくないことは大前提ですよ。

 話がいつもながらですが大きく広がりました。保護者もそうですが職員もいろいろな人がいます。盆期間に働いていたってまったく影響がない人だっています。帰省もしない、旅行もしない。むしろ閑散期になって人ごみではない、旅館も安い時期に旅行したい職員だっていますものね。仕事したい、休みたい、そんな職員の希望をうまく調整することで、なんとか乗り切れるものです。できない、やれないを先に押し出すのではなく「どうしたらできるか」を考えていくのが事業の経営であり運営です。その先に、保護者、国民の利益があるのなら、なおさらです。社会から大事に思われてこそ、評価されてこそ、それに見合う報酬が得られるということを児童クラブの側は忘れずにいたいものです。

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。8月10日時点で、楽天ブックスなら在庫が16冊あります。在庫が増えてる!何があったんだ! まあでも注文はぜひお急ぎください!アマゾンでも午後に在庫が復活したようです!また、寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊ほど届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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