仙台市が放課後児童クラブ(学童保育所)の「全入」(希望者全員受け入れ)の方向へ。歓迎ですが2点を忘れずに!
放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者をサポートする「運営支援」を行っている「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブを舞台に、新人職員の苦闘と成長、保護者の子育ての現実を描く、成長ストーリーであり人間ドラマ小説「がくどう、 序」が、アマゾン (https://amzn.asia/d/3r2KIzc)で発売中です。ぜひ手に取ってみてください! お読みいただけたら、アマゾンの販売ページに星を付けていただけますでしょうか。そして感想をネットやSNSに投稿してください! 最終目標は映像化です。学童の世界をもっと世間に知らせたい、それだけが願いです。ぜひドラマ、映画、漫画にしてください!
わたくし(萩原)は、放課後児童クラブにおいて待機児童の発生は絶対にあってはならないと訴えています。拙著「知られざる学童保育の世界」にも書いています。児童クラブを利用したい世帯はすべて児童クラブが利用できるようにならねばと考えます。仙台市が児童クラブの希望者全員を受け入れるとする方針が報道されました。本日はこの件を取り上げます。
(※基本的に運営支援ブログと社労士ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブは、いわゆる学童保育所と、おおむね同じです。)
<報道から>
仙台市の方針を伝える報道を紹介します。ヤフーニュースに2025年9月17日19時19分に配信された仙台放送の「仙台市 学童保育の全希望者受け入れへ 来年度から低学年優先枠撤廃 学童保育登録児童数は1万5600人」との見出しの記事を一部引用して紹介します。
「放課後児童クラブ、いわゆる学童保育についてです。仙台市は利用の申し込みがあった全ての児童を受け入れるため、来年度から、低学年の転入者向けに設けていた優先枠について撤廃する方針を明らかにしました。」
「仙台市は放課後、仕事などで保護者が家庭にいない小学生を対象に学童保育を開設していて、現在、低学年の転入者向けに優先枠を設けています。そもそもこの優先枠とは、低学年の転入者が学童保育に入れないのを防ぐために、5月まで優先的に枠を確保するものですが、これにより高学年の児童が断れるケースがあったそうです。こうした状況を受け市は、9月17日の市議会で、優先枠について、来年度から撤廃する方針を明らかにしました。優先枠は撤廃されますが、市は前の年度に申し込みがあった全ての児童の受け入れが前提であるとしています。」(引用ここまで)
小さいことですがこの記事の冒頭、「放課後児童クラブ、いわゆる学童保育」とあります。わたくしはこの文言だけで、「ああ、この記事を書いた記者もデスクも児童クラブの定義をしっかり理解している」と判断でき、記事全体の信頼性も高いと判断できました。
記事の内容はつまるところ、「仙台市は低学年の転入者向けの入所枠を設定している」「その設定枠を確保するため高学年児童がクラブに入れないケースがあった」「来年度から申し込みがあった全児童を受け入れることを前提とする」、つまり児童クラブの入所希望があった世帯のこども全員を受け入れる、ということでしょう。
<仙台市の状況は>
仙台市は指定市ですから児童クラブの待機児童数の状況が、こども家庭庁による「放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況」にて公表されています。それをみると、令和5年度、同6年度と待機児童数は1人です。それでは希望児童全員がクラブに入れる、つまり全入がほぼ実現できているという印象を受けます。しかし先の記事では、低学年転入枠のために入所できない高学年がいた、とあります。それが、こ家庁調べの1人なのかどうかは分かりません。
仙台市のホームページと、同HPで入手できる「仙台市児童クラブご利用案内」を確認しましょう。仙台市は公設クラブと民設クラブの併存で公設クラブは児童館等で実施されているようです。指定市や特別区で多く実施されている、いわゆる放課後全児童対策事業(通称「全児童対策」、おおむね午後5時ごろまで全入、それ以降は放課後児童健全育成事業として希望児童を受け入れ)は実施していないようですね。
ご利用案内には、「追加要件」として、「高学年(4,5,6年)児童の保護者の就労要件について」と題する記事が掲載されています。そこには高学年児童の児童クラブ入所については、低学年児童の登録優先の方針から「勤務日数が週4日以上(日曜日を含む)であり、平日においては午後3時を超える時間まで勤務していること。(※勤務時間で判断し、通勤時間は考慮しません。)」とあります。この要件はかなりハードルが高いとわたくしには感じられます。保護者の1人が週3勤務の非常勤の人は珍しくないですし、週4日勤務であっても午後3時までで勤務を終える非常勤の保護者もいます。そういう保護者がいる子育て世帯はそもそも児童クラブに入所申請すらできないのですから。
こういう、入所要件を満たさないのでそもそも入所申請すらできない家庭のこどもは、待機児童とはカウントされないのです。仙台市のように、高学年児童に別個の入所要件を設けている市区町村は確かにあります。こういう場合に生じた、そもそも児童クラブに入れないこどもは待機児童にはならないですし、「来年の新1年生を入所させたいから、もう大きくなったこどものご家庭はお家で過ごすことを含めてご一考願います」という趣旨のお願いをして新1年生の居場所を確保している児童クラブは、もちろん表ざたにはなりませんが私の見聞きしてきた限り、ごく普通にあります。そのようなクラブ側の働きかけを受けて小学4年生や5年生、あるいは3年生になったときに「自主的に」児童クラブを退所、退会するこどもも、もちろん待機児童にはカウントされません。
それらは、いわゆる「隠れ待機児童」となります。なんだか「隠れ」というのは嫌な表現ですね。まあその隠れ待機児童は正式な待機児童ではないので、こ家庁の調査には現れないです。仙台市の待機児童数1人は公式発表といえますが、実際のところ、この隠れ待機児童はそれなりに存在するのではないかと、運営支援は想像します。
(このニュースを掲載しているヤフーニュースのコメントには、隠れ待機児童の存在をうかがわせる投稿もあります)
なお、こ家庁の公式発表そのものでも、児童クラブの待機児童は、小学1年生よりも小学4年生の方が多くなっています。隠れではなくて正式に入所手続きをしたのに児童クラブに入れなかった小学4年生が実はもう大変多いというのが実情です。
それだけ、高学年児童が児童クラブに入れないというのは、問題が根深いのです。
<待機児童解消は絶対的に必要。しかし同時に忘れてほしくない2点>
運営支援が児童クラブの待機児童は絶対悪としてその発生を何としても阻止してほしいと訴え続けているのは、こどもと保護者双方への悪影響が大きすぎるからです。こどもの安全安心な居場所がないことによる生命身体安全確保への不安、成長過程における適切な監護を受けられないことによる損害、保護者には社会経済活動参画への阻害、特に子育てには女性(母親)が関わることが多い実態によって母親だけがキャリアの変更や放棄を余儀なくされる問題とそれによる世帯全体の収入額の減少、収入源による子育て生活への支障発生等々、児童クラブの待機児童は問題があまりにも多く、かつ、深刻です。
ですから運営支援は、児童クラブの待機児童は絶対悪であり、市区町村は全力で児童クラブ待機児童を生じないような施策を講じることが必要です。その観点からして、今回の仙台市の方針変更は大歓迎であり、高く評価します。
一方で、ヤフーニュースのコメントを見ると、おそらく地元の保護者や関係者とおぼしき方々からのコメントが多く、その内容は現状の児童クラブの実態について、大規模問題の深刻さ、施設の老朽化による問題、職員の過重勤務を憂慮する内容が非常に目立ちます。それが事実であるなら、到底、看過できない問題です。
運営支援としては、「児童クラブの待機児童を出さない方針は満点。その結果、大規模児童クラブ問題が生じることは避けられないとしても、漫然と大規模状態を放置してはならない。一時的(せいぜい半年、どれだけ我慢しても1年間)に大規模状態になったとしてもしかるべき期間の後は適正規模の児童クラブにてこどもたちが過ごせるように、児童クラブの新設や増設、拡張は当然に実施するべし」と考えます。
そして同時に「ただ入所児童数を増やすだけではこどもへの適切な支援が実施できない。職員の配置人数を増やすべきであって、それは基本的には常勤職員、正規スタッフの増員で対応するべし」と考えます。職員数を増やさねば、入所している児童数の増加によって当然に増加する業務増に対応できません。現状においてすら児童クラブの職員は過重業務に疲弊しています。職員数を増やさねばさらに職場環境が悪化します。そもそも事業の最大の目的である育成支援がますます適切に実施できなくなります。入所児童は増えた、でも職員がこどもに関われずにほったらかしにされている、というのでは、児童クラブの本来の機能を発揮できていません。そのような児童クラブで、熱心に長期間、勤務を続けようと考える職員はいません。退職、離職が相次いでさらに児童クラブの職場環境が悪化するばかりとなるでしょう。
つまり、児童クラブを全入するのであれば、「若干の時間的なずれはあったとしても、大規模状態の速やかな解消について市区町村が具体的な策を講じて実施していること」と、「児童数に応じた職員数の配置を実現すること」、この2点は欠かせないものと運営支援は考えます。
児童クラブにおける待機児童解消が左の車輪としたら、右の車輪は「大規模解消+職員増員」でしょう。決して「待機児童解消」の一輪車状態では、だめです。
なお当たり前ですが施設の老朽化に対応するのは言わずもがな。まして空調機器の不備は、こどもと職員の体調不良を招く直接的な原因ですから、許せません。
<子育て支援アピールはどうぞご自由に。実の伴った内容でなければ見透かされます>
仙台市の方針変更は児童福祉の観点から、こどもの居場所を確保する必要性を重視したことによるのでしょうか。指定市ですし、ことさらに「うちは子育て支援は満点です!」とアピールしなくても人口の急減はまだまだ先の話でしょうか。
ところが一般の市町村、特にいわゆる「消滅可能自治体」と区分された自治体を中心に、「わがまちは、子育て支援を充実しています。子育て支援日本一です!」というような魅力的なアピールを掲げて子育て世帯の転入を呼び掛ける自治体は実にたくさんあります。子育て支援に熱心ですよ、とHPでうたう自治体ばかりです。そうした自治体の児童クラブの実情を公開情報だけですが追っていったり調べていったりすると、残念なことに、「はあ? この程度の児童クラブ整備で、子育て支援熱心をアピールするの?」という疑問を覚える自治体が、かなり存在します
例えば、定員3桁で支援の単位が1つ(=大規模確定)だったり、複数クラブがあっても学年別で入所児童を設定(=異年齢集団で過ごすことによる育成支援のメリットを自ら放棄し、管理のしやすさを重視していることが浮き彫りになる)していたり、またこれはわたくしの完全な独断と偏見ですが広域展開事業者に任せっきりの様子がうかがえたりする自治体が、「子育て支援の充実に取り組んでいます!」とうたっていても、「ふーん」と、わたくしは感じてしまうのですね。
まして「待機児童はいません!」と誇らしげな自治体が、結局のところ全児童対策事業に熱心であるならば、「単に居場所だけ用意して胸を張っているのね」と冷ややかな目にすらなります。
看板倒れにならないようになってほしい。児童クラブは当分の間、また地域によってはもっと長く、入所にニーズは衰えないでしょう。待機児童が生じる地域はまだまだ残ります。児童クラブを希望する世帯のこどもが全入できるような施策、それは予算がかかりますが、国家百年の計、こどもの安全安心な居場所を整備して健全育成を支える事業は市区町村の責務として、その予算投入の優先度を最上位にしてほしいと、運営支援は願います。
ぜひとも仙台市には、全入の方針を堅持したうえで、適正規模の児童クラブの整備促進を期待します。それは民設民営児童クラブの新規開設を予算面で後押しすることも含め、こどもが過ごす環境と職員がこどもの支援を行う職場環境が良好な状態になるような整備の強力な推進を願います。施設や備品もできる限り問題なく使える程度の状態維持が必要。
そして、安易に全児童対策を導入して全入実現! とはならないように願います。全児童対策を導入する場合は職員数の確保を優先に、児童クラブの利用を希望する世帯は登所時から児童クラブを利用できる仕組みの導入を期待します。
(お知らせ)
<社会保険労務士事務所を開設しました!>
2025年9月1日付で、わたくし萩原が社会保険労務士となり、同日に「あい和社会保険労務士事務所」を開業しました。放課後児童クラブ(学童保育所)を中心に中小企業の労務サポートを主に手掛けて参ります。なお、放課後児童クラブ(学童保育所)に関して、労働関係の法令や労務管理に関すること、事業に関わるリスクマネジメント、生産性向上に関すること、そしていわゆる日本版DBS制度に関しては、「あい和社会保険労務士事務所」を窓口にして相談や業務の依頼をお受けいたします。「あい和社会保険労務士事務所」HP(https://aiwagakudou.com/aiwa-sr-office/)内の「問い合わせフォーム」から、ご連絡のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
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「一般社団法人あい和学童クラブ運営法人」は、引き続き、放課後児童クラブ(学童保育所)の一般的なお困りごとや相談ごとを承ります。児童クラブの有識者として相談したいこと、話を聞いてほしいことがございましたら、「あい和学童クラブ運営法人」の問い合わせフォームからご連絡ください。子育て支援と児童クラブ・学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ・学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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