放課後児童クラブが他の公的施設と異なる点。担当する部局が地域によってバラバラです。影響の考察が必要でしょう。

 放課後児童クラブ(学童保育)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)は、児童福祉法に基づく児童福祉の事業です。国では、こども家庭庁が所管していますが、実際に施設を設置や運営をしている市区町村では必ずしも福祉の部局が担当しているとは限りません。その点について研究や考察が必要だと運営支援は考えています。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<放課後児童クラブ史のおさらい>
 放課後児童クラブは、放課後児童健全育成事業として児童福祉法に規定されているものです。こども家庭庁が所管していますし、こども家庭庁が発足する前は厚生労働省が所管していました。ところで、放課後児童クラブはずっと以前から社会に存在していたのではありません。拙著「知られざる<学童保育>の世界」(寿郎社)にも記載しましたが、放課後児童クラブの誕生には、国は関わっていませんでした。

 国の資料(子育て支援員研修専門研修放課後児童コース 放課後児童健全育成事業の目的及び制度内容)によれば、「昭和30年代初頭から母親の就労の増加に伴って、保護者等による自主運営や市町村の単独事業として広がりを見せた」とあり、「放課後児童クラブは、地域の実情に応じて多様な運営によって展開された」とあります。
 そして、「1976(昭和51)年度「都市児童健全育成事業」(旧厚生省)として、留守家庭児童対策や健全育成対策として、国庫補助が開始され。」とあります。実はまだこの時点では、放課後児童健全育成事業は児童福祉法に記載がありません。つまりまだ法律に基づかない仕組み、法定外の事業ということです。放課後児童健全育成事業という概念が法律に載っていないのですから「放課後児童クラブ」も存在していないという理屈になりますね。

 このように、小学生を放課後や夏休みなどの学校が休みの日に受け入れる仕組みは、共働きやひとり親の保護者たちの協働で始まったり、あるいは児童福祉法に最初から記載されていた児童館を利用して放課後児童を受け入れたり、子育て世帯からの要望を受け入れた市区町村が単独事業として、子どもを過ごさせる施設を設置したりしてきました。もう、ここに記しただけでも「保護者による自主運営」、「児童館を利用した受け入れ」、「市区町村が単独事業で設置」の3パターンがあるわけです。それがつまり、国の資料にある「地域の実情に応じて多様な運営によって展開された」となるわけですね。1976年度から当時の厚生省がお金を出すことになったのでそれ以来、児童福祉の世界として扱われていますが、それより以前には文部省による補助が出ていたこともあるようで、教育行政の一部として認識されていた時代もあったようです。もう、ここからして複雑な歴史があります。
 放課後児童健全育成事業という文言がないわけですから、呼び名もそれぞれです。学童保育(所)、放課後児童留守教室、留守家庭児童室など、いろいろな呼称がそれぞれの地区で生まれて使われてきました。
 そして、上記の国の資料には「1997(平成9)年の児童福祉法改正にて「放課後児童健全育成事業」として法定化された。同時に、社会福祉法上の「第二種社会福祉事業」とされた」とあります。やっとのことで国が児童福祉法に、留守家庭の児童を対象とした仕組みとして再スタートしたのが1997年ということです。文言としてはここから放課後児童クラブがスタートすることになるでしょう。もちろん仕組みとしてはずっと以前から存在したとしても、です。

 そして2023年度、こども家庭庁が発足したことに伴って放課後児童クラブは、こども家庭庁が担当することになっています。児童福祉法をこども家庭庁が所管しているというに基づくためです。

<市区町村ではどうなっている?>
 先に述べたように、市区町村内で独自に発展した、児童クラブの仕組みですから、市区町村においては、どの部局が児童クラブを担当しているのか、これもまったくバラバラです。「児童クラブという実態が先にあって、後から法律がくっつけられた」というイメージですから、その実態を担当していた部局が必ずしも児童福祉法を所管する部局でなくてもいいのですね。そもそも児童クラブは長らく法律上、存在していなかったのですから。

 わたくしが取り組んでいる「全国市区町村データーベース」は、2025年1月20日時点で、1,107市区町村を確認しました。このうち、福祉系の部局(つまり首長部局)が児童クラブを管轄していると思われる市区町村が663あります。この中で、「こども」に限定している部局(こども未来部(課)など)は237、高齢者や障碍者も含めた一般的な福祉系の部局は426となっています。

 一方で、教育委員会や教育部が児童クラブを担当している市区町村が324あります。3分の1ほどですね。決して少なくはない市区町村で、児童クラブを教育部局が担当しているということになります。私の住んでいる地域でも、川越市は教育部局です。その他は首長部局の自治体が多いですね。なお、上尾市はかつて総務部局の管轄でした。教育でも福祉でもなかったのです。それが「こども未来部」になったのは約10年前です。

<首長部局と教育部局、どちらが有利?>
 これは答えがでません。どちらの部局でも有利、不利な点があり、おおむねそれは表裏一体の関係になるでしょうか。児童クラブは仕組み上、国の下位は市区町村であって直接、管理監督が及ぶ建前ですが、現実には指定都市以外は都道府県ががっちりと間に入っています。国がこども家庭庁、市区町村が教育委員会であっても、情報の伝達や通達には特段の影響はないでしょう。
 そもそも、放課後児童対策で国はこども家庭庁(それ以前は厚労省)と文部科学省が連携して対応しています。前年から国が出している「放課後児童対策パッケージ」は2省庁が連名で発出しています。学校施設を放課後児童対策に活用したいという国の考えですから、福祉と教育の2省庁が連携するのは国の理屈では当然なのでしょう。

 私が経験してきたことで首長部局と教育部局の損得、有利不利を無理やり考えてみます。
 ・施設の整備=小学校内の整備の場合は教育部局の方が有利か。ただし教育部局でも社会学習、生涯学習が児童クラブを所管する場合、首長部局と程度の差はあまりないかも。児童クラブを学校内に作ってもいいよとOKを出すのは最終的に校長の意向が大いに反映するようです。ただし、首長部局の場合は教育委員会(部)を相手に粘り強い交渉が必要なのは間違いありません。私の場合、小学校敷地内に久々に児童クラブを設置できた時のこと、お礼を申し上げにいった先で市長が「教委の説得は何年がかりだったよ」とのぼやきを聞いたことがあります。

 ・学校施設の利用=これは教育部局が児童クラブを所管しているほうが圧倒的に有利だと感じます。調整に時間がかかりません。トイレや特別教室の利用、避難経路や避難訓練における場面です。使ったトイレットペーパーや水光熱費の計測、案分も他部局との間ですと事前協定での取り決めが欠かせません。児童クラブの送迎時に保護者が自動車で学校敷地内の駐車場を利用できるかどうかの点でも、利便性で差が出てきやすいと感じます。
 ・児童に関して学校側との意見交換、情報交換、情報共有=これも教育部局が有利と考えられますが、首長部局であってもさほど困難とは考えません。両部局の間で「協定」を取り交わせるかどうかがカギです。「児童クラブの子どもたち、職員たちの業務のために、しっかり環境を整えよう」と行政側の意識が持てていれば協定の策定が進むでしょう。その意識が弱ければ、個別の案件ごとに調整を打診することで、お役所仕事の沼にはまって何週間たっても結果が出てこないという事態になる可能性が高くなるでしょう。

・保育所、認定こども園との連携=これは福祉部局にある方が話は早そうです。児童クラブに入所する子どもの多くは保育所や認定こども園、幼稚園に入っていますが、特別な配慮が必要な子どもを児童クラブに受け入れるにあたっては、保育所、こども園などでどのように過ごしていたのか、その情報を児童クラブ側が事前に把握することが重要です。これについては後日改めて取り上げますが、児童クラブは特別な配慮が必要な子どもにとって決して過ごしやすい環境にはありません。できるだけ事前の情報を手に入れて支援員、クラブ職員が関わりをスタートさせられるかが重要です。むろん、保護者の同意は前提ですが、保育所などで過ごしてきた子どもの情報を児童クラブ側が知ることが、極めて重要となっています。その時に壁となるのが個人情報です。繰り返しますが保護者の同意は前提のうえ、保育所を扱う保育課(係)と、児童クラブを扱う課(係)との間の相互理解のもと、特別な配慮が必要な子どもの情報を現場職員が共有することが今となっては欠かせません。
 これも協定がしっかりしていれば教育部局の児童クラブであっても問題ないでしょうし、そもそも入学する児童の情報を学校側はしっかりと入手していること、就学時健康診断を行うこともあるので、実際のところ、ほとんど影響ないのかもしれません。

<実際のところ、どういう影響が?>
 児童クラブを担当するのは、福祉系がいいのか、教育系がいいのか。これは永遠の課題なのか、はたまた茶飲み話のテーマなのか。育成支援という観念からすると、福祉の視点も教育の視点もどちらも必要です。そもそも保育は養護と教育の2つの概念を一体として営むものです。私の感想に過ぎませんが、市区町村データーベースで各市区町村の児童クラブの説明を読んでいると、教育部局の地域は、児童クラブの説明においても教育的な視点に立った記述が多いように感じられます。印象に過ぎませんが、そう感じます。学習をしたり生活習慣を習得したりすることを押し出しているイメージです。福祉の中でも「こども部局」系では、適切な遊び及び生活の場、という法律の規定をベースにして「子どもたちが集団生活の中で健やかに育っていくこと」を掲げる地域が多いという印象を持ちます。

 このあたり、しっかり学問として研究してくださる方が出てきてほしいものです。福祉部局と教育部局で児童クラブの運営方針や実際の支援、援助に差が出てくるのかどうか。弊会の事業がもしも円滑に発展すれば、そのような研究に資金を提供したいですね。

 さて最後に、なぜ今回はこのテーマにしたのかを紹介します。愛知県豊川市が公表している資料「放課後児童健全育成事業(児童クラブ)の現状について」(令和4年2月21日(豊川市総合教育会議)、子ども健康部子育て支援課)に、以下のような記述があったのです。
「①待機児童の解消 豊川市の児童クラブの待機児童数は、令和 2 年 7 月 1 日現在で 72 人発生していますが、これは全国で 64 番目に多い数値であり、待機児童の解消が急務です。②施設の確保 国の「新・放課後子ども総合プラン」では、「新規開設の 80%を学校内で」を方針とされています。学校及び教育委員会と連携し、学校内での開設を円滑に推進することが必要となっています。(中略)⑶ 市組織のあり方と部署間連携 放課後児童クラブは利用者が小学児童であり、なおかつ児童クラブ室についても学校内での開設を推進する方針が示されていることから、近年、教育部局において児童クラブを所管する市も増加しております。児童クラブを取り巻く様々な課題について教育委員会及び学校との連携を密にする必要がある中で「こども家庭庁」などの国の動向を見据えつつ、連携及び組織のあり方を検討していく必要があります。」(引用ここまで)
 資料には、豊川市周辺の自治体の所管部署の状況として、豊橋市は教育部生涯学習課、蒲郡市は教育委員会庶務課、新城市は健康福祉部こども未来課、田原市は教育部生涯学習課、岡崎市はこども部こども育成課、が紹介されています。

 豊川市は学校施設内に児童クラブを整備することを重視しているようですから、周辺自治体に合わせて、教育部局に児童クラブの所管を移す可能性がありそうですね。

 まあ、どの部局が担当していても、放課後児童健全育成事業が任意の事業である限り、市区町村の事情でいくらでも内容を変化させられることは変わりありません。早いうちに保育所や児童館と同じ「児童福祉施設」と位置付けることが必要であって、そうなればどの部局でも事業内容の柔軟すぎる解釈はできなくなるでしょう。児童クラブの事業の質を向上させるには、どの部局がいいか悪いか、ではなくて、児童福祉施設への位置づけを強く求めていくことが必要なのでしょう。

<おわりに:PR>
 弊会は、次の点を大事に日々の活動に取り組んでいます。
(1)放課後児童クラブで働く職員、従事者の雇用労働条件の改善。「学童で働いた、安心して家庭をもうけて子どもも育てられる」を実現することです。
(2)子どもが児童クラブでその最善の利益を保障されて過ごすこと。そのためにこそ、質の高い人材が児童クラブで働くことが必要で、それには雇用労働条件が改善されることが不可欠です。
(3)保護者が安心して子育てと仕事や介護、育児、看護などができるために便利な放課後児童クラブを増やすこと。保護者が時々、リラックスして休息するために子どもを児童クラブに行かせてもいいのです。保護者の健康で安定した生活を支える児童クラブが増えてほしいと願います。
(4)地域社会の発展に尽くす放課後児童クラブを実現すること。市区町村にとって、人口の安定や地域社会の維持のために必要な子育て支援。その中核的な存在として児童クラブを活用することを提言しています。
(5)豊かな社会、国力の安定のために必要な児童クラブが増えることを目指します。人々が安心して過ごせる社会インフラとしての放課後児童クラブが充実すれば、社会が安定します。経済や文化的な活動も安心して子育て世帯が取り組めます。それは社会の安定となり、ひいては国家の安定、国力の増進にもつながるでしょう。
 放課後児童クラブ(学童保育所)の運営支援は、こどもまんなか社会に欠かせない児童クラブを応援しています。

 弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。

 放課後児童クラブを舞台にした小説を完成させました。いまのところ、「がくどう、序」とタイトルを付けています。これは、埼玉県内の、とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子を丹念に描いた作品ではありません。大人も放課後児童クラブで育っていくことをテーマにしていて、さらに児童クラブの運営の実態を描くテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ご期待ください。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

(このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)