スタートまで、ついに1年後となった日本版DBS制度。放課後児童クラブ(学童保育所)は、今すぐ対応に取り掛かろう!
放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者と働く職員をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブを舞台にした(とても長い)人間ドラマ小説「がくどう、 序」が、アマゾン (https://amzn.asia/d/3r2KIzc)で発売中です。ぜひ手に取ってみてください! 「ただ、こどもが好き」だからと児童クラブに就職した新人職員の苦闘と成長、保護者の子育ての現実を描く成長ストーリーです。お読みいただけたら、アマゾンの販売ページに星を付けていただけますでしょうか。そして感想をネットやSNSに投稿してください! 最終目標は映像化です。学童の世界をもっと世間に知らせたい、それだけが願いです。ぜひドラマ、映画、漫画にしてください!
こども性暴力防止法による、いわゆる「日本版DBS制度」が、ちょうど1年後の2026年12月25日から始まります。施行1年前になったのです。テレビなどメディアも日本版DBS制度を取り上げる番組がいくつかありました。先日、公表されたガイドラインの案について運営支援ブログは2日前の12月23日に取り上げました。今回はその続き、主に職員の雇用に関して取り上げます。すでに何度も取り上げてきた内容の繰り返しにはなりますが、重要ですので何度でも取り上げます。
(※基本的に運営支援ブログと社労士ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブは、いわゆる学童保育所と、おおむね同じです。)
New! いわゆる日本版DBS制度を専門分野の1つとして事業者の取り組みを支えたいと事業活動を始めた新進気鋭の行政書士さんをご紹介します。「行政書士窪田法務事務所」の窪田洋之さんです。なんと、事務所がわたくしと同じ町内でして、わたくしの自宅から徒歩5分程度に事務所を構えられておられるという奇跡的なご縁です。窪田さんは、日本版DBS制度の認定支援とIT・AI活用サポートを中心に、幅広く事業所の活動を支えていくとのことです。「子どもを守り、あなあたの事業も守る。」と名刺に記載されていて、とても心強いです。ぜひ、ご相談されてみてはいかがでしょうか。お問い合わせは「日本版DBS導入支援センター | 行政書士窪田法務事務所」へどうぞ。
<運営支援の方向を示します>
日本版DBS制度について、わたくし萩原の態度、見解を先に表明いたします。
その1:児童クラブの運営を支え、児童クラブに従事する職員の雇用労働条件を改善する支援に尽くす運営支援の事業理念のもと、新制度の導入による混乱やトラブルを避けるために、日本版DBS制度への理解と、円滑な制度導入に実務家として尽力します。
その2:日本版DBS制度は、単に事業者の規模が大きいだけでその導入が有利となる極めて機械的な制度であるため、地域に根差した児童クラブ運営事業者には当然不利となるどころか事業存続の危機に追い込まれることになりかねず、運営支援は地域に根差した児童クラブ事業者に対して事業存続のために必要な施策を提唱し、その実践に際して具体的な支援を行います。
その3:日本版DBS制度はその導入に対する業務量の負荷が地域に根差した児童クラブ運営事業者にとって到底、負担できないほど過大な制度設計であることが明らかになり、事業規模が小さいだけで事業運営の理念が優れた放課後児童クラブ運営事業者が事業継続を断念せざるを得ない状況に追い込まれる可能性が極めて濃厚となってきたので、新制度施行に向けての対応段階で児童クラブ業界が直面する問題点はもちろん、施行後に直面するであろう種々の課題、問題点を社会に向けて広く発信し、より実務上に適した制度となるよう社会に働きかけます。
要は、「こどもを守るという理念は大いに賛成。その理念を具体的に結実しようとして完成した日本版DBS制度ではあるが、その制度は認定手続きや認定に求められる要件、従事者の犯歴確認に関する手続きからして、事業規模が整った企業や自治体向けの設計となっており、放課後児童クラブの、とりわけ地域に根差した児童クラブ運営事業者にとっては対応するのが極めて困難な制度になっている。こどもをそもそも守る存在である児童クラブがこの制度のために存続ができなくなるようでは本末転倒。運営支援はまず第一に、実務家としてこの制度を児童クラブ業界が受け止められるように児童クラブ業界を支えていく。ただ将来的に、児童クラブ業界においても導入に際して負担がさほど大きくないような制度に改善されることを大いに期待する」ということです。
<まずは、認定を受けるかどうか>※再掲載
放課後児童クラブの世界は、事業規模や事業形態からみると、実に多種多様です。その点を踏まえて考えねばなりません。
①児童クラブの運営を収益の柱としている広域展開事業者。市区町村、都道府県の境を越えて各地で児童クラブを運営している事業者。株式会社が多いですが、社会福祉法人やNPO法人といった非営利法人の広域展開事業者も珍しくありません。
②地域に根差した児童クラブを運営している事業者。このジャンルはおしなべて事業者の規模は大きくありません。ほぼ1つの市区町村またはごく近隣の自治体内だけで事業を展開しています。法人だったり、任意団体だったりします。法人も、保護者会組織が発展した非営利法人があれば株式会社、合同会社もあります。保育所や認定こども園、幼稚園を運営しつつ児童クラブも運営している社会福祉法人や学校法人がありますし、社会福祉協議会のような準公営組織もあります。数は少ないですが宗教法人や医療関係の法人もあります。任意団体は保護者会や(地域)運営委員会があります。また個人の事業者もあります。
③公営クラブ。市区町村の直営です。
運営支援の観測ですが、①の広域展開事業者は、「公募」で児童クラブの運営を競って勝ち取ることが多く、おそらくですが公募に参加する条件に、こども性暴力防止法の遵守が当たり前に加えられることになることが容易に予想できるので、広域展開事業者が認定事業者になることは当然の選択となるでしょう。事業者の規模が大きいので、法務や労務関係の部署の人員も充実していることが当然でしょうから、認定事業者になるために必要な事業者内の手続きや組織体制作りも、自前の能力で対応できるでしょうし、外部の専門家に加わってもらう予算も確保できるでしょう。
③の公営については自前で対応できるでしょうが、わたくしの想像では、事務手続きの煩雑さを避けるために、さらに外部委託が進むのではないでしょうか。しかし、人口が少ない地域では児童クラブ単体での収益を見込めないのでそのような場合は社会福祉協議会などへのアウトソーシングが進むか、直営のままで日本版DBS制度に対応することになるのではないでしょうか。
運営支援が最も懸念しているのが②の、地域に根差した児童クラブの運営事業者です。法人であっても任意団体であっても、事業者の規模はそれほど差はありません。数十程度の支援の単位を運営している、②の世界の中では大きな事業者であっても、①の広域展開事業者と比べれば大差があります。
②の世界にある児童クラブ運営事業者は、日本版DBS制度に「いつ対応できるか」が焦点となります。ここで「認定事業者とはならない」という選択肢はありえないと運営支援は考えます。「こどもを性暴力から守る」という理念そのものは絶対に正しく、その理念を具体的に実現しようとして制度が作り上げられている日本版DBS制度に背を向けると誤解される行動は取れません。利用者である保護者から「なんでうちのクラブはDBSに対応しないんですか? こどもが危険にさらされるのではないですか?」との懸念や疑問には、「うちもいずれ対応します」という返答がギリギリの最低ラインの回答です。
そもそも、「日本版DBS制度に対応することが、委託や補助の条件」と市区町村から呈示されたら、対応しない選択肢は消えます。それでも対応しないのであれば補助金なしでの運営を考えることになります。それは事業運営に極めて重大な影響を及ぼします。そして市区町村が日本版DBS制度に対応することを求めるのは、数年後には当然のこととなっているでしょう。
ですので②の、事業規模が小さいか、さほど大きくない児童クラブの運営事業者は、予算が足りなくても人的資源が足りなくても、結局は日本版DBS制度に対応することを余儀なくされるというのが運営支援の予測です。よって「いつ、対応を完了するか」が焦点となるでしょう。「対応するかしないか」は、もう選択肢ではないのです。「対応するのは当然として、いつごろに対応が完了するか」の観点で、②の世界の児童クラブの運営事業者はこれからの準備をすることです。
そうしないと、①の、すぐに日本版DBS制度に対応した事業者にどんどん運営をさらわれますよ。
なお、認定事業者になるために必要な認定には1~2か月かかります。
<どの分野にすぐに取り組まねばならないか>
※番号は前回(12月23日掲載)の続き。なお、日本版DBS制度における放課後児童クラブは、認定事業者になるための多くの作業が必要であり、すでに職に就いている人が戸籍情報を取得して国に提出ということも必要ですが、その分野については行政書士など専門に取り組んでいる人に相談することをお勧めします。
(7)認定事業者マーク
まさしく本日(2025年12月25日)に、いわゆる認定マークがこども家庭庁から公表されます。この「認定事業者マーク」とは、日本版DBS制度を実施するに足る事業者と認められた場合に、表示することが認められるものです。放課後児童クラブはあくまでこの制度を受け入れるかどうかは任意ですので、日本版DBS制度に対応しているかどうかを、外部の第三者の方から容易に判別できるようにするサインとなります。当初は任意でこの制度の対象となる事業者(=認定事業者)だけにマークを用意する考えでしたが、義務として日本版DBS制度を実施せねばならない「学校設置者等」には「法定事業者マーク」が用意されることになりました。このことは案外、大切な観点を含んでいます。つまり、世間一般の認識、判断というのは、「とても分かりやすい表示」でその内容が左右されるということです。制度についてあれこれと考えたり議論をしている人たちは「学校や保育所は日本版DBS制度が義務。いちいち表示しなくても義務なんだから当然に実施されている」と考えがちですが、ごくごく一般の何千万人、いや1億人を超える国民の圧倒的多数の人たちにとっては、日本版DBS制度が義務である事業者と任意である事業者なんてそもそも知りもしないし興味もないのです。「ああ、こどもがいる職場で性犯罪者が追い出される制度なのね」という認識があれば御の字、そもそも「ナニソレ?」という人の方が圧倒的に多いはずです。このような状況で、マークがある学習塾や児童クラブが「なんかマークがあるわね、つまり性犯罪の前科者がいないのね、よかった」と一般の人に思われる反面、マークが無い保育所や認定こども園に「おかしいわね、マークがないわね。もしかしたらあぶない人を雇っているんじゃないの?」と疑われてしまう可能性を、排除できないのです。それが現実です。
一般の人々は、この日本版DBS制度の大まかな点まで知っていることはまずありえません。知らない、知っていても「過去にやらかした人を追い出すのね」程度の認識であるはずです。そこを基準に、この日本版DBS制度について発信する側は、広報周知の戦術を考えねばなりません。だいたい、児童クラブの現場で働いている人の実に多くが、この制度についてほとんど知らないという認識が必要です。
その「分かりやすさ」を担うのがこの認定マークです。ガイドライン案の96ページに記されています。大事なのは、認定マークは広告に使えるのです。例えば、「認定等事業の広告」と「認定等事業に関する労働者等の募集の用に供する広告又は文書」が示されています。これは、企業のブランドイメージをアップする広告に使えるということです。また、就業先としてどの児童クラブ事業者を選ぼうかと考える求人応募者にとって、「性犯罪の前科がある人がいない職場であるかどうか」を判断基準にできる仕組みになりますから、まじめな求人応募者が応募しやすくなります。これら広告は保護者など多くの人も目にする機会がありますから、保護者へのアピールに使えます。つまり、運営する児童クラブをどんどん増やして儲けたい広域展開事業者にとってみれば、保護者のスマホやパソコンで勝手に表示される児童クラブの求人広告にてこの認定事業者マークを一緒に表示すれば、「あ、このマークがある会社の児童クラブなら安心ね」という安心感や信頼感を保護者に与えることができる、ということです。それは、「うちのこどもが通っているクラブに認定マークがないのは、なんか新しい制度に対応していないのかしら。不安だわ」として「認定マークがある、あの企業にうちのこどもが通っている児童クラブの運営を任せてくれないかしら」と保護者が地元の自治体や議員に意見や要望をする、という行動を引き起こしかねないのです。
ちなみに認定事業者マークには罰則があります。まぎわらしい表示をした場合に刑罰が科されます。(当該違反行為をした者は、1年以下の拘禁刑若しくは50万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する)なお個人と法人の両罰規定です。
(8)安全確保措置(早期把握、相談、調査、保護・支援、研修)こそ、日本版DBS制度の本質!
①②③すべての形態の事業者であっても、日本版DBS制度の認定を受けるためには、この安全確保措置が整っていなければ認定が得られません。この安全確保措置こそ日本版DBS制度の中核であり、実のところ、初犯を含めてこどもへの性犯罪を抑止するというこの制度の本丸なのです。ガイドライン案の112ページに、こう書かれています。
「児童等に対して当該役務を提供する業務を行う対象業務従事者による児童対象性暴力等の防止に努め、仮に児童対象性暴力等が行われた場合には児童等を適切に保護する責務を有する。」
「いわゆる初犯を含め、対象業務従事者による児童対象性暴力等を未然に防止するとともに、日頃より児童対象性暴力等が行われるおそれがないかどうかの把握に努め、児童対象性暴力等が疑われる場合等には、児童等の保護・支援や更なる児童対象性暴力等の防止のための措置を講じる必要がある。」
そして、「児童対象性暴力等の未然防止等のために日頃から講ずべき措置」として「研修」が、「児童対象性暴力等を把握するための措置」として「早期把握」と「相談」が、「児童対象性暴力等が疑われる場合等に講ずべき措置」として「防止措置」と「調査」と「保護及び支援」が、必要であると示されています。
ここで「横断指針」という、あまりなじみのない文言がガイドライン案に登場します。これは「「教育、保育等を提供する事業者による児童対象性暴力等の防止等の取組を横断的に促進するための指針」(令和7年4月こども家庭庁)のことで、日本版DBS制度における安全確保措置は、この「横断指針」を参考としつつ、求められる取組や留意事項がガイドライン案によって示されたといえます。ですので、児童クラブで日本版DBS制度の認定を目指すのであれば、まずはこの横断指針を理解する必要があります。ガイドライン案にも「 横断指針においては、より詳細な留意点や具体例等が示されており、添付資料の参考資料編及び取組事例集とともに、必要に応じ、本ガイドラインとあわせて参照することが望ましい。」とされています。この分野では法律家である弁護士が最適任ですが、児童クラブの業界団体のリーダー級の方々はすみやかに横断指針の周知に努めるべきでしょう。
これらの安全確保措置は、とてもとても短期間で作り上げることはできません。まして、運営に関する会議や協議体を月に1~2回、しかも夜の数時間程度しか確保しない地域に根差した児童クラブ運営事業者では、1年程度は当然に必要です。外部専門家に丸投げもできません。それぞれの事業者ごとに、適した研修や種々の措置が考えられるから、専門家に丸投げして作ってください、では完成できません。事業者自体が、これこれこうしたい、という考えがあってこそ専門家が具体的な形を提案できるからです。将来的に児童クラブの運営事業者は日本版DBS制度に対応しなければ事業の存続が困難になるのは自明の理ですから、この安全確保措置の取り組みは、今すぐ、直ちに始めましょう。
例えばガイドライン案116ページに、不適切な行為への対応として、こう記されています。
「児童対象性暴力等及び「不適切な行為」の範囲及び事実評価のプロセスについて明確にしておくことは、適切な事実確認や、それに基づく妥当な判断・処分を行い、児童等の保護・労働者保護の両方につなげていく上で必要である。」
「このため、各対象事業者においては、事前に服務規律等を定めた文書等において、これらを明確化した上で、対象業務従事者並びに児童等及びその保護者に対して、周知する必要がある。
「 具体的には、対象業務従事者については内部規程(就業規則等)やマニュアル等、児童等及び保護者については入学・入園時に交付する資料等により、次に掲げる事項等を明確化するとともに、法第8条等に基づく対象業務従事者に対する研修(本節「(3)対象業務従事者に対する研修」参照。)や児童等や保護者への教育・啓発(本節「(4)児童等や保護者への教育・啓発」参照。)といった取組を通じ、周知することが必要である。」
つまり、何が不適切な行為なのかについて事業者はルールで定めて、それを職員、こども、保護者にしっかりと伝えて理解してもらいなさいよ、と言っているのです。これだけでも数か月かかりますよ。
防犯カメラについて。いまなお児童クラブの現場では防犯カメラに対する抵抗感が根強いと、わたくし萩原には感じられます。運営支援は断言します。「どうのこうの言っている場合ではない。防犯カメラは設置しなさい」と。ガイドライン案117ページです。
「児童対象性暴力等の未然防止のためには、防犯カメラ等(防犯カメラ(常設型・可搬型)、人感センサー、送迎車内も撮影できるドライブレコーダーなど)を活用すること、巡回を実施・強化すること、従事者間で死角となりやすい場所等について議論して意識を高めること、児童等から死角となりやすい場所等に関する意見を募ること等が有効である。」
なおこの文章にある、巡回を実施・強化や死角となる環境の認知については、運営支援が以前から提唱している「早期発見行動」の重要な1要素です。
研修についてはガイドライン案119ページから詳細に提示されています。以前も記しましたが、この研修、そして啓発こそ児童クラブに最も必要です。児童クラブならではの特質や事業の形態があり、それを踏まえた研修内容を構築することこそ、児童クラブ業界が今すぐ着手するべきことです。それをみすみす外部のコンサルタントや教育研修会社にもっていかれることがないように。この研修内容でビジネスをすればそれだけで児童クラブに関する業界団体は活動する資金の調達先となります。そもそもですね、児童クラブの世界の業界団体、いわゆるナントカ連協というのは、もう単なる業界団体の域を超えて、日本版DBS制度の時代かつ広域展開事業者による市場化の時代を踏まえて、児童クラブの存在を支えるコンサルティング業務を軸にしなければなりません。そうしなければ、よって立つ基盤がどんどん縮小している以上、業界団体もいずれ消滅に追い込まれますよ。
(9)児童対象性暴力等が疑われる場合等に講ずべき措置
放課後児童クラブの実務上で、最も困難に直面する分野です。児童クラブは、施設においてこどもを受け入れてこどもへの援助、支援を行うことが事業のほとんど全てですから、児童クラブの専業事業者の場合、こどもが存在しない職場、分野がせいぜい運営本部、事務局に限られます。従事する人員数も必要最低限でしか雇用できていない場合がほとんどです。それら、児童クラブ特有の環境が、この「疑われる場合等に講ずべき措置」の具体的な実施を困難にするのです。
しかも当然ですが、日本版DBS制度によって必要な措置や事業者の対応は、すべて事前に定められたルール、規則規定類に従って判断され、実施されることが求められます。当たり前です。「法治主義」です。実はこれが児童クラブの、とりわけ地域に根差した児童クラブ運営事業者で保護者が運営に関わる形態の児童クラブ業界の弱点です。だれか専従の役員やトップの意向だけでどんどん物事が決まっていくことが多い児童クラブ界隈は、この法治主義とは正反対の人治主義です。これは、人権に深くかかわることが多い日本版DBS制度では決して取ってはならない行動態様です。ガイドライン案の137ページにもあります。「対象事業者は、あらかじめ策定・周知している報告・対応ルールに基づき、迅速に対応することが必要である」と。
138ページの初期対応にも、児童クラブの世界が苦手なことが示されています。
「児童対象性暴力等の疑いが生じた場合には、いかに些細な情報であったとしても、真摯に受け止め、迅速に事実確認に移ることが重要である。同時に、児童等や保護者の心情(不安、不信、動揺、自責等)を踏まえ、加害が疑われた者の人権にも配慮しつつ、落ち着いて対応することが求められる。」
児童クラブの世界は「遅い」。とにかく行動が遅い。この日本版DBS制度についてまさにそうですが、何かあっても「どうしよう」「様子を見よう」「次の会議で取り上げよう」とする傾向が多々あります。次の会議? 再来週の夜だよ、なんてこともあります。また、些細な情報というのも、「もっと確かめよう」「確認が取れるまでは何とも言えない」と、尻込みする傾向があります。そして、「加害が疑われた者への人権にも配慮」こそ、児童クラブの世界では極めて理解されていない傾向です。一度、「あの人、やったよね」ということがあれば、常にブラックに判定されます。グレーはありません。白以外全部ブラック。オフホワイトなんて宮迫のようなものは当然にありません。ブラックもブラック、オールブラックです。「疑わしきは罰せず」ということはなく「疑わしいは罰せ」の価値観が濃厚です。それだけ「こどもに関して不利なことは許さない」という意識が強いとはいえますが、そのわりに、職員や運営者自身の負荷や作業が必要と思われることは「もうちょっと様子を見よう」と面倒を避けがちになるきらいが、児童クラブの世界には確実にあります。それでは、日本版DBS制度の時代の児童クラブは生き残れません。
なお、139ページに「在籍する児童等本人又はその保護者から、特定の対象業務従事者による児童対象性暴力等の被害の申告があった場合には、被害が引き続き発生している可能性があり、また、被害がすぐに他の児童等も含めて拡大する可能性があるため、事実確認と並行して、一時的な接触回避策としての防止措置を講じることが必要である。」「児童等をこれまであった環境から遠ざけるのではなく、加害が疑われる者を当該環
境から遠ざけることが望ましい(例:事実の調査の間も、児童等と接触しない事務作業に従事させ、児童等との接触を禁止する/自宅勤務・自宅待機とする)。」等、記されています。
これが運営支援がいうところの、規模の大きな事業者しか想定していない日本版DBS制度の児童クラブへの適用に関する問題点です。被害の申告があった場合は防止措置を講じるのは当然ですが、不適切な行為をしたことが疑われる職員を、こどもがいる環境から遠ざけるとして、事務作業に従事させるとか、自宅勤務や自宅待機が例として示されていますが、これらがほぼすべて、ごく一部の大きな児童クラブ運営事業者や公営クラブ以外では、選択することがほぼ不可能なのです。当然に、従来の職に就けさせない判断をすることになるのですが、自宅待機させる間の代替人員すらままならない。
ですので、運営支援は何度でも訴えますが「日本版DBS制度時代に対応する児童クラブは、事業規模が大きくなければ制度を運用する余裕がない。だから小さな事業者は、規模をでっかくしなさい。合流合体して大きくなりなさい」と言っているのです。
情報や客観証拠の保全の重要性がガイドライン案142ページに示されています。ここも児童クラブ業界が弱いところです。運営支援ブログが何度も取り上げている、滋賀県栗東市の事案は日本版DBS制度に関連する性質ではないですが、こどもの権利が侵害された可能性が濃厚な事案でありながら客観証拠の保全、確保に行政が失敗したため真相が闇に葬り去られようとしている事案です。こと、児童クラブ界隈は「情報」の価値の評価が不十分です。クラブ職員が見ていないところでこども同士のトラブルが起きるのはやむを得ないことで日常茶飯事ですが、そのトラブル対応に「いまはイベント準備で忙しいから」など別の事情を優先して数日後に、関わったこどもたちに話を聴こうと考える職員は珍しくありません。その間に、こどもの記憶は鮮度を失い、明確な情報を得ることが難しくなることは当然なのに、そこに留意はありません。
なお、性暴力に関する事案の際にこどもに行う聴き取りは、やみくもに行われてはなりません。ガイドライン案143ページにあるように「こうした聴き取りに当たっては、「( 2)④ 関係機関等との連携」に記載のとおり、警察を始めとする関係機関と連携し、代表者聴取(協同面接)により適切な司法手続につなげる等の対
応を図ることが望ましい」ということです。いわゆる司法面接です。ここはぜひ弁護士に相談してください。
ガイドライン案154ページに、わたくしも過去に直面した内容に関する記述があります。
「事案対応を行う職員が、強いストレスやプレッシャーを感じながら過ごすことがあることや、直接的な事案対応を行う者でなくとも、現場にいる職員が、保護者等からの批判や第三者からの心ない言葉により精神的苦痛を受けたりすることがあることを踏まえ、対象事業者においては、職員の心身に問題が生じていないかを頻繁に確認し、セルフケアの重要性を伝えることや、心のケアを行う専門職等の心理ケアを受けさせることなどにより、事案対応の持続可能性を高めていくことが有効である。」
運営支援ブログの読者様なら承知でしょうがわたくしは以前、雇用していた職員のこどもへの性暴力事案に組織の最高責任者として数年間、その対応に従事した経歴があります。その時から、「こどもと関わる現場に適用ができる、性犯罪の前科がある者の対応が法定化されないか」と考えてきました。一連の対応の際、当然ながら運営本部事務局の職員も、内容にタッチしないとしても電話を取り次いだり加害が疑われる人物(それは同じ組織の同僚でもある人物)の顔を見ることがありましたが、それによってまさにガイドライン案にあるように極めて重度の精神的苦痛によって、出勤ができなくなくなってしまいました。その回復にはそれなりの期間が必要となりました。日本版DBS制度があろうがなかろうが、こどもへの許しがたい行為が現になされた場合は、実際にその情報に触れざるを得ない職員の協力がなければ事態への対応ができませんが、そうした職員への配慮はこれまで見過ごされてきたといえるでしょう。この点、児童クラブ業界は真剣に考えるべきです。ただし考えたとしても、専門のケアを受けさせるための財力が乏しすぎる問題があります。そもそも日本版DBS制度によって課される重責からのストレスもきっと高負荷でしょう。これら対応にはやっぱりコストが必要です。そのコストは、大きな事業者でなければ容易に確保できません。
ここまでで字数が大変多くなりました。「犯罪事実確認」というもう1つのヤマはいずれ取り上げます。次回からしばらくは、こども家庭庁がまとめた毎年恒例の、実施状況の紹介をテーマに投稿します。この日本版DBS制度ガイドライン案に関する投稿は、おそらく来月になります。なお、日本版DBS制度に向き合っている行政書士さんが、とりわけ犯罪事実確認、中でも戸籍に関する作業についてネットで発信していますので、行政書士の方々のブログやnoteを参考にするのがお勧めです。
それにしても、改めて「あと1年後になったのか」とわたくしは感慨深いものがあります。旧ツイッターや、このブログで日本版DBS制度について発信を行うようになったのは2023年夏ごろからですが、当時、児童クラブの世界だけではなくこの制度そのものについて意見や見解、情報を発信していたのは、わたくしの狭すぎる知見の範囲では弁護士の鈴木愛子先生とわたくしの2人ぐらいでした。それが2024年6月の法案成立を経て徐々に増えていき、とりわけこの数か月は日本版DBS制度の申請手続きにおいて守備範囲になるであろう行政書士の皆様による発信が増え、いまや連日、日本版DBS制度に関する投稿や意見発信を見かけるようになりました。ようやくここまできたな、というのが偉そうですがわたくしの感想です。しかし今、冷静になって思うと、「この制度、もう1年、施行を延期した方が良い」とも考えます。こどもを守る大事な制度だけに、今一度じっくりと制度設計をしつつ、早晩必要となるであろうさらなる改善点を意識した制度設計作業も同時並行的に行ったほうが、長期的にはコスト的にも有利になると感じます。いまだって職員採用のときに特定の性犯罪の前科を確認することを明示して採用すれば、もし前科があることが判明したら重大な経歴詐称で普通解雇のハードルはかなり下がるので、ギリギリの対応は可能なのですから。
(お知らせ)
<社会保険労務士事務所を開設しました!>
2025年9月1日付で、わたくし萩原が社会保険労務士となり、同日に「あい和社会保険労務士事務所」を開業しました。放課後児童クラブ(学童保育所)を中心に中小企業の労務サポートを主に手掛けて参ります。なお、放課後児童クラブ(学童保育所)に関して、労働関係の法令や労務管理に関すること、事業に関わるリスクマネジメント、生産性向上に関すること、そしていわゆる日本版DBS制度に関しては、「あい和社会保険労務士事務所」を窓口にして相談や業務の依頼をお受けいたします。「あい和社会保険労務士事務所」HP(https://aiwagakudou.com/aiwa-sr-office/)内の「問い合わせフォーム」から、ご連絡のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
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「一般社団法人あい和学童クラブ運営法人」は、引き続き、放課後児童クラブ(学童保育所)の一般的なお困りごとや相談ごとを承ります。児童クラブの有識者として相談したいこと、話を聞いてほしいことがございましたら、「あい和学童クラブ運営法人」の問い合わせフォームからご連絡ください。子育て支援と児童クラブ・学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ・学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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(ここまで、このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)
