ストレスチェックが数年以内に義務化される方向です。小規模放課後児童クラブ事業者は今から実施に向け準備を!

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。新聞報道ですが、厚生労働省は数年以内にストレスチェックを全ての事業者に義務付ける方針であると伝えられました。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の業界には極めて重要な動きです。1クラブ1法人の小さな事業所も、保護者会運営の児童クラブもその対応に向けて今から動かねばなりません。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<報道から>
 まず「ストレスチェック」とは、何でしょうか。これは労働安全衛生法に定められており、常時使用する労働者を対象に、1年以内ごとに1回、「心理的な負担の定地を把握するための検査=ストレスチェック」を実施しなければならない、という制度です。現在は常時50人未満の労働者を使用する事業者は努力義務となっていますが、これを義務化する、というのが今回の報道内容となります。
 常時使用する労働者というのはフルタイム労働者を指しますが、いわゆるパート労働者でもフルタイム職員の所定労働時間の4分の3以上の勤務をする者は義務となりますし、フルタイム職員の2分の1以上の所定労働時間で働く人は適用するのが望ましい、となっています。フルタイム週40時間なら週30時間勤務の者は対象、ということであり、20時間勤務の者は対象とすることが望ましい、ということです。
 参考:労働安全衛生法第66条の10(心理的な負担の程度を把握するための検査等)
事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者(以下この条において「医師等」という。)による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。

 このストレスチェックの結果、「高ストレス者」に該当した者が、「医師による面接指導」を希望したときは、事業者は、遅滞なく医師の面接指導を行わなければなりません。その結果は5年間、事業者が保存します。事業者は、面接指導について医師の意見を聴かねばならず、必要に応じで、面接指導を希望した者について仕事の場所を変えるとか、作業の内容を変えるとか、勤務時間を短くするなどの措置を取らねばなりませんし、衛生委員会等へ報告しなければなりません。ストレスチェックの結果は、産業医の所見を付けて労働基準監督署長に提出しなければなりません。事業者は医師への面接指導を希望した者に不利益な取り扱いをしてはならないですし、ストレスチェックの結果について人事担当者が知ることが無いようにしなければなりません。
 ストレスチェックは大変重要ですが、上記に記したように、実に複雑な制度でもあります。

 ストレスチェックについて伝えた読売新聞オンライン10月11日午前5時配信の記事を引用して紹介します。見出しは「働く人の「ストレスチェック」、全事業所に義務拡大へ…昨年度の労災認定は過去最多の883人」です。
「厚生労働省は、従業員50人未満の小規模事業所に対し、働く人の「ストレスチェック」を義務づける方針を決めた。仕事上のストレスで精神疾患を発症する人は増えており、義務化の対象を全事業所に拡大して対策を強化する。来年の通常国会で労働安全衛生法改正案の提出を目指す。ストレスチェックは同法に基づき、2015年から従業員50人以上の事業所に年1回の実施を義務づけている。仕事量や食欲などについて尋ね、ストレスの度合いを数値化して示す。結果は本人に通知され、「高ストレス」と判定されると、医師の面接指導を勧められる。21年度の国の調査で、受検者の74%が「有効だった」と回答するなど一定の成果を上げてきた。」(引用ここまで)

<ストレスチェックがなぜ必要か>
 放課後児童クラブで働く人は、メンタルヘルスに不調をきたす人が大変多いのです。児童クラブは子どもと動き回って遊んだり子どもから故意か偶然かを問わず物理的な衝撃、暴力を受けることもあったりで、体にけがが絶えない仕事でそれによる労働災害が多いのですが、実際に組織を運営していた私の体感では、はるかにメンタルヘルスを痛めて仕事ができなくなった、あるいは退職を選んだという人は、同じぐらいに多いと感じました。

 児童クラブで働くということは、子ども、保護者、職員(組織内部の人間関係)、外部の人(小学校や地域住民)とコミュニケーションが欠かせません。児童クラブの仕事は濃密なコミュニケーション労働です。対人ケア労働はまさしくコミュニケーション労働ですが、さらにいえば、相手の状態や感情に左右されることなく、適切に制御された自身の感情の露出をもって相手の感情の制御を狙うことをもって育成支援や子育て支援を粛々と行うことを求められる「感情労働」でもあります。職員の心理面に実に負担がかかる仕事が、児童クラブの仕事です。放課後児童支援員であろうが補助員であろうが、正規職、常勤職員、非常勤、関係なく同じようにココロに負担がかかる仕事です。だいいち、毎日毎日、日々の子どもの様子や状態が気にならない、心配にならない人は、児童クラブの仕事に向いていません。

 そもそも、メンタルを酷使する仕事が児童クラブの仕事です。児童クラブの仕事は体力勝負だ、と思われがちですが、なんのなんの、メンタル勝負です。むしろメンタルが鋼でないとやっていけない仕事です。いわゆる「繊細な人」や「気配り上手な人」ほど、怒涛の人間関係の嵐(関わる人の多さと、関わる度合いの深さ)によって、心理的な負担の大きさが過大となって、適応障害やその他、メンタルヘルスの不調をきたしてしまうことが、ままあるのです。

 よってストレスチェックは、児童クラブの事業者にとって、職員のメンタルヘルスを維持するために有効な方策です。すべての事業所に導入が義務化となることは大歓迎です。これによって、児童クラブの事業者は規模に関わらず、職員のメンタルヘルス面の不調の度合いを定期的に把握し、必要なときに必要な手段取ることができます。常時50人以上の事業所がストレスチェック義務化となったのは2015年ですが、私もかつて運営責任者だった事業所で積極的に導入を進め、実に有効であることを実感しました。先の読売新聞の記事でも、受検者の74%が「有効だった」と回答とあります。

<導入には困難が予想される>
 ストレスチェックの導入には、費用も手間もかかります。零細規模が多い児童クラブの世界は、導入に困難が予想されます。まずストレスチェックの費用は当然、事業者が負担します。なお、ストレスチェックの実施時間についての職員の賃金は、事業者が支払う義務はありませんが、事業者が支払うことが望ましいとされています。

 手間の部分でいえば、ストレスチェックを実施してくれる事業者を探すのが大変です。いわゆる「健康づくり事業団」や各種の厚生事業団で実施しています。ちなみストレスチェックをできる人は医師、保健師、に加えて厚労大臣が定める研修を終えた歯科医師、看護師、精神保健福祉士、公認心理師となっています。
 行ったストレスチェックの分析も必要で、産業医が望ましいとなっていますので産業医がいない事業者は産業医を探した方がよいかもしれません。義務化となれば労基署への提出も義務化となるでしょう。現状ではストレスチェックの結果提出に際して産業医の所感が必要ですから、新たに義務化となる事業所に対しても、同様の制度になる可能性があるからです。

 これらはいずれも費用がかかりますし、何より、その導入に際して「どこに、何を聞けばいいのかが分からない」「ストレスチェックの結果を見てくれる医師をどうやって探せばいいのか」ということに苦労することになるでしょう。中小規模の事業者は協会けんぽ(全国健康保険協会)に加入しているでしょうから、そこに問い合わせる、相談することがいいでしょうし、取引のある社会保険労務士に相談するのもいいでしょう。導入した後も、定期的に実施するための態勢(担当者の設置、記録保存の体制)を整えばなりません。読売新聞の記事には、義務化に合わせて国が支援体制を整備するとありますので、その点には期待しましょう。こども家庭庁には、ストレスチェックの導入についても支援する補助金を整備してもらいたいものです。

<日本版DBSと並んで重要な局面>
 このストレスチェックの義務化は、こども性暴力防止法に基づく各種の措置に対応する作業とほぼ同時期になりそうです。児童クラブの事業者は、日本版DBSと並んでストレスチェックの導入準備をしなければならない、ということです。日本版DBSに対応するには、認定事業者にならなければなりません。これには教育研修体制、性加害に関する被害者からの相談体制など種々の体制を整えねばならず、認定事業者になるにはおよそ零細、中小規模の児童クラブ事業者が自分たちだけで対応することは極めて難しい複雑な手続、手順が必要となるでしょう。つまり、それなりの規模の事業者ではないと迅速な対応が難しいということです。

 それに加えて、ストレスチェックの導入義務化です。

 これは事業規模の小さな児童クラブ事業者には致命的ともいえるものです。どちらも対応が必要ですが、対応するには予算もノウハウも不足しています。まさに、事業規模の大きな事業者=広域展開事業者や、補助金ビジネスのうまみを狙って進出しようとする他の業界の事業者にとっては、ビジネスチャンスとなります。日本版DBSのみならずストレスチェックの導入についても対応できない零細、中小規模の事業者が運営する児童クラブの運営を引き受け、さらにその事業規模を拡大できる絶好のチャンスです。裏返せば、地域に根差した事業運営を行っている児童クラブ事業者、例えば1クラブ1法人の個別運営の事業者や、1法人で数クラブから十数クラブ程度の運営を行っている事業者にとっては事業継続の危機となりえる事態です。(児童クラブの運営を任せようとする市区町村が、日本版DBSについては認定事業者であることを求めるとか、法令遵守を厳格に求めるならばストレスチェック未対応の事業者はそれでもう運営事業者の候補としてすら認められなくなるということです。公募や指定管理者の応募に参加する資格が与えられないという可能性を念頭に置くべきです)

 この事態を乗りこえるには「事業規模を拡大していくこと」が重要です。小さな運営事業者で対応できることは限界があります。よほど補助金が豊富に用意されるとか零細規模であっても速やかに対応できる制度を国や行政が整備してくれればいいのですが、それを期待しているのではおよそ甘すぎます。自分たちが理想とする、望んでいる事業運営を今後も継続したいと考えるなら、その状態を維持しつつ事業規模を拡大するための方策を考えねばなりません。端的に申せば同様の事業方針を持つ事業者同士の合併、合流です。その動きをすぐに考えねばなりません。運営支援は改めて申し上げます。「1地域1事業者とか、1クラブ1法人とか、そのようなことにこだわる考えを直ちに捨てて、同じ理念や目標を持つ事業者同士ですぐにでも一緒になるための検討を始め、行動を起こせ」と。

 児童クラブを取り巻く時代は急激に変わりました。今までは児童クラブはどちらかといえば「お金はあまり出せないかわりに、出来る範囲でやってくれればいいから」という、いわばお目こぼしを受けていた存在でした。それはもう過去のこと。重要な社会インフラとして評価されつつあることは、それなりに課せられる義務も増えてくるということです。この変化の流れを読めない、理解しない児童クラブ事業者にとって、自らが求める育成支援や子育て支援の事業がずっと継続できる保証はもう、なくなったのですよ。

<おわりに:PR>
 弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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