放課後児童クラブでの「有償ボランティア」は止めてください。育成支援は専門的な「業務」。従事者のけがも多い。見直しを求めよう!

 放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者をサポートする「運営支援」を行っている「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブを舞台に、新人職員の苦闘と成長、保護者の子育ての現実を描く、成長ストーリーであり人間ドラマ小説「がくどう、 序」を書きました。アマゾンで発売中です。ぜひ手に取ってみてください! (https://amzn.asia/d/3r2KIzc) お読みいただけたらSNSに投稿してください! 口コミ、拡散だけが頼みです!
 5月12日(月曜日)の運営支援ブログで、放課後児童クラブにおいて業務に従事する人を「有償ボランティア」として募集していることへの懸念を取り上げました。その後、福岡市も、補助員について有償ボランティアを募集していることを私は確認しました。指定都市という大都市で、児童クラブで業務に従事する人を、労働者としてではなくボランティアとして募集してその労働力を利用していることは、由々しき事態だと運営支援は考えます。「放課後児童クラブ有償ボランティア問題」について、児童クラブ関係者や活動団体は、この仕組みの取りやめ、廃止を強く求めて直ちに声を上げるべきです。なぜなら、児童クラブのすべての職員の雇用労働条件の改善に重要だからです。児童クラブの仕事は、専門「職」として、その労働の価値を正当に評価されることが必要だからです。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。) 

<福岡市の有償ボランティア>
 福岡市は指定都市(いわゆる政令指定都市)の大都市。その施策は、周辺の基礎自治体や全国の他の指定都市にも参考事例として影響が及びます。というのも、福岡市は2023年から放課後児童クラブを示す名称を、留守家庭子ども会から放課後児童クラブと変更しましたが、そのことを検討する会議に提出された資料の中に、他の指定都市が児童クラブの名称をどのようにしているか、が含まれていたのですね。指定都市の動向は他の指定都市にも影響を及ぼす例です。その福岡市のHPに、放課後児童クラブのスタッフ募集の案内が掲載されています。支援員は、会計年度任用職員として募集していますが、「補助支援員」は、有償ボランティアとしての募集になっています。
留守家庭子ども会_補助支援員リーフレット_0301_hight
 募集の条件は次の通りです。
・活動内容=放課後児童クラブにて入会児童の育成支援などにあたる
・資格等=児童の育成支援に熱意を持つ方
・謝礼金=1時間1,020円(交通費の負担なし)
・活動時間=午後1時30分から午後7時まで(土曜日は午前8時から午後6時まで)、学校休業期間は午前8時から午後7時まで(土曜日は午後6時まで)
・事故補償=活動中の万が一の事故に備えて、福岡市において傷害・賠償責任保険に加入します。(労災の適用はありません)
・登録=各校区の放課後児童クラブ運営委員会で登録します。
(以上)

 注目点は、まず「謝礼金」との表記です。時給、ではありません。ボランティア活動への「お礼」としての謝礼金といういことでしょう。なお埼玉県の最低賃金は1時間992年(令和6年10月5日から)ですので、この有償ボランティアが労働者だという解釈になったとしても、賃金面での問題は生じない水準に設定されています。
 そしてズバリ、労災の適用はない、ということを明記していることです。つまり、児童クラブの補助員として従事する有償ボランティアは「労働者ではない」ということを、福岡市は明確にしているということです。

<労働者に他ならない>
 労働者とは、事業者に使用される者で賃金を支払われる者です。労災保険の対象は、各労働局もウェブサイトで示していますが、労働の対価として賃金を受け取る全ての者です。ということは、福岡市の補助支援員が児童クラブで行う作業が、「労働であるかどうか」によって労災保険の対象となるかどうかが判断できることになるでしょう。

 では、労働とはどういうことでしょう。厚生労働省のウェブサイトでは「労働者に該当するかどうかの判断基準」を示しています。長いですが主要部分を転載します。(労働者とは |厚生労働省
「労働基準法第9条では、「労働者」を「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と規定しています。労働基準法の「労働者」に当たるか否か、すなわち「労働者性」は、この規定に基づき、以下の2つの基準で判断されます。
○労働が他人の指揮監督下において行われているかどうか、すなわち、他人に従属して労務を提供しているかどうか
○報酬が、「指揮監督下における労働」の対価として支払われているかどうか
 この2つの基準を総称して「使用従属性」と呼びます。「使用従属性」が認められるかどうかは、請負契約や委任契約といった契約の形式や名称にかかわらず、契約の内容、労務提供の形態、報酬その他の要素から、個別の事案ごとに総合的に判断されます。この具体的な判断基準は、労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)(昭和60年12月19日)において、以下のように整理されています。
1 「使用従属性」に関する判断基準
(1)「指揮監督下の労働」であること
  ア 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
  イ 業務遂行上の指揮監督の有無
  ウ 拘束性の有無
  エ 代替性の有無(指揮監督関係を補強する要素)
(2)「報酬の労務対償性」があること
2 「労働者性」の判断を補強する要素
(1)事業者性の有無
(2)専属性の程度
(3)その他
(転載ここまで)

 では福岡市の放課後児童クラブの補助支援員は、上記の判断基準に照らすとどうでしょうか。私は、福岡市が作成している募集パンフレットに書かれている次の文言が気になりました。「ご自身が申告した活動可能な日時に合わせて、放課後児童クラブで作成したシフト表に沿って、放課後児童クラブの活動に参加していただきます」
 この文言は、慎重に「業務」「労働」という表現を避け、労働者性を感じさせない努力が私には伺えます。しかし、この文章からは、補助支援員は全く任意に自分の活動時間を選べないことが強く想起できます。事前に自身の活動可能な日時という条件を伝えているにしろ、その条件を満たす内容で勤務シフトが作成されたとしても、例えば補助支援員がやはり活動日時を急に変更したいとしても、事実上、それは不可能でしょう。しかしボランティア活動としての自発性が労働者性を否定するのであれば、シフト表に常に拘束されずに児童クラブでの活動ができる自発性が保障されていなければなりません。しかし、間違いなく福岡市の児童クラブで働く補助支援員は、勤務シフト表に沿った活動を行うことになっているでしょう。
 それは間違いなく、「拘束性」があることです。また、「自分はその日に都合が悪くなったから、代わりの人に行ってもらいますね」としても、事前に登録している人以外の活動参加を児童クラブ側は認めないでしょうから、そこには「代替性」が無い、つまり使用者と働く側との間に、指揮監督関係があることを補強する要素になります。

 そもそも、補助支援員が児童クラブで「活動」するにしても、支援員の指図を受けることは明白です。募集パンフレットには、支援員を「補助」するという表記になっていますが、実際の児童クラブにおけるあらゆる活動で、補助員は正規支援員、常勤支援員の支持を受けなければ、いま、そして次にどのような活動を行ってよいのか、判断ができません。指揮監督下で活動をすることになるのは明白です。補助員が児童クラブにおいてそのすべての活動時間において、補助員自身が自発的な意思でやりたいことを常に適切に判断して活動できるとは、私には絶対に不可能としか考えられません。

 放課後児童クラブで活動に従事する補助員といえども、有償ボランティアという区分で活動に参加してもらうことは、結局は、労働者として児童クラブにおける作業に従事することと実質的には同じであると、私は考えます。そしてその考えは間違っていないと私は考えます。

 福岡市の補助支援員も、そして前回とりあげた茨城県ひたちなか市の支援員も、有償ボランティアとして募集して従事させているようですが、それはやはり、労働者であって有償ボランティアではありません。

<労働者でなければならないのです>
 なぜ運営支援は、放課後児童クラブで業務に従事する人が有償ボランティアであってはならないと考えるのか。前回も記しましたが、まずは、放課後児童クラブにおける作業、業務の質の評価に直結するからです。
 曲がりなりにも「放課後児童支援員」という、まだまだひ弱ですが公的な資格者が従事することが強く求められる、公的な事業であるのは放課後児童健全育成事業です。その事業に従事する者は、公的な資格者が求められることから分かるように、育成支援の専門性が求められるのです。決して、自発的に参加した人が、自発性がどれほど崇高であっても、自発性さえあれば完遂できるような任務ではないのです。必要な業務、任務を、適切に判断して指示する人がいなければなりませんし、その判断ができる人でなければなりません。その高度な職務にはその業務の対価として賃金を当然に得ることが必要です。

 それが、有償だろうがボランティア活動で十分に対応できますよ、となってしまっているのは、児童クラブにおける業務、職務の専門性を軽んじていることに他なりません。児童クラブの仕事は、いかに難しく、ややこしく、大変で、専門的な知識が必要であるか、つまり専門職であるかを社会に広く知らねばならないのに、「有償ボランティアで十分」と世間に認知されてしまっては、この先、児童クラブの職員の職務の専門性に対する社会的な評価や賃金は、上昇することが極めて困難でしょう。児童クラブの職員の仕事に対する評価を向上させることを実現して厳しい雇用労働条件を改善しない限り、いつまでたっても児童クラブは「貧すれば鈍する」状況に置かれ続けます。それを自治体が有償ボランティアという小賢しい手法で手助けしてどうするのですか。

 この有償ボランティアは、育成支援に関する研修や教育の機会に参加することについてどのように扱われるのでしょう。募集の文言に「熱意のある」という表現があります。つまり熱意をもって自発的に研修や教育に参加することを期待しているのでしょうが、育成支援の活動それは業務に他なりませんが育成支援に従事する限り、研修に参加して教育を受け自身のスキルを磨くことは当然です。ボランティアだからといって断られては現場の育成支援の質を向上させるために障害になります。難しい問題を抱えることになります。

 ですから児童クラブの世界は、児童クラブで従事する者が「有償ボランティア」で処遇されていることに、絶対にそれは間違っていると、強く指摘せねばなりません。

 他にも理由はあります。放課後児童クラブであろうがなかろうが、労働者性が認められる作業に従事する者の労働者性を否定することは法令違反です。謝礼金が最低賃金を上回っているから問題なかろう、ではありません。労働者であれば認められる権利は、最低賃金の保障だけではありません。労災ももちろん、重要な権利です。
 これも「保険に入っているから、労災適用外でも問題なかろう」ではありません。逆です、逆。「労働者として労災の適用は当然にあります。その上でご自身がさらに保障が必要なら自身の意思で保険に入ってください」が正しいのです。児童クラブの仕事に従事する者なら、例えば「スポーツ安全保険」に加入できるでしょう。

 そもそも国がなぜ、労災保険制度を整備しているのか、考えてみるべきです。指揮命令下において作業に従事している人が作業中に負傷したり、作業中のけがが原因で病気になったりして労働による賃金を得られなくなった場合に、生活の保障や治療費の保障として、国家が整えているのが労災の制度です。それは、労働に従事している人の立場が弱いからこそ、国が強制的に労災保険の制度を実施しているのです。それを、自治体が、こともあろうに指定都市が、その労災保険の趣旨をないがしろにするような、有償ボランティアの利用をするなど、社会保障の理念を地方公共団体がないがしろにする由々しき事態だと私は考えます。

 労災保険の制度において適用がない公務員や、あるいは適用が任意である事業でない限り、あらゆる業務に従事する以上、労災の適用はあってしかるべきです。

 児童クラブの仕事は本当にけがが多い。今やそれに加えて心理的なストレスによって適応障害や各種の神経症状、精神的な疾患を悪化させることもあります。そんなときに役に立つのが労災保険です。児童クラブで事実上、労働者として働いていながら、「あなたは有償ボランティアのですから」といって労災の適用が無いことは、弱者の足元を見ている許しがたい対応です。

 「放課後児童クラブで業務や活動に従事する者は労働者である。有償ボランティアでは十分な育成支援の実施が困難である」ということを、全国の児童クラブの共通認識としなければなりません。多くの地域で改めて現状を確認して、仮に児童クラブの仕事をボランティア活用で済まそうとしている実態があれば、直ちに改善を求めていきましょう。

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 弊会は、次の点を大事に日々の活動に取り組んでいます。
(1)放課後児童クラブで働く職員、従事者の雇用労働条件の改善。「学童で働いた、安心して家庭をもうけて子どもも育てられる」を実現することです。
(2)子どもが児童クラブでその最善の利益を保障されて過ごすこと。そのためにこそ、質の高い人材が児童クラブで働くことが必要で、それには雇用労働条件が改善されることが不可欠です。
(3)保護者が安心して子育てと仕事や介護、育児、看護などができるために便利な放課後児童クラブを増やすこと。保護者が時々、リラックスして休息するために子どもを児童クラブに行かせてもいいのです。保護者の健康で安定した生活を支える児童クラブが増えてほしいと願います。
(4)地域社会の発展に尽くす放課後児童クラブを実現すること。市区町村にとって、人口の安定や地域社会の維持のために必要な子育て支援。その中核的な存在として児童クラブを活用することを提言しています。
(5)豊かな社会、国力の安定のために必要な児童クラブが増えることを目指します。人々が安心して過ごせる社会インフラとしての放課後児童クラブが充実すれば、社会が安定します。経済や文化的な活動も安心して子育て世帯が取り組めます。それは社会の安定となり、ひいては国家の安定、国力の増進にもつながるでしょう。
 放課後児童クラブ(学童保育所)の運営支援は、こどもまんなか社会に欠かせない児童クラブを応援しています。

 放課後児童クラブを舞台にした、萩原の第1作目となる小説「がくどう、序」が発売となりました。アマゾンにてお買い求めできます。定価は2,080円(税込み2,288円)です。埼玉県内の、とある町の学童保育所に就職した新人支援員・笠井志援が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。リアルを越えたフィクションと自負しています。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、群像劇であり、低収入でハードな長時間労働など、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子どもたちの生き生きと遊ぶ姿や様子を丹念に描いた作品ではありません。大人も放課後児童クラブで育っていくことをテーマにしていて、さらに児童クラブの運営の実態を描くテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。素人作品ではありますが、児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描けた「学童小説」です。ドラマや映画、漫画の原作に向いている素材だと確信しています。商業出版についてもご提案、お待ちしております。

 弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

(このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)

(宣伝です:放課後児童クラブのエアコン機器の点検と清掃を考えている方に朗報です。弊会をバックアップしてくれている、埼玉県上尾市の「SVシステム株式会社」(埼玉県上尾市の電気・空調設備施工管理会社|点検・修理・メンテナンス|SVシステム株式会社)が、「児童クラブ限定」で、格安にエアコン機器の点検と清掃を承ります。上尾市に比較的近い地域であればお伺いできます。見積はもちろん無料です。技術者のスキルは超一流。私が以前、児童クラブ運営事業者だったときからの長いお付き合いです。弊会お問い合わせメールで連絡先をお送りいただければSVシステム社に転送いたします。直接のご連絡も、もちろん大丈夫です。夏前にぜひ、エアコンの点検を!)