プール死亡事案の報告書。放課後児童クラブ(学童保育所)の本質にほとんど触れていない。これでは説得力が無い。
放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者と働く職員をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブを舞台にした(とても長い)人間ドラマ小説「がくどう、 序」が、アマゾン (https://amzn.asia/d/3r2KIzc)で発売中です。ぜひ手に取ってみてください! 「ただ、こどもが好き」だからと児童クラブに就職した新人職員の苦闘と成長、保護者の子育ての現実を描く成長ストーリーです。お読みいただけたら、アマゾンの販売ページに星を付けていただけますでしょうか。そして感想をネットやSNSに投稿してください! 最終目標は映像化です。学童の世界をもっと世間に知らせたい、それだけが願いです。ぜひドラマ、映画、漫画にしてください!
2025年12月23日は、放課後児童クラブに関する報道発表、ニュースリリースが相次ぎました。前日にはいわゆる日本版DBS制度のガイドライン案が公表されていましたから、ネットニュースも児童クラブの報道が増えています。その中で本日24日は、東京都小金井市の民設民営学童保育所(注:小金井市は条例で「学童保育所」と呼称を定めているため)の児童が2025年7月、プール活動中に死亡した事案に関するプール事故検証報告書について投稿します。日本版DBS制度のガイドライン案、令和7年度の実施状況や、放課後児童対策パッケージ2026はあす25日以降、年をまたいで順次、取り上げます。
そしてこのプール事故検証報告書に運営支援は失望を表明します。「こういう場面での配慮が欠けていたから、事案が起きたのではないか」という局所な点について細やかな調査検証は行われていると感じましたが、「なぜ、そのような事案を引き起こす児童クラブの運営姿勢だったのか」に関してほとんど触れていないという、児童クラブの運営支援からすると非常に物足りない内容となっているからです。残念です。
(※基本的に運営支援ブログと社労士ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブは、いわゆる学童保育所と、おおむね同じです。)
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<報道はどうなっている>
ヤフーニュースにて2025年12月24日1時26分配信となったTBSテレビの「東京・小金井市スポーツクラブのプールでの小学1年死亡事故 検証委員会が報告書を公表 事前の安全確認や監視体制の問題を指摘」との見出しの記事を一部引用して紹介します。なおヤフーニュース配信の、検証報告書に関するニュースはこの記事しか見当たりません。
「小金井市は第三者による検証委員会を設置し、事故の発生の原因を分析するなどしてきましたが、きのう報告書を公表しました。報告書では事故の原因について、男児が浮具を着けていなかったことや、水深を調整する台をプール全面に設置していなかったことなどを挙げたうえで、スポーツクラブと学童保育所の間で、事前の安全確認がほとんど行われていなかったり、プールでの監視体制が不十分だったりしたと指摘しました。」
(引用ここまで)
NHKニュースからも引用して紹介します。2025年12月23日午後9時25分配信の「小金井 小学生プール死亡事故 “安全管理に問題” 市検証委」との見出しの記事です。
「ことし7月東京・小金井市で学童保育中の小学生がプールで溺れて死亡した事故で、市の検証委員会は浮き具の着用が徹底されていなかったなど安全管理に問題があったと指摘しました。」
「23日、調査の報告書が公表され、この中で、原因について▽腕に巻きつける浮き具の着用が徹底されていなかったことや▽水深を浅くするための専用の台が十分に設置されていなかったことなどが事故につながったと指摘しています。その上で、参加するおよそ20人の子どもの安全をどのように守るのか、学童保育側は十分な検討を行わないままスポーツクラブ側に一任し、クラブ側も十分に確認しないまま受け入れていて、双方、安全管理に対する基本的な心構えを欠いていたと指摘しています。」(引用ここまで)
<検証報告書を読んで>
事故検証報告書は、小金井市のホームページに掲載されています。
(https://www.city.koganei.lg.jp/kosodatekyoiku/shisetsu/jidokan/gakudou/20250728pooljiko/kennshoutoushin.html)
検証報告書に記載されている内容で、運営支援の立場で感じた重要な点を紹介します。
1 プール活動は2団体が同時に行っていたこと
事案発生時の報道では分かりませんでしたが、事案発生時、プールでは当該学童保育所の児童だけではなく、スポーツクラブが運営している「アフタースクール」の児童たちも活動していました。学童保育所の児童は17人(小学1年生7人・2年生10人)、アフタースクールの児童は22人と検証報告書にあります。プールをロープで区切った区画内でそれぞれ活動をしていたとのことでした。
2 プール活動時における人員配置、職員配置
当該学童保育所所属の職員は3人、事故が起きたプールを管理運営するスポーツクラブ(学童保育所と同じ企業グループ)のスタッフは5人、合計8人が施設にいたとあります。この8人で2つの団体のプール活動を管理監督していたことになります。
学童保育所所属の放課後児童支援員(検証報告書ではAと表記)は事故発生時、スポーツクラブの事務室にいたと記載されています。残る2人はいずれもアルバイトで、1人は写真撮影要員としてプールサイドにいたとあります。監視要員ではないとされています。もう1人はプール活動に参加しない児童と一緒にスポーツクラブのスタジオにいた、とあります。学童保育所の児童の活動に関してはスポーツクラブのスタッフがもう1人、プール内にて児童の監視に従事していました。なお、アフタースクール22人の児童についてはスポーツクラブのスタッフ1人だけがプール内で監視に従事していたとあります。これは非常に危険なことだったと運営支援は感じました。
3 事案の発生の経緯
検証報告書の6ページ以降に時系列で示されています。いくつかわたくし萩原が気になる記載があります。
スポーツクラブのプールガード役のアルバイトが、スポーツクラブのスイミングチーフマネージャー(Bと表記)に「参加児童が小柄なので、水深調整台を増やした方が」とBに進言したとあります。この意見具申がなければ、もっと悲惨な事態が起きていても不思議ではありませんね。では学童保育所の放課後児童支援員はその点において何か配慮が必要なことを感じていたのかどうか、検証報告書では定かではありません。
「AはBに対し、「フィックス(二の腕辺りに着用する浮き具のこと。)を着けてね」 と伝え、Bからは「はい、着けるよ」と返事を得た。」とあります。参加児童が小学1年生、2年生であり溺れることを防止するために浮き具の着用を学童保育所側がスポーツクラブ側に要請したということです。
「AがBに「プール人員はプール側で出すので必要ない」ことを確認した。」とあります。この記述で、プール活動は学童保育所在籍児童の活動にもかかわらずその活動は学童保育所側の管理監督下にはないと学童保育所側が認識していたことが明確とされました。なお、Bは「事故発生時、事務のシフトとなっており、プール室内にあるコーチルームにいた」と検証報告書5ページに記載があります。プール活動する児童たちを目視していなかったのです。
「Bは、浮き具については、泳力を聞いて、不安な子に着けるものと考えていたため、当日も「水が怖い子はいないか」等と聞いたが、手は上がらないので特に着けさせなかった。」とあります。先に、学童保育所側から浮き具を着用させるよう依頼があったにもかかわらずスポーツクラブ側のスイミングチーフマネージャーはその依頼を踏まえることをせず、独自の判断で活動を進めてしまったことが明確となりました。プール活動が学童保育所の管理監督下にあって学童保育所の責任者がその場にいたなら防げたはずです。
「Aは児童らがフィックスを着用しているかの確認をしておらず、本児は、フィックスを着用していなかった。」とあります。学童保育所側の責任者にあたるAは現場を見ていないのですから確認も当然、していなかったのです。なおこの浮き具の着用をめぐっては、学童保育所側とスポーツクラブ側とで認識の相違がある旨、検証報告書に記載があります。このこと自体、プール活動が2団体の密接な連携によって行われていなかったことを示していると運営支援は考えます。
午前10時28分に、学童保育所児童はプールに入ったとされます。「入水後、間もなく、本児がプールサイド側からプール中央に向かって歩き、水深調整台が設置されていないと思われる場所にて沈水した。」と、検証報告書に記載があります。そして午前10時33分以降、スポーツクラブ側のスタッフで学童保育所の児童と同じ区画にいて児童を監視していたスタッフが沈んでいる児童を発見し、プールサイドに引き上げてから救命活動を行った旨、記載があります。この検証報告書に記載の限り、少なくとも5分程度、児童はプールに沈んでいたことが想定されます。決して短くない時間です。いや、「とても長い時間」、溺れた児童は誰にも気づかれなかったと運営支援は極めて残念に考えます。
4 安全対策に関する意識
検証報告書17ページ以降に記載があります。ここに非常に重要な記載があります。「プール遊びについてはZスポーツクラブが行うものとの認識であったため、安全に関するマニュアルは作成していなかった。また、プール遊びについての国や東京都(以下「都」という。)からの注意喚起に係る通知をM学童クラブ職員間で共有していなかった。」
放課後児童クラブでは2023年、滋賀県内の施設でプール活動中に児童が死亡しています。それを受けてこども家庭庁はプール活動に関して事故防止の対策を求める趣旨の通知を行っています。放課後児童クラブ運営指針にも「こどもがプール等に入水するようなことや、普段の放課後児童クラブでの活動と異なることを行う際には、安全管理に特に留意し、運営体制等が整わないと判断される場合は、中止する。」とありますが、これは滋賀県の事故をふまえて、改正された運営指針に新たに追加されたものです。(第6章 施設及び設備、衛生管理及び安全対策 2.衛生管理及び安全対策)
検証報告書18ページに「国や都から発出された通知は、市を通じて全ての学童保育所へ周知されており、M学童クラブではAが確認し、必要に応じてM学童クラブ内で共有していた。」とありますが、では先のプール遊びに関する通知について共有していたのかどうかが重要です。
5 学童保育所としての運営内容に関して
検証報告書の19ページの記載です。「Aは、プール遊びはZスポーツクラブが行うという認識であったことから、注意事項については、アフタースクールのプール遊びの注意事項と同じと考え、作成及び周知を行っていなかった。保護者や児童からのプール遊びの内容の問い合わせがあった場合は、「プールのコーチにお任せしている」旨の回答をしており、M学童クラブとして、当日の児童に対する体調チェックや児童の泳力の確認はしていなかった。」「プール遊びはZスポーツクラブが行うという認識であり、M学童クラブの役割はないと認識していたため、実施計画書も作成していなかった。」
当該学童保育所では、プール活動に参加する児童の体調チェックや、泳力の確認をしていなかったことが明記されています。また、当該学童保育所の児童をプール活動することを、いくら同じ企業グループの兄弟会社とはいえ、在籍児童の活動に関してはスポーツクラブの管理監督のもとにあると認識していたことになります。運営主体はこの学童保育所のはずなのに、です。ではプール活動についてはスポーツクラブの管理監督下にあるとするならその点の業務委託があるのかといえば、どうやらそうではなさそうです。
6 再発防止に関して
検証報告書の26ページ以降です。冒頭に「本件事故においては次の3つの観点と5つの問題点があり、それに沿って検証を行った。」とあります。3つの観点とは「事故の発生」「事故の発見」「救命について」であり、5つの問題点は先の3つの観点に絡められており、「フィックスの非着用」「水深調整台を一部にしか敷き詰めなかったこと」は「事故の発生」に、「誰も沈んだ瞬間を見ていなかったこと」「誰も沈んだ本児を長時間発見できなかったこと」は「事故の発見」に、そして「救命措置における胸骨圧迫と人工呼吸開始の遅れ」が「救命について」と関連づけられています。
「事故の発生」の観点において検証報告書は、学童保育所側が「プール遊びはZスポーツクラブが行うものと考えていたことが原因であると推測される」としています。責任の所在がどこにもなかったという指摘です。重要です。さらに指摘が続きます。
「安全確認のための下見は行われておらず」とあります。前年も大丈夫だったから、ということが背景にあったようです。
「M学童クラブの事業にもかかわらず、M学童クラブ職員間においても安全管理について話し合われていた様子は伺えない。」とあります。重大な指摘です。
「M学童クラブは申し込みの際に保護者から聞き取る等による泳力の情報収集を行っていなかった。」ともあります。
「事故の発見」の観点において検証報告書は「本児について、誰も沈んだ瞬間を見ていなかったこと、誰も長時間発見できなかったことは、監視体制が不十分であったことが原因と考えられる」と指摘しています。
この中で学童保育所側に関して「異学年児童が同時に活動するという特徴があるにも関わらず、利用児童の発達段階を踏まえたプール遊びの内容や安全性を検討することができていなかった」との検証報告書の記述は極めて重要です。
「本プール遊びの企画段階でM学童クラブとZスポーツクラブにて最大参加人数が20人であることを共有し、それに合わせて監視員の確保を行うようZスポーツクラブに求める必要があった。」というのも重要です。
さて、改善策も検証報告書に記載されています。学童保育所側には、このように記されています。長いですが重要ですので引用します。
「本件事故においては、M学童クラブとZスポーツクラブが共にN事業者内の部門であることから、事前の手続にて、イベントの準備が不十分だったと推察される。そのため、本件事故はM学童クラブとZスポーツク
ラブのいずれの管理下にあるものなのかが明確に決まっていなかったことに加え、M学童クラブはZスポーツクラブがどういうプール遊びを行うのかも把握できていなかった。所外活動実施前には、事前協議を行い、特に重大事故に繋がりやすい水に関わる遊び(活動)を実施する際には、安全管理について重点的に検討し、明文化したうえで、事業当日の関係者全員にあらかじめ理解させておく必要がある。」(引用ここまで)
検証報告書33ページ以降には小金井市に対する記載があります。抜粋します。
「本件事故以前の民設民営学童保育所に対して市は、国等からの通知の周知や年1回現地確認を行う等、一定の対応に留まっており、積極的な指導等には至っていない状況にある。」
「国等からは多くの通知が届くため、本来把握すべき、周知先の学童保育所がその内容を把握・確認しきれていないことがある」
「市は学童運営の安全対策をテーマとした研修等への参加をM学童クラブにも求めているが、より充実した研修を行うことで、 施設長や現場職員に対する危機意識の喚起と、更なる安全管理意識の向上を図る。」
「毎月開催している学童保育所の連絡会に民設民営学童保育所にも参加を促しているが、情報交換等を行うことで基準条例の遵守をより徹底することができるとともに、時期に即した様々なテーマや課題を共有することで、安全管理の意識の向上のみならず、互いの知識や専門性を高める効果が期待できるため、より充実した連絡会となるよう引き続き創意工夫を求める。」
検証報告書35ページ以降に、委員会としての結論が掲載されています。
<運営支援の見方>
事案の発生当日の職員とスタッフ、各組織の行動やその後の対応や、救命行動における技術的な観点などについて丁寧にまとめられた報告書と感じました。事案当日の、学童保育所側とスポーツクラブ側の、プール活動に関する認識や、プール活動に関する具体的な指示や依頼事が紹介されており、「どうしてこの事案が起きたのか具体的に想起させる」ことができました。
しかしわたくし萩原は、この検証報告書ではまったく満足できません。印象としては、事案の発生要因そのものについて3割、「その後の対応」について7割ほどのボリューム感で、これでは検証報告書ではなくて「対応報告書」となってしまっているという感じをまったくぬぐえないのです。
それはなぜか。つまり、学童保育所側は当然ながら、スポーツクラブ側も、ましてや行政も、「放課後児童クラブにおけるこどもの活動と、こどもの活動を支える事業=育成支援について、この事案に関係する3つの組織がどのように考え、理解し、職員やスタッフ、組織としての活動に反映させていたのか、反映できなかったのか」についての検証や調査が、まったくといっていいほどなされていないから、です。
安全管理に対する意識の欠如や、プール活動という事業の責任の主体があいまいだったことが事案の要因であったことは検証報告書を見れば分かります。では、「なぜ」安全管理の意識がここまで希薄、いや「存在していなかったのか」や、「プール活動の責任をだれが負っているのか、だれも気に留めていなかった」ことの原因はどうしてだったのか、についての調査検証がこの報告書からは読み取れません。
なぜ、引率の放課後児童支援員はプール活動中にプールサイドにいなかったのか。なぜ、学童保育所のスタッフは写真撮影という任務を命じられていたのか。スポーツクラブ側のマネージャーもプールサイドにいなかったのはなぜか。
なぜ、こども家庭庁が、いたましい滋賀県の事故を教訓に二度と繰り返さぬように発した通知が、当該学童保育所において活用されていなかったのか。放課後児童クラブ運営指針が改定されてわざわざプール活動について文章を挿入までしたことに対して、学童保育所側はどのように認識していたのか。そもそも運営指針をどの程度まで理解して日々の育成支援を実施していたのか。学童保育所を経営する母体の企業は、放課後児童健全育成事業についてどのような理念をもち、理念に従った育成支援目標を策定し、その育成支援目標の実現のために雇用する職員にどのような業務を遂行するように具体的に指示していたのかが、まったく見えない検証報告書です。さらにいえば、行政は所外活動の把握をできていなかった点も不可解です。「国からの通知が多いから」というのは、あきれてものが言えません。
ひとが命を預けて過ごす場所です。おとなが、こどもの命を何が何でも守る場所だ、こどもの権利を絶対に守る場所であり、その活動である、という絶対的な使命感が本来なら必要にも関わらず、検証報告書に登場する3つの組織、学童保育所、スポーツクラブ、市役所、その3つとも「人の命を是が非でも守る」という当然の使命感がまったく感じられない。
単に、テクニカルな点の失敗をあぶりだして「ここはダメだったね」と指摘している検証報告書、ずいぶんと矮小化された内容であると感じました。重大な結果を招いたことがあった、それは直接的にはこれこれこういう原因があって引き起こされた、ことは丁寧に検証した報告書ですが、「では、その原因を招くことになった土壌や風潮、いままで事業を行ってきた組織、運営母体の体質は? 考え方は? 取り組み方は?」についてまで調べていることがほとんどうかがえない報告書と言えます。
唯一と言っていいのが、「異学年児童が同時に活動するという特徴があるにも関わらず、利用児童の発達段階を踏まえたプール遊びの内容や安全性を検討することができていなかった」という検証報告書の記述です。ここはまさに放課後児童クラブにおける育成支援の特徴的な部分ですが、ではなぜ「児童の発達段階を踏まえた活動内容の計画、構築、検討ができなかったのか」について掘り下げて検証した形跡は報告書からは、わたくしにはうかがえませんでした。
民設民営の学童保育所ですから設置主体、運営主体の、放課後児童健全育成事業に対する理念や意識、具体的な運営方針についても検討が必要なはずですが、そこにも言及されていないようにうかがえました。残念です。それを明確にしないと、現場で実際に従事している放課後児童支援員や補助員の、育成支援業務に対する理解の程度や業務執行における意識の分析もできません。当然、行政が設置主体や運営主体に、どのような育成支援を求めているかについても具体的な内容について、うかがい知ることはできない検証報告書の記述になってしまったように、わたくしには受け取れます。
悲惨な事案が起きた引き金は検証され改善策も示されました。では「その引き金は、どのようにして作られたのか」についての検証がないのです。建物に欠陥があった、それは施工段階でこのようなミスがあったからだ、ではなぜそのような施工や工法が採用されたのかについて調べていない、というイメージです。
これでは、同種の事案の再発を根本的に防ぐための重要な抑止の策には、なかなかならないのではないかというのが、わたくしにはとても残念です。あえていえば、仮にわたくしがこの検証報告書を受け取る立場でしたら「申し訳ないが、大事なことの半分は丁寧に示された。残りの半分も、急いで検証してくれ」と命じるでしょう。
検証報告書には業界団体の活動に期待する胸の記載もありました。連絡会に参加して意識を向上することができるのではというくだりです。それはその通りですが、わたくしは危惧します。「ひとの命を確実に保障する事業である。人の命を守りながら行うビジネスである」という認識を持ったうえでの議論や意見交換が必要とわたくしは考えますが、ややもすれば「職員、スタッフは常にこういうことを心がけて居よう」というような討議や意見交換では、建物の上物部分だけに関心を寄せた議論です。大事なのは基礎です。事業活動をしていること、安定して質の高い放課後児童健全育成事業を業として行う上での重要な要素について、つまり事業者の経営と運営姿勢に関して意見が交わされなければ、結局は水面から上の部分だけの議論に陥ることを、わたくしは危惧します。氷山は水面下の方がはるかに大きいのです。
短期間で、具体的に事案を招いた要因を見つけ出して分析し、再発防止の提言をしたこの検証報告書の意義は当然にあると評価します。取り組まれた委員の皆様には敬意を表します。ですが、放課後児童クラブや学童保育所で、失われてはならないこどもの命が失われたこと、そしてそれは当然に命を失うことが本来であればありえなかったことの重大な点について、「こどもの命を受け入れて行う放課後児童クラブの放課後児童健全育成事業とは、いったいどういうものか。当該学童保育所と、当該学童保育所を設置運営していた事業者は、その点についてどのように考え、取り組んできたのか。その結果、現場の職員にどのような見解や理解が根付いていたのか」についての論考、検証が薄弱だったことは、痛恨の極みです。しいて申し上げれば、「こどもを預かって過ごさせるうえで、重大なミスがあった。残念な問題点があった。それはこういうことです」という趣旨の内容の検証報告書であると、わたくしには受け取れたのです。こどもを預かって活動させるうえでの失態がこうだったという検証。いやいや、そうではない。こどもが過ごす、生活する、その活動の一環として行われていた内容について関係する事業者の認識が希薄だったのでそれが表面化したのが数々の信じられない具体的かつ致命的なミスであったのです。なぜ、放課後児童健全育成事業に関する認識が希薄だったのかの根本原因が、読み取れない検証報告書だったのです。預かりの失敗であって、こどもの成長発達を支える事業における援助、支援の失敗という認識が、わたくしには読み取れませんでした。
滋賀県内の事案で、もう二度と放課後児童クラブでこどもが亡くなることがあってはならないとわたくしは強く感じました。それから数年たたずでの同種事案発生で、本当にむなしく、悲しい。金輪際、このような事案を起こしてはならないというのことを、放課後児童クラブに関わるすべての人、組織は強く強く認識して活動をするべきです。児童クラブはいま、ビジネス拡大の有力な事業として認知されています。わたくしは児童クラブを民間事業者が設置運営して利益を上げることを否定しません。ただしそれは、放課後児童健全育成事業の本旨をしっかりと理解して実践することを大前提としたうえでのことです。
放課後児童クラブ、学童保育所は、単にこどもを預かる場所では、ありません。そしてこどもが無念にも亡くなる場所では決してありません。それを認識できないでなにが「こどもまんなか社会」ですか。
(お知らせ)
<社会保険労務士事務所を開設しました!>
2025年9月1日付で、わたくし萩原が社会保険労務士となり、同日に「あい和社会保険労務士事務所」を開業しました。放課後児童クラブ(学童保育所)を中心に中小企業の労務サポートを主に手掛けて参ります。なお、放課後児童クラブ(学童保育所)に関して、労働関係の法令や労務管理に関すること、事業に関わるリスクマネジメント、生産性向上に関すること、そしていわゆる日本版DBS制度に関しては、「あい和社会保険労務士事務所」を窓口にして相談や業務の依頼をお受けいたします。「あい和社会保険労務士事務所」HP(https://aiwagakudou.com/aiwa-sr-office/)内の「問い合わせフォーム」から、ご連絡のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
☆
「一般社団法人あい和学童クラブ運営法人」は、引き続き、放課後児童クラブ(学童保育所)の一般的なお困りごとや相談ごとを承ります。児童クラブの有識者として相談したいこと、話を聞いてほしいことがございましたら、「あい和学童クラブ運営法人」の問い合わせフォームからご連絡ください。子育て支援と児童クラブ・学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ・学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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(ここまで、このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)
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