大変残念なことに、放課後児童支援員による性加害事案が発生。事業者はどれほど防止措置を講じていたのだろうか。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。残念なことに、放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)における性加害事案の報道がありました。本日の運営支援ブログはこの件を取り上げます。児童クラブにおける仕事、業務量を減らすために後編は「業務の棚卸しの必要性」は後日掲載します。
 ※2024年10月22日追記:本件の被疑者について沖縄県警は10月21日、別の女児2人対する不同意わいせつ容疑で再逮捕しています。琉球新報10月22日午前10時50分配信の記事では「2023年1月ごろから12月ごろまでの間に、13歳未満であることを知りながら女子児童2人にわいせつな行為をした疑い。」と報じられています。記事によると、児童クラブの活動時間内の犯行とみられる、としています。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<報道から>
 「勤務先の小学生女児にわいせつ疑い 放課後児童クラブ元支援員の男を逮捕」との見出しが付いた、沖縄テレビ放送の9月30日18時56分配信記事を引用します。
「去年12月勤務先の放課後児童クラブで小学生の少女にわいせつな行為をしたとして警察は30日、元支援員の男を逮捕しました。不同意わいせつの疑いで逮捕されたのは38歳の元支援員の男です。男は去年12月、勤務先だった県内の放課後児童クラブで小学生の女の子の下腹部を触るなどわいせつな行為をした疑いが持たれています。保護者から相談を受けた県のワンストップ支援センターが今年1月に警察に通報し事件が発覚しました。男は事件後に児童クラブを退職していて関係者から話を聞くなどして捜査を進めていた警察は30日、容疑が固まったとして男を逮捕しました。県警は捜査に支障があるとして男の認否を明らかにしておらず余罪もあるとみて捜査を進めています。」(引用ここまで)

 その他、多くの報道機関がこの事案を報じています。なお、当然ながら推定無罪の大原則がありますから、現時点でこの逮捕された38歳の元支援員が真犯人であるという決めつけはできません。よって「この38歳の元支援員が事実として不同意わいせつ容疑に該当する行為を行っていたと仮定して」このブログを書きます。ご了承ください。

 報道で私が気になった点は次の通り。
・保護者からの相談で発覚。相談先は「ワンストップ支援センター」=沖縄県性暴力被害者ワンストップ支援センター
・行為は昨年12月、相談は今年1月
・(他の報道によると)本を読んでいた児童へのわいせつな行為とあり、勤務中に児童クラブ内での行為か
・余罪がある可能性

 余罪の可能性は大変気がかりです。児童クラブの他の児童にも性加害がおこなわれていた可能性があります。

<運営支援の立場から>
 逮捕された被疑者の勤務する児童クラブがどのような運営形態なのかはまったく分かりません。民設民営だろうが公設民営だろうが、公設公営だろうが(沖縄県には公設公営は非常に少ないですが)、このような性加害を防ぐための教育研修、さらには人権、法令遵守に関する教育研修を、普段からどの程度行っていたのか、それが大変気がかりです。

 こども性暴力防止法に関して、こども家庭庁が公表している資料に次のような記載があります。以下、資料から抜粋します。
「こどもの安全を確保するための措置」→再犯対策のみならず9割を占める初犯対策・予防策を徹底する。
初版対策 (1) こどもの安全を確保するために日頃から講ずべき措置
・教員等の研修(第8条)
・危険の早期把握のための児童等との面談等(第5条第1項)
・児童等が相談を行いやすくするための措置(相談体制等)(第5条第2項)
(2) 被害が疑われる場合の措置
・調査(第7条第1項)
・被害児童の保護(第7条第2項)
(抜粋ここまで)

 重要なのは研修です。今回の被疑者が勤務していたクラブではどのような教育研修が行われていたのか。法令遵守についてどのように教えていたのか。子どもに「嫌なことをされたら、すぐに打ち明けていいんだよ」という子どもの意見表明に関してどのような伝え方をしていたのか。その実施状況が明らかにならないと、被疑者が置かれていた職場で、どのように性加害の防止に関して職員また職場の意識が醸成されていたのか、なんとも分かりません。

 捜査上の支障になることは当然承知の上ですが、児童クラブの業界団体や県は、今後の同種事案の再発防止のために、もちろんクラブ名が特定されることが無い配慮を行ったうえで、どのような対応を普段から行っていたのか、公表することを希望します。

 そして全国の運営事業者は改めて職員による性加害、性暴力防止のために定期的に教育研修を実施するべきです。それは現場職員だけに行うのではなく運営に関わるすべての人物を対象にするべきです。保護者会運営であれば保護者全員に、です。経営側に、強固な性加害、性暴力防止の意欲が持てないと現場クラブ職員にも伝わりません。組織全体で「子どもを守る」ことを改めて確認するべきです。同時に、「子ども自身が、自分自身を守るための行動を知る。行動を起こせるようにする」ための、「子どもへの教え」が必要です。

 児童クラブにおける職員の性加害、性暴力は、子どもにとって「一番信頼していいはずの人から、心身ともにズタズタにされる」という最悪の結果です。本来ならば、何かあった時に真っ先に相談できる相手であるはずの児童クラブの職員、クラブの先生が、自分自身に悪いことをしてくるのは、最悪の地獄以外なにものでもありません。このことがどれだけの深刻な意味を持つのかは、児童クラブに関わる全ての者、行政機関がもっと真剣に受け止めて考えるべきです。

<早期発見行動の重要性>
 報道では、捜査機関は余罪の可能性を伝えています。仮に余罪があるとして、それが被害児童以外の児童に対しての行為であると仮定するならば、クラブにおいて相当な期間、被疑者は性加害を行っていた可能性があります。

 では、他の職員は気付かなかったのか? その疑問を私は抱きます。もちろん、クラブ側で気づかなかったから、保護者が県の相談機関に相談して発覚したのですが、このことに私は保護者のクラブ側への不信感の現れの1つの結果なのかな、と勝手に想像しました。もちろんこれは何とも言えず、例えば1クラブ1事業者の形態であればクラブ運営事業者の責任者と、児童に性加害行為をしたとされるこの非常勤職員との関係が近すぎると保護者が警戒すれば、外部のより信頼できる相談機関に話をするでしょうし、そもそもこのワンストップ支援センターへの信頼感が相当高いということかもしれません。相談機関への信頼性が高いのであればそれこそ素晴らしいのですが、それでもなお、「保護者がクラブ運営事業者に真っ先に相談しなかった」ということが事実であれば、クラブ事業者への社会的な信頼が欠けている、ということを意味するので、運営支援としては大変残念です。

 もしも、余罪のことについて被害児童の保護者が懸念しているのであれば、それは確かに事業者に相談や連絡はできないでしょう。余罪がある可能性があるということは、それだけ、事業者が、職員による性加害について把握できていなかったのですから。

 私は「早期発見行動の重要性」を何度も訴えています。ひらたく言うと職員同士の相互監視です。これは児童クラブ側に大変反発のある考え方でしょう。なぜなら児童クラブの世界は、私に言わせれば「根拠のない性善説」が多く広まっている世界です。「人を信じることが大事な福祉の世界なのに、最初から人を疑うなんて」という意見を実際に受けたことがあります。甘い。逃げでしかありません。人として、その人を信頼することと、「人間は万が一のことがある。絶対に何もない、ということはあり得ない」という意識は併存できます。育成支援の実務上において素晴らしい職員であっても、こと、性加害や性暴力においては「絶対に起こすことはない」ということをうのみにしてはならず、「万が一のことがある」という大前提で、互いの行動、振る舞いを常に気にかけておくことをしてください、ということです。

 例えば、「児童と2人きりで過ごす時間が他の職員より多い。しかも、2人きりになる相手の児童はおよそ特定されている」という場合です。そのような行動を同僚職員が行っていたら、そこで疑いを持たねばなりません。私が経験した例では、ある職員はほぼ常に特定の児童を隣に座らせていた、あるいは隣に座っていた。それは実は性加害の被害者であった、ということがありました。そのような状態を「仲がいい子ども」とか「職員を慕っている子ども」という見方をしていれば隠された性加害は見抜けませんし、実際に見抜けなかったのです。しかし後で振り返れば「明らかにおかしい」のです。なぜいつも同じ子どもがそばにいる?また、その子がそばにいないと職員も不機嫌になっていたということもありました。

 「後で振り返れば、確かにおかしいと思える」ことを事前に早期に発見しよう、ということが「早期発見行動」の中核です。それほど難しくないのです。
 同時に、環境として性加害、性暴力を行しがたい状況に改善することです。これも、運営側が実施できる早期発見行動の1つです。死角を極力なくす、2人だけになる時間と空間をつくらせない=2人だけの密室となる状況を避ける(少しでもドアを開けておく、2人きりにならない)、監視カメラを付けるなどがあります。本来ならばそのような環境を整えることを行政が義務化し、カメラの設置費用の補助を行えるようになればいいのですが。

 児童クラブで子どもへの被害を及ぼす犯罪行為が行われることは、児童クラブで働く多くの者の信頼を損ねますし、社会インフラとしての児童クラブへの社会的な信頼をも損ねます。性加害、性暴力以外でも、児童への暴言や暴力、あるいは職員同士での陰湿な嫌がらせや、法令遵守におよそ逸脱した勤怠管理や労務慣行も、早急に撲滅されねばなりません。職員にも運営側にも、徹底した法令遵守の意識を植え付けること。残念ですが、児童クラブの世界はなかなかそこに及びません。このままでは永遠に児童クラブの社会的な評価は向上しません。そのことを児童クラブの関係者が1人1人肝に銘じて、必要なことを直ちに執り行ってください。

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)