就業規則は「法令を遵守していればOK」と思っていませんか? 放課後児童クラブの事業者こそ就業規則に工夫を!

 放課後児童クラブ(学童保育)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)は他の業種と違ってなかなかに独自の進化を遂げている業種であり業態です。ということは、就業規則やそれに含まれる各種の規則規程(以下、当ブログでは「就業規則類」とします)も、児童クラブの世界に適した内容であることが必要です。これはほとんど意識されていないことですね。昔、「メガネは顔の一部です」というキャッチコピーのCMがありましたが、「就業規則類は事業者の顔の一部」なのですよ。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<就業規則類とは>
 念のため、就業規則類について簡単におさらいします。簡単に言えば、企業や団体、組織(就業規則などのことを考える場合、これら企業や会社のことを通常は「使用者」と呼びます)。において、「働くこと」に関すること(=労働条件)を定めている決まりのことです。使用者が作成する決まりです。
 労働基準法では、常時10人以上の労働者がいる事業場(職場、オフィスのこと。本社、本店、支社、支店、営業所、事業所など人が所属している就業場所ごとに考えます)については、使用者は、就業規則を作成して国に提出ことが義務となっています。働くことに関する決まりごとですから、実際はありとあらゆる内容が含まれるといっていいでしょう。給料や賃金について定める「賃金規程」や、育児休業や介護休業などについて定めた決まり、懲戒処分や表彰の基準を定める決まり、退職金について定める決まりも、すべて就業規則類に含まれています。
 児童クラブの世界は、とても小さい事業者が多いです。1つのクラブで1つの法人となっていて、そこで働いているのは数人の支援員、クラブ職員という事業者も結構多いでしょう。そのような事業者では、就業規則類を作成する義務はありません。では、働くことに関しての決まりは何を基準にすればいいのかというと、その場合は労働基準法となります。

 勘違いされがちなことですが、「ウチの会社のルールではこうなっているんだから!」と、自社、自分の組織の就業規則を優先して考えて事態を処理しようとする事業者(の役員、人事担当)がいますが、間違いです。アウトです。同じように「就業規則に書いてあることよりすべて労働基準法が優先する」と信じ込んでいる人もいますが、誤解しています。働くことに関するルールの「強さ」、格付けとでもいうのでしょうか、ちゃんと順位が付けられています。
 力が強い順、優先順位で上位から記載するとこのようになります。
労働基準法(と関連法令)>労働協約>就業規則>労働契約
 ここで労働協約とは、労働組合と使用者が取り交わした決まりです。労働条件や組合との関係についての取り決めです。労働契約とは、使用者つまり会社、企業、組織と、働く人個人とが結ぶ労働契約、雇用契約のことです。当然ながら労働基準法が最も強いので、労働基準法より悪い条件を定めた就業規則や労働契約はその部分が無効となります。「わたしたちの児童クラブは1日8時間30分労働とします」という決まりがあったとしたら、それが自動的に8時間と修正されるということです。また、年次有給休暇の買い上げを使用者自動的に行う決まりも、「休みよりお金が欲しい人にはお金が入ってくるから良し」と考えている人がいるかもしれませんが、ダメです。年休の買い上げは、法律で定めている日数を超える分の年休や、2年を過ぎて消滅する年休、退職日時点で消化しきれていない年休に限定されてしか認められていません。

 まずは、児童クラブの事業者と、働いている職員の側も、自分たちを律しているルールについて、基本を押さえておきましょう。

<就業規則類は、ただ法令の枠内にあればいい、というものではないのです>
 就業規則類は使用者側、つまり人を雇って働かせる側が作成する決まりです。ただ作成された内容は、働く人だけでなく当然、働かせている人も従わなければならない決まりになります。作成や変更は使用者側の責任で行いますが、働いている人の意見(=全職員の半数以上が加入している労働組合があればその組合、そういう組合がなければ全職員から選ばれた職員、これを過半数代表者といいます)を聴いてその意見と一緒に国に提出することになっています。とはいえ、そもそも、まともな会社、企業、事業者であれば、働いている人の意見や考えを全く聞くことなく就業規則を作成しません。そういうことをしない事業者は、悪徳ブラック会社です。

 少し考えてみれば気が付くことですが、働いている人の決まりとは、つまりその事業者内で行われている労働のカタチや質を決めることになります。それは、「ウチのクラブでは、職員に、こういう働き方をしてもらいます。休みが取れるのはこういう場合です。これだけ働くと、こういう賃金になります。病気で具合が悪くなったときはこういう形で治療に専念できます。こういうことをしたら、職場を辞めていただきます」といった、その事業者ならではの決まりを定めることです。それは、働いている人の決まりの内容によって、事業者の特色、特徴、カラーが決まるということです。

 就業規則類は、その事業者、会社、企業、組織の特徴を決めるもの、左右するものといえるのです。

 例えば、かつて私が代表を務めていたNPO法人では、児童クラブ職員に関する病休について、職員が子どもたちから感染することが多いと考えられるインフルエンザ、溶連菌感染症、流行性角結膜炎など学校感染症について児童の出席停止が求められる感染症による治療については年次有給休暇を使わずとも有休扱いの病気休暇を使用できるような就業規則に変更しました。私が発案し、職員労組や理事会での協議を重ねて変更しました。新型コロナウイルス流行前のことであり、結果としてコロナによる治療、出勤停止にも準用されて、多くの職員に恩恵を与えられた決まりとなりました。
 多数の子どもたちと密閉された空間で長時間過ごす機会が多く、しかもその距離が近く、さらに遊びなどで接触する機会が多い児童クラブという職種の特徴を踏まえたものです。また、児童クラブは残念ながら数年での離職が多い職種です。年次有給休暇は最初の半年で10日、それからは徐々に増えていきますが、最大20日間の支給を迎える前に退職してしまう人も多いもの。インフルで5日間の年休を使ってしまっては、その後、なんだかんだで休みが必要な時に年休が足りない場合もありました。
 職員のワークライフバランスを考慮すると、業務上において罹患することが多い感染症については年休とは別に治療の機会を確保したほうが良い、それは働く人の利益になるのは当然、「職員を大事にしている事業者」という評価は事業者の評判を高めてその後の職員募集に有利に働く、という計算も成り立ちます。

 就業規則類は、ただ法令の枠内にあればいい、ということではありません。他の業種に職員募集の点でとても有利な条件を出せずに人材確保で後れを取ってしまうという児童クラブであればこそ、就業規則類の細かな見直しと工夫で、仕事を探している人に刺さる内容のアピールをすることができます。

 もちろん、その事業者で働く人たちが従う決まりですから、就業規則類はその事業者のカラーを決めていくことになります。働く人を大事にするという就業規則類であればその事業者全体が、働く人を大事にするという意識や風潮が生まれ、根付いていくことになります。数年もすれば、初めのうちは感じていた違和感もいつしか当たり前となっていきます。これも私は、新規採用したフルタイム職員に採用初日から5日の年次有給休暇前倒し付与を可能とする就業規則に変えましたが、当初こそベテラン職員を中心に「新人が有休を使えるなんて」という感覚を持たれていたようですが、数年もすれば、当たり前のルールとして受け入れられていました。そんなものですね。

<意識しよう、どんな事業者でありたいかを>
 児童クラブの事業者は、人材こそ事業の成否を握る要素です。資質に優れた人が求人に応募してきてほしいですね。そのためには、外部から見て、「あの児童クラブの事業者は、とてもいい社風、雰囲気だぞ。なになに、そういう決まりがあるのか。それは魅力だ」と思われねばなりません。求職者からみて素敵だなと思われる社風、雰囲気、労働条件をどうやって作るか。それこそ、丁寧に計算されて工夫された就業規則類です。

 いま、働いてくれている職員にとっても、「うちの会社は、うちの法人は、こういうところが本当にありがたい。職員の支えとなってくれている」という就業規則類があることが、離職を防いて業務にさらに打ち込んでもらうモチベーションを劣化させないことにつながります。

 よって、就業規則類は、事業者が、「うちは、こういう組織であってほしいし、目指したい組織はこうでなければ」という、理想とする会社の雰囲気、風土、社風をしっかりと意識した上で、その意識を具現化するための決まりであることが必要です。ただ単に、法令内に留まっていればいいというものではありませんし、まして、働く人をギリギリまで限界まで縛り付けておくものでも、ありません。
 就業規則類を作成したり変更したりするには、事業者側、それは理事など役員だけではなく正規職員、常勤職員、保護者会運営であれば各々の保護者も含んで、児童クラブの運営に関わる人たちが、「私たちの児童クラブは、こうあってほしい。こういう形を目指していこう」ということをしっかりと把握していなければ、うまくいかないことがお分かりになるでしょうか。それはつまり、自らの会社の、事業者のあり方を見つめ直し、将来を想像することにもつながります。

 理想的な児童クラブの運営を実現できる事業者になるために必要なことは、目指すべき地点に事業者、会社を導くための案内路として就業規則類を整備するということです。それは、事業者、会社の「顔」を外にはっきりと見せることです。就業規則類とは、つまりは、事業者の「顔」です。その顔を立派にしましょう。そのためには、社会保険労務士という専門家を交えて、事業者内で、「わたしたちが目指すべき児童クラブを実現するため、わたしたちの運営のあり方を改めて考えてみよう。理想の児童クラブ運営を実現させる働き方とは何かを定義しよう。その定義を実現するために必要な決まりを作ろう」という作業をぜひとも行ってください。ぜひ、お近くの社労士事務所にご相談ください。
 なお、運営支援も2025年9月以降であれば社会保険労務士登録を行う予定ですので対応可能です。放課後児童クラブの運営に詳しい社会保険労務士は全国でもそうそう存在しないでしょうから、ぜひともご期待ください。

<おわりに:PR>
 弊会は、次の点を大事に日々の活動に取り組んでいます。
(1)放課後児童クラブで働く職員、従事者の雇用労働条件の改善。「学童で働いた、安心して家庭をもうけて子どもも育てられる」を実現することです。
(2)子どもが児童クラブでその最善の利益を保障されて過ごすこと。そのためにこそ、質の高い人材が児童クラブで働くことが必要で、それには雇用労働条件が改善されることが不可欠です。
(3)保護者が安心して子育てと仕事や介護、育児、看護などができるために便利な放課後児童クラブを増やすこと。保護者が時々、リラックスして休息するために子どもを児童クラブに行かせてもいいのです。保護者の健康で安定した生活を支える児童クラブが増えてほしいと願います。
(4)地域社会の発展に尽くす放課後児童クラブを実現すること。市区町村にとって、人口の安定や地域社会の維持のために必要な子育て支援。その中核的な存在として児童クラブを活用することを提言しています。
(5)豊かな社会、国力の安定のために必要な児童クラブが増えることを目指します。人々が安心して過ごせる社会インフラとしての放課後児童クラブが充実すれば、社会が安定します。経済や文化的な活動も安心して子育て世帯が取り組めます。それは社会の安定となり、ひいては国家の安定、国力の増進にもつながるでしょう。
 放課後児童クラブ(学童保育所)の運営支援は、こどもまんなか社会に欠かせない児童クラブを応援しています。

 弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。

 放課後児童クラブを舞台にした小説を完成させました。いまのところ、「がくどう、序」とタイトルを付けています。これは、埼玉県内の、とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子を丹念に描いた作品ではありません。大人も放課後児童クラブで育っていくことをテーマにしていて、さらに児童クラブの運営の実態を描くテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ご期待ください。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

(このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)