コンプライアンス(法令順守)、放課後児童クラブ(学童保育所)は本当に大丈夫? 残念な事例が届いています。

 放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者と働く職員をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブの労務管理や事業運営をサポートする社会保険労務士でもあります。放課後児童クラブを舞台にした(とても長い)人間ドラマ小説「がくどう、 序」が、アマゾン (https://amzn.asia/d/3r2KIzc)で発売中です。「ただ、こどもが好き」だからと児童クラブに就職した新人職員の苦闘と成長、保護者の子育ての現実を描くハッピーサクセスストーリーです。お読みいただけたら、アマゾンの販売ページに星を付けていただけますでしょうか。そして感想をネットやSNSに投稿してください! 最終目標は映像化です。学童の世界をもっと世間に知らせたい、それだけが願いです。ぜひドラマ、映画、漫画にしてください!
 今回は社会保険労務士としての社労士ブログ。放課後児童クラブで働いている人も労働者ですから労働者としての権利があります。ところがどうも、クラブを運営する側はそんなことはお構いなしで、法令を無視した対応をクラブ職員に押し付けているという実態があるようです。それではいつまでたっても児童クラブの仕事は、誰からもあこがれる仕事にはなりませんよ。運営支援に届いた事例を紹介します。なお事例の特定を避けるため本旨を損なわない程度に一部、内容に脚色をしておりますことをご承知おきくください。
 (※基本的に運営支援ブログと社労士ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブは、いわゆる学童保育所と、おおむね同じです。)

<事例その1>
 「当初、説明されていなかった仕事を相次いで命じられた。つまり仕事が増えて従事する時間も増えたのに賃金の変化は全くないどころか、経営が厳しいからと賞与が0円になった」

 2つの点で問題です。まず、児童クラブの求人に応募した際に児童クラブでの育成支援と育成支援に付随する業務に従事するということで事業者に採用されたのに、実際にはまったく説明を受けていなかった業務に従事するよう事業者に命じられたとのことです。こどもの送迎、事業者による別事業である給食調理配達の仕事です。そのため勤務時間が伸びたにも関わらず毎月の給与に変化はない、ということです。むろん時間外勤務手当もありません。
 もう1つは賞与の一方的な減額です。賞与は事業者の業績によって支給額が変動することは問題ありませんが、その旨をしっかりと事業者が定めて職員に説明をしているかどうかが大事です。この事例では「経営が厳しいから」というだけで、賞与が出るという説明が反故にされました。

 この事例、問題なのは、雇用労働契約に関する書類や就業規則、給与規程等のルールが職員に明示されたり説明されたりしていないことです。結局のところ、採用過程における事業者の説明を信じるほかありません。契約そのものは口頭でも有効に成立しますが、労働契約、労働条件に関して書面にて説明がされていないことが問題で、それは明らかに法令に違反します。労働条件の明示は労働基準法第15条で定められていることです。口頭での説明で足りる「昇給」を除き、①労働契約の期間②期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準③就業の場所及び従事すべき業務④始業及び終業の時刻、休憩時間、休日等⑤賃金、昇給⑥退職は、使用者(雇い主)は、書面を交付して明示しなければなりません。(参考:001298244.pdf

 児童クラブでは「人治」による運営が多くの事業者で普通に行われています。人治とは「会社と仲良くやろう。あなたの悪いようにしないから言うこと、指示に従ってくれるかな」という統治形態です。法令や就業規則といったルールを丁寧に説明することが「面倒くさい奴」と思われたり「堅苦しい」と思われたりしがちな雰囲気があります。これはどういう条件で雇用されたのか労使ともにあいまいな結果となり、事業者側が一方的に「この仕事もやってください」と命じて職員にどんどん仕事を増やすことができてしまいます。
(なおこの事例は相談者が地元の労働関係の公的な機関に相談しております)

<事例その2>
 「こどもへの対応に問題がある。部下のクラブ職員への対応も能力不足だと突然に一方的に通告され、それまでの管理職の地位から降格された。収入も減った。元の地位に戻れるかどうか明確な説明が無い」

 児童クラブも別段、普通の企業運営である以上、職員の勤務評定の結果で地位や賃金に変化が出るのは、それが明確にルール化されており働く側も理解していれば問題はありません。児童クラブだから特別に職員に配慮が必要というものはありません。当たり前ですが自動車メーカーで働く人も児童クラブで働く人も同じ労働者です。
 今回の事例は、事実上の懲戒処分であるにも関わらず、その懲戒的な処分に関してなんら一切、説明されることなく突然に通告されたことが問題です。しかも、事業者側は降格の処分に関して「こういう場合に、こうなる」という決まりや、処分はどのような機関が検討したり判定したりするのかの決まりも、処分対象者への意見聴取の機会も、すべて一切ないというのです。経営側の一方的な判断、なんなら機関決定無しで担当者の一存で懲戒処分が決められてしまったということです。

 労働契約法第15条では、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」となっています。管理職ですら知らない(つまり周知されていない)就業規則に、しかもあやふやな決まりでしか規定されていない懲戒処分を課すことは許されません。

 これももう、明確に労使トラブルに入ってしまっています。運営支援は公的機関や弁護士へ直ちに相談することをアドバイスしました。それでもせつないのは、こういう処分を一方的に告げられても「大切な仕事だから希望をもって頑張りたい気持ちがあります」と、職務への責任感を職員側が持っているのですね。裏を返せば児童クラブ事業者側は、そんな現場に寄り添いたい職員たちの倫理観や使命感を逆手に取っての、やりたい放題ができてしまっている、ということです。

<事例その3>
「公営から民営化された事業者。当初の説明では時給1,200円なのに計算すると720円しかない」
 これは2025年度の事例です。時給720円の地域はありません。最低賃金法に違反しています。しかし現実に平然と最低賃金を無視して給与を出す事業者があります。これが各地で児童クラブを誇らしげに運営している事業者の実態です。この事例ですが、事業者は基本時給に諸手当を出しておりその合計で最終的に最低賃金を上回ると各地で説明をしているようです。
 しかし多くの職員、とりわけ非常勤職員にはそのような説明はまったくといっていいほどされていません。しかも現実に給与として振り込まれた賃金と勤務時間で計算すると明らかに契約時に示された時給額を大きく下回って最低賃金も下回っている。これはアウトです。この事例が深刻だったのは2点あり、1つは職員にろくに給料を支払わないと同時にこどもへの育成支援にも費用を出さず、教材も職員が自腹で用意していたということ。ほとんど利益として事業者がさらっていってしまうのですね。それは外部からは見えにくいです。運営本部が担当する費用として計上されるからです。必要な人件費として計上されていますから外から見ても分かりません。もう1つは、疑義を示した職員を問答無用で解雇したことです。解雇を証明する書類である解雇理由証明書も、解雇日を過ぎてからの退職証明書も、どちらも請求したにも関わらず送られてきていないということです。労働基準法第22条第1項が退職証明書、同条第2項は解雇理由証明書について、労働者から請求があれば使用者は交付する義務があります。基本的な事項ですから事業を営む者が知らぬはずはありませんが、守られなかったようです。これが児童クラブの世界で存在しているコンプラ無視の実態です。

<事例その4>
「指定管理者として施設を運営している事業者の方針に異を唱えたら一方的に配置転換を言い渡された。納得できないと伝えたら正規職としてはクビでアルバイトで雇ってやる。それも嫌なら退職届を持ってこい」
 これも2025年度の事例です。いまだにこんなことがまかり通っているのですね。しかも配置転換先はこどもと全くかかわりのない就業場所です。もちろん労働契約において就業場所として明示されているものではありません。合理的な根拠のない配置転換命令に異を唱えたらクビにするぞと脅すのも、呆れてものが言えません。これもまた各地で児童クラブを運営している業界では有名で自治体から大人気の事業者で行われていた実態です。
 労働契約法第16条では「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」とあります。事例で紹介したような解雇の自由はまったくもって合理的な理由ではありません。
 結果的にこの事例については事業者が企図したことは実行されず、言われた側もそのまま仕事を継続できています。いわば脅しだったのでしょうか。こどもを受け入れる事業者が職員を脅すなんてことはあったとしたらとんでもない破廉恥なことですが、形だけみるとそうとしか理解できません。
 この事例が重要なのは、来たるべき日本版DBS制度時代において、こどもへの性暴力へのおそれがあると判断されてしまう場合(特定の性犯罪の前科があることが確認できた、ということが典型例)、法制度の趣旨からは業務範囲の見直しや配置転換、出向や転籍などをまずは行うことが示されています(ガイドライン229ページ)。そのような就業場所が無いなど事業者の事情でやむを得ない場合は普通解雇ということも選択肢に入ってきますが、これは訴訟になった場合の裁判所の判断がなんともいえません。結局のところ、事業者側と職員側が話し合って合意の上で退職という穏やかな手法が推奨されることになるでしょうし、事業者側には再就職を支援するなどの配慮(ガイドライン227ページ)も望ましいところです。ですが、こと、コンプライアンス上等!がまかり通る児童クラブ業界では、「なに?過去に罰金を受けていた? はいクビ。解雇。退職金無し。なお表向きは自己都合退職で処理するから」とか「保護者から不適切な行為の懸念が示された? わかった、ほとぼりが冷めるまで休職。なお本人に非があるんだから給与は控除。それは嫌? ならクビ。解雇。退職金無し。もちろん自己都合退職として表向きは処理してやる」というような、およそ労働者を守ろうという数々の決まりを無視した行いを平然と行う事業者がもてはやされているので、困ったものです。
 もし、過去において自身がなした行為に覚えがある方は、事業者側が示す態度や言動をしっかり記録しておきましょう。まともな事業者ばかりであればいいんですが、弊会への多くの相談からすると、とてもまともな事業者ばかりではないと悲しくなります。

<事例その5>
「こどもと遊んでいたら転んで足の骨を折った。事業者側は労災の手続きを手伝ってくれないばかりか雇用契約を延長しなかった」
 児童クラブあるあるかもしれません。児童クラブでの仕事は、とにかくもう、けがが多い。転倒してねんざ、骨折、ボール遊びで突き指、こどもが急に飛び乗ってきて腰痛、重いテーブルをはこんでいてぎっくり腰、などです。わたし自身、運営法人のトップだったときにあまりの労災事案の多さに頭を抱えましたがそれは労災が多いことで困るのではなくて、労働基準監督署から「いい加減な運営をしているんじゃないの?」といわんばかりに個別の事案について聞き取りが多発したからです。その都度、「学童の仕事ってのは体力勝負なんですよ」と担当者を通じて説明に終始してもらいましたが、労基署から注目をされていた事業者なのは間違いなかったでしょう。なにせ、愚直に、仕事中のけがを労災申請していましたからね。同業他社よりはるかに多い件数だったでしょうから。

 それにしても、労災の手続きに協力しない事業者はダメです。労災の申請は確かに労働者自身が行うものですが、状況の説明など事業者でなければできないものもあります。それに協力しないばかりか雇用契約の延長をしないというのもひどい話です。これもまた、各地で児童クラブを運営している自治体に人気の事業者です。ところがこの事業者を退職した人から本当に良い話を聞きませんね。つい最近もそうでした。残業代が出ないとか、あれはダメこれもダメとこどもの援助、支援に制限ばかりだったようです。それでも自治体には人気があるのです。それは簡単で、公募や指定管理者の選定において、提出する資料が上手に整っていること、プレゼンテーションも流ちょうに演じきれることです。「場慣れ」しているからですね。ダメなところは見せずに、自治体が喜ぶところをしっかりとアピール。人手不足の対応もばっちり。でも現実は運営を任されてもずっと人が足りず求人広告を出しっぱなし。そんな事業者を出来レースのごとく信頼している自治体だとしたら、それもまた残念です。(しかし提出された資料でし、自治体側は是か非かを判断できないのも事実です。)

 最後に。職員を虫けらのように扱う、ひどい児童クラブはあります。でも、職員を大事に、雇用労働条件を常に向上させようと頑張っている児童クラブ事業者も、確かにあります。ひどい児童クラブで心身ともに追いつめられている職員さんには、「リサーチして少しでも良心的な児童クラブ事業者への転職」をどんどんしてください。そうしてひどい事業者を人手不足で苦しめて事業運営ができないように追いつめましょう。
 通勤できる範囲に良心的な児童クラブ事業者がなさそうな場合は、いったん、別の業界に転職するのもいいです。大事なのは、身体。健康。人生。それを損ねてまで児童クラブに捧げる必要はありません。「まあ、こんなもんだよ」と割り切って働き続けられる人はそれはそれで別段構わないとわたくし萩原は考えますが、その「こんなもんだよ」の中に法令違反があるとかこどもへの虐待や権利侵害につながることが万が一にでも含まれているとしたら、それは「こんなもんだよ」と考えている人もまた、法令違反を助長し拡大している、許されざる立場に身を置いているということです。お天道様は見ていますよ。

(お知らせ)
<社会保険労務士事務所を開設しました!>
 2025年9月1日付で、わたくし萩原が社会保険労務士となり、同日に「あい和社会保険労務士事務所」を開業しました。放課後児童クラブ(学童保育所)を中心に中小企業の労務サポートを主に手掛けて参ります。なお、放課後児童クラブ(学童保育所)に関して、労働関係の法令や労務管理に関すること、事業に関わるリスクマネジメント、生産性向上に関すること、そしていわゆる日本版DBS制度に関しては、「あい和社会保険労務士事務所」を窓口にして相談や業務の依頼をお受けいたします。「あい和社会保険労務士事務所」HP(https://aiwagakudou.com/aiwa-sr-office/)内の「問い合わせフォーム」から、ご連絡のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

 「一般社団法人あい和学童クラブ運営法人」は、引き続き、放課後児童クラブ(学童保育所)の一般的なお困りごとや相談ごとを承ります。児童クラブの有識者として相談したいこと、話を聞いてほしいことがございましたら、「あい和学童クラブ運営法人」の問い合わせフォームからご連絡ください。子育て支援と児童クラブ・学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ・学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

New! いわゆる日本版DBS制度を専門分野の1つとして事業者の取り組みを支えたいと事業活動を始めた新進気鋭の行政書士さんをご紹介します。「行政書士窪田法務事務所」の窪田洋之さんです。なんと、事務所がわたくしと同じ町内でして、わたくしの自宅から徒歩5分程度に事務所を構えられておられるという奇跡的なご縁です。窪田さんは、日本版DBS制度の認定支援とIT・AI活用サポートを中心に、幅広く事業所の活動を支えていくとのことです。「子どもを守り、あなあたの事業も守る。」と名刺に記載されていて、とても心強いです。ぜひ、ご相談されてみてはいかがでしょうか。お問い合わせは「日本版DBS導入支援センター | 行政書士窪田法務事務所」へどうぞ。

(ここまで、このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)

投稿者プロフィール

萩原和也