プール死亡事案で書類送検。放課後児童クラブの役員、管理職は常に責任を負う立場であることを認識していますか?

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。昨年夏に起きた悲劇的な事故で、学童保育の関係者が書類送検されたというニュースがありました。本日はその個別の事例ではなく、一般論として、当たり前のこととして理解できるはずの、役員や管理職の責任について改めて確認していきます。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<報道から>
 昨年夏、滋賀県内のプールで、放課後児童クラブの所外活動時間中に、クラブ在籍の子どもが溺死するという、あまりにも悲劇的な事案がありました。そして昨7月18日、この事案について動きがありました。責任者について刑事責任を問うために警察が書類送検した、という重大な局面になったのです。産経新聞のオンライン配信記事を引用します。(人名、施設名は伏せます)
「昨年7月に学童保育のプール活動で、滋賀県長浜市神照町の小学1年=当時(6)=が溺れて死亡した事故で、県警捜査1課と長浜署は18日、業務上過失致死容疑で、長浜市の民間学童保育所元園長の男性(50)=長浜市=を書類送検した。送検容疑は、昨年7月26日午後1時ごろ、長浜市野瀬町の多目的施設敷地内の屋外プール(長さ約25メートル)で、児童が溺れる危険性を予見できたにもかかわらず、常に監視するなどの業務上の注意義務を怠り、死亡させたとしている。」
「捜査1課によると、元園長は保育所の安全管理責任者であったが、事前に児童の身長や遊泳能力を把握しておらず、大小プール(水深1・1~1・3メートル、同0・6メートル)への遊泳区域指定をしていなかった。元園長は「児童の命を守るための諸対策を一切していなかった」と容疑を認めているという。」(引用ここまで)

 留意するべきは、「児童が溺れる可能性を把握できたのに、そのことに関心を払わず、遊泳中の児童の様子をしっかり注意して見ることを怠った」ということです。予見可能性があったということ、事故の発生を防ぐ注意義務を怠ったということです。引用していない部分には、学童保育所側は亡くなった子どもの泳力を把握することもしていなかったと記載があります。

 この事案で亡くなったお子さん、そして遺族の方には改めてお悔やみ申し上げます。そして今後は日本中の放課後児童クラブ、学童保育の世界では、「しっかりと注意していけば、防げるはずの事故や事件」について起きてしまうことを絶対に近いほどゼロに近づけることを、心に刻み込んでいかねばなりません。

<管理職の責任は明確>
 管理職はよく「責任者」と言われますね。その通り、責任を負う立場だからです。所外活動だけではなく通常の活動、事業においても常に責任者がいて、その者の指示や命令に従ってその場にいる職員は仕事を行っているのです。児童クラブでいえば、施設長や主任と称されるような立場の人が、そのクラブ内における管理職であり責任者です。1つのクラブで1つの法人あるいは団体であるとしたら、そのクラブの管理職、責任者が法人や団体の責任者となっていることもあるでしょうし、法人や団体の長がいれば、その者が組織全体の責任を負う最終的な責任者となります。

 また、複数のクラブを運営している運営事業者は珍しくありません。各クラブにそのクラブの運営を統括する責任者がいて、さらにその責任者を管理監督している者が必ずいるはずです。クラブの運営規模によっては、各クラブの責任者を統括するマネジャー的な者がいて、さらにその立場の者を統括し管理監督する者(事務局長だったり、あるいは理事、理事会)がいるはずです。まったく責任者がいない、ということはあり得ませんから。

 児童クラブは日々、子どもを受け入れることで保護者の生活を支えています。子どもの生命身体の安全を守ることは当然の義務ですから、クラブ側の過失、失態で、子どもが死亡したり重大な後遺症を負うけがをさせてしまったりということが起きたとしたら、責任者はその責任を問われることになります。今回の長浜市の件では、それが当時、施設の園長であったということです。

 ここで児童クラブの運営実態を思い起こします。どんな活動をするにせよ、子どもがどんな状態か、目的地の状況や移動中の状況について、個々の正規職員、常勤職員に持ち場を決めて割り振って確認させたり対処させたりすることはよくあります。「施設内の移動については〇〇先生にお願いね。計画もよろしく。施設に行くとき、帰るときの子どもたちの引率は△△先生が担当ね」というような塩梅です。ここの持ち場について責任をもって把握して取り組む、ということです。それが施設長や主任も現場職員の1人として決めた持ち場についてはしっかり把握するとしても、他の職員が担当している範囲のところまでその内容をしっかり把握しているのかどうか、私にはその点、不安を覚えます。

 まして、クラブで行われる種々の活動(それはもちろん日々の活動を含みます)について、組織や団体の責任者、管理職がどれだけ把握しているのかどうか、私には不安しかありません。保護者が中心となって運営している団体は、保護者は通常、非常勤ですからクラブで行われている活動について常時、報告を受けていることは、まずありません。まして指示を出したり指揮監督下において職員を統括しているということは非常勤では実質、不可能です。役職として理事や理事長、代表理事であっても、それは組織上、責任者であるとしても実質は責任を持てないと、そのような立場に就く者は考えるでしょう。「だって自分、保護者だし、ボランティアで役員になっているだけ。普段の活動での責任は職員が負うべきでしょう」と思っているかもしれません。
 しかしそれは間違いです。形式上であっても、立場であれば責任は伴いますし、その責任は絶対に追及されないということは、ありませんから。
 また、保護者会を法人化してNPO法人や一般社団法人にしたところで、日々の事務作業(経理や、経費支払、入所や退所の事務的な書類の受付など)はいわゆるパート職員に任せておき、理事長以下理事や監事が保護者や保護者OBであり、非常勤の役員ばかりという組織は、実質的に保護者による任意団体の運営と変わりありません。むしろ「理事」「代表理事」等の役職が付いているだけ、より管理責任が誰にあるかが明確になります。そして当然、善良なる管理者の義務を課せられることになります。「私は非常勤で理事をやっているだけ。クラブでくじ引きの結果、理事になることを割り当てられただけ」という抗弁は通用しません。仮に、現場のクラブから「こんど、こういうキャンプをします。計画について承認してください」と求められたその保護者である理事が、「わたしそんな細かい事わからない」と計画を全く吟味することなく実施許可の判断をただただ形式的に出したとして、そのキャンプで重大な事案が起こってしまった場合、その保護者理事も何らかの責任を問われる可能性はゼロではありません。むしろ、「なんてずさんな運営なんだ」と厳しく責任を追及されるでしょう。「保護者の理事で何も分からないから、しょうがないよ」なんてことには、なりません。

 責任者であれば、その負うべき責任は明確です。非常勤だから、保護者だから、子どものために生活を犠牲にしてクラブの業務を引き受けているのだからという理由は、いざ何か重大な事案があったとき、それを理由に責任が免除されるということはありません。よく児童クラブの世界は、保護者が運営に関わるとよりよい児童クラブができる、といいます。クラブにおける子どもの過ごす環境について保護者の意見や感覚は大いに参考になるでしょうが、たいへん遺憾なことに、保護者のクラブ運営参加を呼び掛ける勢力の側が口にしないのが、事業運営に関わる以上責任が発生するということです。それを明示すると保護者の参加が減るからということを危惧しているのですが、私に言わせれば、極めて不誠実です。だまし討ちといえます。しっかりと説明して、その上で了解して引き受けてくれる誠実な人が参加してくれればいいだけの話です。それが0人になるなら、そもそも前提や構造に問題があるということです。
 例えば、キャンプの実行委員長を保護者が務める場合。子どもを連れての下見の引率を実行委員長が行い、行動計画に目を通し、当日も委員長として団体の活動を統括した。過去、何十年も日本のあちこちの学童保育所、児童クラブで繰り広げられていたことでしょう。たまたま、悲劇的な事故、事件が起きなかっただけ、と考えてほしいのです。仮に、川遊びで、大人たちの監視の目をくぐりぬけてしまって子どもが下流に流さて溺れて死亡したという事案が起きていたら、その実行委員長が、川遊びによる事故の予見可能性を把握できたのに怠った過失があったと刑事責任を追及される可能性だってあるのです。保護者だから責任を追及されない、見逃してくれるなんてことはありません。

 そういう意味では、職員の立場で業務として子どもたちの行動を管理監督する者の立場であれば、常時、子どもたちの様子を把握していることもあり、まして業務として子どもたちの安全を守ることが課せられている異常、非常勤の保護者よりはるかに責任を追及されることは当然だろうという理解は容易です。仕事だから事故や事件が起きぬようにいろいろと注意を徹底的に払うことも当然として世間に理解されるでしょう。漫然と、「去年もその前も大丈夫だったから」と、ろくろく注意を払わずに活動をして事故や事件を招いてしまったなら、刑事責任を追及されることは当たり前なのです。

<3つの責任を常に意識すること>
 昨日に報道された動きは刑事責任に関する動きです。責任は3つあると私は考えています。業務上過失致死傷罪のような刑事責任と、慰謝料などの支払いを裁判所や和解協議の結果で求められる民事上の責任、そして道義上かつ社会上の責任、です。私が常々思うに、児童クラブの関係者はこの3つの責任にいずれも鈍感であるのではないでしょうか。

 子どもがクラブ室内で棒のようなものを持って走り回っていた時、圧倒的多数の職員は危険を察知して制止します。この点には心配はありません。重要なのはその前の段階です。活発に遊びまわることが好きな子どもたちが集まって、何やら話している。近くには、いかにも「持って振り回す」に適した長さの棒状のようなものがある。その時、クラブの職員は「次に、何が起きそうか」を予測しなければなりません。それができるだけの職員はどれだけいるでしょうか。そこから先、「その場で機先を制して声がけをするか」、あるいはもうしばし様子を注視し、「子どもが棒を持った瞬間に声がけをするか」は、その場その場の判断でしょう。いずれにせよ、棒を持って走り回ってしまったら、いつなんどき、その棒が他児に当たる、あるいはつまづいた拍子に自分自分に突き刺さる、といった危険性は容易に予測せねばなりません。

 つまり、棒一つとっても、その先に、刑事責任を追及される最悪の事態に発展する可能性があるんだ、ということを常時意識して仕事に従事している児童クラブ職員がどれだけいるのだろか、ということです。それは民事上の責任についても同じ事です。

 まして、非常勤で年度替わり、あるいは2~3年の任期で入れ替わる非常勤の役員は、どうでしょうか。保護者でも地域の有力者と呼ばれる者であっても、理事や監事についていれば、その法人が「しでかしてしまった重大な失態」について責任を追及されることは当たり前だという認識を持っているのでしょうか。とりわけ役員には、道義的あるいは社会的な責任の追及の矢面に立つ、という重要な任務が否応なく降りかかってきます。

 道義的や社会的な責任については、批判を浴びるということだけでなく、私は児童クラブ全体における社会的な評価の低下についても責任を感じてほしいと強く訴えたい。いい加減な行動計画で子どもを死に至らしめた児童クラブがあったら、世間は「やっぱり学童って、児童クラブって、ろくに子どもの預かりもできないのね」とか「児童クラブの職員なんて子どもをしっかり見る事すら十分にできない程度の能力しかない人間がやる仕事なんだろ?とても年収300万円なんていらないよ。200万円以下で十分だ」という社会の暗黙の合意を形成しかねない、1つ1つの負の要素を構成してしまうと懸念するのです。それは日々、全国各地の児童クラブ職員がいままさに、現実に積み重ねている、保護者や行政、学校から「児童クラブさんは、そこまで子どもについてしっかり把握して対応できているんだね」というプラスの評価をあっという間に吹きばします。一握りのずさんな職員、ずさんな意識によって起きた事案が、すべてを台無しにするのです。

 児童クラブはまだまだ、社会的な評価が正当になされていないと私は常々思っています。が、今回、書類送検されたような事案が度重なると、結果的に、いまこの社会が児童クラブに向けている評価、それは資格のあり方や所得水準で示されてしまいますが、その現状や年収額が妥当であるとみなされ固定化してしまうのです。これは絶対に避けねばなりません。

 そのためには、1人1人の職員が、職業意識を高めて専門性を自己の努力で磨くことを怠らないと同時に、職場全体、事業者全体、業界全体で同じような取り組みをしなければなりません。自分だけが一生懸命で、うちの会社はダメ、ではすみません。子どもの安全安心を守る努力をしない事業者であれば、そういう事業者であることを世間に「暴露する」努力はしなければなりません。子どもの生命身体というものではなく、税金の無駄遣い、補助金の無駄遣いといった面でも不正があってはなりませんし、そういう面での不正な行為や違法と思われる行為を見たり聞いたりしたら、関係機関に通報する、連絡するということも、立派な責任の果たし方です。そこまでしなければならないと認識している児童クラブ職員はどれだけいるでしょうか。「いいや、目の前の子ども達にだけ一生けん命になっていよう」というのは、卑怯な逃げ口上ですよ。責任には常に向き合う、困難に立ち向かう、そういう人間になってほしいと思って児童クラブで子どもを支援、援助している児童クラブ職員が、いざ自分のこととなると目をつむる。それはダメです。子どもにあれこれ指示をする前に、自分自身で実践、行動してみせましょう。

<おわりに:PR>
※書籍(下記に詳細)の「宣伝用チラシ」が萩原の手元にあります。もしご希望の方がおられましたら、ご連絡ください。こちらからお送りいたします。内容の紹介と、注文用の記入部分があります。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されます。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、アマゾンが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
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 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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