「放課後児童クラブ内部の情報を外部に漏らすな」が、児童クラブ内部の酷い状況を知られないよう利用されている

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもや保護者の個人情報は放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)から絶対に流出させてはなりませんが、その情報管理が児童クラブ内部のひどい状況を知られないようにするために悪用されていると私は考えています。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<個人情報や業務上の機密情報は当然、守秘義務がある>
 個人情報、プライバシー情報に関する取扱いが大変厳しくなっています。放課後児童クラブは個人情報がものすごい大量に集まっています。子ども、保護者、むろん職員も。それらの情報が児童クラブの外部に流出したり知られてしまったりすると、それだけで大問題になります。その点は皆様もごく自然に理解されることでしょう。利用者の個人情報だけでなく、児童クラブも「事業=ビジネス」である以上、営業上の機密情報もありますから、そういった情報の外部流出も当然、あってはならないことです。例えば職員の過去の経歴や個人番号、また今後は日本版DBSに関連した情報などは極めて厳格な情報管理が求められるでしょう。

 法人化している児童クラブの運営事業者は、就業規則や服務規程などで、社員・職員の秘密保持規定を定めているはずです。当然のことです。まあ、「辞めたところ、ほんとうにひどい会社だったよ」ぐらいは言われるのはこの世の道理としても、「あのクラブにいる〇〇って子の親はさ、実は〇〇なんだよね」という個人情報の意図的な流出は厳しく禁止されるべきです。
 この件で言えば、外食中に児童クラブ職員の会話で、個人情報が「ダダ洩れ」状態のケースが案外あります。みなさんもファミレスや外食店、居酒屋などで、近くのテーブルにて交わされている会話が聞こえてきたことがありませんか?単なる上司の悪口ならともかく、利用者や会社の経営情報など、知られることを想定されていない情報がダダ洩れなのは秘密保持規定があれば、それに違反していますね。かくいう私もかつての組織にて、非常勤職員がファミレスで勤務先クラブの子どもの「悪口」を言っていたところを聞いたという方から電話で苦情を受けたことがありました。壁に耳あり障子に目あり、です。

 個人情報の軽重に差はありませんが、障がいや発達面に関する子どもの極めて重度なプライバシー情報が集まるのが児童クラブです。個人情報や経営上の機密情報を軽々に口にして外部に知らしめてしまったような職員が処分対象に問われることは当然です。厳しく処断するべきでしょう。

<知られなければならない情報は、それは一部の側にすると「知られては困る情報」だ>
 児童クラブにおいてはすべてのことを一切合切、秘密として職員や従業員は守らねばならないのでしょうか。私は、「全体の利益、公共の福祉を総合的に判断した結果、外部に公表されてもやむを得ない情報はある」と考えます。ある情報が存在しているとして、それを外部に知らせることが、知らせない状態が続くよりも利益となる、という状況です。一番分かりやすい例としては、「児童クラブの内部で、職員による一方的な子どもへの虐待若しくは虐待に相当する行為が行われているという状況を、市区町村の担当課や児童相談所、警察、法務局の人権相談、弁護士会などに相談、通報、通告すること」です。

 このことを裏から見ると、「外部に流出すると困る情報があり、困る立場の者がいるなら、困る立場の者は、情報を外に広まらないように規制をする」ということです。そのために、「職務上、知り得た秘密は絶対に外部の者に知らせてはならない」ということを、事業者の内規やルールで厳しく定めておくようになります。それが徹底すると、同じ事業者に雇われている者であっても、例えばA市にあるXクラブとYクラブがあるとして、Xクラブの職員はYクラブの職員に対してXクラブの内情を知らせるようなことはしてはならない、ということになります。

 これは現実にあります。とりわけ、広域展開事業者に顕著にみられるようです。私の想像では、およそ事業の「質」の程度に問題がある事業者で、かつ、各地に多数のクラブ運営をしている事業者ほど、徹底した情報の秘密厳守を職員に強く求めます。それも裏返せば、「よほど知られてはまずい情報が、その質においてひどい情報であり、しかも量としても多くの情報がある」ということです。
 もちろん、運営するクラブ数が多ければ多いほど情報は増えるのは当然ですが、およそ職員の雇用条件を最低賃金レベルに据え置いている、利益重視の広域展開事業者であれば、知られたくない情報がたくさん生じるのは当然です。なぜなら、極端に低い賃金での就労を受け入れる人材の中には、残念ながら少数であってもおよそ他の事業者では勤務できないほど常識が欠落したり順法意識に欠けたりするような人材がどうしても含まれます。そういう人材でも雇用しないと配置基準を満たせないからです。そのような、常識が欠落していたり順法意識を欠いていたりするクラブ職員が、子どもや同僚職員に耐えがたい理不尽な行動をしたとしても、極端な人手不足の状況では事業者はそう簡単に解雇をせず、子どもや同僚へのひどい仕打ちがあっても、「クラブで起こったことは絶対に外に伝えてはなりません。規則違反で懲戒処分になります」と、事業者側から事実上の「脅し」を受けていたら、外に知らせようという意識はなかなか、持てないでしょう。

 ひどい運営をしていることを自覚している事業者ほど、「クラブの情報は絶対に外部に漏らしてはダメ」と厳しくルール化するということです。

<重要なのは「社会正義はどこにある?」という視点>
 雇用されている労働者としては、就業規則や服務規程という社内規範は守らねばなりません。しかし、個人情報を守る、企業の経営上の機密情報を漏らさない、ということは、そのことが合理的な内容を保持していることが当然の前提です。児童の発達面の問題を他者に伝えることにはまったく合理的な根拠がありません。

 しかし、ある職員が、児童に対して暴言を吐く、粗暴な振る舞いで接する、厳しく威圧する、服従を求めるといった、およそ児童の人権を侵害するようなことをしている場合はどうでしょう。職員の秘密保持を根拠に外部にそのような状況が存在することを知らせずに済ますことと、しかるべき関係機関に伝えて事態の改善を求めることは、「どちらが社会正義にかなっているか」、みなさんお分かりですよね。外部に伝えて改善を図る動きにつなげることは、公益性があります。社会に知らせることで、子どもの人権が守られるのですから、合理的な根拠があります。そのような場合、「就業規則に反しているから懲戒処分!解雇!」と事業者が対応するのは、当然ながら、権利の濫用と判断されるでしょう。
 児童福祉法は「公益通報者保護法」の対象となる法律です。この法律は、常時雇用する労働者が300人を超える事業者には、公益通報に対する対応業務従事者の配置が義務づけられます。地域に根差した団体ではなかなかその規模に達することはないでしょうが、広域展開している事業者は簡単にその人数を超えるでしょう。その対応業務従事者に通報してもいいのでしょうが、「およそ組織ぐるみで酷い状態を放置してきた」企業であれば自浄能力はないでしょうから、公益通報者保護法に基づいて(案外、適用となる要件が厳しい)、必要な機関に知らせることがよいでしょう。
 なお、保護者運営由来の団体でも、クラブ数(単位数)が40を超えるような事業者であれば、常勤と非常勤を含めば300人を超える職員を雇用するでしょうから、公益通報者保護法への対応も当然、必要です。

 「外部に知らせて改善を求めたほうがいいのは分かる。でも、やっぱり自分がクビになるのは嫌だ」という職員は、当たり前に普通にいるでしょう。いや、むしろ100人の職員がいたら100人とも、そうでしょう。でなければ、私の耳にも届いている、ひどいクラブ運営の状況が放置され続けている状況を目の当たりにした職員が、勇気をもって外部に情報を提供しているでしょうから。それがまったくないのは、つまり、「誰もかれもが、黙っている。見て見ぬふりをしている」ということです。あえて厳しく言えば「共犯者になっている」ということです。

 結局は、子どものことを守るというのは口先だけ、と批判されても反論できませんよ。

 確かに、巨大なもの、大きな組織と対立するような行動に踏み切るのは恐ろしいです。生活の不安があります。収入が断たれたら暮らせません。しかし、私はあえていいます。「子どもを守りたい、支えたいから、児童クラブで働く道を選んだんでしょ?だったら、子どもを守るために、動きなさい。声を上げなさい」と。その覚悟があるかどうかが、最終的には、「放課後児童支援員」という、ひよっこの資格の、専門性を左右する要素の1つに結びつくはずだと私は考えます。職への誇りをもって、子どもを守るんだという強い正義をもって、子どもを守れる行動を実行できるかどうかを重要視してほしい。子どもを支えるというその資格は、ただの飾りですか?

 不法に勤め先の企業価値を貶めたいという目的をもって、虚偽の情報を外部に広めたということでもなければ、つまり、会社がひた隠しにしたい情報を外に出すことで権利が侵害されていた子どもや同僚の権利が回復するという社会正義にかなった行動であれば、その行動を理由に解雇や降格といった処分を雇用者側が取るのは不法労働行為になるので、その「勇気ある行動」を取った職員や従業員が仮に報復行為を受けても、対抗できる術はあります。その覚悟があれば、事業者側もそうそう、軽はずみなことはできません。「いざとなったら、私は表に出て、堂々と、このひどい現実を訴えることを躊躇しない」という覚悟こそ、必要なのです。その覚悟があれば、実はそうそう、一方的にひどい立場に追い込まれることはありません。絶対に無い、とは言えませんが、正義を貫く覚悟がなければ、トカゲのしっぽ切りよろしく、切り捨てられておしまいです。
(もっとも児童クラブの世界はご存じのように、すぐ次の職場が見つかるほどの人手不足ですが)

<おわりに>
 放課後児童クラブは、何のために存在しているのですか? 子どもの権利を守るためですよ。子どもの権利がないがしろにされているなら、それを正さずに、クラブ職員としての責任は果たせません。「ダメなものは、ダメ」と言えることを当然としてください。子どもだけではなく同僚職員にも同じです。人間の尊厳を損ねるような振る舞いがはびこっている職場であれば、正さねばなりません。人は違法なふるまいから目を背けていては、ダメです。厳しくても正義を追い求めること。1人で立ち向かえとはいいません。同じ志の職員、保護者、支援者を仲間にして、みんなで立ち向かえばいいのです。今日も、ひどい職員のひどい仕打ちで、傷つきながら児童クラブに嫌々、登所してくる子どもがいる、つらい気分で出勤してくる職員がいる、という状況を、消し去りましょう。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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