「格付け」を導入する岡山市の動き。放課後児童クラブ(学童保育所)には「認定事業者」という格付けが待っている。

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 運営支援にはちょっと気になる報道がありました。岡山市が、一定の要件を満たした放課後児童クラブに「認定制度」を設けるとのニュースです。岡山市役所も報道発表しています。わたくし萩原は、2026年12月から始まる、いわゆる日本版DBS制度のことを連想しました。放課後児童クラブに格付け時代がやってくるのです。
 (※基本的に運営支援ブログと社労士ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブは、いわゆる学童保育所と、おおむね同じです。)

<児童クラブの認定制度>
 この報道を見た人の印象はどうだったのか、わたくしにはとても興味があります。(諸外国の状況は分かりませんが)なにせこのニッポン、結構な頻度で、いろいろなことに格付け、ランキングをして情報を取り扱いますからね。格付けランキングなんて大人気です。児童クラブにも認定制度を設けて、一定の基準を満たした場合に認定する、というのはとても分かりやすい仕組みでしょう。
 わたくしは全国市区町村データーベースという作業を地道に行っていて、全国の市区町村のホームページで児童クラブの情報公開について確認していますが、岡山市の児童クラブに関する情報提供、広報の充実度は極めて高い水準にあるとわたくしには感じられます。丁寧ですし、かなり詳細です。他の自治体の見本になると言えるでしょう。(1点、分かりにくいのが市立クラブです。岡山市が運営、とありますが正確には外郭団体の公社運営のようですが)。児童クラブの施策についても、待機児童の解消や、支援員不足について積極的に対策に取り組んでいて、しかもそれがしっかりと地元メディアで取り上げられています。待機児童数の推移についても詳細に情報を開示しています。岡山市の児童クラブ、放課後児童福祉行政に関する取り組みはHP等による公開情報に関する限り極めて先進的で、間違いなく全国の市区町村のトップレベルにあるとわたくしには感じられます。

 その岡山市が認定制度をスタートする、というのですからとても気になります。ヤフーニュースに掲載された地元テレビ局の記事を見てネット検索したところ岡山市の報道発表がありました。その内容を紹介します。(https://www.city.okayama.jp/shisei/cmsfiles/contents/0000076/76742/20251125_4_jidoclub.pdf
「(見出し)岡山市内の放課後児童クラブにおける認定制度を新設します
岡山市内の放課後児童クラブ(以下「クラブ」という。)について、保護者に安心して利用してもらえるよう認定制度を新設しました。市の基準を満たしたクラブには認定マーク(ステッカー)を配布することで、運営事業者は広報活動等に使用することができます。
 1 対象クラブ 岡山市内の放課後児童クラブ(市立・運営委員会・保育所等・届出済民間)
 2 主な基準 クラスごとに支援員等を2名以上配置していること・児童1人あたりおおむね1.65㎡以上のスペースを確保していること・学区の小学校からおおむね2キロ以内 など
 3 認定開始日 令和7年12月1日(月)
 4 認定マーク 市の基準を満たしたクラブには認定マークを画像提供するほか、ステッカーを配布します。施設での掲示や、各運営事業者が入所児童を募集する際の広報活動等に使用いただけます。」
(引用以上)

 職員配置や児童1人あたりの面積、施設の立地条件に関する基準を達成した児童クラブを認定するということです。一定の基準をクリアしているので、こどもを通わせている保護者には安心と信頼を提供できる、ということですね。丁寧なサービス提供を図りたい狙いとしては、わたくしにも理解できます。

<認定の基準、当たり前では>
 一方で、主な基準として示された「支援員等を2名以上配置」や「児童1人あたりおおむね1.65平方メートル以上」というのは、国が省令で定めている基準そのものです。最低の基準といっていいでしょう。これを上回らないと、そもそも児童クラブとしては、ダメです。ですので当たり前田のクラッカー、です。なお学区の小学校からおおむね2キロ以内というのは、放課後に登所するこどもの事故防止、防犯上のリスクを考えると、小学校から近ければ近いほどリスクが低くなるのは当然ですから、まあ、理解できなくもありません。ただ距離があるなら送迎支援の補助金(とても足りないですが!)を活用して、こどもの送迎に万全を期せばよいでしょう。そもそも児童クラブの整備は「こどもの安全」を当然の最優先としますから、学校から遠い場所にしか物件が確保できない状況がもしあるなら行政が努力して近場で物件を確保するようにするべきです。

 わたくしの想像ですが、おそらく、多くの児童クラブは認定マークを手に入れられることでしょう。最低水準の基準をクリアできなければ、それはそれで問題ですから。むしろ認定されないクラブの方が少数派になるのではなかろうかとわたくしは想像します。認定されないクラブが万が一多かったら、それは行政が児童クラブの整備について行っている支援に落ち度があるということです。
 そういう認証にどれだけの意味があるのか、なんとも言えません。なお、2キロを超えた位置にある児童クラブですが、送迎支援を導入している場合は認定マークの対象としてもいいのではないでしょうか。

 いずれにしても、ほとんどのクラブが認証基準をクリアするのでしょう。当然、やむを得ない事情であっても基準をクリアできないと、認証が受けられません。例えば入所児童数が急増して、来年度は分離分割で適正規模の児童クラブになることが確実なのだけど、今の年度は大規模状態で児童1人あたりの面積が1.65平方メートルを下回るといった場合も、認証から外れるのでしょう。普段から丁寧な育成支援を行っている児童クラブが、たまたま単年度のみ何らかのやむを得ない事情で基準をクリアできない場合、外部から「あのクラブは認証マークが無いわ。ダメなクラブだわ」と思い込まれてしまうのは、残念なことです。

<日本版DBS制度のことを考えた>
 2026年12月25日に施行される、通称こども性暴力防止法による、いわゆる日本版DBS制度では、放課後児童クラブは制度を受け入れるかどうかが任意です。受け入れる場合は「認定事業者」として、法が定める種々の決まり事を実行することになります。

 認定事業者になると、認定を受けたことを表示できるようになります。認定マークが交付されます。つまり、日本版DBS時代においては、児童クラブに関しては明確に「日本版DBS制度を実施しています」という認定事業者と、そうではない事業者との表示が異なってきますし、制度を受け入れている事業者とそうではない事業者との間の格付けが異なってきます。というのは、一般社会のみなさんに「あの児童クラブはDBS対応だから、性犯罪を過去にした人は勤めていないはず」という安心感を与えることになりますし、認定事業者ではない児童クラブに対しては「あのクラブ、大丈夫かしら」という不安感をも与えることになります。差が生じるのです。
 日本版DBS制度の認定は広告にも付けられますから、日本版DBS制度の認定事業者となった児童クラブ(を運営する事業者)は、大々的にPRができることになります。これこそ、岡山市の認定制度とは比べ物にならない格付け、判断基準を世間に向けて表示することになります。

 おそらくですが、「日本版DBS制度の認定をうけて認定マークを掲げている事業者」が「優良事業者」として世間に認知され、何らかの事情で日本版DBS制度の認定がずれこむ、あるいは準備がなかなか進まず認定事業者になれないで認定マークを手にできない児童クラブは「こどもへの性暴力防止の危険性が減っていない事業者」として「不安な事業者」と思われるという、偏った思い込みが、横行するのではないかとわたくしは危惧します。

 いま、こども家庭庁が日本版DBS制度の仕上げの作業を進めています。国が示すガイドラインの策定作業を行っています。そのガイドラインの素案の資料に、認定の表示についても若干の議論がされていました。そもそも認定表示、認定マークは放課後児童クラブや学習塾のように、任意で日本版DBS制度を受け入れるとした事業者に対して与えられます。日本版DBS制度を実施していない事業者との差別化、見分けがつくようにとのことです。それは確かに必要でしょう。分かりやすい周知方法です。
 ところで日本版DBS制度が義務となっている学校や保育所は、当然に日本版DBS制度の下での事業運営を義務付けられますから、認定表示はそもそも不要という考えで話が進んでいました。ところが、先日公表されたガイドラインの素案の資料(ガイドライン事項の主な論点②)にこういう記述があります。
 前提の部分
・児童、保護者等にとっては、学校設置者等についても、認定事業者等と同様、対象施設・事業等であることが一目で判別できるほうが、制度の理解が円滑に進むと考えられる(義務対象事業者・認定対象事業者の別でマークの有無がある意味が分かりづらい)
・ 学校設置者等(例、認可保育所)よりも認定事業者等(例、認可外保育施設)の方が、性暴力等の防止対策を適切に行っている等の誤解が生じうる
・ 認定マークを認知した保護者等から、学校設置者等に表示がないことに関して誤解に基づく問い合わせが入る等、現場対応の混乱が心配される
 対応案の部分
・学校設置者等についても、認定事業者等と同様、法の対象施設・事業であることが児童等、保護者等から容易に判別できるような表示(義務マーク)を作成し、付すことができることとしてはどうか。
・ この際、学校設置者等と認定事業者等は、同じ法に基づき、性暴力等の防止に関して同等の措置が求められていることや、児童等、保護者等に対するわかりやすさの観点も考慮して、義務マークと認定マークとで、一定の類似性を有するマークとすることとしてはどうか
(引用ここまで)
 もっといろいろ書いてあるのですが、一部だけ引用しました。ここでわたくしが「そりゃそうだ」と思ったのは、前提の部分にある「認定マークを認知した保護者等から、学校設置者等に表示がないことに関して誤解に基づく問い合わせが入る等、現場対応の混乱が心配」の記述内容です。これです。「これは、こういう状態ですよ」ということを示す表示、ラベルは、表示やラベルが無いものに対する否定的な解釈をごく自然に生みます。岡山市の場合も、認定マークがたとえ当たり前すぎる基準であっても、その認定マークがない児童クラブには、もしかすると市民や保護者から「あのクラブ、大丈夫なんですか?」という懸念や心配が起こるかもしれませんね。

 なお、こども家庭庁のガイドライン検討の資料の、この認定表示のところで、大変細かいのですが、わたくしは気になることがあります。ガイドライン事項の主な論点②の6ページに、民間教育事業に該当する事業について認定表示を行う際の選択肢の例が挙げられています。なお、認定によって日本版DBS制度の対象となるのは学習塾や児童クラブもそうですが、放課後児童クラブ(放課後児童健全育成事業)は民間教育事業とは異なって区分されています。
 この民間教育事業の選択肢の中に「民間学童保育」と記載があります。放課後児童健全育成事業を主たる事業目的とせず、つまり国からの補助金の交付対象にならず、勉強やスポーツなど技芸を磨いたり各種アクティビティを実施している、こどもの居場所のことですね。当運営支援ブログでは「民間学童保育所」という呼称を使っている業態です。

 民間学童保育は、放課後児童クラブではないので、民間学童保育を民間教育事業の範囲に入れることは当然なのですが、その当然の理解が、おそらくですが、社会一般の報道を見ているとその理解は社会に根付いていない、知られていないとわたくしは考えます。民間学童保育も国から補助金が出ていると思っている人がいますし、民設民営の放課後児童クラブを民間学童保育だと思っている人もいます。そういう視点で書かれたネット記事も時々、見かけます。事態をややこしくしているのは、民間学童保育を営んでいる事業者が、ある地域では「それは民間の技芸の教授にあたる事業ですから放課後児童健全育成事業ではないですね」と放課後児童クラブとしての届出を役所で受理されなくても、ほぼ同じような事業内容を提供する事業者が別の地域では「うちは待機児童が多いので児童クラブがどんどん増えてほしいんですよ。この事業内容でもOKです」として放課後児童クラブとしての届出が受理されることがあるからです。英語の学童で人気のとある大手事業者は、ある地域ではれっきとした放課後児童クラブとして役所の一覧表に名前が載っています。
 なかなか分かりづらい児童クラブ界隈ですが、民間学童保育の定義すら実は何もない(この運営支援ブログにしても、勝手に萩原がそう呼んでいるだけです)ので、頻繁ではないでしょうが(なにせ社会全体で見ればマイナーすぎる存在)、たまには、混乱が生じるかなぁとわたくしは考えます。

 話がいつものようにズレていますが、日本版DBS制度と児童クラブを考えるときには、認定マークの有無が世間一般の「あれは良いクラブ、あそこはマークが無いから不安なクラブ」という短絡的なラベル付けを招かないかどうかがわたくしには心配なのです。
 「いやいや、日本版DBS制度に認定事業者になったことは、こどもを職員からの性暴力から守れるという点で安心なはずだ。認定マークが無い、つまり認定事業者になっていない児童クラブより、こどもの安全確保に熱心な事業者なはずだ」という反論は当然にあるでしょう。
 果たしてそう簡単に理解していいのかどうかというのが、わたくしの心配の根源にあります。制度そのものは、カネがあれば手に入れられます。カネがあれば膨大な手続き作業量をこなす人材を確保できますし、外部の専門家に代行も頼めますし、研修制度だの各種規程の制定なども専門家に頼めば机上のプランとしてすぐに用意できます。地獄の沙汰も金次第と言いますが「DBS制度もカネ次第」です。結局のところ、全国で数百だの1000以上だの多くのクラブを運営している事業者なら、運営の実態や実質がどうあれ、制度というものはその対象となれるのです。必要な書類を出しさえすれば認定される制度です。現実に事業者がプラン通りに行動しているかどうかのチェックはありません。
 そのカネがないのが、ひたむきに育成支援を実施している、地域に根差した児童クラブの事業者です。おそらくですが、地域に根差した児童クラブの多くは、すぐに日本版DBS制度の認定事業者にはなれないでしょう。なれたとしても時間がちょっとかかる。しかし1法人1クラブのような、あるいは保護者会運営のクラブでは、まずもって膨大な事務作業と、制度が求める各種の決まりを(誠実に)実行しようとすると、人材不足そして予算不足の壁を乗り越えられないでしょう。それほど日本版DBS制度の認定事業者になるのはとても大変です。

 認定マークを事業者自体のパワーできちんと手に入れられる大きな事業者、広域展開事業者と、なかなか認定事業者になれない小さな児童クラブとの間にDBS格差が生じます。認定マークの有無で、社会からの信頼や児童クラブの運営者を決められる行政からの信頼において、超えられない差が付くのが、DBS時代の児童クラブの世界の様相となるだろうというのが、運営支援の本日の想像の行き着く先です。

 ではどうすればいいか。実は何度も運営支援ブログは申し上げていますが、制度に対応できる体力を児童クラブ事業者、とりわけ、誠実に育成支援をやりたい、こどもと保護者に寄り添った、地域社会に貢献できる児童クラブであり続けたいと願うなら、同じ志の児童クラブ運営事業者と一緒になって、つまり合併合体合流して、事業者の規模を大きくして、カネと人材の余裕を作ることしか、解決策はありません。これは何度でも訴えていきます。「良い学童であるために」とか「質の高い育成支援とは」を考えるのもいいですが、広域展開事業者ではない児童クラブは日本版DBS時代においては「君は生き延びることができるか」が問われ続けるのです。認定マークの有無が事業継続の可能性を左右するなら、認定マークを手に入れなければならない。たとえ、小さな児童クラブにとってはどんなにひどい制度であってもすでに走り出している以上、認定マークをさほどの苦労なく手に入れられる大きな広域展開事業者と一緒に走らねばなりません。走っていく先のコースのひどさはこれから有識者や政治家が議論して法制度の改正、改良をきっと手掛けてくれると信じて、まずはこの厳しい日本版DBSの難易度Sのコースを転ばずに走るために、走れる体力をつけてほしいと、運営支援は願います。そのお手伝いもまた運営支援の大事な任務だと心得ていますよ。 

 (お知らせ)
<社会保険労務士事務所を開設しました!>
 2025年9月1日付で、わたくし萩原が社会保険労務士となり、同日に「あい和社会保険労務士事務所」を開業しました。放課後児童クラブ(学童保育所)を中心に中小企業の労務サポートを主に手掛けて参ります。なお、放課後児童クラブ(学童保育所)に関して、労働関係の法令や労務管理に関すること、事業に関わるリスクマネジメント、生産性向上に関すること、そしていわゆる日本版DBS制度に関しては、「あい和社会保険労務士事務所」を窓口にして相談や業務の依頼をお受けいたします。「あい和社会保険労務士事務所」HP(https://aiwagakudou.com/aiwa-sr-office/)内の「問い合わせフォーム」から、ご連絡のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

 「一般社団法人あい和学童クラブ運営法人」は、引き続き、放課後児童クラブ(学童保育所)の一般的なお困りごとや相談ごとを承ります。児童クラブの有識者として相談したいこと、話を聞いてほしいことがございましたら、「あい和学童クラブ運営法人」の問い合わせフォームからご連絡ください。子育て支援と児童クラブ・学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ・学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

(ここまで、このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)

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萩原和也