放課後児童クラブで過ごしている子どもが投げた石が当たった他の子どもの歯が折られました。クラブの責任は?

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。先日見かけた新聞記事から気になる事例を拾い上げて考えてみます。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)で、子どもが誰かに向かって石を投げ、当たった石でけがをしたとき、どうなるの?という厄介な事案を想定しました。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<猛烈な拒否反応だらけ>
 先日の新聞記事とは、2024年6月25日15時54分に読売新聞が配信した記事です。ネット配信の記事の見出しには、「男児が石を投げ女児の歯上下4本を欠損、「男児が怖い」と登校できなくなる…PTSDと診断」とあります。昨年5月、下校中に子どもが投げた石が他児に当たって歯が4本折れ、被害児童が心理的外傷を負った、これを受け自治体の教育委員会はいじめに関する重大事態と認定した、という記事です。
 この記事がSNSで伝えられると、旧ツイッターには教員と思われる投稿者から「そこまで学校が責任を負うことが理解できない」「親の責任だろうが」といった猛反発の投稿が相次ぎました。つまり、下校中のことであり、児童が校門を出て外に出たのだから学校の責任じゃないだろう、下校時のトラブルまで教員が責任を負うのか、という心理的な反発でしたが、私に言わせれば「どうして、0か100か、でしか理解できないのか。すべてが学校の責任であると記事は書いていないし、石を投げた児童にはかねて同種の行動が確認されていたならば予見可能性はあったわけで、学校側がそれに即した対応をまったくしていなかったならば、その分に応じた責任は問われるのが当然だろう」ということで、教員系の方々と思われる方の反発の投稿に、投稿者の残念な知的水準を垣間見ます。

 どうもSNSにおける、いわゆる教員アカウントは、すべて教員が悪いと言われると思い込む「被害者意識」が、目も当てられないほど増大していると私は感じます。教職というものは、常に第三者の視点も踏まえて冷静に判断して物事に対応してほしい職業ですが、事象を客観視できない、また法的思考が苦手な教員の発信が増えることは、実は大勢いるであろう冷静かつ知的な教員にも迷惑だろうと私は考えます。そしてこれは、保育士アカウントにもあてはまりますし、放課後児童支援員など児童クラブ職員のアカウントにも全く同じ事が言えるでしょう。

<トラブルは誰の責任?>
 子どもが他児に石を投げて、石が当たった子どもの歯が折れた。先に私の見解を申し上げると、「誰かが常に100%の責任を負うことになる事態は、めったにない。何かトラブルがあったときは、関係者がそれぞれ個別の事情や状況に応じて負うべき責任の程度が決まるもの。つまり個別の状況において判断するべきもの」です。投げられた石で誰かがけがをしたとして、「投げた児童だけ」が悪いとか、「学校だけ」が悪いとか、「児童クラブ側だけ」、すなわち当事者の片方だけがすべての責任を問われる事態は、そう滅多にあるようなものではないと考えます。
 そもそも、責任の所在というのは誰かが一方的に、勝手に決めることはできません。当事者同士で話し合って認める、つまり示談で定まることもあれば、話し合いが折り合わず裁判所に判断してもらうことだってあるでしょう。誰かが一方的に決められることではないですし、個別の事案ごとに定まっていくものです。(なお責任の大きさは損害賠償や慰謝料の額で換算されることになります)この点、安易に「子どもが悪い」「保護者の責任」「しっかり子どもを見ていなかったクラブの責任」と決めつけることは、してはなりませんし、決められることはできません。

 下校時のトラブルは、放課後児童クラブに置き換えると「クラブの登所時のトラブル」になります。大前提として、下校時に関してのトラブル、つまり「加害者」がいて「被害者」がいるトラブルについて刑事責任について考えないとすると、あくまでもその加害者側と被害者側の民事上の問題です。それが根本です。その上で、そのトラブルが起こる可能性について、いわゆる「下校班」という集団下校における集団を作るよう指示し、下校班について管理監督をしていたのが仮に学校であれば、学校側にどの程度の責任が存在するのかを考えることになります。

 また、下校=クラブ登所に際して、児童クラブ側が児童の安全を守るために職員を派遣して送迎する例も増えています。複数の小学校の子どもが利用する児童クラブでは送迎用の車をクラブや自治体が用意して子どもを乗せてクラブに向かう例も増えているようです。送迎の費用に対する補助金もありますから、今後は増えていくでしょう。このような場合は当然、児童クラブ側にも子どもの安全を確保する責任が生じてきます。ですので登所時であれば児童クラブ側には責任が発生しない、ということは全てその通りとは言えません。要は、下校=登所時の行動について児童クラブが介在しているならば、そこに責任が発生する余地があるだろうというのが、私の解釈です。

(下校時に起きたけがの治療に際して被害者側が使う保険関係についてはまた別の話で、いわゆる「保険管轄」でいえば、下校時の保険は学校側が手配している保険によります。どの保険を使うかということと、トラブルが起きた原因の責任問題は別です。第三者行為(加害者が治療費を支払うこと)の問題もあります。児童クラブ関係者はこの点を正確に理解せずに混同している場合がままあります。保険管轄だからトラブルの責任も児童の行動に関する管理監督もすべて学校にある、という児童クラブ関係者がいますが、それは間違っています。)

<私の経験談>
 子どもが石を投げて他児がけがをする。実は私もこのような事態を経験しました。児童クラブで外遊びの時間のことでした。日も暮れてきて薄暗くなった時間帯のこと。子どもが手のひらよりちょっと小さい程度の石を他児めがけて投げてぶつけ、けがをさせたという事案でした。明確な故意でした。大問題となったのは実はそのとき、ちょうど被害児童の保護者が迎えに来て事態を目撃したことです。たまたま、クラブ職員はその場に立ち会っていなかった。それは致し方ない。常にすべての子どもの行動を管理監督できることは不可能ですし、そこまで求められていません。ただ、保護者に「うちの子にこんなことをされて、あなたは責任を取れるのですか!」と詰め寄られた職員が「責任は取れません!」と言い返してしまったことです。
 保護者から苦情が運営本部に届いたのは当然で、直ちに事情を調べた上で、組織として丁寧に謝罪をしました。調べた結果、重要なことが分かりました。以前にも、石を投げた児童は、学校施設や他児に向かって石を投げていたこと。クラブ施設の周辺には投げるに適した程度の大きさの石がそこらかしこにあったこと。クラブ職員間の共有事項として、投げた児童の行動について格別、注意して配慮していた形跡がなかったこと、です。

 実はこのときも組織の役員が集まる会議では議論になりました。当時は役員のほとんどがクラブに子どもを通わせていた保護者でした。児童クラブを運営する組織の役員をやるぐらいですから、ほぼすべての保護者は「児童クラブが大好き=クラブの肩を持つ」。むしろ、苦情を言ってきた保護者に厳しい意見を相次いで発していました。「クラブで子ども同士のトラブルがあるのは当然。ちょっと程度がひどかっただけ」「職員だって全ての子どもの行動をチェックできない。だから責任は負えないだろう」などなど、今も私は覚えています。なぜなら、たいそう、呆れたからです。

 私は次のように言いました。「何十人もいる子ども全員の行動を職員が監督できないのは当然。しかも今回は明確な故意である。だからクラブ側に責任は無いとみなさん(保護者役員たち)は言うが、それは違うと思う。以前にも石を投げていた、しかも石を片付けるなり、その子の行動についてまったく注意を払っていなかったのであれば、クラブ運営側に、まったく責任はないとは言えない。すべて私たちの責任ではないが、事態を引き起こすに至った過失がある程度あるので、どうしたってある程度の責任はあると考えなければならない。責任は取れませんと言った職員は個人の管理監督責任について言ってしまったのだけれども、その職員はクラブを運営する法人組織の一員である。第三者がその言葉を聞いたら、この組織はなんて無責任な組織だろうと思うのは当たり前ですよ」

 (ここにも、保護者運営の危うさが現れています。学童大好き保護者たちによってクラブ運営事業者が運営される場合でも、無理やりに運営に関わらねばならない保護者が担う場合でも、組織運営や法務、労務など企業経営、法人経営に知識と理解が弱い人が責任ある地位に就いていなければ、事態解決に向け合理的な判断ができるとは限りません。多くの児童の職員の生命、安全、生活をしっかり守るためには、しっかりと業務に見合った報酬を受け、それこそ責任を背負って運営に携わる専任の人物が必要なのです)

 トラブルが起きた時、だれか「だけ」に責任が生じるものではない。関わる者や組織が何らかの責任を問われることは大いにある。まして、「それを事前に行っていればトラブルは防げた」と思われることをやっていなかった場合は、問われる責任は大きくなるでしょう。その当たり前のことが、忘れられることが多いのです。

<本当の問題は、トラブルが起きた時に役立つ備えがおろそかになっていること>
 これはリスクマネジメントそのものです。先の私が直面した例でいえば、次のようなことをクラブ側はしておくべきでした。
・石を投げる子どもについて、その動機や理由を把握し、その要因を除去することに努める。それがいわゆる「特性」によるものなのか、ただ単に周囲を困らせたいと思っているのか、あるいは何か他の事を訴えたいがための行動なのか、本人や家庭への聞き取りなどを行うべきであった。
・過去の行動から、今後も問題行動を起こす可能性があると予測されるなら、その子どもからは極力、目を離さないこと。職員数が足りないならば運営本部に善処を求めること。
・投げるに適した石を除去しておくべきだった。ろくに片づけずそこらじゅうに転がっている状態なら、予見可能性の点で児童クラブ側の過失は問われることになる。

 つまり、子どもの行動の理由を探ろうと話し合いや調査を保護者にも話をすることで進めつつ、子どもにも繰り返し石を投げることの危険性を伝え、職員もできる限り子どもの行動を確認できるような配置を取る。石を拾い集め容易に子どもが持ち出せないように片づけておく。そうしていても、子どもが石をを持ち出して他児に危害を加えたならば、「児童クラブ側は、できうる限りの対処をしていた。その上で起こったことであり、児童クラブ側の責任は極めて限定的である」という結論を導き出せることができるでしょう。なお、まったくゼロには、ならないでしょう。それは当たり前のこととして受け入れるべきです。

 要は、昔から言われるように、「備えあれば患いなし」なのですよ。児童クラブにおいてはいろいろトラブルが起きる要素があります。夏場なら熱中症です。キャンプや水遊びなど屋外活動における事故です。大規模状態であれば子ども同士、あるいは子どもと職員の衝突による事故です。それぞれについて、「どうしたら、事故やトラブルが起きる可能性が減るだろうか」という検討を、クラブ運営側は行うべきなのです。別に、杞憂とみなされる事態まで想像しろというのではありません。杞憂とは、天が崩れてこの世が滅びてしまうことを心配するという中国の故事から来ていますが、天が崩れることは(空から核ミサイルが降り注ぐことは可能性としてゼロではないですが!)ありえないので、心配したり対策をしたりする必要はありません。

 ただ、学校への送迎時において、送迎担当職員の注意が散漫であったり、送迎車の運転が乱暴であったりしたらトラブルの原因となります。無防備に誰でも入れるような施設構造も、問題です。エアコンが効かない施設はダメです。こういった、「トラブルになりそうなことは、何か」をいつも考えて対応策を検討し、実行に移すこと、あるいは解決を求めて声を上げること、訴えることが大事なのです。それは最終的には組織防衛になるのです。そういう事態になりそうだと心配して対応していた。だから私どもが背負うべき責任は軽減されるでしょう、ということです。組織の一員としては、こうした組織防衛について意識を持ってほしいのです。

 当然ながら、トラブルや問題の発生を予期して組織が対応することは、子ども(と保護者)の安全安心を守ることに直結し、最終的に子どもの利益を守ることです。万が一のトラブルの際にクラブの責任を軽減するように事前に動いておくことは、子どもを守ることになるということ。これを理解していただきたいと私は強く願います。

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、7月上旬に寿郎社(札幌市)さんから出版されます。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)になる予定です。正式な情報は随時、お伝えしますが、注文は書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。特に埼玉近辺の方で、まとまった部数をお買い求めいただける方は、萩原まで直接、ご相談ください。その方が個人的にもありがたい(なにせ、ある程度のまとまった部数が手元に届くので)です。発売まで、もうまもなくです。どうぞよろしくお願いいたします。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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