プール活動の死亡事案で放課後児童クラブの責任者が在宅起訴となりました。このことから学童業界は何を考えるか。
学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。2023年7月に所外活動のプールで溺れて放課後児童クラブの小学1年生が死亡した事案で、責任者が業務上過失致死罪で在宅起訴されました。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の世界が真剣に受け止めて考えねばならないことはたくさんあるはずです。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<報道では>
時事通信社が9月11日18時51分に配信した記事を引用します。(個人名は削除しました)
「起訴状などによると、元園長は昨年7月26日午後1時ごろ、同市内のプールで小1~小6の児童46人を泳がせる際、計4人で監視に当たった。プールは水深の深いエリアと浅いエリアに分かれており、身長が低く、泳ぎが得意でない児童が深いエリアに入れば溺れる危険を予見できたのに、児童を常に監視するなどの注意義務を怠り、男児を死亡させたとされる。」
また共同通信社が9月11日11時34分に配信した記事も引用します。(個人名は変更しました)
「起訴状によると、被告は昨年7月26日、児童らとの屋外プールでの活動中、児童の身長や遊泳能力を把握するなどの業務上の注意義務を怠り、同市神照町の〇〇〇〇さん=当時(6)=が溺れていることに気付かないまま死亡させたとしている。滋賀県警が今年7月に業務上過失致死容疑で書類送検していた。県警の調べに容疑を認めていたという。」
起訴は9月4日付けだったと記事にあります。この事案については発生直後から何度か当ブログで言及してきました。そしてとうとう、刑事事件として今後は法廷で審理されることになったということです。
報道されている内容の要点と、私の感想は次の通りです。
・溺れる危険を予見できた。
→萩原の感想:プールの水深の情報をクラブ側は容易に知ることができた。亡くなった児童の身長が低いことは当然、クラブ側が把握している事実。亡くなった児童の水泳に関する能力については把握することを怠っていたとされている(=長浜市民間放課後児童クラブの屋外活動におけるプール事故検証報告書の30ページ目「参加児童の泳力の確認はしていなかった」)
・溺れていることに気付かないまま死亡させた。
→萩原の感想:クラブ側の監視体制が不十分。職員4人の引率だったが、当日の監視体制は「要配慮児童はしっかり見ていくという情報共有を行った程度」(同報告書の31ページ目)であり、とても緊張感を持って児童の活動をしっかりと監視していたとは程遠い引率態勢だった。
要は、プール活動でもっとも最悪の事態である溺死の発生を極力防がねばならないことが児童クラブ側の当然の義務であったところ、子どもの泳力の確認を怠ったりプールの水深と児童の身長および泳力から考えられる適切な遊び場所の指示を行ったりするなど、溺死の発生の可能性を極力減らすための努力を怠っていたことは重大な過失だということです。また、プール遊びの最中も、子ども達の活動の様子について注意を怠ることなく管理監督をしていたとは到底確認できなず、子どもが溺れているということに気付かなかったことも重大な過失だということです。
<活動をする限り、事故の危険性はある。だから備えが必要だ>
子どもは突然、大人(児童クラブ職員)が予期せぬ行動をとります。それが子どもです。児童クラブ側が、もちろん、子どもが予測不可能な行動を取ることすらも踏まえて、種々の活動の計画を策定するべきです。その点、所外活動も室内での活動も本質的な差はありません。ただ、所外活動、とりわけ水辺の活動や山間部での活動は事故に遭遇する可能性が高くなるので、より慎重に、徹底した計画が必要となるだけの話です。程度の話であって、問題や事案を極力起こさないようにするための準備、実際の行動が必要です。
その点について、このプール事故でも報告書にて指摘されていたのは、過去にも行ったが大丈夫だった、という経験に対する根拠なき信頼です。前もやったから大丈夫だった、というのは所外活動においては特にあてはまりません。まったくあてはまりません。どうして、去年の1年生と今年の1年生がまったく同じだと思ったのでしょうか。こうした、過去の実績に対する根拠なき信頼については徹底的に排除しなければなりません。児童クラブの世界は、特に子どもへの関りを語る上で職員個人の経験値をとても大事にする傾向が見られます。実践レポートや各種研修の分科会ではおよそ過去の体験の披露の場と化しています。経験値、そして「経験知」も。経験値・知は将来を予測するための根拠として活用するべきですが、それがそのまま最新の方策として再利用できることはありません。
それとともに、「最新の状態を確認すること」も必要な備えです。プールに行くのに水泳の能力を確認しなかったということは私にはまったく理解できなかったのですが、過去大丈夫だったからということもあって、あるいは「屋外の川や海じゃないくてプールだから」という根拠なき安心感もあったのでしょう。報告書には「毎年利用しているからという理由でプールの事前の現地確認を行っていなかった。」と記されています。
(以前も書きましたが、報告書はとても丁寧に作成されているものの、放課後児童クラブの職員がどうしてそのような行動を取ったのか、あるいは取らなかったのか、児童クラブ職員の心理面や、児童クラブ職員が置かれている環境がもたらす思考の流れについての分析が無いので、私からすると物足りなさを感じます。例えば、毎年利用しているから現地確認をしなかったというその判断について、児童クラブの職員という立場の者がどうしてその判断に及んだのかその思考に迫る調査が欠けています。)
児童クラブにおける活動の度合いが活発であればはあるほど子どもに関わる事故や問題は起きやすくなるのは致し方ありません。子どもに絶対に危害を及ぼさせないといって、活動そのものをすべてとりやめることは非現実的ですし、むしろ子どもの成長を支援、援助する上で悪影響をおよぼしかねません。クラブ室内でじっと座るか歩くだけにして、活動は映像を見せてせいぜいビデオチャットで済ますだけ、のような活動なら、溺死や足の捻挫、骨折はおこらないでしょう。しかし、体を動かせないでイライラした子どもたちによるいさかい、争いでまた違った形のけが、治療が必要な状態に発展する可能性だってあります。
児童クラブの職員は、子どもに取り返しのつかない事態を招くことが極力おきないような、できるかぎりのしっかりした活動計画を立て、職員全員で共有し、子ども達の楽しい活動と安全を可能な限り両立させることが求められますし、それが仕事でもあります。これからの日本の児童クラブで、所外活動で命を落としてしまうことが二度と起きないように全国の児童クラブの職員、そして運営事業者は、常に事故発生の可能性を踏まえて計画を立てて業務に取り組むように心していただきたいと強く希望します。
<責任の所在について>
今回のプール死亡事案では元園長が在宅起訴されたとあります。クラブの責任者という立場でしょう。このことを、今現実にクラブで働いている職員たちはどう考えますか?自分たちが行っている様々な活動と重ね合わせてみて考えてください。ごくごく簡潔にいうと、丁寧な計画を立てることなく漫然と行った活動で子どもが死亡するに至った、あるいは後遺症をもたらした大きなけがが起きたという場合、クラブの職員は責任を問われることになる。場合によっては刑事責任も追及されるということです。現場の責任者は、真っ先に責任が問われるということです。
クラブを運営する法人については特に報道がありません。実際にクラブにおける活動について責任を負うのは現場の責任者であるので、刑事責任についてはクラブ責任者だけが追及されるということでしょう。
このことを、児童クラブで働く職員のみなさんは冷静に考える必要があります。例えば、安全管理マニュアルや種々の安全確保の方策について、事業者全体として対応してほしいと運営側に訴えていたとして、それがなかなか実現しないままの状況下で行われた活動で、子どもに重大な被害をもたらす事案になってしまった。起訴されたり訴えられたりするのは、かねて危険性を事業者に訴えていた自分だけ、ということだってあるのです。もっと乱暴にいえば、「事故や事件になったのは現場のせい。ぜんぶ現場の職員の責任」として、なんでもかんでも責任を負わされる可能性があります。
全国の児童クラブの運営主体をみると、株式会社が増えていますし、保護者運営または保護者運営の発展形による非営利法人の運営もまた多く、この両者が代表的です。私が思うに、このいずれも、現場の事は現場でやっておいて、という体質が強いものと感じます。全国展開している広域展開事業者(非営利法人も含む)においては、そもそも地域の事業本部任せですが、その事業本部そのものが実は貧弱で実際は欠員対応で駆り出されて地域統括業務や管理運営などとても手が回らない状況にあることが多いと話に聞きます。保護者運営または保護者系の最大の弱点は非常勤の運営役員が多いことです。つまり、常に事業内容を詳細に確認し、必要であれば是正の指示を行う体制とは程遠いので、結果的に現場任せになりがちです。本来であれば、事業者が組織全体で事故や問題の発生を防ぐ方策を考えて実行させることが必要なのに、現場任せで、いざとなったらぜんぶ現場の責任だ、ということになりがちだ、ということです。それで、安心して働けますか?
おそらく今後は民事での責任追及の動きもあるでしょう。その場合は間違いなく職員個人ではなくて運営事業者も対象となってくるでしょう。そうした事態に実際に直面した場合、保護者や、保護者出身者が運営をしている事業者はどのような対応ができるでしょうか。非営利の事業者であれば、確実に賠償責任が程度の差はあれど認められることが予想される場合、その対処できる能力を持っているのでしょうか。保険で対応できるからいい、では済まされません。そもそも、非常勤の役員や、専従であっても保護者の感覚の延長線上で日々の業務を漫然と執り行っているだけで、業務上の管理監督責任をしっかりと果たさず、役員は善良な管理者としての注意義務も果たさず、安全管理や危機管理にしっかりと取り組んでいなければ、子ども(そして職員も当然ながら同じこと)が巻き込まれた重大な事案に対する責任を果たすことはできないでしょう。そして最終的に、組織が負うべき責任は、事業の確実な遂行に不作為を続けてきた役員たちにふりかかってくるのです。
二度と児童クラブに関わる悲惨な事案を起こさないよう、現場の職員も安心して仕事に打ち込めるよう、しっかりとした組織運営の形態を整えるべきなのです。
<おわりに:PR>
放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)
「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
(このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)