放課後児童クラブで働く人は「五月病」に襲われやすいもの。その理由は?事業者、運営責任者に必要な対応策は?
学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。以前ほど耳にすることは減ったような気がしますが、「五月病」と称される状況があります。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)と五月病を考えます。
※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。
<五月病とは?>
ごがつびょう。私の印象に過ぎませんが、近年はあまり五月病が取りざたされることがないような気がします。五月病については検索すればいろいろ詳しく説明されていますが、おおむね「適応障害」です。ちなみに大阪府医師会のホームページには「身体のだるさ、疲れやすさ、意欲がわかない、物事を悲観的に考えてしまう、よく眠れない、食欲がないなどの心身の症状が現れることがあります。これを「五月病」といいます。五月病は、正式な医学用語ではありませんが、一般に、この季節に学生や新入社員に起こりやすいため、こう呼ばれています。」(引用ここまで)と記載されています。同HPでも明確に指摘していますが、適応障害そのものですね。
決して軽く見てはなりません。五月病が悪化すると、うつ病になりやすいと、同HPでも明記されています。心と体のSOSです。単なる「そのうち治るよ」ではありません。五月病は働く人に襲い掛かる、極めて重大な症状です。
<児童クラブは五月病がまさに起こりやすい条件だらけ>
なぜ児童クラブで働く人に五月病が襲い掛かるのか。私が考える要素は次の通りです。
・そもそも児童クラブで働く人、特にクラブ現場の職員は「コミュニケーション労働」であり、人間関係の成熟度によって心理的な負荷が変動する。新たに人間関係を築き始める時期に心理的なストレスは強くなる。
・そもそも児童クラブで働く人、特にクラブ現場の職員には、「子どもは(大)好きだけれど、大人との関りはあまり得意ではない」というコミュニケーション能力に偏りのある人がおり、そのような傾向の人は得てしてコミュニケーションがゼロから始まる時期は能力値を超えてしまう。
・年度初めのため、新入職員や、異動で新たな職場で働き始めた職員(ベテランも含みます)が多くなる。それだけ人間関係を新たに構築する機会が増える。まして初めてコミュニケーションを取る新1年生とその保護者、新たに一緒に仕事をすることになるクラブ職員、異動や担任替えなどで顔ぶれが変わる教職員など、交流を持たねばならない多くの人との新たな人間関係がスタートする時期のため、非常に「気苦労」が多い。
・4月は児童クラブの年間ルーティーンでもとりわけ業務量が多い。春休みの一日開設による体力の損耗、新1年生の早帰り(給食が無い期間)の対応(学校までの迎え)、保護者会があるクラブでは保護者会の総会の準備、先任職員にとっては新人や後輩のOJTも加わる。
・個々の職員のプライベートな事情でもいろいろと変化(子どもの入学、進学、配偶者の転勤など)がある時期ゆえ、業務外のことでもストレスが多い。
児童クラブに限らずどの職種でも気苦労が多いのが年度初めですが、私は児童クラブの仕事は、この世にあまたある職業の中でも極めて人間関係による心理的負荷が大きい仕事だと考えています。かつて私は記者でそれこそいろいろな人と関りをもって仕事をする、まさにコミュニケーション労働の極致にいましたが、いやいや児童クラブ職員、放課後児童支援員と補助員の方が、はるかに濃密でかつ難しいコミュニケーション労働だと実感します。
さらに体力的な負担が大きいのも4月の特徴です。8月は朝から夜までの超時間開設の日々が続きますが、それは朝から夜まで「主に子どもだけ」に関わる時間が長いので、児童クラブに多い「子どもが(大)好き」職員は、案外乗り切ってしまうものです。学校とのあれこれ気が滅入るやり取りが減るのも大きいでしょうし、顔を見ればああだこうだと指摘をしてくる、うるさい本部職員と顔を合わせる機会も減りますからね。
<そしてほっとするゴールデンウイークを迎えて、その後は。。。>
ストレスを極度に抱えたまま4月終わりからのゴールデンウイークになります。だいたい、ゴールデンウイークは前半と後半に分かれますが、前半(4月の休み部分)はそれこそほっとして「ようやく休みだ!」と、労働からの解放を味わえます。
しかし、本日(5月2日ですが)のようなゴールデンウイークの谷間、中日はまた出勤です。この時期、とたんに「あ~あ、まだ疲れが取れていないよ」と思いながら、なんとか出勤するのです。実はその取れていない疲れというのは、心理的な負担なのですね。本日の埼玉県は朝から青空が広がって、(本来は梅雨の合間の晴れ間を指すのですが)五月晴れの陽気ですが、その青空すらも、恨めしく感じてしまいがちなのです。
そしてゴールデンウイークの後半。5月3日からですが、この休みで一気に落ち込んでしまう人が多いのです。「あと3日で休みが終わってしまう!」「あと2日しか休めない!明々後日(しあさって)には職場に行かなきゃいけない」「今日で休みが最後だ!!!」そしていよいよ明日からまた仕事だ、の夜に不安や悩みで眠れず、朝は布団から抜け出せず、「自分ってやっぱりだめだ。なにをやってもダメだ。子どもたちに未だに受け入れられていない。先輩はダメだしばっかり。パートさんは指示に従ってくれない。私は学童の仕事に向いていなかったんだ」と、涙にくれるのです。
<働く人:五月病になりそうだと予感がしたら>
・その不安を職場に打ち明けてください。クラブの先輩に言えないことが多いでしょうから本部に伝えましょう。親から伝えてもらってもいいです。そして善処を求めましょう。五月病とは適応障害であって職場にいることで心理面に負荷がかかる状態です。それは個人の努力で改善はできません。職場、会社に対応してもらうことです。
・仮にすでに利用したことがある心療内科があるなら受診を考えましょう。ただし、場合によっては今後の病気休職に関係する可能性があるので、受診前に職場、会社と相談することが極力望ましいです。
・(自身を冷静に見つめて、職場に足を運べなくなる状態ではないと判断できる場合)「仕事がうまくいかないのは、そりゃ当然だ」と「開き直る」。当たり前です。新人であればなおさら、たった1か月でエキスパートになれるわけがありません。子どもだってまだまだあなたのことを本当に信頼できる大人、職員であると信じられなくても無理はありません。故意に子どもを傷つける、仕事に影響を及ぼすことでない限り、失敗しても「ま、次はうまくやろうぜ」と開き直ってください。「ケ・セラ・セラ。なるようになる」のが案外、世の習いです。
<雇う側:五月病の職員を防ぐために必要なこと&なりそうな職員がいると察知したら>
・職員を責めてはだめです。責めたいなら、適応障害を生みやすい職場を作った組織を運営している経営陣を責めてください。ただでさえ五月病が出やすい職場であり職種です。普段からそれを意識した職場環境づくり、雇用労働環境づくりに取り組んできたかどうかを点検し、改善できるところは改善しましょう。
・産業医など専門家に相談する。50人以上の労働者がいる事業場には産業医を配置することが義務です。
なお、児童クラブの運営事業者には、「1クラブにはせいぜい10人未満の職員しかいないから、50人以上に該当しないので産業医の配置義務はない」と、したり顔で言う人がいますが、私に言わせればそのような人物は事業者失格です。直ちに児童クラブの運営から遠ざかってください。職員を守りたくないと言っているのと等しいからです。そもそも、1つのクラブは「独立した」事業場とは言えません。給料計算していますか?雇用採用で権限を持っていますか?就業規則は事業者全体で1つの就業規則を使用しているのに、産業医や衛生委員会になると「それは1クラブの人数が少ないから」というのは詭弁です。だったら1つのクラブごとに就業規則を作るか作らないかの判断にもなりますが、それはそうしない。都合のいいところだけ利用している児童クラブ事業者がなんと多いことか。だから児童クラブの業界はいつまでたっても働く人を大事にできない、本当に最悪レベルの業界なんですよ。
・職員を安心させること。「遠慮なく申し出ていいんです。治るまで休んでもらっていいんです。あなたがいなくなったら困るのは子どもたちもそうですが、会社もつらいんです。だから治ってほしいし、治るまで面倒みます」と、口先だけでなく実際の処遇において実践してください。
・新人には、採用前に行うプレゼンテーションや4月に行う新人研修のとき、五月病について詳しく説明しておくこと。不安になる、辛く思うことは珍しくないことを伝えておく。同時に、仕事がまだまだうまくいかなくて当然だということは念を押して安心させておこう。
・保護者側への説明も欠かさずに。「この時期は新人職員が多く、対応に不慣れな点があって保護者に迷惑をかけることがあるかもしれません。そのようなときは本部にご連絡ください」などとしっかり伝えておく。それは職員側にとって「会社が守ってくれている」との安心感醸成にもつながるのです。
<おわりに>
私は何度も言っていますが、児童クラブの仕事は本当に難しい、難易度マックスの仕事です。人を支援することの難しさ、それは支援の対象が自我の発達過程にある小学生児童であること、いろいろな境遇の中でもとりわけ社会や家庭への不平不満を抱えた保護者との対応が必ず求められること、少人数による職場での濃密な人間関係の真っただ中にいること、そして「個々の支援員、補助員、1人1人が、自分が理想とする支援の手法、育成支援の理念を持っているので、それを守りたいという気持ち同士のぶつかり合い」という仕事上のあつれきなど、人間関係をぎくしゃくさせる要素に満ち溢れています。
だからこそ本来は、もっと処遇、特に給料面が改善されなければならないのです。そして社会からの、児童クラブにおける職業の社会的評価が高まらなければならないのです。その2点が大幅に改善されたとき、児童クラブにおける仕事にも全般的に余裕ができ(児童クラブに注ぎ込まれるカネが増えれば給料アップだけではなく配置人数も大幅に増えているでしょうから)、五月病に陥りやすい要素は軽減されていくでしょう。
早くそのような時代が来るように、児童クラブ全体が声を挙げて改善を求めていきましょう。
「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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