こども性暴力防止法(日本版DBS)の施行で、企業型の放課後児童クラブ以外は「消滅」に追い込まれるかもしれない

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。こども性暴力防止法(日本版DBS)の導入が2年後に迫り、放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の大激変もまた迫っていると運営支援は考えています。既存の保護者運営系・小規模事業者が相次いでこの大激変に飲み込まれて消滅を余儀なくされる最悪の事態を警戒しています。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<現状と今後のスケジュール>
 まずはおさらい。日本版DBSは、放課後児童クラブにおいては「認定を受けた民間教育保育等事業者が教員等及び教育保育等従事者による児童
対象性暴力等の防止等の措置を講じることを義務付ける」、つまり認定事業者となってから実施できることになります。
 その内容は「教員等及び教育保育等従事者による児童対象性暴力等の防止に努めるとともに、被害児童等を適切に保護する責務を有することを規定」とされています。つまり、認定事業者となった児童クラブは、職員による子どへの性暴力防止に関する努力義務と、性被害に遭った児童等を適切に保護する種々のことを行わねばならない義務を負います。具体的には「研修を受講させること」、「児童等との面談・児童等が相談を行いやすくするための措置を講じること」、「雇用しようとする、あるいは雇用している者の特定性犯罪前科の有無を確認すること」、「児童対象性暴力等が行われるおそれがある場合の防止措置を講じること」、「児童対象性暴力等の発生が疑われる場合の調査、被害児童等の保護・支援を行うこと」となっています。
 特定性犯罪前科とは「拘禁刑(服役):刑の執行終了等から20年、 拘禁刑(執行猶予判決を受け、猶予期間満了):裁判確定日から10年、 罰金:刑の執行終了等から10年」となっています。この情報については「犯罪事実確認書等の適正な管理(情報の厳正な管理・一定期間経過後の廃棄等)」が求められます。
 
 さて、こども家庭庁のウェブサイトには、2024年9月13日に開催された「こども性暴力防止法に関する関係府省庁連絡会議」についての資料が掲載されています。この会議は第1回目の会議でした。「こども性暴力防止法の施行に向けたスケジュール」と題した資料では、令和8年度後半の施行に向けて、急ピッチで国・行政の準備が進行していきます。児童クラブの事業者にとって気になるのは、スケジュール資料に記載されている「下位法令・ガイドライン」「執行体制」でしょう。具体的に、どのような具体的な準備を求められるのかはガイドラインに示されるはずですから、ガイドラインの内容次第で必要な対応が決まってきます。スケジュール資料では令和7年度後半に、全体の議論内容がガイドラインに反映されていくとあります。執行体制としては事務マニュアルの策定が含まれています。こちらは令和7年度末までで作業を終えるようですから、令和8年度には事務マニュアルは公表されると考えて良いでしょう。

 これを踏まえると、認定事業者を目指す児童クラブ事業者は、いつから事業者内部で必要な実施態勢について協議検討を積み重ねておくべきなのか。逆算しつつ考えると、令和8年度には年度内の導入に向けて走り出すということは、令和7年度内に事業者内部での協議決定を済ませておく必要があります。そのためには、令和6年度も下半期に入るこれからの期間は、情報を収集しつつ、令和7年度にバタバタといろいろなことと協議決定するための態勢づくり(事業者内部の検討チームや臨時会議の設置、運営に関するルール作り)を行うための期間となります。

 つまり、認定事業者を目指す児童クラブ事業者であれば、もう、施行に向けて動き出さねばならないのです。今の時点で「日本版DBSについて学ぼう」はそれはそれでいいのですが、運営事業者と、運営事業者をまとめる団体は、「具体的な実務についての助言」を出さねばならない時期にすでに入ったといえるでしょう。

<検討事項はこんなにたくさん>
 スケジュールと並んで公表されている論点をみると、実に多岐に及んでいることが分かります。国の資料をそのまま書き出します。これらのことを踏まえた書類の作成と提出が児童クラブ事業者に求められると理解してください。日本版DBSは、国民の基本的人権を制限することになる異例の法制度ですから、その適用に向けて作成が求められる資料は膨大な量になるということです。それだけ手続きは慎重に、内容は厳格に判断されるということです。保護者や地域の方の非常勤による運営(実際は職員に実務を丸投げ)や、保護者出身の保護者会の延長線上にある組織運営では、とても対応ができない水準にあると理解してください。

制度対象
〇対象事業・職種の範囲・規模
〇特定性犯罪の範囲等(対象となる都道府県条例の範囲、条例の改廃の把握プロセス等)

認定
〇認定申請・審査等のフロー
→事業者からの申請の具体的なフロー(申請書記載事項や提出書類を含む)、国における審査・通知・公表の具体的なフロー、
 認定基準、児童対象性暴力等対処規程のイメージ、標準処理期間、認定等の表示が可能な広告等の範囲、表示できる内容(認定マーク)、表示方法等

安全確保措置
〇早期把握、相談、調査、保護・支援、研修の内容
→措置の具体的な内容・方法 ・認定基準(早期把握、相談、調査、保護・支援、研修関係)
 留意点(発達段階や事業者規模等に応じた対応、関係機関との連携、教員性暴力等防止法の指針等との関係、責任の明確化や第三者性の確保等)
 事業者支援のあり方 等
〇防止措置の内容
→措置の具体的な内容・方法 ・認定基準(防止措置関係)
 留意点(児童対象性暴力等の「おそれ」の考え方、判断プロセス、労働法制等との関係等) 、労働紛争時の相談先等

犯罪事実確認
〇犯罪事実確認書の申請・交付等のフロー
→事業者からの申請の具体的なフロー(申請書記載事項、提出書類を含む)
 従事者からの書類提出の具体的なフロー
 国(こども家庭庁・法務省)における確認・交付のフロー(犯罪事実確認書の様式を含む)
 標準処理期間
 施行時現職者等の確認期限、確認申請の平準化
 いとまがない場合の考え方、いとまがない場合にとる措置の内容
 対象者に応じた留意点(対象従事者が派遣、請負、ボランティア、外国人等の場合) 等
〇訂正請求の受付・通知フロー(本人通知の方法を含む)
〇その他(教員・保育士DBとの連携・補完、内定辞退者の偏見防止、システム、執行体制 等)

情報適正管理措置
〇情報適正管理措置の内容(措置の具体的な内容・方法、認定基準(情報適正管理関係)

監督
〇監督・監督対応のフロ―
→犯罪事実確認
 犯歴情報管理に関する定期報告の内容、具体的なフロー
 国・所轄庁(自治体等)による監督への事業者の対応
 国による監督の具体的なフロー(定期報告や内部通報等への対応、命令や認定取消基準等)
 所轄庁による監督の具体的なフロー(監督方法、頻度、国との情報共有等) 等
〇システム
〇執行体制 等

その他
〇事業者間の役割分担の詳細(県費負担教職員、指定管理、運営委託の場合)
〇施行期日

 児童クラブの事業者は、上記全てについてもれなく理解できればいいのですが、現実的には難しいでしょう。私でも大変厳しい。しかし少なくとも、「認定を求める事業者からの申請の具体的なフロー(申請書記載事項や提出書類を含む)」(=認定事業者となるための申請手続)と、「安全確保措置の、措置の具体的な内容・方法 ・認定基準」、「犯罪事実確認の、事業者からの申請の具体的なフロー」だけは、ある程度の理解が必要です。それ以外の点は、行政書士など外部に委託、依頼して行うことが現実的ですが、外部専門家に手続きをお願いするとしても書類作成に必要な情報は事業者が確実に抽出しなければなりません。つまり、書類の作成代行だけではなく書類作成から含めて外部専門家と事業者が協力して作成する必要があります。「行政書士さんに依頼すれば全部できるでしょ」と思うのは早計です。事業規模が大きな事業者でない限り、必要な書類を自前でぜんぶそろえて行政の窓口に提出するのはまずもって無理でしょう。
 つまり、これまでの「子どもと職員の事を考えて、保護者と一緒に作っていくクラブ」、典型的な保護者参画側の児童クラブは日本版DBS実施とともに「絶滅」する可能性があるということです。外部に依頼すればなんとかなる、レベルではありません。

<重大な懸念点>
 日本版DBSは児童クラブの事業運営について根本から大変革を迫るものです。雇用する、あるいは雇用している職員の特定性犯罪歴だけを確認すればいいものではありません。重大な個人情報の管理と取扱い、職員への教育研修体制の確立、児童等からの相談対応や必要な措置を実施できる体制の構築など、従来行ってきたものでは対応ができない異次元の業務が児童クラブ運営事業者に求められます。

 何度も申し上げていますが、それらは1クラブや数クラブだけを運営する事業者では対応不可能と思って間違いありません。そのような事業者は専任の運営担当者を雇用しておらず、保護者や職員の「スキマ時間」にお願いして組織運営に必要な業務をさせていることがほとんどですがそのような片手間な作業で対応できるレベルではありません。ということは、そのような作業を自前で対応できる事業者、つまり、全国各地で児童クラブを運営している広域展開事業者のような規模の大きな事業者にとっては、運営クラブ数を一気に増やせるチャンスにもなります。

 児童クラブは認定事業者にならなければ、上記に記した一切の手続きは不要となります。つまり従来通りの運営形態でいいのですが、2つの重大な懸念があります。「子どもをクラブに通わす保護者が、職員の無罪潔白を求めないことで納得するか」ということと、「行政から補助金を受けて運営している場合、行政が認定事業者でなければ今後は補助金交付対象としない決定をする可能性が極めて高そうだ」ということです。保護者にしてみれば、自分の子どもと関わる職員の特定性犯罪歴が無いことを希望するのは当然でしょう。事業を業務委託又は指定管理者に運営させる行政側にしても、児童クラブにおける性犯罪の発生リスクを考量して認定事業者であることを求めることは当然でしょう。認定事業者にならない、というか「対応できない」零細規模や小規模のクラブ運営事業者は補助金交付対象から外される可能性を考えておかねばなりません。交付対象から外されるということはすなわち事業の継続がほぼ不可能になるということです。

 認定事業者になったとしても事業運営には困難が予想されます。当然ながら特定性犯罪前科のある者は採用しませんし、すでに採用している者に特定性犯罪前科が確認された場合は子どもと関わる業務から外さねばなりませんし、解雇もありえます。これは鈴木愛子弁護士がかねて指摘していることですが、現状において正規、非正規関わらず深刻な人手不足にある児童クラブにおいては非正規職員(パート、アルバイト)の働きに大いに頼っているこの状況で、パートやアルバイトの応募者においてもこの特定性犯罪前科の確認を求めなければならないということは、求人に応募する側の「そんなに面倒なことを求められるのは、自分は潔白であっても手続きが面倒だ」という気持ちから、働きたいと考える求職先の候補としての優先順位を大幅に下げてしまうのではないか、といいうことです。つまりますます児童クラブの人手不足状態が悪化するのではないか、ということです。私も、この状況は間違いなくやってくると考えます。

 今回、国が挙げている資料には、国会での附帯決議も紹介されています。そこには「マッチングアプリ経由等による個人契約やフランチャイズ方式も犯罪事実確認等の対象とする仕組みを早急に検討すること」とあります。マッチングアプリというのは、何度も取り上げてきたいわゆるスキマバイトの形態による単発の雇用労働契約でしょう。日本版DBSの認定事業者になるとむやみにスキマバイトによる労働力の提供を受けられませんが、この附帯決議では将来的には日本人DBS制度に合致したスキマバイトを活用できるようになるのでしょう。しかしそれがいつになるか分かりませんし、そもそもの問題として、性犯罪の前科がなければOKではなく、「その児童クラブにいる子どもたちとの継続的な関わりを基礎として子どもへの支援、援助を行うことは補助員であっても変わらない」のですから、日本版DBSに対応したスキマバイトであっても育成支援においては不適切である、ということは変わりありません。

 この難題を前に児童クラブの世界はどうなっていくのか。あるいはどうするべきなのか。私が思うのは次の事です。
・日本版DBSに余裕を持って対応できる規模の大きな事業者が児童クラブ運営を相次いで任せられるようになる。広域展開事業者による児童クラブ運営が圧倒的になる。つまり、補助金ビジネスがさらに圧倒的に拡大する余地が生まれる。子ども、職員にとってより良い選択となるのかどうか。
・現状において小規模の児童クラブ非営利法人は、他の同種法人や任意団体運営の児童クラブと合流したり運営を引き受けたりして事業規模を拡大し、事業運営体制を急速に強化して日本版DBSに対応できるようにする。少なくとも数百単位の児童クラブを運営するほどの規模が必要。私はこのことを特に訴えたい。理想とする児童クラブの形があっても事業を行えなくなればどうしようもない。事業を継続するために日本版DBSに対応できるだけの事業規模が必要であれば、組織を大きくするしかない。もう1クラブ1法人、1小学校の複数クラブで1法人という零細規模の児童クラブ運営事業者は、生き残れないと理解するべし。
・事業規模が小さな事業者が運営をあきらめて公営化を求める。ただし市区町村は、日本版DBSに対応する手間を嫌って規模の大きな事業者にクラブ運営を丸投げする可能性の方が高そうだ。
・認定事業者になる道を求めない。ただし前述のように市区町村が認定事業者でない事業者に今後は運営を任せない可能性がある。自主運営であっても理想のクラブ運営を追い求めるのかどうか事業者は検討しなければならない。それぐらい、もう事態は切迫しているということ。

 最後にまとめると、一部の人口が少ない地方をのぞき、児童クラブは企業のような合理的な業務執行体制を備えている事業者でなければ、もはや運営が不可能になるのが、日本版DBSの時代であるということです。市場化のいわばゴールの1つでもあるのでしょう。しかしこれは私も含めて世論の多数派が求めていたことです。こどもの最善の利益のために導入される制度ですから、その制度と、「子どもたちに、こうして児童クラブで過ごしてほしい。こういうことを経験して育ってほしい」という理念をいかに合致させることができるか、児童クラブ事業者が大至急検討することです。そしてそれは、理念がある事業者であれば直ちに事業規模を拡大して、それによってもたらされる事業処理能力の拡大と向上をもって、日本版DBSに対応することなのです。

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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