「組織の乱れは保育の乱れ」。宿題への対応で考える放課後児童クラブの事業構築。やはり組織的な対応こそ重要!

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。運営支援に届く現場職員からの悩み。私に言わせれば、そのほとんどが運営事業者の組織統治が不完全な結果、現場を惑わせているのです。それが児童クラブ業界の残念な点です。つまり、総じて児童クラブ経営者の質が低いのです。喝!
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<放課後児童クラブは事業です。組織が営む事業なのですよ>
 放課後児童クラブは、子どもへの育成支援を中心に保護者の子育て支援を行います。つまり育成支援が中核の事業です。その中核的事業である子どもへの直接の支援、援助は、個々のクラブ職員がそれぞれ仕事として実施するので、結果的に職員個人が行った個々の仕事の質の良しあしが、全体の事業の質を左右します。職員個人が仕事に取り組んでいることから、児童クラブは職員個人の仕事の集積で成り立っているとすら思えます。

 しかし当然ながらそれは違います。職員個人の仕事が積み重なって児童クラブ全体の仕事が成り立っているように見えても、本質的には正反対です。児童クラブ運営事業者が目指し掲げている事業の目標を達成するために、運営事業者の方針に従ってクラブ職員は仕事をしているのであって、クラブ職員の仕事は運営事業者の管理監督下にある以上、児童クラブで行われている職員個人の仕事は、運営事業者が定めて命じている範囲において実行されているというべきものです。

 例えるなら、職員個人が思いのままに丸太を積み上げた結果としてキャンプファイヤーの木の山ができた、というのではなくて、先に設計図があって個人個人が丸太をどうやっておくか、あるいは丸太の大きさや形まで事前に指定してあって、個人個人は定められた通りに丸太を積んでいくことで、設計図通りのキャンプファイヤーの木の山が完成した、というものです。設計図通りに丸太を積み上げる過程において、丸太をどうやって持つのか、どうやって所定の場所に積み上げるのかまでは、さすがに設計図には記されていません。それぐらいは個人個人が合理的な思考で判断して行ってください、ということです。
 児童クラブで職員個人が行う育成支援や保護者支援も同じだと私は考えています。クラブ運営事業者が組織として掲げている理念があり、その理念を実現するために目標を設定し、その目標を実現するための手段、方法をある程度具体的に運営事業者が設定、取り決めておく。それに従って実際、クラブ職員が育成支援を行っていきますが、細部については個々の職員の技量に任されている、ということです。これが本部や運営事務局勤務であっても同じ事です。

 つまり、児童クラブで行われている子どもと保護者への支援、援助は、どうしたって組織全体で行っているものであると私は考えています。児童クラブで行われている事業は組織的なものであって、個人個人がその考え方に従って行われた事業の結果の集合体ではない、ということです。

 なお、この思考から導かれることがあります。既存の児童クラブ関係団体が年中、あちこちで、児童クラブ職員向けの研修を行っていますが、それは個々の職員の「技量」を磨くものであったり、個々の職員に対して「本来は組織の運営事業者が考えて実践するべき事柄を考えさせる」ものであったりするので、組織全体で行われる事業の質の良しあしを左右することにはならない、というものです。いくら上手に丸太を積み上げることができるようになっても、いくら前回より数秒早く丸太を積み上げることができるようになっても、「元々の設計図がダメ」であれば、立派なキャンプファイヤーの木の山はできないのと同じことですね。
 つまりは、「受講する方は、ちゃんとした育成支援ができるような気分になった」と思い、「受講させる側は、ちゃんとした育成支援ができるような環境づくりに貢献できたような気分になった」と思っているだけです。いずれも単なる自己満足にすぎない。この業界が長年、事業の質の面で健全な発達ができていないのは、最大な要因としてずさんな制度設計(補助金が低いこと、任意事業であること)があると私は思いますが、それに匹敵するぐらい、「事業の質を上げようとして行ってきた研修や教育、研究が実は単なる自己満足の類に過ぎないことに気付いていない(あるいは気づいていながら無視している)」「良い設計図を作るために何が必要か、ということを設計図を作る側、設計図を扱える側に対して示し、諭し、理解させることを重視していない」ということにあると考えています。

<宿題どうする?の戸惑い>
 例えば先日、弊会に寄せられた相談で、児童クラブにおける宿題の取扱いがありました。宿題はどこまで面倒を見ればいいのか、全部教えるのかどうなのかというものは、児童クラブの世界においてはるか昔から続いている、現場職員を困らせる問題です。なぜ現場職員が困るかといえば相反する要望がクラブ職員にぶつけられるからです。相反する要望とは、保護者からの「宿題はしっかり全部終わらせてください。分からないところがあったら教えることぐらいしてください」という要望と、運営事業者(これは市区町村の姿勢であることも多いが)の「放課後児童クラブは学習塾ではないので、宿題については子ども個人の判断に任せています。職員は声がけはしますが、それ以上はしません」という業務上の方針が、クラブ職員の場所でぶつかり合うからです。その結果、「不承不承、保護者の要望に従っている。組織の方針に背いているので罪悪感はある」となったり、「組織の方針を率直に保護者に伝え続けた結果、保護者との関係が悪くなっていろいろなところで悪影響を生じるようになった」となったりします。

 運営支援はこの問題についてこう判断しています。
・事業者として、児童クラブで片づける宿題の質と量についての対応基準を決めること。
・事業者が定めた宿題への対応基準は、事業者(運営組織)が責任をもって利用者たる保護者に周知すること。職員も当然、事業者を構成する立場ですが、この場合の事業者は法人なら法人組織全体であって、主に運営に当たる本部や事務局のことでもあります。よって職員は宿題について保護者から対応を問われたら、事業者が定めている対応基準とその理由を伝えるだけでよい。
・宿題に関する苦情や意見は現場職員に対応させるのではなく、事業者全体として受け止めて対応すること。

 対応基準については運営事業者が協議を重ねて決定すればいいことです。「宿題の時間だけを設定する」というものから「子どもが宿題を終わらせるまで職員は管理する。分からないことはできる範囲で教える」というものまで、その程度と内容は事業者が決めればいいだけです。事業者が決めるにあたっては、利用者たる保護者からの意見を参考にして決めることが大事です。(これは「保護者の意見も取り入れて決めました」という「言い訳」にも使えます)

 運営事業者が宿題に関する判断基準を決め、その基準を利用者たる保護者に周知することを徹底していれば、現場職員が宿題について悩むことはぐっと減るはずです。そもそも宿題は学校と家庭との間で設定される事柄であって、児童クラブ側にできることは「宿題をする時間、宿題を終わらせるだけの時間の確保ができるか否か」程度しかありません。まして宿題が多すぎるからとか、子どもには宿題より遊びを大事にしてほしいなどど意見を発信し、まして保護者に説くようなことは、私に言わせれば業務外のことであり、慎むべきだと考えます。むろん、思想信条の自由がありますから、支援者や運営者個人の思想信条としてどのような意見を持つかはまた別ですが。

<結局、大事なことは組織をしっかり運営すること>
 現場職員の混乱や負担を減らすためには、育成支援の業務(例えば、子どもへの直接な支援や、児童に関する状況の記載=児童票の記載)にしろ、育成支援に付随する業務(例えば、おやつの買い出し)や、育成支援業務事務の業務(例えば、職員の勤怠管理や小口現金管理)にしろ、運営事業者が、おのおのの業務に関して明確な業務目標を設定し、その目標到達のために必要な合理的な手法、手段を明示して、その手法、手段を職員に実施させることが必要です。それはおしなべて組織的な動きであり、組織がしっかりと機能していなければ実現できません。

 つまり、健全な組織を運営することが、質の高い事業の実施、つまり質の高い育成支援の実践を導くのです。逆に考えれば当然、組織が乱れれば、現場の育成支援もまたうまくいかないのです。組織的な対応ができないから職員が個人個人で思いのままに好き勝手に丸太を積み上げることになるので、キャンプファイヤーの木の山が崩れてしまうのです。

 健全な組織は、法令遵守が徹底していることが一丁目一番地、出発地点です。徹底したコンプライアンスです。規則規程に従って組織が動いていること、組織の役員が行動し、判断すること。そこに、正常な組織統治(ガバナンス)が生まれます。正常な統治が行われれば、職員個人個人が勝手に動くこともなくなります。組織として統制が取れた事業の遂行が可能となるのです。
 この点において私は、「統治の乱れは組織の乱れ 組織の乱れは保育の乱れ」として研修等で訴えています。そもそも、現場職員が子どもと保護者のために真摯にクラブ運営に努めたくても、肝心の運営事業者が育成支援に無関心ゆえに合理的かつ効果的な目標設定や手段、手法の設定をしなかったり、現場に丸投げしたり、あるいは一方的に「子ども様の言う通りにすべてしてください」と指示をしたりで、いい加減な統治に終始しているなら、現場職員が疲弊するだけです。組織統治に責任を持つ立場の者が、質の高い育成支援を行うことを念頭にした組織統治をする=理念を掲げ目標を設定し、目標を実現するための手段や手法を決めて実践する、実践させることをしない限り、質の高い育成支援が実現するはずがありません。
 「いや、それはしっかりやっているけど現場が分からないんだ」と運営側から文句が出そうですが、それは職員だけが能力不足だからで片づけてはなりません。職員に理解させる、あるいは納得させられないまでも遂行させることができない組織の実力不足であると真摯に反省しなければなりません。(もちろん、何度も繰り返し伝えても理解しようとしない職員がいることもあるでしょう。そういう場合はその職員に不適格の判定をするのも必要な組織統治です)

 <おわりに:PR>
※書籍(下記に詳細)の「宣伝用チラシ」が萩原の手元にあります。もしご希望の方がおられましたら、ご連絡ください。こちらからお送りいたします。内容の紹介と、注文用の記入部分があります。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されます。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)になる予定です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。アマゾンでは予約注文が可能になりました!お近くに書店がない方は、アマゾンが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊ほど届くので!)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)