放課後児童クラブが無い地域があるのは本当ですか?

 放課後児童クラブ(児童福祉法に規定されている放課後児童健全育成事業を実施する施設のこと。学童保育所もその多くが該当します)が設置されていない市区町村もあります。放課後児童クラブは、必ず設置をしなければならない施設ではないためです。

 児童福祉法第34条の8には「市町村は、放課後児童健全育成事業を行うことができる」と規定されています。つまり、「できる」のであって、「しなければならない」とは、なっていません。次に紹介する理由や事情で、放課後児童クラブを設置しない地域があるのです。

 1つめは、放課後児童クラブに必要な職員を雇用して配置できる見込みがないために、設置しない例です。これは、人口が相当少ない地域に見られます。放課後児童クラブには「放課後児童支援員」という資格を持った者を、開設時間中に必ず1人は配置、つまり勤務させていなければなりません。放課後児童支援員資格を持った人を継続して勤務させることが難しい地域では、放課後児童クラブを開所したとしても放課後児童健全育成事業を実施したとみなされないため、国からの補助金が交付されません。それでは運営ができませんから、放課後児童クラブを設置しないのです。その場合は、資格がある者の配置が義務となっていない「放課後子供教室」(文部科学省所管)を実施し、午後5時ごろまで、子どもを小学校等にて過ごさせることを行っています。

 2つめは大都市に多いのですが、放課後児童クラブと、上記の放課後子供教室を融合させた独自の形態である、通称「放課後全児童対策事業」という形式で、子どもの居場所を準備する形態です。放課後子供教室は、その学校の子どもであればだれでも利用できます。人数制限はありません。一方、放課後児童クラブは「おおむね40人」という一定の目安がありますし、市区町村によってはクラブ毎に定員を設けており定員を超える子どもは入所ができません。
 この両者を融合し、午後5時ごろまではその学校の子どもであればだれでも利用でき、午後5時以降は放課後児童クラブの役割として事前に登録を済ませてある留守家庭の子どもの居場所とする、というのが放課後全児童対策事業です。午後5時ごろまでは無料のことが多いですが、さいたま市の「放課後子ども居場所事業」のように数千円の費用が必要な場合もわずかですが存在します。つまり放課後全児童対策事業は「午後5時から始まる時間限定の児童クラブ(学童保育所)制度」ともいえるでしょう。

 「誰でも利用できるなら、放課後全児童対策事業の方が便利で好ましいのでは」と多くの人が思うでしょうし、特に待機児童が出ない仕組みのため保護者には好評です。しかし一方、定員が無くだれでも利用できるというのは、その施設の整備が利用する子どもの人数に見合ったものでないと、施設の環境面において不利な環境となってしまいます。放課後児童クラブには、子ども1人あたりおおむね1.65平方メートルの広さが必要としていますが、放課後全児童対策事業では利用希望の子どもをもれなく受け入れるため、子ども1人あたりの面積が1.65平方メートルを下回る地域が多くあります。また、職員もなかなか雇用できない(低賃金のため採用希望者が少ない)ので職員数が少なく、とても大勢の子ども達に関われる環境でもありません。

 大人にとっては便利、しかし子どもと、そこで働く人には過酷な環境であることが多いのが、放課後全児童対策事業の深刻な弱点です。この点は、「利用児童数に見合った施設を整備する」ことと「利用児童数に見合った職員数を確保できるだけの十分な人件費を事業者が確保できている」ことの2点をしっかりと国や市区町村が配慮することで、ある程度は解消できるでしょう。しかしその取り組みは現状、まったく遅れていると言わざるを得ない状況です。

 (運営支援による「放課後児童クラブ・学童保育用語の基礎知識」)