市区町村データーベース作業から。公募型プロポーザルの評価結果を公表している自治体がありました。見習うべきです。
放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者と働く職員をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブを舞台にした(とても長い)人間ドラマ小説「がくどう、 序」が、アマゾン (https://amzn.asia/d/3r2KIzc)で発売中です。ぜひ手に取ってみてください! 「ただ、こどもが好き」だからと児童クラブに就職した新人職員の苦闘と成長、保護者の子育ての現実を描く成長ストーリーです。お読みいただけたら、アマゾンの販売ページに星を付けていただけますでしょうか。そして感想をネットやSNSに投稿してください! 最終目標は映像化です。学童の世界をもっと世間に知らせたい、それだけが願いです。ぜひドラマ、映画、漫画にしてください!
わたくし萩原は、全国の放課後児童クラブの実施の様子を探るため、まったくの個人的趣味で市区町村データーベースの情報収集を続けています。市区町村が、自らのホームページで児童クラブに関して公表している情報を基本とした情報収集です。現在は2巡目をのんびりと手掛けています。2巡目は、昼食提供の有無や長期休業期間中の受入制度、就労証明書の書式を確認しつつ作業を進めています。昨日(2025年11月23日)は千葉県我孫子市を確認しました。我孫子市のホームページでは、過去に行われた公募型プロポーザルの結果を丁寧に公表していました。とても素晴らしいです。
(※基本的に運営支援ブログと社労士ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブは、いわゆる学童保育所と、おおむね同じです。)
<公募型プロポーザル>
1巡目では千葉県我孫子市は公営クラブが多かったのですが2巡目になると公設民営クラブが増えていました。毎年、少しずつ、民営化するクラブが増えているようです。惜しいことに市のHPの児童クラブ紹介頁では公営と民営の区分だけで、設置主体と運営主体の明記までは至っていないのですが、市のHPの入札関係のページを見ると、過去に行われた公募型プロポーザルの資料も掲載されており、内容を確認することができます。
公募型プロポーザルは児童クラブにおいておなじみの単語です。公設の児童クラブを運営する事業者を決めるために一般的に行われているものです。「競争」は競争ですが、競争は見積価格の安さだけを競うものではなくて、提案内容すべてを評価する競争、という制度となっています。そして内容が優れた事業者を最優先事業者として、その事業者と随意契約を結ぶというのが、公募型プロポーザルと呼ばれています。
とはいえ、競争は競争ですから、「内容を競い合って最も優れた事業者を見つけ出す」という過程には、諸々の合理性があります。事業者に支払うお金は公金ですから、最も効率的な事業を行う事業者をプロポーザルで決めていくことは理にかなっています。ということで、児童クラブの事業者を決めるときにも、この公募型プロポーザルの仕組みがほとんどの場合において利用されています。指定管理者制度において指定管理者の候補事業者を決めるときの仕組みもほとんど同じです。ただ公募型プロポーザルは「業務委託契約」を結ぶときに使われているようで、指定管理者の募集をするときは「公募」として候補事業者を募っています。行われる過程は変わりありません。書類とプレゼンテーションによって審査をする人が得点を決めていきます。
児童クラブの場合は、「人が、人と、密接に関わりあう」という事業です。従事する人の継続性や連続性を大事にします。他の公の事業、とりわけ、誰が担当してもマニュアル通りに作業していればそうそう差が生じない管理的な事業とは様相が全く異なります。児童クラブや児童館というような、人が人を支える労働集約的な事業においては「同じ人が関わること、同じ組織運営の理念を抱いている事業者であること」が継続することが事業の質の成否を左右するにも関わらず、基本的に管理コストの削減を目標とする公募による競争にはそぐわないにも関わらず、公募型プロポーザルや指定管理者の公募によって数年ごとに事業者が替わる可能性があるというのは、運営支援としては賛成しかねるものです。とはいえ、何度も申し上げてきましたが、ずっと同じ事業者と契約を結び続ける随意契約では、ずさんな運営をしている事業者に甘い汁を吸わせ続けるだけですから、それもまたあまり賛成したくありません。随意契約の締結には質の評価を参考とすることが必要ですが、その行き着く先が公募型プロポーザルであると言われれば、それはそうかもしれません。
このジレンマについて運営支援は、「継続性」と「こども、保護者からの支持、高い評価」に高い配点をすることで解決できるのではないかと考えています。つまり、児童クラブの事業者を選ぶには、単に以前からずっと運営しているだけで選ぶのではなくて、他事業者と競争することもやむを得ないとするが、その場合には、その場所で事業を運営していることについて高めの配点をすることと、いまサービスを受けている側の評価にはとりわけ高い配点を課すことを求める、ということです。であれば、地域に根差した児童クラブ事業者が、他の地域では事業運営をしていないことで得点できないとか、もともと事業規模が小さいがゆえに財政基盤など事業体の大きさによって得られる得点が無いとか、そういう不利な評価とのバランスが取れるからです。
<我孫子市の場合>
わたくしがとても感心したのは、我孫子市の公募型プロポーザルの結果の公表についてです。まず、過去の結果をHPで公開していること。そんなん当たり前、と思わないでください。圧倒的多くの自治体では、過去の公募型プロポーザル(というか入札関係)の資料を、すぐに公開終了としてしまいます。インターネット検索で、キャッシュ(過去データ)を検知して検索結果として表示されていても、そのページ事態は公開を終了しているということが、実に多くの自治体でみられます。
我孫子市は過去に行われた児童クラブの公募型プロポーザルの結果をきっちりHPで公開しています。他の自治体も、我孫子市と同じようにしてくださいね。
もう1点、これは本当にすごいのですが、公開されている児童クラブの公募型プロポーザルの評価結果表で、参加した事業者を明記して得点の獲得状況を公開しているのです。惜しいのは評価事項ごとの配点が公表されていないようですが、公募に参加した事業者がどれだけの得点を得ているのかは公表されています。つまり、競争に負けた事業者を匿名にしていないのです。これは本当にすごいです。
他の自治体もぜひ、我孫子市のようにしてください。やればできることを我孫子市が証明しています。競争に参加する事業者には、結果を公表することを応募の条件にすれば良いだけの話です。それもまた事業者の覚悟を問うことですから、質の担保に資することですよ。
公募型プロポーザルの情報公開に関する我孫子市の姿勢は高く評価できるものです。
<評価の内容は?>
我孫子市の評価について判断することはしませんし、できません。ただし評価事項について意見はあります。放課後児童クラブの中核的事業である育成支援の質を問う評価事項がほとんどありません。こどもや保護者からの評価を得点に反映させる仕組みがありません。利用者からの評価は、極めて重要です。地域との関わりに関する評価もありません。
単に、事業者の事業規模と安定性を重視している評価事項となっています。それではおのずと、他地域で同種事業を展開している規模の大きな事業者が有利となるだけです。安定性とは単に財政基盤だけでなく、こどもと保護者にどれだけ支持を得ているかが重要であるはずです。
もっともこれは我孫子市に限った話ではなくて児童クラブの公募型プロポーザルの全般的な問題です。児童クラブの本質、「人が、人と関わって成り立つ事業」そのものに評価をしない公募型プロポーザルでは、事業に優れた事業者を選ぶことは難しいだろう、ということを運営支援は言いたいのです。
さて我孫子市がせっかく過去の結果を公表しているので、その点を確認していきましょう。いくつかの審査を紹介します。その審査にあたって評価事項の全部を取り上げるのは膨大になってしまうので、評価事項のうち4つだけを取り上げ、その得点と結果を示していきましょう。取り上げる評価事項は以下の4つです。
①基本理念=放課後児童健全育成事業及び放課後子供教室事業を運営するにあたり、基本理念・方針・目標・児童の健全育成等についての理解や考え方・取り組み等
②管理運営=(3つのうちの1つ)統括責任者、事務管理者、運営責任者(コーディネーター・リーダー等)その他支援員等の人材確保
③課題に対する提案=(4つのうちの1つ)職員の質の確保について/令和6年度は「質を確保したコスト縮減方法について」
④その他=見積価格
なお、シダックス大新東ヒューマンサービス株式会社はシダックス(株)と略します。
令和7年11月4日公表:第一小
(株)明日葉 ①2.67 ②2.44 ③8 ④10.67
シダックス(株) ①2.56 ②2 ③7.78 ④23.33 特定
令和7年11月4日公表:布佐小・布佐南小
(株)アンフィニ ①2.56 ②2.22 ③7.56 ④13.33
シダックス(株) ①2.56 ②2.11 ③7.78 ④20.67 特定
令和6年11月14日公表:第二小
シダックス(株) ①2.14 ②2.71 ③7.14 ④22 特定
(株)アンフィニ ①2.29 ②3 ③7.14 ④14
令和6年11月14日公表:新木小
シダックス(株) ①2.14 ②2.86 ③7.14 ④14
(株)アンフィニ ①2.29 ②2.86 ③7.14 ④12 特定
以上のように、事業者がどれだけ得点したのか一目瞭然なんですね。これは良いです。令和4(2022)年度からの公表は、令和4年度が2審査3校分、令和5年度が3審査3校分、令和6年度が3審査3校分、令和7年度が2審査3校分です。では審査で特定となった事業者の見積価格を見てみます。
令和4年度 一小学校:3社競合で特定は(株)明日葉、見積価格は最高点。布佐小・布佐南小学校:2社競合で特定は(株)アンフィニ、見積価格は最高点。
令和5年度 三小学校:3社競合で特定はシダックス(株)、見積価格は2番手。四小学校:2社競合で特定は(株)アンフィニ、見積価格は最高点。根戸小学校:3社競合で特定は(株)明日葉、見積価格は最高点。
令和6年度 二小学校:2社競合で特定はシダックス(株)、見積価格は最高点。新木小学校:2社競合で特定は(株)アンフィニ、見積価格は下位。並木小学校:2社競合で特定は(株)アンフィニ、見積価格は最高点。
令和7年度 一小学校:2社競合で特定はシダックス(株)、見積価格は最高点。市布佐小・布佐南小学校:2社競合で特定はシダックス(株)、見積価格は最高点。
文字だけでは分かりにくいですが、見積価格でライバルより高い得点を得ている方が、おおむね、競争を勝ち抜いているという結果になっています。結果の表を見るともっと分かりやすいですが、見積価格でライバルの倍以上の得点を得ている例がかなり多いのです。そうであれば、合計点で相手を上回るので、そりゃ勝ちますよ。
結局、公募型プロポーザルといっても、なんだかんだで見積価格での高い評価、すなわち「低い料金でこれだけできますよ」というのが、どうしても有利になる。それはすなわち、企業としての体力、財政基盤が整っている方が有利になると、運営支援は考えます。
何も我孫子市がそうだと決めつけはしませんが、全国で行われている公募による競争も、結局は、コスト削減が最重要視されているのではないかという疑念は、どうしてもぬぐえません。人材確保や、職員の質の確保、何よりも「育成支援の質」に、高い配点がなされるべきだと運営支援は考えます。
我孫子市のように、丁寧に情報を公開してくれる自治体が増えれば、こうした公募による競争における考察も点検も一層進むでしょう。ぜひとも自治体は我孫子市のようにしてほしいですし、こども家庭庁は、児童クラブの公募においては参加した事業者の得点を国民に分かるように示すことを自治体に指導してほしいと、運営支援は望みます。
(お知らせ)
<社会保険労務士事務所を開設しました!>
2025年9月1日付で、わたくし萩原が社会保険労務士となり、同日に「あい和社会保険労務士事務所」を開業しました。放課後児童クラブ(学童保育所)を中心に中小企業の労務サポートを主に手掛けて参ります。なお、放課後児童クラブ(学童保育所)に関して、労働関係の法令や労務管理に関すること、事業に関わるリスクマネジメント、生産性向上に関すること、そしていわゆる日本版DBS制度に関しては、「あい和社会保険労務士事務所」を窓口にして相談や業務の依頼をお受けいたします。「あい和社会保険労務士事務所」HP(https://aiwagakudou.com/aiwa-sr-office/)内の「問い合わせフォーム」から、ご連絡のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
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「一般社団法人あい和学童クラブ運営法人」は、引き続き、放課後児童クラブ(学童保育所)の一般的なお困りごとや相談ごとを承ります。児童クラブの有識者として相談したいこと、話を聞いてほしいことがございましたら、「あい和学童クラブ運営法人」の問い合わせフォームからご連絡ください。子育て支援と児童クラブ・学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ・学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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