放課後児童クラブが自治体に選ばれるには事業規模、事業者の評価。育成支援の内容は二の次という現実を乗りこえろ。

 放課後児童クラブ(学童保育)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所の中核的存在)を運営する事業者を市区町村が選ぶとき、何を重視するのか。育成支援の内容、その充実? そうであってほしいですが、現実的には児童クラブを運営する事業者の規模だったり安定性だったり、要は会社の規模です。この現実を直視していかねば、地域に根差した児童クラブ事業者はいずれ淘汰されるでしょう。その現実がまたも露わになりました。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<またひとつ、広域展開事業者が勢力を伸ばすことに>
 埼玉県の真ん中あたりに伊奈町という自治体があります。バラの花で知られる町です。人口増が著しく、人口は4万5,000人を超えます。ブラスバンドが全国レベルの伊奈学園があります。来年度にはコミュニティFM「あげお・いなFM」(あいラジ)の開局も控える、埼玉県内でも活気にあふれた素晴らしい地域です。「しえすた」というカレー店は全国屈指のレベルであると私(萩原)は確信しています。
 さてそんな伊奈町ですが、放課後児童クラブは公設公営地域で、17クラブがあります。
 公営クラブは全国で相次いで民営化されていますが、伊奈町もその例にもれず、民営化に向けて動いていました。その結果、指定管理者の候補として、広域展開事業者である(株)アンフィニが選定されたと、町のHPで公表されました。
放課後児童クラブ指定管理候補者の選定結果について | バラのまち埼玉県伊奈町公式ホームページ Ina Town Official Web site

 同社は伊奈町に隣接する蓮田市でも指定管理者として児童クラブの運営を行っています。伊奈町を手に入れたことで着実に運営する地域を拡大していますね。なお伊奈町周辺では、白岡市は業界最大手のシダックス社が児童クラブを運営しており、上尾市は保護者会由来の地域に根差したNPO法人が、さいたま市は保護者会運営を軸としたNPO法人やその他さまざまな事業者が児童クラブを運営しています。

 この周辺地域は10年ほど前までは、公設公営と地域に根差した事業者が児童クラブを運営する状態でした。蓮田市も白岡市も公設公営でした。この10年以内で相次いで広域展開事業者が児童クラブを運営するようになっています。地域に根差した児童クラブ運営事業者が新たに発足したり勢力を伸ばしたりする例は皆無です。これからは営利、非営利問わず広域展開事業者が埼玉県内でもますます運営する児童クラブを増やしていくことは間違いありません。
 さいたま市は、放課後全児童対策事業を着実に導入しており、保護者会運営由来のNPO法人は必要最小限の範囲で命脈を保つでしょう。保護者会由来の事業者は上尾市が50近い児童クラブを運営していますが、いずれこの広域展開事業者と運営の地位を巡って水面下での競争が激化するでしょう。北本市は保護者会運営由来のNPO法人が公募を勝ち抜いて指定管理者の候補者に選ばれたようですが、公募である限り、いずれまた広域展開事業者との競争になります。

<伊奈町はどういう視点で事業者を選んだか>
 伊奈町が指定管理者候補者を選定するために利用した選定表が公開されています。23項目、各40点の配点で合計920点が満点となっています。23項目を全部紹介するにはあまりにも膨大ですので、私の独断で分野ごとに振り分けてみます。数字は選定表における評価項目の番号です。
「育成支援の質や内容の充実や評価そのものに関する項目に相当すると思われるもの」 見当たらず
「保護者の利便性向上に相当すると思われるもの」(18)
「育成支援を実施するにあたって関連する業務項目に相当すると思われるもの」(4)(5)(7)(8)(9)(10)(11)(12)
「事業者そのものの安定性に相当すると思われるもの」(1)(2)(3)(14)(22)(23)
「業務遂行の安定性に相当すると思われるもの」(6)(13)(15)(16)(17)(19)(20)(21)

 評価項目には、実際に行っている育成支援の内容についてその地域における評価の優劣を競う項目が入っていません。児童クラブは、児童の健全育成を行う事業で、当然ながらその事業そのものの質を最重要に問うて事業者を選ぶべきである、というのが私の考えです。しかし、育成支援の質の優劣を問う、あるいは実績として行ってきた育成支援に子どもと保護者からどのような評価を得ているのかについて競う項目がありません。極端な例えですが、「ひどい運営をしていて子どもが相次いで退所するようなクラブをいっぱい運営していても、会社の規模が大きくてあちこちでクラブを運営していれば高い点数を得られる」という評価項目であると言わざるを得ません。もちろん今回選ばれた事業者がそうであるということではありません。例えれば、という可能性の話です。

 私にとって印象的なのは、評価項目の「(1)指定管理施設(放課後児童クラブ等)を良好に運営した実績はあるか」です。これは指定管理施設を運営した実績そのものを問うていますから、地域に根差した事業者で他地域または同じ地域で児童クラブや指定管理者の施設を運営した実績がなければ、40点すべてが入らないか大幅に減点されます。これでは到底、他地域で児童クラブをたくさん運営している事業者には競争で勝てません。
「(14)運営経費(歳出)は可能な限り抑制されたものか、また、その根拠は適切であるか」という項目もあります。これは事業者の財務体質が相当強い事業者でなければトップの得点を得られないでしょう。また、この項目がある限り、競争に勝ち抜くために提案する指定管理料を抑制することになります。それは、現場で働く職員の低賃金となって反映される可能性が高くなります。

 事業者の規模、体力。これが他者より評価されなければ、今の時代、児童クラブの運営は任されません。ある意味それは当然です。すぐに潰れてしまう事業者に公の事業である児童クラブの運営を任せられません。企業経営、事業運営に素人の保護者または保護者出身の者が組織を運営するようでは、公金が投下される公の事業は任せられません。それは当然すぎることです。そういう観点では伊奈町のこの23項目には異議の付けようはありません。最も多くの配点があるべきである「育成支援の質の評価」がただ欠けている、抜けていることが残念なだけなのです。

<評価できる点は>
 評価項目に「(18)昼食を安全かつ安定的に供給できる体制が整備されているか、また、価格設定の考え方は適切か」と設けられています。これは昨今の児童クラブにおける昼食提供を反映させたものでしょう。これまで他の市区町村で行われた公募プロポーザル、指定管理者の選定における審査基準等では、見たことが無いものです。これで伊奈町は2025年度から児童クラブにおける昼食提供を行うのでしょう。保護者の利便性向上になり、評価できます。

<この現実を乗りこえろ>
 今後も児童クラブを運営する民間事業者を選ぶことは続くでしょう。「公営から民営」の形態だけでなく、「地域に根差した事業者と、広域展開事業者との競争」や、「広域展開事業者同士の競争」が、相次いで行われるでしょう。現状において、この競争に勝ち抜くには、事業者の体力、規模、他地域での実績が、得点を稼ぐために重要です。そこでは、地域に根差した保護者由来の運営形態は、まったく勝ち目がない競争が繰り広げられるのです。

 もしも仮に、保護者や子どもの意見や声を相当程度重視して児童クラブを運営していきたいという事業者があれば、その事業者は規模を大きくして他地域でも相次いで児童クラブを運営する実績を稼がなければ、到底、この大競争の波におぼれて沈むだけです。残るのは、広域展開事業者にとってあまりにも運営上のメリット、うま味が無い地域だけでしょう。この現実を乗りこえねば、保護者が運営に参画する権利を保障された、あるいは保護者の声が運営に確実に反映される仕組みを備えた地域に根差した児童クラブ運営事業者は、いずれ、淘汰されていき、細々と、広域展開事業者が見向きもしない地域だけで運営を任される程度に落ち着くでしょう。それでいいのでしょうか。そもそも広域展開事業者は、子どもや、子供の意見を代弁する保護者の意見を、形式上、利用者アンケートを行っていますよ程度で濁すだけで、事業者本体の経営方針、事業方針に忠実に事業を行うだけです。そうでなければ利益を稼げません。結果的に、そういうクラブで働く職員の処遇改善は期待できないままです。現状の、事業者ががっちり設けてその儲けの原資は削られた人件費、という今の構図が永続するだけです。

 余談ですが、今回の地域については私は特別な感情を持っていました。町が公営クラブを民営化する方針を打ち出した時に前職時代の私は行政担当者と面会したことがありました。その時は、企業運営の児童クラブではなく住民の意見を反映できる形態の児童クラブ運営を目指したいという意向を行政担当者は表明していました。私は十分、それに対応できるとして見通しを説明しました。ところがこのことを私がいた組織の私以外ほとんどの役員は理解しませんでした。自分たちのエリアだけで十分だという視野の狭さが致命的でした。地域に根差して職員の雇用待遇条件を重視して児童クラブを運営する地域を広げていくという絶好機を失ったのです。児童クラブの世界を変えるきっかけをみすみす逃した保護者由来の無責任体質は万死に値します。あまりにも残念な出来事でした。

 もちろん、どのような事業者であっても、地域根差した事業者でも広域展開事業者でも営利企業でも非営利法人でも、職員の雇用労働条件を改善し、向上させ、職員が安定して生活を営めるだけの給与、賃金を保障していくことで、優れた人材を確保することができ、その結果として育成支援の充実を図ることができるのです。これから民営化となる伊奈町はじめ、多くの地域での児童クラブにおいて、まずは人への投資を重視して事業の質を安定させるような児童クラブの運営に取り組んでいただきたいと運営支援としては強く願うものです。

<おわりに:PR>
 弊会は、次の点を大事に日々の活動に取り組んでいます。
(1)放課後児童クラブで働く職員、従事者の雇用労働条件の改善。「学童で働いた、安心して家庭をもうけて子どもも育てられる」を実現することです。
(2)子どもが児童クラブでその最善の利益を保障されて過ごすこと。そのためにこそ、質の高い人材が児童クラブで働くことが必要で、それには雇用労働条件が改善されることが不可欠です。
(3)保護者が安心して子育てと仕事や介護、育児、看護などができるために便利な放課後児童クラブを増やすこと。保護者が時々、リラックスして休息するために子どもを児童クラブに行かせてもいいのです。保護者の健康で安定した生活を支える児童クラブが増えてほしいと願います。
(4)地域社会の発展に尽くす放課後児童クラブを実現すること。市区町村にとって、人口の安定や地域社会の維持のために必要な子育て支援。その中核的な存在として児童クラブを活用することを提言しています。
(5)豊かな社会、国力の安定のために必要な児童クラブが増えることを目指します。人々が安心して過ごせる社会インフラとしての放課後児童クラブが充実すれば、社会が安定します。経済や文化的な活動も安心して子育て世帯が取り組めます。それは社会の安定となり、ひいては国家の安定、国力の増進にもつながるでしょう。
 放課後児童クラブ(学童保育所)の運営支援は、こどもまんなか社会に欠かせない児童クラブを応援しています。

 弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。

 放課後児童クラブを舞台にした小説を完成させました。とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子を描いた作品ではありません。例えるならば「大人も放課後児童クラブで育っていく」であり、そのようなテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。出版にご興味、ご関心ある方はぜひ弊会までご連絡ください。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ぜひご連絡、お待ちしております。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

(このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)