ナイナイ尽くしの放課後児童クラブ(学童保育所)の職場。無理を承知で最善を尽くす手法を考えよう。その3
放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者と働く職員をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブを舞台にした人間ドラマ小説「がくどう、 序」が、アマゾン (https://amzn.asia/d/3r2KIzc)で発売中です。ぜひ手に取ってみてください! 「ただ、こどもが好き」だから児童クラブに就職した新人職員の苦闘と成長、保護者の子育ての現実を描く成長ストーリーです。お読みいただけたら、アマゾンの販売ページに星を付けていただけますでしょうか。そして感想をネットやSNSに投稿してください! 最終目標は映像化です。学童の世界をもっと世間に知らせたい、それだけが願いです。ぜひドラマ、映画、漫画にしてください!
慢性的な人手不足にあえぐ放課後児童クラブですが、こどもの健全な育成を支え、子育て世帯の社会経済活動を支える重要な社会インフラです。いずれ、補助金の増額で必要な職員数を確保できる時代を必ずや到来させましょう。それまでの間、いかにして、少ない職員数の状態で消耗しきることなく仕事をなんとか続けられるかを考えるシリーズ。現状の、ひどい状態100を、なんとか80、60ぐらいまで減らす工夫をしようということです。3回目となる今回は、当たり前なんだけれども徹底して取り組めない「業務の見直し」です。
(※基本的に運営支援ブログと社労士ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブは、いわゆる学童保育所と、おおむね同じです。)
<きつい仕事を楽にするために>
児童クラブ(に限られませんが)の仕事が大変だ! と働く人が抱く感覚をいかに減らしていくのかを考えるにあたっては、「仕事の質」と「仕事の量」の両面で考える必要があります。もっと細かく考えると、次のようになるでしょう。
「仕事の質」において
・児童クラブで求められる育成支援業務の専門性、難易度が高く、働く側の能力が追い付かない
・事業者の方針や事業者又はクラブに伝わる慣習に基づく業務が育成支援の本質をそぐわないため心理的な負担となっている
「仕事の量」において
・児童クラブにおける業務量が多すぎて、配属されている職員数にいかに割り振っても過重労働になる
・児童クラブにおける職員の業務の量、業務の負担の割合が、職員の担当分野や処理能力に見合っていない
当ブログで前日(2025年11月11日)に取り上げた「フレックスタイム制度」は、「児童クラブで働く人が、自分の業務の処理能力を正確に把握した上で、1日に処理する仕事の量を一定の期間内において自分の希望通りに割り振っていく仕組み」です。「(処理する)仕事の量(=労働時間)」を自分で振り分けていくことです。つまり、もともと1週間のうち100あった仕事の量を、今までは月曜日から金曜日まで確実20ずつ処理していたのを、月曜日と火曜日は週の初めで気分が乗らないから10、でも金曜日は週末を迎えて頑張れるので40の仕事をする、という工夫が、フレックスタイム制度です。
自分で自分の労働時間を好きなようにコントロールできるので、精神的に楽になります。仕事に集中できる時期に仕事を回すことで効率も上がります。
きついと感じる仕事を楽にするには、結局、「質」と「量」のそれぞれについて、個別にまた両方同時に改善を加える必要があります。
<業務の見直しは、言うは易く行うは難し>
「仕事を効率化するには、業務を見直すことだよ」と、誰しもが言います。当たり前だからです。「人間が生きるためには、必ず呼吸をすることだお!」と同じぐらい、当たり前すぎることです。しかし、生命を維持するために呼吸(内呼吸も外呼吸も)が必要なのは絶対的な大前提であるのはそれが絶対的に必要な行為だからであって、「仕事を楽にする」には、この「業務の見直し」は、避けて通れない道です。
それでいて、なかなかうまくいきません。最初こそ「なんとか仕事を楽にするんだ!」と意気込んでいても、「どんな業務を見直すのか」という各論の作業にはいると、とたんに見直しの作業スピードが落ちていき、それが半年や1年近く続くといつしか業務見直しのプロジェクト自体が負担となっていることに気づいて、結局は元の木阿弥、「疲れただけだった」で徒労だけが残って終わるものです。
それは、わたくし萩原に言わせると、「業務量の見直しなのか業務の質の見直しなのか、どちらを重点にして減らしたい仕事をあぶりだすことをせずに進めているから」と、「最終的にトップダウンで決めないから。最初からトップダウンで業務の見直しはできないのは当然(=現場の実情を知らない者が業務の仕分けができるわけがない)でも、最後に責任を背負う者の覚悟が足りずに現場チームに削減の判断とその後の展開の責任を押し付けるのであれば、削減による批判を受けたくないので結局はしりすぼみになる」からです。
業務の見直しは質と量それぞれに及びます。質なら「いままで提供していたサービス(役務)の内容を簡素化する」ことだったり「サービス内容を、他の手段で簡単にできる内容に置き換える」ことです。量なら「サービスを取りやめる」ことです。「サービス内容の簡素化」もまた職員が行う作業量の軽減ですから量の見直しでもあります。
これがなかなか難しいのは、児童クラブが「人が、人を支える対人ケア労働」「職員同士が連携しあって業務に取り組むコミュニケーション労働」の性質を持つ労働集約型産業であるから、です。つまり労働者がいないと成り立たない産業で、機械化やAI、DXといったものも限界があるからです。
まして、「こどもの成長を支えるために考える」仕事が児童クラブの仕事ですから、こどもの人数によって仕事の量が決まります。しかも単純にこどもの人数だけではなく、「丁寧できめ細やかな援助、支援が必要なこども」の人数が多ければ、全体のこどもの人数が少なくても、クラブ職員の仕事の量は減るどこか逆に増えることだってあるのです。
この点において、国は児童クラブにインクルージョンの考え方に基づいてこどもの受け入れを推し進めていますが、こども1人あたりの面積の最低の目安である、おおむね1.65平方メートル程度ではとてもインクルージョンに基づく児童クラブ運営はできません。より広く、より少人数の児童クラブであって、かつ、職員数に余裕がなければ、とてもインクルージョンによる児童クラブ運営はできないものと運営支援は断言します。きれいごとでは児童クラブは運営できませんよ。現状に当たり前に見られる、狭いクラブでギュウギュウ詰めでかつインクルージョンといって発達神経症やそれに近いお子さんをどんどん受け入れて「職員はプロなんだからやれるよね」では、とても児童クラブ勤めは無理です。
現場を知らない国や国政与党の議員や自治体は、本当のリアルな児童クラブ現場を見に行くべきですよ。
業務を見直すことは、仕事の辛さを減らすことの一丁目一番地。ですが、その一丁目一番地から先に進もうとするとすぐに道に迷ってしまう。恐怖の一丁目一番地なのが「児童クラブにおける業務の見直し」です。
<業務の見直し、まずは「小さなこと」から>
五里霧中に迷い込むことが間違いない児童クラブの業務見直し。業務の仕分け。しかし、これをやることで、職員数が当面増えなくても、いま働いている職員数だけでも、今までは休憩が時々取れなかったのが休憩をしっかり取れるようになった、という改善をもたらせるのですから、絶対に取り組みましょう。
業務の見直しは、生産性向上のために重要なことです。よく、業務の効率化を図るとして「3つのM」を見直せ、といいます。「無理な業務」「無駄な業務」そして「(人によって)ムラのある業務」を見つけ出して追放することです。無理な仕事も無駄な仕事もムラのある仕事もそれぞれに複雑にからみあっていますから、単純に「これはムダ」「この仕事はムラが多すぎる」と判別することはできないにしても、3Mのどれか、あるいは相互に影響していると思えるものを「これ、不要だよね」と見つけることが、業務の見直しの本質です。どらい、児童クラブの職員の人員体制では無理な業務というものはどうしても作業の結果にムラはでますし、無理な業務は本来は無駄なのです。手掛けてはいけないのです。
運営支援がお勧めしたいのは「とても小さなことをまず1つ、2つと、省略してみる」、つまり「仕事の量」を減らすことから始めることです。3Mでいえば「無駄を見つける」スタンスに近いですね。それを続けていくうちに「仕事の質」の見直しに入ることです。その際において必ず守らねばならないことは、「業務上必要であって規則類や内規で定められている業務は見直し対象外」(つまり無駄ではない業務は区別する)とすることと、「こどもの安全確保に必要な業務は見直し対象外」(絶対に必要ですからね)とすることです。
例えば前者なら、勤怠管理を勝手に簡素化することはしてはならない、ということ。また、小口現金(クラブで購入する物品の購入費用などに使う現金)の管理に関わる作業工程を現場だけの判断で勝手に省略しない、ということです。小口現金を使ったらその都度記録をしていたのを週に1回だけにしよう、というのは経費精算における事故、トラブルを生む可能性を高めるので、してはならないということです。
後者なら、例えば、クラブの外にある公園に遊びに行く際に、今まではこどもの列の先頭と最後尾に職員が付き添っていたのを最後尾の職員を置かないようにする、ということはこどもの安全管理上、事故防止のリスク管理を緩めることになるので、行ってはならないということです。
「じゃあ、何を減らせばいいんだい、運営支援さんよ、答えてみろよ」という声が聞こえてきそうですが、「自分たちで話しあって考えなさい」というのがわたくし萩原の返答です。児童クラブが100あったら100通りの様々な業務や業務ルーティーンがあります。自らが所属するクラブの職員たちで、どういう仕事をしているのかを把握することから始めてください。
その際の把握の仕方は、こういうことが良いでしょう。まず1週間や1か月といった期間において、クラブに勤めている全職員が、「自分はやっているけれど、他の職員はやらないか、ほとんどやらないこと」「自分はやらないけれど、他の職員はやっているか、結構やっていること」があるかどうかを、日々の仕事中に気に留めてメモすることです。
そのメモを突き合わせると、「無駄な仕事」が浮かび上がりますし、「仕事のムラ(濃淡)」が、浮き彫りになります。これは短中期的な業務ですが、この試みを1年間続けると、「日々のルーティーン」「週のルーティーン」「月のルーティーン」「季節のルーティーン」「年間のルーティーン」の「無駄」「ムラ」が浮き彫りになります。
その中で、例えば「ああ、この業務は遂行するように規則で決まっているから。運営本部に指示されているから」ということが判明するでしょう。そうして、「省きたいけど省けない仕事」を取り除いて、他に残った「人によって、行っている仕事や動作、行わない仕事や動作」が、浮かび上がります。
その浮かび上がったことから、職員たちで話し合って、「ほとんどの人がやらない仕事、動作」を削っていけば良いのです。
こういうことがありました。外遊びから室内に戻ったこどもたちは当然に手を洗います。あるクラブでは、手を洗い終わったこどもたちに、そのこどもたちが事前に持ってきてあった手ふき用のタオルを渡す職員がいたのですね。もちろん、こども自身が持ってきたタオルを、その子に渡すのです。当然、こどもたちが家から持ってきたタオルを事前に職員が集めて手に取って、間違わないようにその子が持ってきたタオルをその子に渡すのです。これを、「手を洗ったこどもは自分で自分のタオルで手をふきなさい」と変えました。簡単なことですよね。「そんな程度?」と思われるかもしれません。
しかしこのように変えることにも案外と職員からの反対意見がありました。「こどもが手を洗う前に自分のロッカーからタオルを取り出すと、汚れた手でタオルを持つことになるので衛生上いかがなものか」とか「手を洗ってまだ水分が残っているまま自分のロッカーまでこどもが移動することで、床に水分が垂れてしまう」というものです。反対意見を持つ職員にしては、許せないことなんですね。
これが、業務の見直しが難しい本質的な理由です。「衛生上どうか」とか「汚れてしまう」とか、どんなことでも児童クラブで行われてきたことを見直すにあたっては、今までやってこなかったことをやろうとすると、必ずや反対意見が出るのです。それで結局、業務の見直しは途中でうやむやになるのですね。
これを解決するには、はっきり言えば「妥協してもらう」「責任者が決めたことに従ってもらう」ことしかありません。「手が泥まみれならともかく、そうでなければ先にロッカーからタオルやハンカチをもってきたところで衛生上、致命的な事態にはならない。心配なら先にアルコール消毒液で1回、手にスプレーしてからタオルやハンカチを持たせればよい」「手洗い場にペーパータオルを置いて、簡単にそれで水分をぬぐってから、自分のロッカーに向かえばよい」という若干の改善策を講じて妥協したもらった上で、「業務の量を減らす改善が至上命題なので、今後は、こどもたちが自分で手を拭くようにします」と責任者が決めて、職員に従ってもらうことになります。
「外遊びに行ったこどものタオルを事前に集めて、手洗いを終えたこどもに渡すだけの仕事量」と、「手を洗ったこどもがペーパータオルで水分を拭きとってから(男子はだいたい手を振って水分を飛ばしてしまいがちでしたが)自分でタオルを取りに行く、タオルが置いてある場所まで移動する」のでは、かかりきりになる職員の仕事量は明らかに後者が少ない。ペーパータオル料金はかかりますが。
ほんの小さなことでもいいんですよ。そのほんの小さなことにも業務の省略や簡素化には反対意見が出るものですが、今まで行ってきた、半ば職員にとって習慣化してきたことを変えることには必ず反対意見が出るものです。また、今まで行ったことが無いことを新たに実施することでも、不安や不満の意見が出るものです。それは、人間だからそんなもの。反対意見が出る、不平不満が出ることは「当然」と織り込んだ上で、「さて、この仕事は、人によってやる、やらないが分かれていますが、うちのクラブではどうしましょうか」ということを、話し合ってください。難しいのでいきなり「質」を視野に入れた業務見直しは、よほど統制の取れた組織的運営に長じた組織でなければ、避けましょう。
当然ながら、1クラブ1団体ではなくて複数のクラブを運営しているのであれば、個々のクラブの取り組みは他のクラブでも共有されるべきものです。共有知、集合知として取り入れることが必要です。
本日取り上げたのは、業務の見直しによる、業務量削減の取り組みでした。それも「量」の部分に着目しての内容でした。どんなに小さな、ささいなことでもいいんです。施設内のちらかった遊具や本を職員が片づけるのではなくてこどもたちと一緒に片づける「片づけタイム」を設けるとか、今や当たり前になりましたがこどもの登所退所時刻の記録、欠席連絡をICTで省力化するのもその1つですね。(入退所登録システムで記録したデータを、いちいち紙でも併用して記録するのは、導入初期の移行期間だけにしましょう。それを続けていては意味がありません)。今まで参加していたけれど特にメリットがなさそうな会合や研修を辞退することもそうです。人気漫画雑誌の発売日に必ず職員が外出して買いに行っていたということを取りやめるのもそうです。提供するおやつの品数を見直したり外注先を見直したりするのもそうでしょう。運営本部ならば給与計算を外注するのもよいですし、内製化のままでも事業者に見合った方式を編み出すことでもいいんです。
クラブごとに「あ、これは無くても、削っても、いけるかな」ということを「クラブの職員みんなで」話し合って、最後は責任者が「よし、これは止めましょう」と決断する。小さなこの繰り返しが、塵も積もれば山となる、あるいは大きな業務見直しの扉を開くことになります。頑張って、まずは「仕事の量、数を減らそう」に取り組んでください。そしてこのシリーズ、次はおそらく「質」の見直し、つまり業務の「無理」を無くす方向性で考えることになるでしょう。無理を見直すことは仕事の結果のムラ、つまり質の良しあしもまた平準化することにつながりますから。
(お知らせ)
<社会保険労務士事務所を開設しました!>
2025年9月1日付で、わたくし萩原が社会保険労務士となり、同日に「あい和社会保険労務士事務所」を開業しました。放課後児童クラブ(学童保育所)を中心に中小企業の労務サポートを主に手掛けて参ります。なお、放課後児童クラブ(学童保育所)に関して、労働関係の法令や労務管理に関すること、事業に関わるリスクマネジメント、生産性向上に関すること、そしていわゆる日本版DBS制度に関しては、「あい和社会保険労務士事務所」を窓口にして相談や業務の依頼をお受けいたします。「あい和社会保険労務士事務所」HP(https://aiwagakudou.com/aiwa-sr-office/)内の「問い合わせフォーム」から、ご連絡のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
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「一般社団法人あい和学童クラブ運営法人」は、引き続き、放課後児童クラブ(学童保育所)の一般的なお困りごとや相談ごとを承ります。児童クラブの有識者として相談したいこと、話を聞いてほしいことがございましたら、「あい和学童クラブ運営法人」の問い合わせフォームからご連絡ください。子育て支援と児童クラブ・学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ・学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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New! ※当運営支援ブログにも時々登場する、名古屋の弁護士、鈴木愛子氏による「子どもが行きたい学童保育」(高文研)が発売されました。放課後児童クラブのあり方とその価値、本質が、具体的な事例に基づいて紹介されています。放課後児童クラブ、学童保育に関わるすべての方に読んでいただきたい、素晴らしい本です。とりわけ行政パーソンや議員の方々には必読と、わたくし萩原は断言します。この運営支援ブログを探してたどり着いた方々は、多かれ少なかれ児童クラブに興味関心がある方でしょう。であれば、「子どもが行きたい学童保育」をぜひ、お求めください。本には、児童クラブに詳しい専門家の間宮静香氏、安部芳絵氏のこれまた的確な解説も併せて収録されています。本当に「どえりゃー学童本」が誕生しました!
(https://amzn.asia/d/3QWpbvI)
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